日本漢方の古方派を中心とした漢方薬・処方をご紹介します。

一般の方から専門家まで馴染めるよう、症例・処方薬味・適応疾患・使用目標・漢方の証・方意をご紹介。

大芎黄湯・治頭瘡一方(ダイキュウオウトウ・チヅソウイッポウ)-本朝経験-

症例

大人の頭部癤セツ症/20代・男性 -漢方処方・応用の実際より引用

頭に次から次と癤セツが出て困っている人が尋ねて来た。大きな病院の皮膚科でも手を焼いている様子だった。そこで治頭瘡一方を飲ませた。患者は2~3ヵ月後にはすっかり頭のオデキが治ってしまったということだ。

処方薬味

生薬-連翹連翹 生薬-白朮・蒼朮蒼朮 生薬-川芎川芎
生薬-防風防風 生薬-忍冬-金銀花忍冬 生薬-荊芥荊芥
生薬-甘草甘草 生薬-紅花紅花 生薬-大黄大黄

適応疾患

小児頭部湿疹、胎毒下し、諸湿疹、打撲、慢性腱鞘炎、脂漏性湿疹、打撲後遺症

使用目標

小児の頭部の湿疹、胎毒と呼んでいたものに用いる処方として出来たものです。頭部、顔面の発疹、化膿性腫物に用います。小児のアトピー性皮膚炎や湿疹で、本剤が効果が有るのは皮が厚く、痒みが強いものです。大人の方の場合は、フルンクロージスなどのように、次々とセツや疔が続発するもので、外観が汚く臭気を伴うものに用います。

漢方の証・方意

  • 病位・虚実;少陽病、実証
  • 十二臓腑配当;肺・胆
  • 方意;上焦の熱証、上焦の湿証による首から上の発疹、化膿傾向の発疹。裏の実証・局所の実証としての便秘傾向
  • 備考;多くは上焦の皮膚疾患に用いられるが、全身性のものにも有効な場合があります。特に頭部に湿疹が集中している場合には、白シを加えます。化膿傾向が強ければ忍冬を金銀花に変えます。便秘の程度により大黄を加減します。乾性湿疹には石膏や 地黄を加えて用います。

大建中湯(ダイケンチュウトウ)-金匱要略-をご紹介

生薬-山椒

症例

回虫症/50代・女性 -漢方処方・応用の実際より引用

ある女性が激しい腹痛を起こし、近所の医師に往診を頼んだそうだ。医師は胃痙攣ということで鎮痛剤を注射したが、これは数時間しか効果がなく、お薬が切れると痛みが続いたとの事。

2日目、大便を検査してみたところ、回虫卵があったので、虫の痛みと考え駆回虫薬を飲ませた。しかし傷みは治らなかったとの事。

3日目、漢方治療をしてみようと言うことで相談に来られた。大建中湯証が出ていた。この処方を飲ませたところ、2~3時間後に痛みが緩解し、翌日回虫が2~3匹排出された。そして、本方を数日続けてすっかり治ったのである。

処方薬味

生薬-山椒山椒 生薬-人参人参 生薬-生姜生姜
生薬-膠飴膠飴    

適応疾患

慢性胃腸炎、腸狭窄症、尿道炎、難聴、冷え性、内臓下垂、ヘルニア、脱腸、腸閉塞、膵臓炎、胆石症、腎結石、急慢性虫垂炎、限局性腹膜炎、不眠症

使用目標

体力の衰えた虚弱な方で、腹壁が薄く、軟弱無力で、腸内にガスがたまり、腸の蠕動不安がおこり、これを外部からも望見でき、腹が痛んで嘔吐をしたり、飲食物を摂ることができない方に用います。

しかし、これは、典型的な証で必ずしも多くはなく、嘔吐は伴わないこともあります。脈は、沈、遅、弦、弱または浮大弱です。腹部が冷えてガスがたまり、膨満して痛み、鼓音を呈する方のほうが多く、時に嘔吐することもあります。

原典の条文では「心胸中大寒痛し、嘔して飲食すること能はず、腹中の寒上衝すれば、皮起り出であらわれ、頭足あって、上下し、痛みて触れ近づくべからず」とあります。

漢方の証・方意

  • 病位・虚実;太陰病から少陰病、虚証
  • 十二臓腑配当;脾
  • 方意;脾胃の虚証・脾胃の気滞による腸蠕動亢進、腹鳴、食欲不振。虚証による腹壁軟弱無力。寒証による疼痛、激しい腹痛、心胸痛。気滞による不眠、感情不安定などの精神症状
  • 備考;大建中湯は小建中湯(ショウケンチュウトウ)より更に虚したものや陰証の場合に用いられます。小建中湯や大建中湯が適応する状態を裏寒証といい陰虚証に属します。裏寒とは、体内に寒(冷え)があるという意味になります。小建中湯と大建中湯は、腹証で区別することが多いです。

大柴胡湯(ダイサイコトウ)-傷寒論・金匱要略-をご紹介

生薬-柴胡

症例

症例1

胆石症による激しい腹痛/62歳・女性 -漢方処方・応用の実際より引用

胆石症でしばしば激しい腹痛を起こしていた。これに大柴胡湯を用い腹痛発作が起きなくなり、約4ヶ月で廃薬した。しかし5~6年後にまた腹痛を起こしたので、再び本方を用い1ヶ月ばかりで廃薬した。その後、数年立つが腹痛は起きないという。

症例2

脳溢血による半身麻痺/30歳・男性 -漢方処方・応用の実際より引用

脳溢血を起こし左半身が麻痺した。体格のよい頑健な体質で、いわゆる大柴胡腹で心下部の抵抗、圧痛と胸脇苦満を呈した。血圧は194~106mmHgであったが、大柴胡湯を用い10日後には176~96mmHgとなり、20日後には160~90mmHgとなった。その後1ヶ月間、血圧の降下がみられないので、大柴胡湯加黄耆(2.0)釣藤(3.0)としたところ、5日後に血圧141~80mmHgとなり、更に1ヶ月後に麻痺はほとんど無くなり約半年間で全快した。

処方薬味

生薬-大黄大黄 生薬-半夏半夏 生薬-生姜生姜
生薬-芍薬芍薬 生薬-黄芩黄芩 中国47-生薬-枳實・枳殻枳実
中国42-生薬-大棗大棗 生薬-柴胡柴胡  

適応疾患

諸種の発熱症、高血圧症、動脈硬化症、脳卒中、急・慢性肝炎、胆石、胆嚢炎、急・慢性胃炎、喘息、赤痢、肥胖症、気管支喘息、糖尿病、耳鳴り、諸種化膿症

使用目標

体力がある実証の方に用います。この際、腹部が膨満し、ことに上腹部が固く張り、胸脇苦満は他覚的にも自覚的にも著明で、胸部に苦痛を訴える方にも用います。

熱病では、発病してから数日たった時で、なお体温上昇が続き、しかもその熱は往来感熱の状態となり悪心、嘔吐が激しく、食欲が減少して便秘の傾向が強い方に用います。

熱のない慢性病では、体格が頑丈で体力のある人の、種々の症状に用います(顏の造作も太作りで下顎が豊かで、いかにも咀嚼力が強いだろうなと思わせる感じ、上腹角が広く、心下部が厚くて堅い人に多い)。ただ、虚実の判定は、外見のみによるものではないので、一見大柴胡湯証でない方にも本剤が適応することがあります。

漢方の証・方意

  • 病位・虚実;少陽病、実証
  • 十二臓腑配当;胆
  • 方意;胸脇の熱証による口苦、後頭部不快感、肩背強急。裏の実証による便秘、腹実満。肺の熱証による咳嗽、呼吸困難、胸痛。胸脇の熱証による感情不安定、不眠症 、心悸亢進精神症状
  • 備考;小柴胡湯(ショウサイコトウ)より、強い胸脇苦満があり、心下痞硬も激しい時に用います。

大承気湯(ダイジョウキトウ)-傷寒論・金匱要略-をご紹介

中国47-生薬-枳實・枳殻

症例

温知医談第3号より山田業広先生の治験をご紹介

旧幕の頃、駒込の組み屋敷に、杉田某という人があった。ある時その妻が疫痢になった。そのとき看護に尽くして大いに心気を労した。妻が全快した頃のある夜、三更の後、卒然として起きだして、組屋敷内になる稲荷の社へ参詣すると言い出した。夜更けのことなので家族がみんなで止めたけれど聞き入れずに出かけてしまった。

二人の弟が怪しく思い、ひそかに後をつけていくと神社に上がりこんで、大声で種々の妄言(訳の分からぬこと)をはいた。弟たちは、大変驚いて無理に連れ帰ったがそれ以来発狂してしまった。

翌日、余の診をとうので柴胡加竜骨牡蠣湯(サイコカリュウコツボレイトウ)を投与したが、数日立っても自若として効果がない。病人は30歳あまりの、強壮充実の体質で体力あり、2~3間の座敷を甚だ早く飛ぶので、狐のたたり兌などという人があって、小豆ご飯や油揚げを食べさせると、非常にたくさん食べるし、どこから来たかと問えば、障子の破れた穴から入ってきたなどという。こういうことを、病人を詰問すると決まって言うので、いよいよ狐のたたりと決めてしまっている。

自分は狐のたたりなどではないと説明したが、10余人の親族がことごとく狐のたたり説を固執していて、自分の言う事を問題にもしないので閉口して帰ってきた。

その後、病人を煙でいぶしたり脅かしたり色々やって、10日ばかりして1人の親戚が来て、これほど祈祷、吾責と手を尽くしても狐を追い出せないのは、やはり発狂でしょうといって再び診治を乞うた。

熟察するに、昼夜数10回発作が起きるが、発作のない間はやや正気である。発作の時は、手を振り、足を踏ん張り、心下へ差込んで苦しがり、項背手足を按ずるに筋腱が怒張すること甚だしく、強く按ぜば耐えかねて声を発するに至る。その反張の様子は、痙病(破傷風のような病気)の狂(精神異常)に似ている。

よって、大承気湯を5服投与し、芒硝、大黄を大量に加えたので、5~6回は下痢するだろうと思ったが、日に2回ぐらいであった。しかし筋腱は次第に緩み、発作が日を追うて減じ、10日余の後にはほとんど正気のこともあるようになった。

同方を持続すること1ヶ月あまり、病気は7~8割減じたので、長く芒硝、大黄を用いるのもどうかと、少量にすると容態が悪くなる。やむなく、また、増量して大承気湯を用いること、約7~80日になった。

その間、薬が腸胃に慣れたのか、大便は硬い方で1日1回ほどあった。全快して後も、大便が開通しない時はいつも大承気湯を用いることに決まっていた。

腸胃を実した人は別格のもので、自分は50年間に芒硝、大黄を非常に大量に用いたのはこの病人1人である古聖立方の妙は、実に感ずるにも余りあり。

処方薬味

生薬-大黄大黄 中国47-生薬-枳實・枳殻枳実 生薬-芒硝芒硝
生薬-厚朴厚朴    

適応疾患

諸種発熱証、消火器諸病、便秘症、急性腸炎、関節炎、慢性関節リウマチ、諸種神経痛、諸種の精神疾患、腸チフス、急性肺炎、破傷風、食傷、心臓喘息、癲癇、食中毒

使用目標

腹が硬く張って酷く膨満したり、あるいは腹が痛んで便秘する方に用います。この時、腹部ばかりでなく全身が苦しく、体が重く、息切れや喘鳴することもあります。熱がある時は潮熱となって寒気がなく、全身がくまなく熱くなって、じっとりと汗ばみます。また軽症では目がかすむ程度ですが、重症では意識が混濁してうわごとを言ったり、甚だしければ幻覚を生じ、錯乱状態になります。

大便は硬くて通じにくいです。ところが熱が出ていて、裏急後重が強くてたびたび便意を催すような下痢をすることもあります。喉が乾き舌は乾燥して、黄白苔やまれに黒苔を生じます。脈は沈で力があり、あるいは遅あるいは滑となります。

漢方の証・方意

  • 病位・虚実;陽明病、強実証
  • 十二臓腑配当;胃・三焦
  • 方意;裏の実証・裏の気滞による強い便秘、腹堅満。裏の熱証による悪熱、潮熱
  • 備考;大承気湯は陽明病を代表する薬方です。承気とは順気の意で、気の巡りを良くすることであり、これによって腹満、便秘を治します。大承気湯から芒硝を去った方を小承気湯といいます。

大続命湯・続命湯(ダイゾクメイトウ・ゾクメイトウ)-金匱要略-をご紹介

生薬-麻黄

症例

脳溢血/55歳・男性 -漢方処方・応用の実際より引用

脳溢血で倒れ右半身が麻痺した。麻痺はやや回復したが右手先が痺れ、右下肢の動きが悪くて歩行に難渋する。両膝の力が脱け右足の関節は曲がらない。手が冷え、夜睡眠中2~4回排尿に起きるという。中肉中背で労働で鍛えた筋肉の硬い人である。顏色は悪く歩行が困難で奥さんに支えられて、ようやく歩いてきた。

脈はやや弦で遅、血圧144~94(降圧剤服用中)上下肢の反射が亢進している。腹部は全体に軟らかく両腹直筋が拘攣し、左腹直筋の上部はことに緊張している。また臍の左傍に腹動が中等度にみられる。なお腰背部の志室の部分に圧痛がある。

そこで腹部の動悸と夜間尿を目標に八味丸料を用いた。2週間ばかり後に夜間尿が2回ぐらいに減り、階段を上がるとき足が軽くなったという。しかし手先の痺れは変わらず、足が左の良い方も冷えるという。これが3週間後にも変わらないのでここで続命湯に変えた。

1週間後に非常に具合が良いと1人で来院し、手足が温まって夜間尿が1回に減ったと喜んで報告した。3週間後には手の痺れも殆ど治ったと言い、歩行も非常に楽になった。

ところが6週間後、自転車へ乗ったところ転倒して右腕を打撲し、その晩から舌がもつれて言葉が一層不明瞭になったという。このとき、それまで140~70程度だった血圧が150~80になっていた。

そこで左腹直筋上部の抵抗を胸脇苦満かと考えて大柴胡湯去大黄に変えてみたところ、1週間後に気分が悪くて来れないといったので、驚いて続命湯に転方し安静とマッサージをすすめた。これで再び病気は快方に向かった。

処方薬味

生薬-甘草甘草 生薬-麻黄麻黄 生薬-生姜生姜
生薬-杏仁杏仁 生薬-川芎川芎 生薬-石膏石膏
生薬-当帰当帰 生薬-人参人参 生薬-桂皮桂皮

適応疾患

脳卒中、脳梗塞後遺症、その他の脳血流障害

使用目標

身体が麻痺して思うような体位がとれず、言語障害があって言葉が上手く喋れない方。身体が痛んだり引きつれたりするが、感覚障害があるので痛む場所がよく分からない方。或いは、咳嗽や喘咳を伴い、逆上せて頭が痛んだり、顔面に浮腫を生じたりする方に用います。脈は浮大で、口渇がある方が多いです。

漢方の証・方意

  • 病位・虚実;少陽病から太陰病、虚実中間
  • 方意;気虚による麻痺・疼痛:肢体の運動知覚神経麻痺・疼痛。気の上衝:逆上せ・頭痛。水毒:喘咳・浮腫。
  • 備考;小続命湯(ショウゾクメイトウ)は、大続命湯より体力が衰え虚状を呈する人に用います。

参考文献・出典

  1. 漢方診療医典 大塚敬節・矢数道明・清水藤太郎 著
  2. 漢方処方 応用の実際 山田光胤 著
  3. 漢方方意ノート 千葉古方漢方研究会 著
  4. 漢方治療百話第1~3集 矢数道明 著
  5. 腹證奇覧 稲葉克文礼 和久田寅叔虎 著
  6. 漢方処方応用のコツ 山田光胤 著
  7. 薬局製剤 漢方194方の使い方 埴岡博・滝野行亮 共著
  8. 勿誤薬室方函口訣 長谷川弥人 著
  9. 漢方診療30年 大塚敬節 著
  10. 皇漢医学 湯本求真 著
  11. 黙堂柴田良治処方集 柴田良治 著
  12. 類聚方広義 吉益東洞 著

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