八味丸、八味地黄丸、八味帯下方、半夏厚朴湯、半夏瀉心湯、半夏白朮天麻湯

漢方薬

日本漢方の古方派を中心とした漢方薬、処方をご紹介します。一般の方から専門家まで馴染めるよう、改善例、処方薬味、適応疾患、使用目標、漢方の証、方意をご紹介。

八味丸、八味地黄丸。金匱要略

改善例

子宮筋腫手術後の尿失禁に八味丸。56歳、女性。漢方治療百話、第二集より引用

五十六歳の主婦で、初診は昭和37年3月16日であった。ちょうど1年前に患者は子宮筋腫の手術を受け、子宮全部を摘出してしまった。

現在の主訴は、手術後の尿失禁である。1ヶ月前に風邪を引いて初診時は咳嗽や喀痰があり、背が凝っていて、レントゲンで診てもらったところ少し肋膜炎の気味があると言われたよしである。微熱があって、食欲がない。血圧は最高160、最低90であった。栄養は衰え顔面蒼白である。脈状にはそれほど特記すべきものはない。腹は両直腹筋が緊張している。

この患者に初め小柴胡湯と五苓散を合わせた柴苓湯を与えてみた。服薬後4日目と5日目と2日間失禁がなくてすんだので大変喜んだが、再び失禁を繰り返して1ヶ月は過ぎた。この方で風邪のための咳や痰は治り、微熱も取れたので、今度は八味丸料に転方した。手術後の失禁によく八味丸が用いられる。

八味丸料にしてから、失禁はだんだん少なくなり、40日後には大分良くなったと言うことで、薬も飲んだり飲まなかったりしていたが、2ヵ月後になってすっきり良くなった。

自然に良くなることもあろうが、八味丸料がその治癒を促進したことは認めてよいと思われるのである。

処方薬味

地黄地黄 山茱萸山茱萸 山薬山薬
澤瀉澤瀉 茯苓茯苓 牡丹皮牡丹皮
桂皮桂皮 附子附子 蜂蜜蜂蜜

適応疾患

膀胱炎、前立腺肥大、腎炎、腎硬化症、高血圧症、糖尿病、脳出血、陰萎、尿崩症、腰痛、ぎっくり腰、坐骨神経痛、産後または婦人科の手術後にくる尿閉、尿失禁、脚気、帯下、遺尿症、白内障などの眼疾患、難聴、耳鳴、動脈硬化症、腎不全、脳卒中後遺症

使用目標

胃腸が健全で、食欲正常、下痢、嘔吐などの障害がなく、泌尿器、生殖器の機能が衰えている方に用います。疲れやすく、腰や足が冷えたり痛んだり、尿利が減少したりあるいは身体下部に出る浮腫のある方に用います。

足腰がしびれたり、脱力状態になり、尿失禁、遺精、インポテンツなどがあり、咽喉の乾燥感や口渇がある方にも用います。口渇がひどくて盛んに水を飲みたがり、水を多量に飲んで尿量が非常に多い方にも用います。

婦人や老人、虚弱者などが身体や手足がほてって暑苦しく、息苦しい場合にも用います。

漢方の証、方意

  • 病位、虚実。太陰病、虚証
  • 十二臓腑配当。腎
  • 方意。腎の虚証による夜間頻尿、燥証による口渇、兎糞状便秘。水毒による浮腫、手足の冷え。気の上衝による頭痛、のぼせ、心悸亢進、息切れ。血証による出血貧血
  • 備考。八味丸証の方は、腰から下の力が抜け、足元が危なくなり、物につまづきやすくなるのが一つの特徴です。お年寄りの老化防止にもよく用います。

八味帯下方。名家方選

山帰来

処方薬味

当帰当帰 川芎川芎 木通木通
陳皮陳皮 茯苓茯苓 忍冬、金銀花金銀花
山帰来山帰来 大黄大黄  

適応疾患

淋毒性、トリコモナス、諸種の帯下、子宮内膜症、実質炎、頚管炎、膣炎、慢性副鼻腔炎

使用目標

甚だしい炎症や充血はなく亜急性、慢性の経過を取っている帯下に用いると良いとされます。やや貧血気味で、腹部も比較的軟弱な方に用います。

漢方の証、方意

  • 病位、虚実。太陰病、虚実中間からやや虚証
  • 方意。下焦の湿証による稀薄な帯下、分泌液に対する方剤です。
  • 備考。竜胆瀉肝湯、大黄牡丹皮湯は実証の場合によく、清心蓮子飲は虚証によい薬方です。八味帯下方はその中間に当たります。

半夏厚朴湯。金匱要略

厚朴

改善例

特発性気胸。48歳、男性

半夏厚朴湯は、しばしば合方として用いて興味ある効果があるものである。また、神経症状に用いることが多い。

原因不明で自然気胸を起こし、なかなかよくならず来局した。その時、まことに簡単に回復したので患者は漢方薬が聞いたとは思わなかったらしく1回の受信で音信を絶った。

すると、翌年、同様な自然気胸を起こした。しかし前にかかっていた皃大学病院の治療を1ヶ月受けたが、呼吸の苦しさは少しも楽にならないので、思い直してまた来局された。持って来た大学病院のレントゲン写真を見ると、右肺が3分の1位に縮まっていて非常に息苦しいという。身体はやや肥満型で、体格がよく、舌が白く湿り、脉は緩脈である。詳しく聞いていると胸脇苦満もある様子。

これらの症状から、小柴胡湯が良いがレントゲン写真に気のうっ滯が見られること呼吸が苦しいのを気鬱の故として小柴胡湯合半夏厚朴湯を用いた。

患者は1週間後には呼吸の苦しさを感じなくなった。レントゲンで見ていると縮まった肺はどんどん元に戻ったということであった。

この患者に、はじめに投与した処方も同じで非常な速効を見た。尚この患者に同じ処方を数ヶ月断続的ながら、服用させたところ2年半以上たった今日も再発はしていない。

処方薬味

半夏半夏 厚朴厚朴 生姜生姜
蘇葉蘇葉 茯苓茯苓  

適応疾患

神経症、血の道症、気管支喘息、食道痙攣、百日咳、妊娠悪阻、胃炎、胃下垂症、神経性心気症、自律神経疾患症、ヒステリー、抑うつ反応、特発性気胸、気管支炎、胃アトニー症、バセドウ病

使用目標

スタイルの良いやせ型の人に多い証で胃腸が弱く、皮膚や筋肉の緊張が悪い虚弱体質の人で、咽喉の詰まったような塞がったような感じ、咽中炙レン、梅核気のする方に用います。腹部に胃内停水がある方が少なくありません。

気分が憂鬱で不眠、動悸、眩暈、頭重感などの訴えや、精神不安があり、しばしば矛盾した訴えが入ってきます。甚だしい時は動悸や目眩が突然激しく起こり、今にも死んでしまいそうな不安を覚え、大騒ぎする状態の不安発作を起こす方にも用います。

性格は神経質で不安感が強く、内向的で物事にこだわり、精神葛藤により、孤独になってゆく傾向があります。本方はこのような気分の停滞鬱積が、咽喉部や上腹部に痞えとして現われ、水滞が胃部や咽喉部、胸部、体表などに併発したものが目標となります。

漢方の証、方意

  • 病位、虚実。少陽病、虚証
  • 十二臓腑配当。心、腎、大腸
  • 方意。上焦の気滞による呼吸困難。気滞による精神症状として抑うつ気分、感情不安定。脾胃の水毒による悪心、嘔吐、水毒による浮腫
  • 備考。体質的にも性格的にも繊細な方に多く用います。

半夏瀉心湯。金匱要略

半夏

改善例

36歳になる方が最近様子がおかしいという奥様からのご相談で来局した。約1ヶ月前から食欲がなくなり便秘を盛んに訴えた。近所の医師にかかったが良くならず、次第に痩せて、その上、神経過敏になり夜眠らなくなった。

2週間ばかり前からつまらぬ事を気にして、訳の分からない事をいうようになった。「隣家の人が悪口を言う。勤め先で皆から自分の陰口を聞く。道を歩いていると、すれ違った人が自分の悪口をつぶやく。」などと言うようなことであった。そのため勤めも休んでいるという。

患者は、中肉中背、筋肉の緊張も大体は良い。顔色悪く、憂うつな顔つきで、あまり口もきかない。舌に白苔あり、脈は緊張が良く、腹部を見ると心下痞硬が認められ、みぞおちに抵抗があって圧迫すると痛みを訴える。

半夏瀉心湯を用いたところ、10日ほどで食欲がでて元気になり神経症状もなくなった。以前、最も悪かったとき受診した精神科医の診断は精神分裂病であった。

処方薬味

半夏半夏 大棗大棗 黄芩黄芩
人参人参 黄連黄連 甘草甘草
生姜生姜    

適応疾患

急性、慢性胃腸炎、胃アトニー、胃潰瘍、胃下垂症、アフタ性口内炎、不眠症、神経症、むねやけ

使用目標

体質、体力が中くらいの人で食べ物がみぞおちにつかえ、食欲不振、吐き気、嘔吐がある方に用います。腹がなり下痢をして、心下部が冷えて肩が凝る方に用います。みぞおちに違和感があり、胃の存在を感じ、精神不安、精神過敏を感じる方に用います。

舌には白苔を生じ、脈、腹部の緊張は中位で、腹部は心下部が硬く張って圧痛がある心下痞硬、時に心下部振水音を呈します。

半夏瀉心湯証の下痢は、水瀉性下痢から軟便程度まで程度は色々あるが、裏急後重がなく一度下痢すれば一応、さっぱりする方が多いようです。

漢方の証、方意

  • 病位、虚実。少陽病、虚実中間からやや虚証
  • 十二臓腑配当。心、胃
  • 方意。上焦の熱証による精神症状。脾胃の水毒としての食欲不振、悪心、嘔吐、臨床的には吐き気の代わりに口中、食道、胃、腸等の症状であってもよい。
  • 備考。現代では、半夏瀉心湯証の方はすごく少なくなってきています。生活様式の変化により半夏瀉心湯加茯苓証、半夏瀉心湯合六君子湯証の方が多くなっています。小柴胡湯の柴胡の代わりに黄連を入れると半夏瀉心湯になりますが、小柴胡湯は、肝胃の病で胸脇が主。半夏瀉心湯は、心胃の病で心下が主となっています。

半夏白朮天麻湯。脾胃論

白朮、蒼朮

改善例

改善例です

虚弱体質の人の頭痛とふらつき

59歳、男性

職業は洋服の仕立て屋で、年がら年中座っているので胃が大変弱い。その上長年の間、頭痛がしてふらふらして下肢がだるいといって来局した人である。

痩せて顏色が悪く、脈は沈細弱遅。腹部は、腹壁が薄くしかも軟弱で心下部に振水音があり。小腹も脱力していた。胃下垂で胃内庭水があり、水毒による常習頭痛を考えた。

そこで、半夏白朮天麻湯を投与したところ10日後に頭痛とふらつきが無くなった。それ以後も、胃の虚弱症は根治しないので、今日に至るまでちょいちょい漢薬を服用している。

処方は、六君子湯、人参湯、真武湯などが多い。これは生まれつきの体質と、生活条件にも原因があるのだが、漢薬を飲んでいれば殆ど症状もなく風邪も引かないといっている。不思議なことに、それでも頭痛に悩まされることはまったく無いという。

高血圧に対しての半夏白朮天麻湯

60歳、女性

血圧を測ると、最高166、最低86で体に比してやや高いと思った。初め附子理中湯を4週間与えたがなんら変化がなく、その上時々頭痛が起こると訴えた。

そこで、半夏白朮天麻湯に変えたところ、5日後血圧、最高162、最低90。

14日後血圧、最高138、最低80となり、頭痛はしないという。その後も頭痛は起こらず、30日後には最高140、最低76となりまもなく廃薬した。

いろいろな改善例を見ていると、半夏白朮天麻湯で血圧が下がる患者は、腹部は軟弱であっても真武湯証ほど軟弱無力でなく、振水音はないか、あっても余り顕著ではない。また心下部がやや膨満気味でガスがたまっていることもあるが、真武湯証にあるような腹直筋が拘攣していることはない。

処方薬味

半夏半夏 白朮、蒼朮白朮 生姜乾生姜
生姜乾姜 中国39-茯苓茯苓 白朮、蒼朮蒼朮
麦芽麦芽 人参人参 -""神麹"神麹
天麻天麻 黄耆黄耆 陳皮陳皮
澤瀉澤瀉 黄柏黄柏  

適応疾患

頭痛、めまい、慢性胃腸虚弱者の発作性頭痛、食後の嗜眠、手足倦怠を訴える者、低血圧者の頭痛、眩暈あるいは胃腸虚弱者にみる虚証の高血圧に発する諸症、蓄膿症、メニエール症候群、胃アトニー症

使用目標

胃腸が弱くて冷え性、脾虚で、ことに手が冷える方で、始終頭痛、頭重感、眩暈を訴える方に用います。老人や虚弱者の眩暈に用いられることが多いです。時には、発作性の激しい頭痛が起こり、その際、嘔吐を伴うことがあります。

食欲がなく、しばしば吐き気があり、食事の後で手足がだるくなって眠くなる方に用います。そういう方の場合、夜、寝つきが悪いのに、朝、起きるのがだるく、あるいは眠くて起きられないことがあります。天気が悪いと頭痛が起こることがあり、しじゅう頭に何かをかぶったような感じがあります。

脈は沈んで弱く、腹部は軟弱で、多くの場合、心下部に振水音を認め、あるいは胃部にガスが停滞しています。

漢方の証、方意

  • 病位、虚実。太陰病、虚証
  • 十二臓腑配当。心
  • 方意。脾胃の虚証による食欲不振、食後倦怠嗜眠、悪心、嘔吐。脾胃の水毒の動揺による眩暈、頭痛、耳鳴り 、心悸亢進、息切れ。虚証、寒証による疲労倦怠、顏色不良、手足の冷え
  • 備考。白芷を加えると、より効果を示すことがよくあります。