食養生の食材の応用を病へ1

漢方食養生

2020年11月11日;(写真は博多の氏神、総鎮守の櫛田神社、境内です)

八綱分類

東洋医学の理論の中に「五気(ゴキ)」と言う概念があります。
五気は食材や漢方薬が身体を温めるか冷やすかの目安です。熱、温、平、涼、寒の五段階に分けます。

「八綱分類(ハッコウブンルイ)」と言う体質や病態を見分ける理論が有ります。
・五気である「寒熱」。
・水分の状態である「燥湿」。
・身体を守り免疫力を上げる治癒力の正気(セイキ)の虚と、病の勢いである病邪の実の概念である「虚実」。
この3つの指標を組み合わし八綱分類が出来あがります。

(「燥湿」ではなく「表裏」の概念を組み合す八綱分類も有ります。)

寒熱、燥湿、虚実を組合せ、「燥、寒、虚証」「燥、熱、実証」など8種類の体質、病態に分けられます。

寒熱、燥湿、虚実は、病性と言われ病の性質を表します。
収散、升降の概念は、病向と言われ病の向きを表します。

病向

病向の例を挙げると
高血圧は升の病向ですので、降の食養生、漢方薬が合います。
便秘は升、収の病向ですので、逆の降、散の食養生、漢方薬が合い、
下痢は降、散ですので、升、収の食養生、治療が適します。

病性の例を挙げると
高血圧や肝炎などに使用される大柴胡湯証は燥、熱、実ですので、反対の湿、寒、瀉の食養生、漢方薬が合います。
婦人科や不妊症に使用される当帰芍薬散証は湿、寒、虚ですので、反対の燥、熱、補の食養生、漢方薬が合います。

寒熱と燥湿

病向の中で最も大事なのは、寒熱(カンネツ)の五気(ゴキ)と燥湿(ソウシツ)です。

熱温、燥の食材は辛い物、発酵した物が多いです。
ニンニク、味噌、生姜、ニラ、羊肉(寒い北国のモンゴルや北海道ではマトンの食文化が有ります)、カラシ、カレー

寒涼、潤の食材は苦みやアクのある穀物、果物、海産物などが多いです。
玄米、小麦(精白したウドン、食パンでは五気は平になり常食できます)、柿、ハチミツ、牛乳、バナナ、梨、アスパラ、もやし、海藻、ハトムギ

病性の例で考えれば
大柴胡湯(ダイサイコトウ)証は、熱、燥、実ですので、寒涼、潤の食養生。
実証に対する瀉法を考慮すると、玄米、精白していない小麦、柿、アスパラ、海藻、ハトムギなどが合います。

当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)証は、寒、湿、虚ですので、熱、燥の食養生。
虚証に対する補法を考慮すると、ニンニク、味噌、生姜、ニラ、羊肉、カラシ、辛過ぎないカレー(辛過ぎると瀉法になります)などが合います。

五志の憂

東洋医学での「五志の憂」とは「精神神経の状態」を現しています。
自律神経失調症、躁うつ病、パニック障害、過呼吸、統合失調症、発達障害、痴ほう症など多くの病態が該当します。
五志とは「怒、喜、憂、悲、恐」の5つの感情です。

感情が昂っている時

この感情が昂っている時は、升の状態になりますので散や降の食材が適応します。

  1. 蒸散作用のある「葉類」
    紫蘇、セリ(苦)、ホウレン草(苦)、日本茶(苦)など
  2. 降下の働きがある「種子類」
    胡麻、栗、玄米、豆腐、ハトムギ、小麦など
  3. 降下の働きがある「実物」
    ナス(苦)、トマト(ナス科)、梅干し、梨、柿、大棗など
    (大棗は赤色で「心の臓」に配当され上記「種子類」の小麦と共に、急迫症状を緩和する甘麦大棗湯の主薬となります。)
  4. 発散作用がある芳香のある「花」
    菊花(香りが強く散、また苦く降の働きもある)
  5. その他
    人参、ハチミツ、昆布

落ち込んでいる時

逆に落ち込んでいる時は、降の状態になりますので升の食材が適応します。

  1. 上昇の気がある「根菜類」
    ニンニク(辛)、ニラ(辛)、ネギ(辛)、大根(辛)、生姜(辛)、玉ねぎ(辛)、ヤマイモ
  2. 発泄作用のある「新芽類」
    アスパラカス
  3. その他
    胡桃、牛肉、ウナギ、カレー(辛)

糖尿病

糖尿病は初期に口渇が激しく、東洋医学的には実証を呈します。
白虎加人参湯や乾地黄が適応(白虎加人参湯の薬味の石膏や乾地黄は、血糖値の「升」に対し「降」の働き)することが多い疾患です。
初期を過ぎると口渇が減少し、疲れやすく糖質代謝の不完全な虚状を呈するようになります。この状態には「補」の食養生が適応します。

血糖値が上がりやすい病態は「升」の病向になり「降」の食養生が適応します。

糖尿病でHbA1C(ヘモグロビンエーワンシー)が上昇すると、併発する余病として血栓症が問題となります。これは「収」の病向になり「散」の食養生が適応します。

糖尿病では一般的に、「補、降、散」の食養生が適すると考えられます。
養生食としては、胡麻、玄米、人参、ハチミツ、ユリ根、枸杞、タラ根、ホップ、プアール茶、クマザサ等になります。

薬味として初期には緑豆、緑茶。中期には山薬、薏苡仁。末期には黄耆、枸杞。また糖尿病に欠かせない生薬として朝鮮人参があります。
朝鮮人参には

  1. インシュリンの節約。
  2. インターフェロン誘起。抗がん剤の副作用減。
  3. ヘルパーT細胞、リンパ球増加。

などが報告されています。

高血圧

高血圧は血圧が上昇しますので、病性は「升」の状態になります。
日常食では「升」の食材を減らし、「降」の食材を増やします。

高血圧の種類や年齢、東洋医学の証の違いなどで合う合わないが有ります。一般的な「升、降」の食材、民間薬を記します。参考にしていただければ幸いです。

高血圧に良い「降」の日常食は

酢、豆乳、エンドウ豆、胡麻、玄米、小麦、紫蘇、スイカ、ハトムギ、セリ、茄子、トマト、蕎麦、海藻、緑茶、梨、ホウレン草、緑茶、柿など

民間薬では
枸杞葉、杜仲葉、柿葉、麦茶などです。

高血圧に合わない「升」の日常食は

ニンニク、コーヒー、ニラ、ネギ、牛肉、ウナギ、羊肉、大根、生姜、玉ねぎ、ヤマイモ、胡桃、パイナップル、蒲陶、塩など

民間薬では
地黄、高麗人参、シナモン桂皮、冬虫夏草などです。