
日本漢方の古方派を中心とした漢方薬・処方をご紹介します。
一般の方から専門家まで馴染めるよう、改善例・処方薬味・適応疾患・使用目標・漢方の証・方意をご紹介。
内托散・千金内托散(ナイタクサン・センキンナイタクサン )-千金方-をご紹介
改善例
化膿性の腫物/男性 -漢方処方・応用の実際より引用
背中に大きな化膿性の腫物ができて、痛みが激しく十味敗毒湯を飲んでも効かず民間療法の「べんけい草の葉」を貼って膿を吸い出したらようやく治った。
ところが3日も経たない内に同じ腫物が前の場所の近くにできて、痛みが酷くなり2日ほど夜も眠れなかった。
このとき千金内托散を煎じて昼ごろから夜までに1日分を飲んだところ、その夜は痛みが軽くなってよく眠れ、その後2日ほど服薬を続けて治った。
処方薬味
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適応疾患
諸化膿性炎症、面疔ニキビ、耳漏、肛門周囲炎、カリエス、皮膚の潰瘍
使用目標
皮膚の化膿症の比較的初期あるいは数日後に応用して、膿の醸成排出を促し、また潰瘍の治癒を助ける効果があります。
まずは十味敗毒湯(ジュウミハイドクトウ)あるいは荊防敗毒散(ケイボウハイドクサン)などを用いて毒性を抜いて内攻を防ぎます。ついで膿点を現して来たならば、千金内托散を用いて炎症の限局と稠膿の熟成を促します。膿熟すれば切開或いは自潰によって排膿しますが、排膿後も本方を持続すれ、腐肉の脱出を計り新肉の成長を促します。
漢方の証・方意
- 病位・虚実;太陰病、虚証
- 十二臓腑配当;脾
- 方意;表の湿証+虚証:稀薄な膿汁・遷延性排膿・不良肉芽・局所の低緊張・波動・疲労倦怠
- 備考;当薬局では、露蜂房末と組み合わせて痔ろうの方によく用います。
二朮湯(ニジュツトウ)-万病回春-
処方薬味
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適応疾患
肩甲関節周囲炎(四十肩・五十肩)、頸肩腕症候群、上腕神経痛
使用目標
水毒による上腕(肩から手までの前腕)痛のある方に用います。
漢方の証・方意
- 病位・虚実;少陽病から太陰病
- 十二臓腑配当;虚実中間、不明
- 方意;上焦の水毒による肩関節痛・上腕痛のある方、時に脾胃の虚証の伴う方に用います。
- 備考;二朮湯の証の方は、胃内停水の有る方も無い方もいらっしゃいますが、甚だしく虚してはいらっしゃいません。手足の冷えが強い方には附子を加えると効果的です。
二陳湯(ニチントウ)-和剤局方-をご紹介
処方薬味
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適応疾患
胃下垂症、慢性胃炎、常習頭痛、神経症、過飲食、二日酔い
使用目標
胃内停水による悪心、嘔吐および水飲(水毒)による諸病に用います。心下部に振水音を認め、悪心、嘔吐、めまい、心悸亢進、胃部不快感などを訴える方に最適です。水飲による症状は千差万別ですが、偏頭痛、脇痛、心下痛、胸下痛、下肢腫痛、喘咳、咳嗽、全身倦怠などが多いです。
漢方の証・方意
- 病位・虚実;少陽病、虚証
- 十二臓腑配当;胃
- 方意;脾胃の水毒:強い悪心・嘔吐・上腹部振水音・心下痞。水毒の動揺:心悸亢進・めまい・頭痛。肺の水毒:咳嗽・喀痰
- 備考;胃内停水の代表処方です。小青竜湯(ショウサイコトウ)や 平胃散(ヘイイサン)と合方することが多いです。
女神散(ニョシンサン)-浅田家方-をご紹介
改善例
寝たきり/女性-漢方処方・応用の実際より引用-
大してやつれていなかったが、10年も前から殆ど寝たきりで自分用の時以外は起き出さないと言っていた。訴えは、頭痛とめまいで、その付近の名のある医師にみんな診てもらったが治らなかったと言うことであった。
患者は中肉中背で少し色黒のほうだった。この時に女神散を投与すると3ヶ月位で患者は寝床を上げ、ぼつぼつ仕事を始めたという。
処方薬味
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適応疾患
自律神経失調症、更年期障害、産後の神経症、月経困難、胃腸神経症、不眠、月経不順
使用目標
体質的特徴はあまりなく、体力中位かやや強い女子に用いることが多いです。古血の徴候もはっきりしないが大抵は月経異常があります。
産後、流産の後、人工中絶後などによく起こる精神症状に有効な場合が多いです。ある一定の精神症状を、頑固に固執してあまり変化を見せず、1つか2つの訴えをいつまでも続ける傾向があります。
漢方の証・方意
- 病位・虚実;少陽病、虚実中間からやや実証
- 方意;気の上焦・上焦の熱証による精神症状:顔面紅潮・ほてり・眩暈・立ちくらみ・感情不安定・不安感。古血:月経異常・産前産後の障害
- 備考・鑑別;女神散の症状は一定(上焦中心)。加味逍遙散(カミショウヨウサン)は不定愁訴(逍遙性)。女神散は、生理前後に神経症が悪化する傾向にあります。
人参湯(ニンジントウ)-傷寒論-をご紹介
別名;理中湯(リチュウトウ)
改善例
病名は生唾/30代・女性-漢方処方・応用の実際より引用-
30代の女性、約9ヶ月前からしじゅう生唾が上がり食事をしたあと吐くことがある。喉や胸がつかえたり心下部がチリチリ痛んだり、就寝中に心臓が痛んだり、ドキッとしたりするという。大便は軟便で夜間尿に一度起きる。患者は中肉中背で、一見したところそれほど体力が低下している様には見えない。腹部は肉付きが普通で心下部胸骨剣状突起の直下に抵抗があり、臍傍の左上に動悸の亢進を触れた。
この患者には口に唾液がたまることと、夜に小便に起きることの2点を目当てに人参湯を投与したところ1ヶ月足らずで諸症状はすっかりよくなった。
処方薬味
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適応疾患
急・慢性胃腸炎、胃アトニー症、胃下垂症、消化性潰瘍、胃拡張、悪阻、小児自家中毒症、弛緩性出血、肋間神経痛、疑似狭心症、胃腸型感冒、神経症、回虫症、よだれ生唾の多いもの、糖尿病、虚証の人の諸出血、冷え性
使用目標
元来が虚弱体質の人、あるいは衰弱により体力が低下した人の腹痛あるいは脇痛のある方に用います。血色が悪く、生気が乏しく、疲れやすく、多くは痩せた人に用います。腹痛は主に上腹部、胃部に起こり、時として、下痢、嘔吐、眩暈、頭重感なども訴えます。特徴として手足が冷え、尿が無色透明で水のように薄く、量も回数も多いというのがあげられます。
漢方の証・方意
- 病位・虚実;太陽病、虚証
- 十二臓腑配当;脾
- 方意;脾胃の虚証による食欲不振・心下痞硬・水様あるいは泥状下痢・喜唾。寒証による顏色不良・手足の冷え・腹部の冷感・腹痛・身体痛・シビレ。水毒による浮腫・頭重・眩暈・くしゃみ・咳嗽。血証による貧血・出血
- 備考;人参湯は金匱要略には人参湯、傷寒論には理中丸と示されています。(金匱要略、傷寒論ともに昔から中国に伝わるの古典本です)理中は中焦すなわち胃の働きを整えるという意味です。消化器のうち、ことに胃の機能が低下し、栄養の吸収が悪く、新陳代謝が低下した方に用いて、消化機能を助け、身体の諸機能を回復させる働きがあります。
人参当芍散(ニンジントウシャクサン)をご紹介
処方薬味
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適応疾患
冷え性、妊娠時中の諸種の障害、例えば浮腫、習慣性流産、早期破水、痔疾、腹痛、膀胱炎、腰痛、生理不順、月経困難症、その他の婦人科的疾患、慢性腎炎、半身不随症、心臓弁膜症、脚気、凍傷、帯下、めまい、女性の虚弱体質
漢方の証・方意
- 病位・虚実;太陰病、虚証
- 十二臓腑配当;肝
- 備考;当帰芍薬散の加減方です。
参考文献・出典
- 漢方診療医典 大塚敬節・矢数道明・清水藤太郎 著
- 漢方処方 応用の実際 山田光胤 著
- 漢方方意ノート 千葉古方漢方研究会 著
- 漢方治療百話第1~3集 矢数道明 著
- 腹證奇覧 稲葉克文礼 和久田寅叔虎 著
- 漢方処方応用のコツ 山田光胤 著
- 薬局製剤 漢方194方の使い方 埴岡博・滝野行亮 共著
- 勿誤薬室方函口訣 長谷川弥人 著
- 漢方診療30年 大塚敬節 著
- 皇漢医学 湯本求真 著
- 黙堂柴田良治処方集 柴田良治 著
- 類聚方広義 吉益東洞 著