日本漢方の古方派を中心とした漢方薬、処方をご紹介します。一般の方から専門家まで馴染めるよう、改善例、処方薬味、適応疾患、使用目標、漢方の証、方意をご紹介。
増損木防已湯。内科秘録
処方薬味
防已 | 石膏 | 生姜 |
人参 | 蘇葉 | 桂皮 |
桑白皮 |
適応疾患
使用目標
木防已湯よりも上焦の水毒が一段と強く、喘鳴が強度の方に用います。
漢方の証、方意
- 病位、虚実。少陽病、実証から虚実中間
- 十二臓腑配当。肺、胃
- 方意。上焦の水毒。心下痞硬、胸内苦悶感、呼吸困難。水毒。尿不利、浮腫
疎経活血湯。万病回春
改善例
脳溢血。60歳、男性。漢方処方応用の実際より引用
2、3年前に脳溢血になり、以来左半身が鈍麻、手足の運動が不自由で、その上半身全体が冷えて痛み、寝たり起きたりの生活だという。
診察の結果、特にどうという所見がないので、私は困ってしまった。そこで脳溢血は一種の瘀血であり、遍身走痛は疎経活血湯の証と考えるより仕方がなかった。
この患者は1度診察しただけでこの処方を郵送していたが、1ヶ月ばかり経つと身体が温かくなって痛みが軽くなったと伝言してきた。3ヶ月ほど後には、その患者が自転車で近所を廻っているという報告が、紹介してきた人から届いた。
処方薬味
甘草 | 白朮 | 生姜 |
芍薬 | 茯苓 | 牛膝 |
威霊仙 | 桃仁 | 防已 |
羌活 | 地黄 | 陳皮 |
防風 | 竜胆 | 当帰 |
川芎 | 白芷 |
適応疾患
高血圧症、産後の血栓性疼痛、脳卒中後後遺症
使用目標
日頃、お酒をよく飲み、瘀血のある方の上、下肢痛あるいは半身痛に効果を示します。痛みは激しいですが、必ずしも飲酒家とは限りません。
漢方の証、方意
- 病位、虚実。太陰病、虚証
- 十二臓腑配当。胃、膀胱
- 方意。水毒、瘀血、血虚による疼痛、麻痺、浮腫、うっ血
- 備考。疎経活血湯証の方の疼痛は、抹消循環不全が関与するため、安静が循環動体に返って悪影響を及ぼし、夜間痛、起床時の腰痛、明け方の下腿痛を訴える傾向があります。
蘇子降気湯。和剤局方
処方薬味
蘇葉 | 半夏 | 生姜 |
陳皮 | 厚朴 | 桂皮 |
大棗 | 前胡 | 甘草 |
当帰 |
適応疾患
慢性気管支炎、喘息性気管支炎、気管支拡張症、肺気腫、耳鳴り、吐血、歯槽膿漏、口中のただれ
使用目標
足の冷えと喘息のある方に用います。元来、体質虚弱の人や老人に多く見られ、身体下部の下焦の両脚に力がなく、痰が多く上衝して呼吸困難を訴える方に効果を示します。
大黄甘草湯、大甘丸。金匱要略
処方薬味
大黄 | 甘草 |
適応疾患
大便秘結して食べた物を吐くもの、癌、心胸痛、妊娠嘔吐等で便秘するもの、常習便秘、化膿証の初期、腫痛して熱あるもの
使用目標
便秘している方、食後すぐに食べたものを吐いてしまう方に用います。原典には、「食し終わって即ち吐するものは大黄甘草湯之を司る」とあります。
金匱要略析義、後藤慕庵著には、「日暮れを待たずして、食入れば即ち吐す者は実に属す。是れ一時の致す所にして、漸く成るの証に非ざるなり。故に大黄甘草を持ってこれを折き、引きて下行せしむれば乃ち癒ゆ」とあります。
漢方の証、方意
- 病位、虚実。少陽病、虚実中間からやや実証
- 十二臓腑配当。心、心包
- 方意。裏の実証による便秘、食後の悪心、腸や胃の熱、炎症
- 備考。大甘丸は、大黄甘草湯を糊を加えて丸剤にしたものです。丸剤は簡便性に長けています。大黄を加熱していないので瀉下作用は十分あり、甘草で後重、しぶり腹をふせぐ意味で配剤していると解釈すればよいのだが、常習すると徐々に効かなくなる恐れがあります。また、すぐに渋って出にくいと苦情を受けるので、麻子仁丸などの効果調節に使う方が良いようです。大黄は長く煎じると緩下作用を有するセンノサイドが分解され、瀉下作用が減弱します。本処方は水3升を以って煮て1升を取るというように、他の方剤の2分の1に濃縮に比べ、相当長く加熱することになるため、瀉下作用だけでなく消炎作用にも重点を置かれています。加えて抗炎症作用を持つ甘草との組み合わせですから、解毒消炎剤としても用いることができます。煎じ薬には軽い瀉下作用しか残っていないため、常習性便秘には大甘丸を用います。
大黄牡丹皮湯。金匱要略
改善例
改善例1、潰瘍性大腸炎。40歳代、男性。漢方処方応用の実際より引用
数年前、直腸炎と言われていると言って来店された方がいらっしゃった。いつでも下腹に、猛烈な痛みがあり、しばしば大便に血液が混じって出る。数年来方々の大病院にかかったが少しも治らず、自然治癒を待つより仕方がないと言われていると訴えた。この患者は、左下腹に圧痛のある抵抗がわずかに触れた。これに大黄牡丹皮湯を投与し、約2週間で下腹痛がほとんど消失した。このときの効果には、私の方が驚いたくらいだが、患者は何故か、まもなく来なくなったので、遠隔成績はよく分からない。
改善例2、外痔核。40歳代、男性。漢方処方応用の実際より引用
ある朝起きてみると、肛門の近くが酷く痛い。そっと触れてみると、明らかな外痔核が出ていて、ちょっと触っても飛び上がるほど痛かったとの事。一応、紫雲膏を塗って、その日は起居を静かにして過ごしたとの事。
しかし翌日ますます痛みが酷く、そこでまず乙字湯をお出しした。しかし、痛みがあまり消えなかった。痔の急痛によいという麻杏甘石湯なども考えたが、身体下部の炎症だからと言うことで大黄牡丹皮湯をお出しした。
大黄は1.5グラム入れて1日分を煎じ、3等分して午後から2回のみ、1回分は翌日に残してもらった。また就寝前に紫雲膏を患部に塗ってもらうことにした。翌朝起きたとき、驚いたことにあの酷かった痛みが大部分去っていたとの事。そしてそれまで数日の間快痛しなかった朝の便通が、下痢にもならず気持ちよく通じたとの事。しかしその後、午前中に2回、軽く腹が痛んで便通があったとのこと。この時も、少し軟便になった程度で下痢はなかったらしい。
そこで、その日は大黄牡丹皮湯を1回分だけ飲み、後は乙字湯を服用していただいた。これで翌日は全く痔の痛みが消失したと言う。こういう芸当は、西洋のお薬ではちょっと経験できないことではないかと思われる。
処方薬味
大黄 | 牡丹皮 | 桃仁 |
冬瓜子 | 芒硝 |
適応疾患
虫垂炎、肛門周囲炎、結腸炎、直腸炎、赤痢、痔疾、子宮および付属器の炎症、骨盤腹膜炎、腎盂炎、尿管結石、膀胱炎、盲腸周囲炎、潰瘍性大腸炎、皮膚炎、淋疾横痃、そけい部リンパ腺炎、淋毒性副睾丸、月経困難症
使用目標
体力が充実して元気があるもので、瘀血の腹証を呈し、下半身に炎症や化膿があって、発熱、疼痛などの症状を呈し、特に自覚症状が激しく、便秘の傾向がある方に用います。
下腹部、特に右側に圧痛のある腹証に用いれば奏効するといわれています。下腹部にしこりがあって、触ると痛い。小便はよく出るけれど下腹が痛いから小便をすればひびく方に。
ずっと熱が続いて汗をかく方にも用います。腸に化膿症があるのが原因の場合。中耳炎の初期で、まだ、化膿性炎症が進んでいない時期に用います。
漢方の証、方意
- 病位、虚実。陽明病、実証
- 十二臓腑配当。心包、三焦
- 方意。瘀血による下腹部の抵抗、圧痛。裏の実証としての便秘、腹満。時に下焦の熱証による発熱、熱感、充血、発赤
- 備考。かなり強い駆瘀血剤です。桃核承気湯、桂枝茯苓丸に比べて、化膿性の炎症が明らかであり、自、他覚症状が激しい方に対応します。金匱要略の原文には時時発熱とあります。これは時々発熱ではなく、持続的な発熱を意味します。泌尿器疾患に応用する場合、利尿剤と併用すると良いので、四苓湯合方がよいでしょう。前立腺肥大に八味丸を使うことが有名ですが、本方との併用がより効果を期待できます。