温経湯、温清飲、温胆湯、越婢加朮湯、越婢加半夏湯

漢方薬

日本漢方の古方派を中心とした漢方薬、処方をご紹介します。
一般の方から専門家まで馴染めるよう、改善例、処方薬味、適応疾患、使用目標、漢方の証、方意をご紹介。

温経湯

処方薬味

半夏半夏 麦門冬麦門冬 当帰当帰
川芎川芎 芍薬芍薬 人参人参
桂皮桂皮 呉茱萸呉茱萸 阿膠阿膠
牡丹牡丹皮 甘草甘草 生姜生姜

適応疾患

女性の不正出血、不妊症、手掌角皮症、湿疹、生理不順、諸種の婦人科疾患

使用目標

婦人が下腹部が冷えて妊娠しない方、子宮出血や月経不順、或いは月経過多、若しくは月経寡少などがあって下腹部が引き連れて痛み、腹部が膨満するもので手掌が煩熱し、口唇が乾燥する方に用います。

その他、全身がかっと熱くなる方、帯下が止まらない方、大便が快通しなかったり秘結するものがあり、帯下は血性のものも血液を混じらない方にも用います。

漢方の証、方意

  • 病位、虚実
    太陰病、虚証
  • 十二臓腑配当
    胆、胃
  • 方意
    瘀血、血虚としての月経異常、顏色不良、貧血や、熱証、燥証による手掌煩熱、皮膚枯燥や、時として脾胃の虚証による悪心、下痢や気、血、水の異常による頭痛、逆上せ、感情不安定などの精神神経症状に用いる方剤です。
  • 備考
    芎帰膠艾湯の附方とみなされる薬方です。

温清飲。万病回春

黄柏

改善例

貧血と疲労。65歳、男性。漢方処方応用の実際より引用。

5日前に指圧師に全身を指圧して貰い、いつも少し位揉んでも押しても効き目がないのでその日は特に強く押してもらったそうである。ところが翌朝から大便がコールタルのように真っ黒になった。それでも平気で会社に行ったが会社では1日中元気がなかった。翌日も同じような大便が出たがやはり会社へ行った。

然し会社では動悸、息切れが酷く苦しくてたまらなかったという。某大学病院の内科では原因はよく分からないとの事。

患者は2、3年前から便通が1日に何回もあったが、その他には少しも自覚症状はなかった。体格の良い立派な身体の人ではあるが、顏色は白紙のように蒼白で唇にも血の気がない。あくびが度々出て眩暈もするという。

私は胃腸から急激に出血したものと思ったので、原因を大学でよく確かめてもらうように勧めた。

然し、とにかく出血を止めるつもりで四物湯を動悸、息切れを鎮める為に苓桂朮甘湯を考え両方の合方である連珠飲として投与した。

投薬後、黒色の大便は2日目から出なくなり、10日後に再び来院し、その前日大学病院で血液検査を受けたところ赤血球が350万と言われた。然しこの時、顏色は殆ど正常に近く眼瞼結膜も血色が出てきた。

面白いことに、この時の腹証は腹部の緊張が良くなり心下部の浸水音が聞こえなくなっていた。そこで補血の効果を一層期待して温清飲に転方した。このとき動悸、息切れは全く無くなったので苓桂朮甘湯は不要と思ったのである。

処方薬味

当帰当帰 川芎川芎 芍薬芍薬
地黄地黄 黄芩黄芩 黄柏黄柏
黄連黄連 山梔子山梔子  

適応疾患

ベーチェット病、アトピー性皮膚炎、湿疹、面疱、高血圧症、神経症、胃や腸の潰瘍による下血、血尿、諸種の貧血。

使用目標

婦人では子宮出血が長引いたり、月経過多で出血が多く或いは帯下が続き、男子では下血が暫く続いて貧血症状を呈する方に用います。この時、逆上せ、精神興奮、皮膚の熱感を伴う肌荒れなどのある方が少なくありません。ただ食欲不振や下痢などの胃腸症状がある時は用いられません。

漢方の証、方意

  • 病位、虚実
    少陽病から太陰病、虚実中間
  • 十二臓腑配当
    三焦、胃
  • 方意
    燥証による皮膚枯燥、渋紙色、肌荒れや、血虚による貧血、子宮出血、月経異常。上衝の熱証による感情不安定、不眠症、心悸亢進。
  • 備考
    温清飲は温と清を兼ねた薬方で前者は四物湯、後者は黄連解毒湯にあたります。
    四物湯は、身体を温め、貧血を治し、皮膚に潤いを保たせる効があり、黄連解毒湯は、清熱、鎮静、止血の効果があります。温清飲は、この二方を合わせたもので、応用して広範囲に用います。

温胆湯

竹茹、竹葉

処方薬味

甘草甘草 陳皮陳皮 生姜生姜
半夏半夏 茯苓茯苓 竹茹、竹葉竹茹
枳實枳實    

適応疾患

神経症、うつ病、不眠症、胃アトニー、大病後の衰弱による虚煩、胃下垂症

使用目標

平素、胃腸の弱い胃アトニー症や胃下垂のあるような人、或いは高熱、大病の後で胃腸の機能が衰えた人などが元気が回復せず、気が弱くなって些細なことに驚いたり胸騒ぎし、息が弾んだり動悸がしたりし、憂鬱で良く眠れない方に用います。

また、たまたま眠れば無意味な夢ばかりみていて、起きてから熟睡感、睡眠障害で睡眠による満足感が少しもなく、盗汗、寝汗があったりします。

食欲は無く、吐き気や空嘔吐が起こることもあり、腹証としては心下部の腹水音や臍傍の動悸などを認めます。

漢方の証、方意

  • 病位、虚実
    太陰病、虚証
  • 十二臓腑配当

越婢加朮湯。金匱要略

白朮、蒼朮

越婢加苓朮湯、越婢加苓朮附湯

改善例

急性腎炎。38歳、男性。漢方処方応用の実際より引用。

患者は38歳の男性で体格は強健。疲労と感冒が重なり発熱、頭痛、食欲不振をきたした。無理して1週間ばかり労働を続けている内にだんだん血色が悪くなり顔面に浮腫みが現れ、ついで下肢にも現れた。軽度の呼吸困難まであった。舌は薄い白苔を生じ、渇を訴え、脈は浮で1分間80至、体温36.7度。下腿にも著名な浮腫みがある。尿不利で濃褐色を呈して混濁し且つ蛋白を強陽正に証明する。

これに越婢加朮湯を与えると、2日間は尿量が減少したが第3日目に発汗が著名となり、急に排尿量が増えて1500から2500ミリリットルに及び、約5日間で浮腫みが全く消失し、同時に解熱した。和田正系、漢方と漢薬第3巻5号1936

処方薬味

甘草甘草 麻黄麻黄 生姜生姜
石膏石膏 茯苓茯苓 白朮、蒼朮蒼朮
大棗大棗 附子附子  

適応疾患

腎炎、ネフローゼ症候群などの初期の浮腫、脚気の浮腫、変形性膝関節症、関節リウマチ、急性結膜炎、フリクテン性結膜炎、眼の翼状ぜい片痛風、湿疹、陰嚢水腫。

使用目標

小便が少なく、疼痛により屈伸出来ず酷く口渇する方に用います。悪風、喘咳、水をよく飲み、身体下部に浮腫があり、膝関節症などに用います。

漢方の証、方意

  • 病位、虚実
    太陽病から少陽病、実証
  • 十二臓腑配当
    心、膀胱
  • 方意
    水毒による浮腫、尿利不利。上焦の熱証による口渇、自汗。表の水毒による身体疼痛、関節腫痛。
  • 備考
    越婢加苓朮湯、越婢加朮湯証に動悸、息切れが加わったもの、或いは胃内停水、又は腹水の加わった方に用います。
  • 備考
    越婢加苓朮附湯、越婢加朮湯に茯苓、附子を加えたものです。更に深いところを利水し、大熱、止痛作用があります。

越婢加半夏湯。金匱要略

半夏

改善例

越婢加半夏湯と小青竜湯の鑑別。医学救弊論。

医学救弊論には
1人の老婦人が喘咳があり、息が苦しくて安臥できず、起坐呼吸の状態になった。そのとき、小青竜湯加石膏で治ったが、翌年また再発した。そこでまた前の処方を与えたが、ほとんど30日になっても喘咳が止まらなかった。再び診察してみたが、やはり前の処方の証のようにみえた。しかし今度はこの処方で少しも効果がない。そこで、越婢加半夏湯を用いたところ、喘咳が非常に少なくなり、横になって寝られるようになった。この二つの処方は、喘咳を直す主剤である。しかし働きは異なり、小青竜湯は心下に水気があるものを治し、越婢加半夏湯はもっぱら肺腫を治すものである。
とある。

このように越婢加半夏湯と小青竜湯の証は良く似ている。このことを知らなかったために治療の効果が得られなかった例がある。

患者は49歳の男性。
約三年前から咳が治らない。咳は発作的に激しく出て、痰が切れると一時は鎮まる。そのとき呼吸も苦しくなるが、ネオフィリンを注射すると楽になる。痰は泡の多い唾液のような痰で、量が多くて夜間コップに1杯位溜まると言う。また月の末頃決まって38度ぐらいの発熱があるという。背丈の高い、筋肉の硬そうな人で中肉である。顔色は悪く、脈は小細数であるが、毎日ネオフィリンを6、8錠服用しているというので、数脈はその影響と思われる。腹証は、両側の腹直筋が硬く張り、ことに上部で緊張している。下腹部は正中線の付近の力が抜けている。

この患者に小青竜湯を投与すると、夜間の咳が減り、5時間ぐらいは睡眠が取れるようになった。また、痰の量が半分以下に減った。しかし咳はすっかりはなくならず、かつ毎日昼頃には発作が同じように出た。この発作は、ネオフィリンをあらかじめ飲んでおくと非常に軽くてすむという。

一度、来局中にその発作が出てきた。それは、「オオ」というような呼吸音を伴って、咳がしきりに出る。咳そのものは強くないが、いかにも苦しそうな息遣いと喘鳴が聞こえる。これが、今考えると哮喘というものであったであろうと思われる。

約半年間、小青竜湯を主として、時々小柴胡湯加厚朴杏仁、香蘇散、麻杏甘石湯などを1、2週間投じてみたが、症状はそれ以上はかばかしく良くならなかった。

そこで、どう考えてみても小青竜湯証と思われるのに、これが駄目なのは、あるいは陰証なのかもしれない。それなら苓甘姜味辛夏仁湯かと考え、その処方に転方した。しかし、2週間ほど用いたところ、まったく効果がなかったらしく、患者はそれきり来店しなくなった。

これは、気管支拡張症とともに肺気腫の傾向があるとも言われていたそうであるが、あるいは越婢加半夏湯の証ではなかったかと、今になって考えている。

処方薬味

甘草甘草 石膏石膏 生姜生姜
半夏半夏 大棗大棗 麻黄麻黄

適応疾患

気管支喘息、気管支炎、肺炎、小児百日咳、ジフテリア、肺気腫

使用目標

越婢湯証で嘔吐するもので加えて、哮喘が何日も治らず、痰がますます酷くなり、目が腫れ、鼻翼が広がって人相が悪くなってしまった方に用います。小児の百日咳の時の咳などで乾姜の煎じたものを用いて効果のないものに良い場合があります。

漢方の証、方意

  • 病位、虚実
    少陽病、虚実
  • 十二臓腑配当
    膀胱
  • 方意
    肺の水毒と上焦の熱証による激しい喘咳、乾嘔、火照りに対する方剤です。
  • 備考
    越婢湯に半夏を加えたものです。越婢加半夏湯証と小青竜湯証は似ています。