日本漢方の古方派を中心とした漢方薬、処方をご紹介します。一般の方から専門家まで馴染めるよう、改善例、処方薬味、適応疾患、使用目標、漢方の証、方意をご紹介。
甘草麻黄湯。金匱要略
処方薬味
甘草 | 麻黄 |
適応疾患
使用目標
呼吸困難をきたす方、自然に汗が出る方、発汗しない方、浮腫のある方に用います。
漢方の証、方意
病位、虚実。心、肺
甘麦大棗湯。金匱要略
処方薬味
甘草 | 大棗 | 小麦 |
適応疾患
ヒステリー、舞踊病、統合失調症、精神分裂症、神経症、小児夜啼症、不眠症、癲癇、胃痙攣、子宮痙攣
使用目標
激しい精神興奮や痙攣発作のある精神神経疾患や、痙攣性症状を呈する身体疾患のある婦人や小児の方に用います。
漢方の証、方意
- 病位、虚実。少陽病より太陰病、虚実中間から虚証
- 十二臓腑配当。肺、大腸
- 方意。気の異常による焦燥感、不安感、抑鬱気分、あくび等の精神神経症状。急迫、痙攣による痙攣性咳嗽、痙攣性腹痛。脾胃の虚証による食欲不振、飢餓感。
- 備考。構成薬味である甘草、大棗、小麦。日常の食生活でよく用いられる食品です。これを金匱要略という古典の通りの分量で組み合わせると、癲癇の大発作に、てき面に効きます。それぞれ単独に食べていても効果はありませんが、比率通りに飲むことで食品がお薬に変わってしまうというそんな東洋医学の不思議を知っていただける薬方だと思います。
帰耆建中湯
処方薬味
甘草 | 当帰 | 生姜 |
芍薬 | 黄耆 | 桂皮 |
大棗 |
適応疾患
盗汗の酷いもの、慢性中耳炎、痔ろう、虚弱児、大病後の衰弱、慢性潰瘍、その他の化膿性腫物
使用目標
諸種の化膿創や膿瘍などが自潰してから、いつまでも排膿が続き、なかなか治らないもので、患者は衰弱して痩、煩熱、自汗、盗汗などがあり、膿が稀薄で肉芽がいつまでたっても新生しない方に用います。
漢方の証、方意
- 十二臓腑配当。腎
- 備考。帰耆建中湯は黄耆建中湯に当帰を加えたものです。
帰脾湯。済生方
改善例
抑うつ反応。62歳、男性。漢方処方応用の実際より引用。
3ヶ月ばかり前、当時10歳になる末の息子を急病で亡くした。その直後は夢中で気づかなかったが、日が経つにつれて「かわいそうなことした」と始終考えるようになった。
1ヶ月後には、食欲は全くなく痩せたのが目立ち、気分はいつも憂鬱で何をしても上の空になり仕事が手につかなくなった。頭はぼんやりして考えがまとまらず、夜は少しも眠れず仕事もできないので勤めを休むようになった。
最近、だいぶ気持ちが落ち着いたので、勤めに出るようになったが、身体や足がだるく疲れやすく、時々心臓が止まりそうな感じがして不安になる。希望がなく物事に対する興感が少しも湧かない。酒を飲むと一時元気になるが、後で反って具合が悪くなるというようなことを訴えた。
診察すると顏色がやや蒼白く潤いがない。身長は大きい方で肉付きは中ぐらい、筋肉も適度に緊張している。脈は沈細でやや遅、腹部は肉づきよく、弾力もあって、腹証には特徴がない。しかし腰背部志室に圧痛が著明である。
以上のように、身体症状としては特記すべきことがなく、ただ盗汗があるということだけが気づかれた。
そこで、身体症状から証をきめることができないので、思慮多くして脾を傷った例と考え、帰脾湯加香附子黄連を投与した。黄連は、不安、不眠症、などを鎮めるために加えた。
1週間後、気分爽快になり、食欲が出て次第に眠れるようになった。ただその間に一度、不安発作がおきたという。2週間後、気分はすっかり安定し、食欲も進み、体重も回復したと言い、全く元気になった。
その後1、2ヶ月の間、上腕痛や胃腸障害などを訴えて、ときどき来院したが精神症状は完全に治り、現在でも元気に働いている。
処方薬味
甘草 | 白朮 | 人参 |
当帰 | 茯苓 | 生姜 |
大棗 | 木香 | 黄耆 |
遠志 | 酸棗仁 | 竜眼肉 |
適応疾患
再生不良性貧血、パンチ氏病、血小板減少性紫斑病、健忘症、不眠症、神経性心悸亢進症、食欲不振、瘰れきの潰瘍が瘻になったもの
使用目標
体力の低下した虚弱な人が顏色が悪く貧血気味で、精神不安、心悸亢進、健忘、物忘れがあり、夜はよく眠れず取り越し苦労ばかりし、或いは発熱、盗汗があり、四肢がだるくなる方に用います。婦人では生理不順をともなう方がいらっしゃいます。また、考え事や心配事が多く或いは下血、吐血などの出血がある方にも用います。
漢方の証、方意
- 病位、虚実。太陰病、虚証
- 十二臓腑配当。心、小腸
- 方意。気による精神症状による不眠、感情不安定、心悸亢進、健忘。脾胃の虚証による胃腸虚弱。虚証、寒証による貧血、顏色不良、疲労倦怠。
- 備考。補中益気湯や十全大補湯などの補剤が胸にもたれるという方に有効です。
芎帰膠艾湯。金匱要略
改善例
鼻出血、皮下出血。40歳、女性。漢方処方応用の実際より引用
1年ほど前、子宮外妊娠で手遅れになり、回復手術をして両側の卵巣と子宮の一部を摘除した。命は、ようやく助かったが、それ以来からだが悪くなり、婚家を出て東京へ来たのだという。
以前にくらべて大変に痩せ月経がなく、始終、鼻血が出る。頭はいつも重く、ひどくなると鼻血が出る。各所の病院にかかり種々な止血剤を用いたがよくならないという。
患者は顏色がドス黒く脈は沈んで遅く、1分間に50至ぐらいで腹部は痩せて腹壁が薄く、両側の腹直筋が拘攣し、臍の右下に抵抗と圧痛のある瘀血塊にふれた。これは下腹に瘀血があって血液が停滞し血流がさまたげられるので、その上流で血液が血管外に流出するのであろう。
患者に芎帰膠艾湯を5日分与えた。その時の鼻出血はこれで止まったが20日ばかりすると再び出血した。そこでまた芎帰膠艾湯を5日分を投与したところそれっきり鼻血は出なくなったという。
1月半ほど後、再来して、あれ以来鼻出血は出なくなったが、最近手足に皮下出血が出てそこが痛い。
ある大学病院へ行って注射などをうけ、仕事を休んでいると皮下出血が出ないが少し働くとすぐ出血する。また頭が痛く、頭に物をかぶったようで食欲がなく食物を見ただけで嫌になる。
腹診すると腹証が前と違い、腹直筋の拘攣はあまりなく、反って左の下腹部、腸骨窩に策状物を触れ、軽く圧迫しても非常に過敏に痛みを訴える。すなわち少腹急結である。そこで体力はやや回復したが、瘀血の腹証が著明であり、少腹急結があるので桃核承気湯を5日分与えた。
すると手背にあった出血斑がほとんど吸収した。しかし働くとまだ痛く、食欲がなく、吐き気がしてみぞおちが痞え、夜眠れないという。そこで止血、健胃、鎮静を目的に黄連解毒湯を桃核承気湯に合方して用いたところ10日分の投与で皮下出血がでなくなった。
処方薬味
甘草 | 川芎 | 艾葉 |
当帰 | 地黄 | 芍薬 |
阿膠 |
適応疾患
子宮出血、子宮内膜炎、産後の出血、痔出血、流産の傾向にあるものの予防、外傷後内膜症、諸種の貧血症
使用目標
下血、その他主に身体下部の諸出血、およびうっ血があり出血が長引いて貧血状を呈する方。痔が痛んだり出血が続いたりして貧血した方。貧血が甚だしいときは眩暈、四肢脱力、下腹部の刺すような痛みなどが起こる方に用います。婦人の場合、子宮出血、難産癖、流産の前兆がある時、流産の後で出血が止まらないもの、妊娠中の子宮出血を伴う腹痛などに用います。
漢方の証、方意
- 病位、虚実。太陰病、虚証
- 十二臓腑配当。肝、心、肺
- 方意。血証、血虚としての出血、貧血、顏色不良。寒証、虚証としての手足の冷え、下腹部痛、疲労倦怠時に燥証にも用いる方剤です。