人参養栄湯、排膿散、排膿湯、排膿散及湯、伯州散、麦門冬湯、麦門冬飲子

漢方薬

日本漢方の古方派を中心とした漢方薬、処方をご紹介します。
一般の方から専門家まで馴染めるよう、改善例、処方薬味、適応疾患、使用目標、漢方の証、方意をご紹介。

人参養栄湯。和剤局方

処方薬味

甘草甘草 白朮、蒼朮白朮 黄耆黄耆
芍薬芍薬 茯苓茯苓 桂皮桂皮
当帰当帰 人参人参 五味子
遠志遠志 地黄熟地黄 陳皮陳皮

適応疾患

貧血、病後、術後、産後の衰弱および多愁訴、不眠症、健忘症、冷え性、脱毛症、強皮症、慢性胃腸炎、消化不良、肺結核症

漢方の証、方意

  • 病位、虚実
    太陰病、虚証
  • 十二臓腑配当
  • 方意
    虚証および血虚。疲労倦怠、不眠、貧血、るいそう
    燥証、熱証。皮膚枯燥、発熱
    脾胃の虚証。食欲不振、下痢、薄い唾液
    心肺の虚証。心悸亢進、息切れ、咳嗽、呼吸困難
  • 備考
    十全大補湯証で、心肺の虚証の一段と著しい方に用います。

排膿散、排膿湯、排膿散及湯。金匱要略、華岡青洲

桔梗

改善例

脳腫瘍、癌
手術後に排膿散と山豆根末。漢方治療百話より矢数道明著

42歳の主婦の話である。患者は前年の8月頃から右の目が腫れ上がり、眼球が突出し、次いでまったく視力が無くなってしまった。大きな大学病院の外科で診察の結果、脳腫瘍という診断が出た。10月に1回、12月に2度目の手術を受けた。腫瘍は癌腫であると言われた。手術は相当困難を極め、2回に渡って行われたが、とても全部を摘出することはできなかったという。

そこで放射線治療を3ヶ月続けて退院し自宅療養に移ったが、この頃の全身衰弱ははなはだしく、食欲はまったく欠乏し、何一つ摂取することができない。37度2分の微熱が続き、よくよく衰弱の結果、退院後10日目に都内にある病院に再入院し、あらゆる栄養剤を補給して、かろうじて生命を維持している状態であるという。再入院後20日近くになるが、食欲は一向に回復せず、患者自身も家族も殆ど諦めていた。

そんな状態で漢方治療をすることになったが、その頃の患者の様子は顔色蒼白、やせ衰え、脈腹ともに無力で、右目の眼帯をとると、眼窩に鶏卵代の反転した赤い眼瞼結膜がまくれ上がっていて、眼球は見えない。見るも気の毒な状態であった。

そこで、山豆根末1.5グラムを1日2回、排膿散1グラムを1日1回与えた。排膿散は元来化膿症に良いのであるが、過去に脳腫瘍に使った例がある。すると服用5日目から俄然食欲が出始めその日は病院から出た食事の半分を食べて、本人はもちろん家族も大喜びしたという。それまでは病院食も箸を取ったことが一度もなかった。

処方薬味

枳実、枳殻枳実 桔梗桔梗 芍薬芍薬
甘草甘草 生姜生姜 大棗大棗

排膿散。枳実、桔梗、芍薬
排膿湯。甘草、桔梗、生姜、大棗
排膿散及湯。桔梗、大棗、生姜、芍薬、甘草、枳実

適応疾患

排膿散。リンパ腺炎、ヒョウ疽、外耳炎、慢性副鼻腔炎、麦粒腫、乳腺炎、肛門周囲炎、痔ろう、直腸潰瘍、虫垂炎、脊椎カリエス、フルンケル、カルブンケル、筋炎、その他化膿性疾患

排膿湯。リンパ腺炎、ヒョウ疽、外耳炎、慢性副鼻腔炎、麦粒腫、乳腺炎、肛門周囲炎、痔ろう、直腸潰瘍、虫垂炎、脊椎カリエス、フルンケル、カルブンケル、筋炎、その他化膿性疾患

排膿散及湯。体表の化膿症全て、ただし、全身症状なし

使用目標

排膿散。諸種の化膿性の炎症および腫物で、患部が痛み、発赤して腫れたり、硬く緊張しているものに対して用います。

排膿湯。化膿性炎症のごく初期で、局所の発赤、圧痛はあるけれども、皮膚面があまり盛り上がらず少し熱を持って発赤している時に用います。腫れ上がって、硬くなってきたものは排膿散の方が良い。区別がつきにくい時には排膿散及湯が便利。

排膿散及湯。炎症性浸潤が強い化膿性の腫れ物に用いられます。体表が主で、時に膿血便や膿痰のある方にも用います。特別な腹証はありません。

排膿散。漢方の証、方意

  • 病位、虚実
    局所的に陽証、実証
  • 方意
    熱証、局所の実証による発赤、疼痛、硬い腫脹に用いる方剤です。
  • 備考
    化膿はしてもなかなか排膿せず、痛くてどうしようもない時に、迅速に排膿を促す効果があります。
    その名のとおり、もっぱら排膿効果のある薬方です。

排膿湯。漢方の証、方意

  • 病位、虚実
    局所的に陽証、虚証
  • 方意
    湿証、熱証、局所の虚証による化膿、発赤、軟性の腫脹
  • 備考
    排膿散は、できものが硬い時に用いる。その時期よりも先立つ化膿の初期で、どちらかといえば排膿散より虚証のものに用います。全身症状のあるものには効きません。頭痛悪寒などの表証があれば桂麻剤、往来寒熱があれば柴胡剤などと証に応じて選びます。

排膿散及湯。漢方の証、方意

  • 病位、虚実
    太陽病から太陰病にかけて、虚証から実証
  • 十二臓腑配当
    脾、胆
  • 方意
    表の化膿症一般に対する方剤です。
  • 備考
    排膿散及湯は、排膿散合排膿湯です。

伯州散。本朝経験

津蟹

改善例

重症神経衰弱患者に対する伯州散の効果
28歳、男性漢方百話第一集、矢数道明著より引用

患者は当時28歳であった。本病のため、高等学校を途中で退学している。

中略。高校中退後は、富士山麓の親戚に身を寄せて自然と親しみ、あるいは遠く朝鮮の知人を頼って遍歴の旅を続け、魂の安息所を求めたが、心の傷手は癒されるべくもなく、一昨年秋、突然自宅に帰るや一室に引きこもって一歩も出でず、家人とも口を利かず、文字通り、独居不語を続けてきたのであった。

この後、数人の医師の治療を受けているが、症状は一向に改善せず、精神生活は乱れていったようである。矢数先生がこの患者を診ることになりそのときの様子を以下のように述べていらっしゃる。

さて、私は、母親に案内されて階上の病室へと通った。締め切ったむさ苦しい六畳の間は陰惨極まるもので、その一隅に万年床が敷かれている。雑然たる室内の空気、患者は布団の中央に向こうを見て居座ったまま、さらに動こうともしない。頭髪は范々と伸び、垢が染みて黒いまでに汚れた手ぬぐいを頭に巻きつけ、破れた綿入れを丸くなるほどたくさんつけている。一見して廃人に近い姿態である。母親は後ろから患者の名を呼んだが返事がない。

「先生よ」と促すと患者はやや動揺の形で向こう向きのまま少し体を動かしたかと思うと、やがて静かに右手を後ろに差し出した。そして早口にオドオドした調子で「これに書いてある、これに書いてある」というのである。患者の言いたいことを聞き、その後、腹診に移られた。腹診での状態は以下のようであった。

全腹あだかも鉄板を按ずるようで、いくら押してもびくともしない。このような腹状を呈しているもので早期痴呆症と言われたのをその後2例ほど見たことがある。
これは漢方で疳病というものである。肝毒を取りさえすれば良くなると思われる。それを話すと母親が我が意を得たという様子であったが、そう言われますと、この子は子供の時にそれはそれは疳が強くて友達と喧嘩でもして泣き出すと、すぐに引き付けてしまうほどでした。ということだった。

患者の訴えを改めて列挙すると、頭重、頭痛、後頭部を締め付けられるような感じ、目の奥から脳中に鉄の棒を突き刺したような感覚、脳中血管の梗塞感、上衝、盗汗、心悸、不眠、遺精、食思不振、羸痩などがあった。

そこで、このような証に養血安神湯を用いて効を奏したことがあったので投薬した。養血安神湯は、回春に驚悸血虚火動に属するものを治すという。次いで「肝胆の気鬱、狂症、驚懼人を避けて兀坐独語、昼夜寝ねず、猜疑心多し」に該当するものとして柴胡加竜骨牡蠣湯に変えた。

服用後の経過を略述すると、3ヶ月ほど同方を連用して、諸症次第に軽快し、患者は特に私の往診を待って、相語ることを楽しむようになり、私に茶菓子を勧めつつ昔話をするほどになったが、未だ一歩も病室を出ない。本人も家人も夏頃には外出でき得るだろうと、すこぶる期待していたのである。

ところがしばらくして往診してみると、数日前突如として両目激痛を訴え差明はなはだしく、深く戸を閉ざし、節穴はすっかり目張りを催し、その上、座敷中黒幕をめぐらして、電灯に黒幕を覆い、両目にもまた眼鏡の下に覆いをして全く光線を遮断、しかも眼痛を訴え昼夜一睡もしないというのである。

これに対して伯州散を与えた。10日ほどしたが何の通知もないので、恐れながら立ち寄ってみると、患者の病室である窓はきれいに取り払われている。玄関などはいかにも改まった気配が感じられる。

これは、と不吉な予感で案内を請うと、奥から母親が出てきていつになくニコニコ顔である。おかげさまであれが大層良く効きまして、目の方はすっかり良いし、気分がまるで別人のように良くなりました。今も階下に来ていたのです。という意外な吉報である。

その後、伯州散を一服ずつ服用させたところ、ますます良好で、7月初旬には久しぶりにて旧友と数時間会談したがいささかの異常もなく、9月には近所の子供たちに慕われて共に隣村の秋祭りに出かけたという快癒ぶりである。

その後患者は生来の凝り性を発揮して、飛行機玩具の作製に熱中し、驚くべき精巧な飛行機を考案した。遠近これを伝え聞いて、患者が作成した飛行機はそれこそ飛ぶように売れていったので、大いに家計を援助することが出来たという。患者家族の喜びは一方ならず、一族の疾患は上げて私に託されたほどである。

処方薬味

津蟹津蟹 蝮、反鼻反鼻 鹿角鹿角

適応疾患

セツ、癰、蜂ソウ織炎、麦粒腫、中耳炎、ヒョウ疽、乳腺炎、カリエス、痔ろう、下腿潰瘍などの化膿性外科諸疾患、神経性抑うつ反応、創傷、鼻出血、リンパ腺炎、肛門周囲炎、歯肉出血

使用目標

亜急性または慢性の諸種化膿性疾患の方に用います。体力が低下し、倦怠、疲労があり、ロウ孔や潰瘍となり、排膿がとまらず、肉芽の形成が悪くなかなか治らない方に用います。痛みが止まらず、精神不安を伴う方に用いることもあります。

この方は古来より伝承された民間薬であったらしく、吉益東洞が用いて有名になりました。非常に効果があったため、一名、外科倒しと言われ、古方家が好んで兼用した薬です。

漢方の証、方意

  • 病位、虚実
    太陰病よりの少陽病、虚証
  • 方意
    表の湿証による稀薄な浸出液、不良肉芽、難治還延などがあるもの。化膿を限局、消散、排膿を促し、肉芽の新生を促進。虚証による疲労倦怠、無気力
  • 備考
    内服だけではなく、外用としても用いられます。切り傷に撒布して止血、化膿防止の効果があります。

麦門冬湯。金匱要略

麦門冬

改善例

慢性の咳
60歳、男性。漢方処方応用の実際より引用。

大学の教授で講義の最中によく咳払いが出る、その酷い症状に困っているとの事で、良い漢方薬はないかと相談を受けた。相談中にもよく咽喉不利の咳払いをしている。尋ねてみると、喉がいつも渇いているようで、イライラとした感じがすると言う。「それではリン酸コデイン等を飲むと、余計に喉が渇いたようになって具合が悪いでしょう。」と聞くとそうだとおっしゃった。内科から色々お薬はもらって飲んでいるが、その薬を使うと返って良くない事があるとも言われた。

そこで咽喉不利を目標に麦門冬湯の乾燥エキス末を用いてみた。1日3グラムずつ約2ヶ月続けた頃から、講義の際に咳払いをするのが減ったようだとおっしゃった。この例は、慢性で緩和な咳に用いたものであるが、急性の激しい症状は、しばしば劇的効果のあることを経験している。

処方薬味

甘草甘草 人参人参 大棗大棗
粳米粳米 半夏半夏 麦門冬麦門冬

適応疾患

気管支炎、肺炎、咽喉炎、喉頭結核、気管支喘息、百日咳、肺結核、糖尿病、脳出血、高血圧、妊娠咳、嗄声のあるもの、感冒、脳卒中後の上逆感、シェーグレーン症候群

使用目標

逆上せ気味で顏が上気して赤味がかり、急迫性の咳が出て咳嗽する時、咳が切れ難く、顏を赤くして激しく咳き込み、痰が切れると一応咳が収まる。大逆上気、咽喉が乾燥していらいらと違和感を生じ、そのため声が枯れる咽喉不利といった症状の方に用います。

原典に「大逆上気、咽喉不利、逆を止め、気を下す者」とある条文の応用です。

痰は余り無く、あっても切れ難く、激しい空咳が出て、咽喉が詰まって呼吸が出来無くなる位のものです。

妊婦が咳をすると腹に堪えてとても辛く、尿を漏らす事もありますが、この咳に不思議と効くようです。上気というものは気が突き上げて来るもので、高血圧症で逆上せ感が強く、ふらつくという症状に転用しても効く場合があります。

漢方の証、方意

  • 病位、虚実
    少陽病、虚証
  • 十二臓腑配当
    心、小腸
  • 方意
    上焦の燥証による咽喉乾燥感、濃厚な喀痰。気の上焦による激しい乾咳、のぼせ、高血圧症、動脈硬化症、脳出血等ののぼせ
  • 備考
    肺結核の喀血時に、本方に黄連、阿膠、地黄、脈洪大、上逆感のあるものに石膏を加えて用いることがあります。

麦門冬飲子。宣明論

知母

改善例

糖尿病から来る咳嗽
61歳、男性。漢方百話、第1集より。

2年来糖尿病で入退院を繰り返し、インシュリンの注射と厳重な食事療法を行い、尿中の糖は陰性となったが、極度にやせ衰え、栄養失調を来し、足腰が立たず、肝臓は腫大して著明な腹水を来し、浮腫は顔面、手足、陰嚢にまで及び、大小便失禁し、座ったきりの生活を送ること半年に及んでいるという。

食後は必ず心下部が苦しくなり背が張って苦悶する事が一時間余り続き、それに加え、咳嗽喀痰に苦しみ呼吸困難を訴え、週二回ぐらい水銀剤の強力利尿注射を打って辛うじて苦痛をしのぐだけで、余命幾ばくも無いと言われている方であった。

糖尿病から来る咳嗽によく用いられる麦門冬飲子を与えたところ、少し体力がついて、人手を借りなければ体を動かせなかいのが単独で出来るようになったが、依然として腹水浮腫は去らない。熱はなく、以後略

処方薬味

麦門冬麦門冬 甘草甘草 栝楼仁、栝楼根栝楼根
知母知母 茯苓茯苓 五味子
地黄乾地黄 人参人参 竹茹、竹葉竹葉
葛根葛根    

適応疾患

糖尿病、気管支炎、腎炎、結核

使用目標

口渇、多尿、皮膚枯燥、身体がやせて脱力する方に用います。咳嗽が、ことに夜間寝床に入り身体が温まると症状がひどくなる点を目標に、老人や虚弱者に多い慢性気管支炎に用います。

漢方の証、方意

  • 病位、虚実
    少陽病、虚証
  • 方意
    上焦の燥証による口渇、咳。血燥による皮膚枯燥
  • 備考
    麦門冬湯の加減方になります。