日本漢方の原料である漢方生薬と有名な民間薬をご紹介します。
初めての方から専門家まで参考になるよう、気味、帰経、効能、適応とする体質と処方例、民間療法をご紹介。
芒硝(ボウショウ)をご紹介
芒硝は、古くは結晶硫酸マグネシウムでしたが、本草綱目という本を書いた中国の李時珍という人が誤って結晶硫酸ナトリウムを芒硝と思い違いをしました。
その為に中国より誤って伝えられて来て、日本でも硫酸ナトリウムを芒硝として使用していました。
しかし、昭和20年代頃に奈良の正倉院の庫に保管されている李時珍の時代以前から中国に輸入されている芒硝について調べてみたところ、硫酸マグネシウムを使用していることが分かったのです。それからは硫酸マグネシウムを芒硝として使用する事となりました。
気味、薬味薬性
味は鹹、苦、性は寒
帰経(東洋医学の臓腑経絡との関係)
胃、大腸、三焦
効能
清熱、瀉下作用があります。
便通に対して、腸管内に多量の水分を保って腸管を拡張し、ぜん動を強めて排便します。
腸熱をとり、腸内を潤して硬い便を軟らかくし、宿便を排泄する手助けをします。
適応とする体質と処方例
血行不良で生じたうっ血が、熱症状を起こし便秘になり、気の上衝(頭痛や眩暈、耳鳴り、肩凝り、動悸、興奮、不眠症、健忘、神経の衰弱)を起こしている方。処方例:桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)
防風(ボウフウ)をご紹介
中国北部から東北部、モンゴルにかけて分布しているセリ科の多年草です。防風(ボウフウ)とは「風邪を防ぐ」と言う意味です。
横断面の中心部が淡黄色で質が充実し、潤いがあって香気が強く新鮮なものが良品とされています。
浜防風という海辺に自生する薬草があります。これは江戸時代に防風の代用として使われていましたが、中国の北沙参のことで、防風とは別物です。鎮咳、去痰作用がありますが、本来の防風の働きである発汗解熱作用はありません。
浜防風と区別するために防風を唐防風、真防風等と呼びます。
気味、薬味薬性
味は辛、甘、性は微温
帰経(東洋医学の臓腑経絡との関係)
膀胱、肝、脾
効能
体内の毒を軽い発汗又は利尿作用によって体表に追い出します。
中毒症を軽減する働きがあります。
適応とする体質と処方例
- 体力があり肥満体質、排便、排尿が不十分な「臓毒証体質」。高血圧症や糖尿病などを伴っている方。処方例:防風通聖散(ボウフウツウショウサン)
- 蕁麻疹、痒疹で赤く地図の様になっている発疹、固定蕁麻疹等に用います。アトピー性皮膚炎にも多用されます。処方例:消風散(ショウフウサン)
- 皮膚におでき等、化膿が頻繁に出来たり、時には頭痛を伴い、肝臓の解毒能力が低下した方に用います(解毒証体質)。処方例:荊芥連翹湯(ケイガイレンギョトウ)
- 化膿性皮膚疾患で、リンパが腫脹して熱を帯びたものに用いられます。処方例:十味敗毒湯(ジュウミハイドクトウ)
民間療法
- 神経痛、リウマチに〔食用〕さっと茹でて、おひたしにして食べるのが良い。
- 小児の解熱に〔内服〕生のしぼり汁2~4cc位を、1回に飲ませると良い。
牡丹皮(ボタンピ)をご紹介
漢方では、中国原産の牡丹(ボタン科)の根皮を用います。牡丹は中国を代表する国花で唐代に大流行したそうです。
日本では奈良時代、或いは平安時代に渡来し、江戸時代に栽培が流行し数々の園芸品種が作り出されました。
わが国で園芸化される以前、中国でも花は富貴の相があり、雄美、華麗まさに百花の王と称えられ栽培も盛んでした。大丸、中丸、小丸、髭牡丹等また芯抜き牡丹があります。
牡丹は種を蒔いて新芽が出てくるのではなく、新苗から根が生えてくるので、女性無くして男性だけで繁殖するところから、牡(オス)の名を得、花は丹(アカ)である方が良いので牡丹と名付けられました。
幕末から明治にかけて、日本産の苗はヨーロッパに輸出され、各地にその栽培が広がって行ったそうです。
気味、薬味薬性
味は苦、辛、性は微寒
帰経(東洋医学の臓腑経絡との関係)
心、肝、腎
効能
牡丹皮に含まれている成分=ペオノルは、虫垂炎起炎菌に対し発育阻止作用が認められ、また催眠作用があります。
その他薬理学的に、抗菌、鎮痛、抗アレルギー、抗炎症、血小板凝集抑制作用等も知られています。
牡丹皮は陽証の駆瘀血剤で、清熱+炎症を抑える作用があります。その作用は桃仁と似ていますが、桃仁には炎症を抑える作用はありません。それ故、牡丹皮と桃仁とは通例併用されることが多く、代表的な処方として大黄牡丹皮湯や桂枝茯苓丸があります。
適応とする体質と処方例
- 血行不良で、強い逆上せが有ったり、お腹にうっ血がある方に用います。処方例:桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)
- 産後の衰弱や血の道症に当帰、白朮等と配合します。芎帰調血飲(キュウキチョウケツイン)
- 不性性器出血や生理不順、不妊症等に阿膠、呉茱萸などと配合します。温経湯(ウンケイトウ)
牡蠣(ボレイ)をご紹介
カキの貝殻を牡蠣、カキの肉を牡蠣肉と言います。
通常ハマグリ等の貝は胎生、卵生であって牝牡(雌雄)の貝があって子貝が出来るのですが、牡蛎は、繁殖する時に雌雄関係なしに牝だけで繁殖しているように思えたので牡蠣と言う名になりました。
また殻の厚いものを牡蠣、殻の薄いものを雌蠣とも言います。漢方では本来は、殻の厚い牡蠣を使用します。出来れば化石の牡蠣が最良です。
気味、薬味薬性
味は鹹、渋、性は微寒
帰経(東洋医学の臓腑経絡との関係)
肝、胆、腎
効能
代表的な重鎮安神薬の一つです。
鉱物、動物性の薬は自然治癒力のある人に使用し、植物は体力が無く虚弱な自然治癒力の無い人に使用します。牡蛎は牡蛎自体に鎮静効果があり自然治癒力を促すものではありません。牡蠣の鎮静効果は主にカルシウムイオンの働きだと考えられます。
カルシウムイオンは心臓の収縮を促し弛緩させるカリウムイオンとは拮抗的に働きます。カルシウムイオンは、神経や骨格筋では興奮を下げる方向に働く一方、中枢神経ではマグネシウムイオンの麻痺作用と拮抗して興奮作用として働きます。
牡蠣末の場合、胃酸過多の中和剤となります。
胃酸過多を中和する場合2つの方法があります。苦味剤か牡蠣のようなアルカリ剤を用います。自然治癒力旺盛な人が、苦味に刺激されて自主力で胃液の分泌を抑制出来る時に苦味剤を使用します。苦味が強い程効果は上がりますが、体力の少ない時はほろ苦いものにします。
適応とする体質と処方例
肝臓部の炎症が、肝部のうっ血、門脈のうっ滞となって血行不良となり、自律神経の興奮や心臓機能の異常からの心臓、血行からの気の不安定を鎮静する。処方例:桂枝加竜骨牡蠣湯(ケイシカリュウコツボレイトウ)
蒲黄(ホオウ)をご紹介
池沢に生ずるガマという草が、夏になると茎が上に延びてきてその上に花を咲かせます。花は茶褐色の円柱形をなし蒲の穂(ガマノホ)と言われています。花の先には黄色の花粉をつけますが、これを集めて薬用とし蒲黄と言っています。
古事記にあります稲葉の白うさぎの皮膚炎の治療に使用した神話のガマのホワタは、このことです。
蒲黄を生で使用したり炒めたりして用います。
気味、薬味薬性
味は甘、性は平
帰経(東洋医学の臓腑経絡との関係)
肝、心包
効能
内服したり外用したりして止血します。
生の蒲黄はうっ血を散らします。
適応とする体質と処方例
処方例:牛黄清心元(ゴオウセイシンゲン)