日本漢方の原料である漢方生薬と有名な民間薬をご紹介します。
初めての方から専門家まで参考になるよう、気味、帰経、効能、適応とする体質と処方例、民間療法をご紹介。
延胡索(エンゴサク)をご紹介
チカラシバやスモウトリバナは、花梗を絡ませて互いに引張りあう勝負をしたものです。伊勢地方では太郎坊といえばスミレ、次郎坊といえば次郎坊延胡索のことでどれも花の距に絡ませて勝負したことに由来します。
延胡索はもともとは玄胡索と呼ばれていたが、玄は宗の真宗皇帝のオクリナなので玄を使用してはいけないということで、玄を延にあらため延胡索と呼ばれるようになりました。
中国産が良いとされ、粒が肥大してよく揃い、黄色の濃い鮮やかなもので、質が充実し苦味の強いものが良いとされています。
気味、薬味薬性
味は辛、苦、性は温
帰経(東洋医学の臓腑経絡との関係)
肝、脾
効能
鎮痛の常備薬。故人は「一身上下の諸痛を治す」としています。血行を盛んにし機能を亢進させる刺激的な働きがあるので出血の酷い月経や惰胎のおそれのある時は注意する。
また、浄血、利尿、鎮痙としても用いられています。
アルカロイドを含んでいるため、胃液分泌抑制、抗潰瘍作用があります。
適応とする体質と処方例
- 自律神経不安症で起こる胃の痛みの鎮痛。処方例:安中散(アンチュウサン)
- うっ血による瘀血(非生理的痛み)が原因で下腹部の痛み、骨盤腔内の痛み、生理不順の痛みがある鎮痛。処方例:折衝飲(セッショウイン)
- 瘀血の認められない婦人病の諸証には、芎帰調血飲を用いますが、産後悪露の排出不十分で瘀血が認められるような方にも用います。処方例:芎帰調血飲第一加減(キュウキチョウケツインダイイチカゲン)
黄耆(オウギ)をご紹介
黄耆には和産の品と漢産の品がありますが、昔から和物は下品であるので用いるのに耐えないものとして、漢産の品が賞用されています。
現在は漢産の中でも黒黄耆、白黄耆の2種の品がありますが、元来、黒黄耆と言われる品種の黄耆はありません。黒黄耆は白を黒く染めて市販しているものです。黒、白のいづれが良品とも言えないのですが、黒黄耆は根の上部の太い部分を防虫のために黒く染めているものを指します。
耆は六十歳または、八十歳との意味で年寄り長老の意味です。つまり耆は補養剤(栄養を補充する薬)として長老の薬、黄色が最良のものということで黄耆となりました。
よく乾燥し、太く、質は緻密で柔軟で弾力性があり、容易に折れにくく、甘味があり、断面に空に鳴った部分や黒くなった部分のないものを良品とします。
気味、薬味薬性
味は甘、性は微温
帰経(東洋医学の臓腑経絡との関係)
脾・肺
効能
黄耆は止汗、利尿、強壮剤で肌表の水毒を去る効があり、虚弱体質、栄養不良、皮下組織に水毒の停滞するもの、自汗、盗汗、体腫、麻痺、疼痛、小便不利に用います。
すなわち肌表の水毒を去るのでその薬能は麻黄に類するが、麻黄は水毒が身体の外部上部にあって汗なく、身体疼痛に用い、黄耆は身体の内部下位にあって、汗が出て、身体や手足の腫れる状態に用い、防已、茯苓と併用して水湿を利する効があります。
栄養失調になっている皮膚面の回復、いつまでも潰瘍して肉もりの悪い皮膚病の面を治癒します。強壮と利水の働きがあります。
適応とする体質と処方例
- 大病の後で虚弱になっている時や、自汗や盗汗があって衰弱している時に用います。
- また潰瘍の皮膚病や排膿の続く痔ろうにも使用します。処方例:十全大補湯(ジュウゼンダイホトウ)
- その他の処方例。黄耆建中湯(オウギケンチュウトウ)、清心蓮子飲(セイシンレンシイン)、補中益気湯(ホチュウエッキトウ)、防已黄耆湯(ボウイオウギトウ)
黄芩(オウゴン)をご紹介
日本では江戸時代に朝鮮から輸入し、小石川御楽園で栽培されているのが始まりです。観賞用としても栽培されています。
黄芩はシソ科の多年草コガネバナの周皮を除いた根です。コガネバナは葉が狭いのでコガネヤナギとも言います。
日本において黄芩は、尖芩と片芩の2種類があります。尖芩の鮮黄色で質が堅く、重いものを良品で、片芩で質が軽く脆いものは次品になります。
気味、薬味薬性
味は苦、性は寒
帰経(東洋医学の臓腑経絡との関係)
心・肺、胆、大腸、小腸
効能
みぞおちのつかえる感(心下痞)を治します。
肺部、腸部の熱を下げます。
肺腸の消炎、止血の働きがあります。
殺菌作用で下痢を止めます。胆嚢から胆汁を腸に絞りだす働きがあります。
適応とする体質と処方例
- 急性大腸炎、大腸炎、消化不良等で下痢し、みぞおちのつかえ感があり腹がひきつり、熱気または発熱のある方。処方例:黄芩加半夏生姜湯(おうごんかはんげしょうきょうとう)
- 解熱させる時は発汗剤や下剤を使用することが多いですが、発汗剤や下剤を使用することの出来ない人には黄芩を使用します。処方例:小柴胡湯(ショウサイコトウ)
- 柴胡とともに肺、気管支の熱をとります。処方例:黄芩湯(オウゴントウ)
- 腸からの熱に対し用い、解熱させながら下痢を止めます。
黄柏(オウバク、キハダ)をご紹介
黄柏、オウバク「きはだ」の樹皮を薬用にします。またオウバクの内皮は黄色なところから黄肌、キワダなる名もあります。
黄柏は皮が厚く深黄色で、その色調はベルベリンの含量に正比例するものとみられます。
黄柏末を水で捏ねると粘り気を生じ、粘り気の多いものが良質であり皮部が脆く、コルク皮を残存するものは不良品です。
黄柏は昔から夏の土用に採取することを建前とするが、これはこの時期が植物の水揚期で剥皮が容易で成分含量も多いためです。
黄柏水製エキスは「陀羅尼助」、「お百草」、「煉熊」などの健胃胃腸薬がつくられ、販売されています。
気味、薬味薬性
味は苦、性は寒
帰経(東洋医学の臓腑経絡との関係)
腎、膀胱、大腸
効能
健胃、整腸、腸内殺菌の働きがある。
外用で塗ることによって炎症を散らします。
副腎皮質ホルモンの分泌過多を抑制します。
目の殺菌の目薬として使用することができます。
適応とする体質と処方例
- 心臓の苦情や自律神経の緊張によって熱を感じたり出血傾向のある方。処方例:黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)
民間療法
- 健胃、下痢止め〔内服〕黄柏の粉末を1回1g、1日3回食後に服用。
- 打撲症〔外用〕黄柏の粉末に食酢を加え、パスタ状によく練って、患部に直接塗ってガゼを当て、乾いたら取り替える。
桜皮(オウヒ)をご紹介
ヤマザクラやソメイヨシノなどの桜の樹皮を剥がして、日干しをしたものを薬用として用いたものです。もともと中国には存在しません。
主にヤマザクラの樹皮を用いますが、主幹が20cm以下の太くない木を使います。桜皮の外観は赤褐色ないし灰褐色で光沢があり特有の香りと微かな渋みがあります。
効能
桜皮のエキスは、鎮咳去痰薬として臨床に用いられています。
適応とする体質と処方例
化膿傾向にある湿疹などのある方処方例:十味敗毒湯(ジュウミハイドクトウ)
民間療法
魚の中毒の解毒、蕁麻疹、腫れ物(おでき)などの皮膚病、解熱剤、止咳、収斂薬として。