水腫
東洋医学では、むくみは水腫と言い水毒との関連が強いと考えています。
東洋医学で捉えたむくみ
むくみには実腫と虚腫があります。実腫は、指で押しても直ぐに元に戻るタイプです。虚腫は、押した後が直ぐに元に戻らないタイプです。また実腫のむくみは張りがあり、虚腫はフニャフニャで柔らかいです。
実腫は治り易く、虚腫は治療に時間が掛かることがあります。
むくみの病因別の漢方薬
腎臓病、ネフローゼ症候群によるむくみの場合
越婢加朮湯
実腫のむくみに対する漢方薬です。
越婢湯証で尿の出が悪い小便不利に使用します。口渇があり、水を多く飲むが尿の出が悪い人に使用します。悪寒がする人もいます。白朮の働きは水分の停滞を去り尿利を増します。急性腎炎に使用されることが多い処方です。
越婢加苓朮湯は、越婢加朮湯に茯苓を加えた薬方です。動悸や心不全傾向の息切れ、胃内停水、腹水等にも使用されます。
分消湯
急性、亜急性のむくみや腎炎に使用される薬方です。実証の漢方薬で尿利減少し尿は濃縮され濃いです。
弾力があって圧迫しても直ぐに元に戻る実腫に使用されます。肝硬変による腹水にも応用されます。
五苓散
腎炎、むくみで最も繁用される有名な薬方です。病名で使われる向きもあります。本来は、口渇があり尿利が減少していることが五苓散を使用する条件です。
傷寒論に記載の水逆が五苓散を使うむくみの目標となります。水逆は「口渇があり、水分を欲し、水を飲むと嘔吐する。吐き気は少ないのに嘔吐は激しく、飲んだ分以上の水を噴水のように吐く」です。
猪苓湯
血尿と言えば猪苓湯という位、血尿に効果の高い処方です。猪苓、茯苓、阿膠、滑石、沢瀉の五味で構成されています。阿膠、滑石は消炎作用と尿路を滑らかにし排尿痛を除く働きがあります。
猪苓湯証のむくみも圧迫するとすぐに元に戻る実腫になります。
柴苓湯
小柴胡湯と五苓散の合方です。下痢をしたり、熱が有ったり、下腹が張ったりする場合もあります。尿が減少し、喉が渇くものに良いです。
免疫を調節する働きがあるため、最近は自己免疫疾患に頻繁に用いられます。腎炎には連銭草4グラム加えると効果が増します。
小青竜湯
本方は、一般に鼻炎や喘息の漢方薬として知られています。腎炎にも応用され上半身のむくみによく用いられます。胃内停水があり、押しても直ぐに戻る実腫です。また心臓性浮腫のように下半身や末端部に生じるのではなく、顏や上半身に多くみられるむくみです。
防已黄耆湯
体質は虚証で水肥りタイプの肥満症の人が多いです。女性の方に多く、筋肉が軟らかく汗かきで尿利減少している腎炎、ネフローゼに用います。
半夏厚朴湯
自律神経失調症やうつ病に使用されることで有名な処方です。
咽喉に物が詰まったような、塞がったような感じのヒステリー球を訴える方の腎炎に使用します。東洋医学の古典、金匱要略に「身体四肢、皆腫れる」と全身がむくむ事が記載されています。
牛車腎気丸
八味地黄丸より、尿利減少し下半身のむくみが顕著な場合に用いられます。八味地黄丸に牛膝、車前子を加えて用います。
当帰芍薬散
女性のむくみと腎炎、妊娠中毒症に用います。冷え症で生理不順や生理痛がある人。尿利が減少します。虚腫で押しても直ぐには元に戻りません。
苓甘姜味辛夏仁湯
小青竜湯の裏処方と言われる薬方です。冷え症で貧血がちな人、むくみを伴います。この処方は甘草以外はすべて利水剤で構成されています。
心臓病、心不全、心肥大傾向によるむくみの場合
増損木防已湯
呼吸が促迫し、少し動いても息切れをする人に用います。顏色は貧血色で薄黒いです。尿利は減少し夜に休むと尿意が起きる人。腎性浮腫と異なり身体の下部に多い人です。
木防已湯に蘇子、桑白皮、生姜を加え慢性化した状態に使えるようにしたのが増損木防已湯です。
茯苓甘草湯
汗が出て尿利が減少し、口渇の無い人に用います。手足が冷え動悸がする人です。
龍骨、牡蛎を加え神経症的症状や、器質的疾患にも効果を増します。
五苓散との大きな違いは、口渇の有る無しになります。
老人性の下肢浮腫の場合
六味丸
八味地黄丸より桂枝と附子を抜いた処方です。八味丸は陰証ですが、六味丸は陽証となります。
八味地黄丸
疲れやすく、尿利が減少し、足腰が痺れたり、下半身が脱力状態になったり、足元が危なくしている人の腎炎に使用します。
口渇があり、手足に虚熱の煩熱があります。尿はタラタラといつまでも余瀝が流れている人。むくみは虚腫で押した後が、急には戻りません。
九味檳榔湯
下肢がむくみ、息切れする人に用います。下半身に力が入りません。呉茱萸と茯苓を加味すると効果が増します。
その他、苓甘姜味辛夏仁湯、牛車腎気丸などが適応処方となります。
生理前や女性特有のむくみの場合
桃核承気湯
体力的に充実して体質的に強い人に用います。便秘がちで瘀血症状があり、生理前にイライラする精神症状を呈する人もいます。身体には身熱があり火照りがあります。
人参当芍散
虚証で貧血がち、生理痛がある人が多いです。当帰芍薬散の加減方です。当帰芍薬散の川芎を半量とし、桂枝、人参、甘草を加味した薬方です。その他、当帰芍薬散などが適応処方となります。
むくみ。その他の漢方治療
東洋医学では、頑固なむくみを水毒と捉え胃内停水と言う独特の概念で治療することがあります。
妊娠経験者で高血圧を伴う女性のむくみの場合
妊娠経験者が40歳を過ぎ、むくみにて肥り、血圧が上昇することがあります。
最低血圧が高いのが特徴となります。血虚の漢方薬にて、元々の原因の出産前後の妊娠腎を治療していくと改善し再発しません。
アルコールの飲みすぎによるむくみの場合
アルコールを飲みすぎると、アルコール代謝のために肝臓が働かされます。肝臓は、そのため余裕が無くなり、脳下垂体後葉からの抗利尿ホルモンを代謝できなくなります。抗利尿ホルモンが血液中に増えると、尿量が減少しむくみます。肝臓の解毒代謝を活発化させる漢方薬で解消できます。