日本漢方の古方派を中心とした漢方薬、処方をご紹介します。一般の方から専門家まで馴染めるよう、改善例、処方薬味、適応疾患、使用目標、漢方の証、方意をご紹介。
延経気方。周方堂蔵方
処方薬味
続断 | 蒲黄 | 枳実 |
栝楼仁 | 滑石 |
適応疾患
月経を延期させる
使用目標
月経を遅らせたい方に用います。
漢方の証、方意
- 病位、虚実。実証
- 備考。臭気の嫌な方には、冷たくして服用しても良いです。月経開始予定日の7日前より6日間連用します。
黄耆建中湯。金匱要略
改善例
笑い出すのが止まらない。70歳、女性。漢方処方応用の実際より引用。
患者はある日、理由もなく大声で笑い出した。その後もしばしば昼夜を問わず発作的に大笑いした。その笑いは半時間で止むこともあり、1時間も続くこともあった。そして自分で止めることができないということであった。
数人の医者にかかりいろいろな薬を飲んだが効果がなかった。診察すると言語がよくしゃべれず四肢が動かず食欲がなく身体が重くて、のぼせ自然に汗が出てひどく腹がひきつれた。
そこで神経症の癇症と診断し、黄耆建中湯を与え、こんたん丸を兼用した。数十日後に諸症状はやや軽快し、処方に続いて灸をしたところ3ヶ月で全治した。
処方薬味
甘草 | 黄耆 | 生姜 |
芍薬 | 膠飴 | 桂皮 |
大棗 |
適応疾患
盗汗の酷いもの、慢性中耳炎、下腿潰瘍、カリエス、虚弱児、大病後の衰弱、その他の化膿性腫物
使用目標
体力が衰えており、寝汗、自然に出る自汗があり、あるいは腹痛が激しい方に用います。疲労や過労、あるいは病後の回復不良により元気がなく疲れやすく、腹中および腹筋の拘攣するもの、身体を動かすと息切れや喘鳴し、腰背や胸部の痛む方、皮膚がひどく乾く方に用います。
漢方の証、方意
- 病位、虚実。太陰病から少陰病にかかる顕著な虚証
- 十二臓腑配当。心、脾
- 方意。虚証による著しい疲労倦怠、各臓腑の虚証による腹痛、食欲不振、尿自利や、虚熱による微熱、咽乾、表の水毒、表の虚証による自然に出る自汗、寝汗、稀薄な分泌液。
- 備考。エキス剤の場合、茶さじ1杯分の三温糖を入れて必ずお湯で内服します。
黄芩湯。傷寒論
処方薬味
甘草 | 黄芩 | 大棗 |
芍薬 |
適応疾患
急性胃腸炎、軽い大腸カタル、急性腸カタル、乳幼児の消化不良
使用目標
お腹がひきつれて下痢し、みぞおちが痞える方に用います。また、熱が出てお腹が痛み、下痢し、しぶりばらで、便通の後すぐまた便意をもよおし、さっぱりしない裏急後重があり、膿血便の下ることがある方にも用います。肛門に熱湯をかけたように熱く感じられる下痢にも効果的です。
漢方の証、方意
- 病位、虚実。少陽病
- 十二臓腑配当。心包、三焦
- 方意。心下の熱証としての心下痞、下痢、裏急後重、腹痛、発熱、局所の発赤、充血、痒み、口臭や、時に表の寒証、表の実証としての頭痛、身疼痛、悪寒、無汗に対する方剤です。血証からくる出血にも用います。
- 備考。黄芩湯証の下痢は泥状便、粘液便であることが多いです。
黄連解毒湯。外台秘要
黄解散は散剤です
改善例
急性胃炎。男性。漢方処方応用の実際より引用
33歳の体格のがっちりした血気さかんな若者で、病状は2日前から激しく腹が痛み、近所の医師に往診してもらい鎮痛剤の注射などをしてもらっている。しかし注射をしても痛みは少しも楽にならない。今日は朝から嘔吐で苦しんでいるということであった。
診察すると脈は小で体格のわりに虚しているように見え、舌には白苔が生じ腹診すると上腹部全体がやや膨満し硬く張っている。痛みはこの部分と左の下腹部、S字状部付近にあるという。上腹部の状態から急性の胃炎と考えられたがS字状部には他覚的所見がなかった。
急性胃炎の原因は、食べすぎか飲みすぎだろうと思ったが、患者のタイプから飲みすぎの方が考えられ、そこで「酒を飲みすぎたからだよ」と言ってみると、これがずばりで「実はちょっと頭に来たことがあって飲んじゃったんですよ。普段はあまり飲まないのですが」と答えた。自覚症状からは少しわからないこともあったが腹証からは黄連解毒湯が考えられた。
そこですぐに黄連解毒湯を飲ませたいと思ったが煎じる時間が待ち遠しいので、黄連解毒湯合四逆散加動物胆の錠剤を7錠その場で飲ませた。容量は大量であったが体格が良いのでこの量で大丈夫だろうと思った。
その後黄連解毒湯を2日分つくり家へ帰ったら直ぐに煎じて飲むようにいい渡した。2日後、患者はニコニコ顏で来院し、先ず礼の言葉をのべ「あれから家へ帰ると1時間ほどたってから急に吐き気がおきて胃液のようなものをだいぶ吐いた、するとその、急に痛みが軽くなりその晩は久しぶりにぐっすりと眠ってしまった。翌日は少し痛いような気がしたが今日はもうなんともない」と報告していた。
処方薬味
黄芩 | 黄連 | 黄柏 |
山梔子 |
適応疾患
諸熱性病、喀血、吐血、衂血、下血、脳充血、ノイローゼ、精神病、血尿、皮膚掻痒症、口腔、食道の痛み、黄疸、酒サ鼻、肝斑
使用目標
体格はがっしりとして体質が頑丈な人、もしくは体格体質が中位の人がのぼせ、上逆感などの上昇傾向がある方に用います。この場合、便秘の傾向がなくさらに、息苦しさ、全身や手足、あるいはいずれかの局所がほてって暑苦しいもの、あるいは黄疸などがある方がいます。
黄連解毒湯はいくつかの方向性を持っています。
痛み
腹痛の痛みは主に胃に由来し、病理的には胃炎、胃潰瘍など。患者が虚証で、腹部軟弱無力で胃内停水があるもの、腹壁が薄くて板のように硬いものは人参湯。胸脇苦満、腹直筋の緊張があれば柴胡桂枝湯。
出血
出血の初期に黄連解毒湯や瀉心湯を用います。出血が長引き、貧血傾向がある時は黄連解毒湯と四物湯の合方である温清飲を用います。
精神病
黄連解毒湯は胸脇苦満がなく、著明な胃内停水のないものに用います。瀉心湯よりは黄連解毒湯の方が使いやすいようです。胸脇苦満がある場合は柴胡加竜骨牡蠣湯が頻用されます。
漢方の証、方意
- 病位、虚実。少陽病
- 十二臓腑配当。胆、三焦
- 方意。上焦の熱証による顔面紅潮、心下痞、発熱、発赤、充血や感情不安定や不眠などの精神症状に用いる方剤です。しばしば血虚による出血傾向にも用います。
黄土湯。金匱要略
改善例
両足の痛み、婦人。漢方処方応用の実際より引用
患者は両足が痛み、膝のまわりの筋肉が紫色になっていた。婦人が言うには臍下の動悸がときどき胸の方につきあげてきてそれが激しいときは意識がおかしくなる。そのとき、この紫色のところは色が消えるが動悸が止むとまたもとの通りになる。との訴えに黄土湯を投与した。すると血が下がって病気は全治した。
処方薬味
黄芩 | 黄土 | 地黄 |
白朮 | 附子 | 阿膠 |
甘草 |
適応疾患
吐血、腸出血、痔出血、女性性器出血、大腸癌、白血病、自律神経失調症、ノイローゼ、健忘症、癲癇、運動失調症、錐体外路系疾患、高血圧症に伴う精神神経症状、脳水腫、不眠症、潰瘍性大腸炎
使用目標
臍の周りに動悸があり、時々心胸をつく場合もあります。こういうときは、冷痛手足不仁の知覚麻痺あるいは、小便不利、吐血、下痢、小便膿血がある場合がありこの方を用いるとよいです。下血が鮮血で手足が暑苦しく、胸が苦しく不眠のある方にも効果を示します。
漢方の証、方意
- 病位、虚実。虚証、太陰病から少陰病
- 十二臓腑配当。心、脾