日本漢方の古方派を中心とした漢方薬、処方をご紹介します。一般の方から専門家まで馴染めるよう、改善例、処方薬味、適応疾患、使用目標、漢方の証、方意をご紹介。
猪苓湯。傷寒論、金匱要略
改善例
慢性膀胱炎、女性、漢方処方応用の実際より引用
30年来膀胱炎で悩んでいる婦人が訪れた。体質は虚弱で冷え症、胃腸はきわめて弱い。この人は30年の間、排尿には不快感が伴うものと思っていたということであった。
この患者に猪苓湯と当帰芍薬散の合方を与えた。ただし当帰芍薬散の当帰、川芎はごく少量用いた。胃腸の弱い人にはこの薬がすぐに胃にこたえて食欲が減ったり、胸にもたれたりするからである。これで半月にもならないうちに自覚症状が無くなり「排尿には苦痛などは無いものだった」と言うようになった。
このとき患者は服薬をすぐ止めてしまった。その後に再発し、再び服薬すると1ヶ月もたたないうちに、症状は再び軽快し、身体が丈夫になって余り疲れなくなり、約1ヶ月服薬して治療を終了した。
処方薬味
猪苓 | 滑石 | 澤瀉 |
阿膠 | 茯苓 |
適応疾患
膀胱炎、前立腺肥大、腎炎、ネフローゼ症候群、腎臓結核、血尿、浮腫
使用目標
尿量が減少し尿が出難く、或いは排尿の際に尿道が痛んだり、排尿の後で痛みや不快感が残り口渇がある方に用います。
漢方の証、方意
- 病位、虚実。少陽病、虚実中間からやや虚証
- 十二臓腑配当。三焦、膀胱
- 方意。下焦の熱証、下焦の湿証による排尿痛、残尿感、尿混濁。水毒としての尿不利、口渇、無汗。上焦の熱証による不眠、感情不安定などの精神症状。血証による血尿などの諸出血。
- 備考。猪苓湯と四物湯を合方して用いると良いことが多いです。
通導散。万病回春
処方薬味
紅花 | 大黄 | 甘草 |
芒硝 | 厚朴 | 陳皮 |
木通 | 蘇木 | 枳実 |
当帰 |
適応疾患
月経異常、打撲、高血圧症
漢方の証、方意
- 病位、虚実。陽明病より少陽病、実証
- 方意。瘀血、下腹部の抵抗、圧痛、月経異常、打撲。裏の実証、腹満、便秘。気滞による精神神経症状、逆上せ、胸満、心悸亢進。
- 備考。通導散の瘀血の圧痛は下腹部のみではなく、腹部全体に見られる傾向にあります。
桃核承気湯。傷寒論
改善例
関節リウマチと顔面湿疹、女性。漢方処方応用の実際より引用-
多発性関節リウマチと顔面の湿疹で来院した。昼間は膝関節だけが痛み、夜になると全身の関節がギシギシ痛むという。人混みへ行くと頭皮が腫れて痒くなる。数日すると落屑して治るがすぐまた起こるという。患者は背の高い、体格の良い女性で顏色は紅潮している。脈には特徴なく、腹部は心下部には浸水音があり、左右の下腹部に抵抗と圧痛がみられる。
蒼朮や附子の入った処方をいろいろ用いたが関節痛が治らず、芍薬甘草附子湯でようやく治まった。その間に桂枝茯苓丸を用いたところ、顏の痒みが無くなって患者が服薬を止めた。
ところが半年ばかり経った秋の頃、再び来院し、その年の夏頃からまた首や顏に熱感と痒みが起こり、掻くと赤く腫れ、落屑が出るといってきた。このごろ便秘がちで時々頭が痛むという。このときの脈は沈細でやや強い。腹部は左の季肋下に圧痛の敏感な抵抗があり、両側腹直筋がやや拘攣し、左腸骨下に圧痛を過敏に訴える抵抗を触れた。季肋下の腹証は胸脇苦満であると考え、四逆散を用い、下腹部の腹証は少腹急結と考え桃核承気湯を用いたのである。
この女性は以来数年になるが皮膚病は再発せず、知人や身内に病人があると、案内して時々来院する。
処方薬味
甘草 | 桃仁 | 芒硝 |
大黄 | 桂皮 |
適応疾患
月経困難症、生理不順より来る諸種の疾患、無月経、月経時に精神異常を呈する者、胎盤残留して下血のやまない場合、胎児が母胎内で死んで娩出しない場合、産後発狂状になるもの、瘀血による各種出血、統合失調症、会陰部の打撲、骨盤腹膜炎
使用目標
中程度以上に体力が充実し、体質のしっかりした人が瘀血による症状を呈し、便秘、上衝する方。瘀血による症状が一般に激しく、精神錯乱をはじめとする種々の精神症状を呈する方に用います。
瘀血による症状の主なものには、所主の出血傾向、月経不順、月経困難、不妊症、口渇、手足の灼熱や原因不明の発熱、のぼせ、皮下静脈の怒張、皮膚や粘膜の紫斑、出血斑、肌荒れ、頬や口唇などの暗紫色があります。瘀血があると、自覚的には下腹部が硬く張ったり塊のようなものがあったり、それを圧迫すると疼きと激しい圧痛を訴える様な腹証があります。
この桃核承気湯の腹証は瘀血の腹証の1つで小腹急結といいます。瘀血があるとき、原因不明の熱が出ることがあります。瘀血の熱と判断するためには、瘀血症状を総合して判定しなければならないが、次のような場合は、多くは瘀血の熱と考えています。初め、昼も夜も熱が出ていたのものが、昼間は熱が出なくなったのに夜になると熱が出るもの。
漢方の証、方意
- 病位、虚実。陽明病、実証
- 十二臓腑配当。胆、三焦
- 方意。強い瘀血による小腹急結、月経異常、赤黒く脂ぎった顏、激しい気の上衝、瘀血によるのぼせ冷え、頭痛、肩背強急、健忘、興奮などの精神症状、裏の実証などの便秘、裏の熱証などの発熱、灼熱
- 備考。とても強力な瘀血を改善する駆瘀血剤です。月経異常、打撲、高血圧症
当帰飲子。済生方
処方薬味
川芎 | 蒺藜子 | 防風 |
芍薬 | 地黄 | 荊芥 |
黄耆 | 当帰 | 甘草 |
何首烏 |
適応疾患
皮膚掻痒症、痒疹、老人の尋常性乾癬、その他の病
使用目標
老人や虚弱な人の皮膚発疹に用います。虚証で陰証なので熱状がありません。病変は活動的ではなく、皮膚は乾燥して潤いがなく丘疹は小さく数も少なく、いかにも弱々しい感じのものが多いです。分泌液は無いか、有っても少ないのが普通であるが、時には多いのもがあります。掻痒はたいていの方が訴え、特に甚だしいもの、発疹が殆どなくて掻痒だけを訴える方もいます。
漢方の証、方意
- 病位、虚実。太陰病、虚証
- 十二臓腑配当。肺
- 方意。表の燥証としての激しい痒み、皮膚枯燥、時に血虚および寒証
- 備考。当帰飲子は四物湯の加味方であるため、血虚と躁証とがあります。消風散証は、分泌液が多い事が目標になるが時に乾燥することもあり、その場合、当帰飲子証と区別がつきにくい。
当帰散。金匱要略
処方薬味
当帰 | 白朮 | 川芎 |
芍薬 | 黄芩 |
適応疾患
妊娠中の養生、流産防止、産後の諸症
使用目標
妊娠された方が、流産防止や妊娠中の養生の為に常用します。
漢方の証、方意
- 病位、虚実。虚証
- 十二臓腑配当。肝