体力の低下した非結核性抗酸菌症、肺Mac症へのアプローチ

非結核性抗酸菌症

体力をつける漢方薬。漢方研究会で発表

漢方太陽堂が発表報告した論文。
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非結核性抗酸菌症、肺MAC症

2020年11月。伝統漢方研究会第17回全国大会。日本、伝漢研合同論文発表会

木下文華。福岡県、太陽堂漢薬局
福岡県福岡市、日本

はじめに

2013年11月、林泰太郎先生が「非結核性抗酸菌症、肺Mac症について。伝統漢方研究会第10回全国大会にて」を発表されました。
それから、太陽堂漢薬局では非結核性抗酸菌症、肺Mac症のご相談を受けるようになってきました。少しずつ治療法を確立しながら現在に至っています。

非結核性抗酸菌症、肺Mac症では、菌による肺の炎症が続くと体力が低下し、体力低下による微熱を呈します。

また気管支拡張症の方も多く、菌やウィルスに感染しやすいと考えられます。
そのような方はまず、体力を上げる事、菌やウィルスに感染し難い身体を作る事を考えることが大切だと感じた症例がありましたので、ここに報告します。

症例

女性41歳、身長162センチ、体重45キログラム
主訴。非結核性抗酸菌症
既往症。特記すべきことなし
現病歴。両肺とも白い影があります。右肺のほうが酷いです。
体温の状態。朝方36度前後。夕方36.6度。
咳の状態。以前は寝る前に咳が出ていましたが、現在は朝方が酷いです。痰は切れやすく黄色。多量の痰が出る時もあります。
治療経過、糸練功の概要。初診。
非結核性抗酸菌症、右肺。小腸陰証、0.1合6プラス。風参加露蜂房末
非結核性抗酸菌症、右肺。胃陽証、0.5合6プラス。桔梗湯合竹葉石膏湯

治療開始1ヶ月後
非結核性抗酸菌症、右肺。小腸陰証、0.1合6プラス。風参加露蜂房末
体力低下脾虚、発熱中枢大椎裏の反応。脾陰証、0.5合6プラス。人参養栄湯
体温は常に高い状態。倦怠感もあります。体力をつける人参養栄湯をメインに、露蜂房末、桔梗、紫菀等、非結核性抗酸菌症に用いる薬味を加味しました。

治療開始2ヶ月後
非結核性抗酸菌症、右肺。小腸陰証、4.7合3プラス。風参加露蜂房末
体力低下脾虚、発熱中枢大椎裏の反応。脾陰証、2.6合4プラス。当帰六黄湯
3ヶ月に一度、定期的に病院を受診されています。レントゲン検査では変化なし。「咳は少し酷くなっている感じがします」との事。糸練功の結果にて人参養栄湯を当帰六黄湯へ切り替えました。

治療開始5ヶ月後
非結核性抗酸菌症、右肺。小腸陰証、6.6合1プラス。風参加露蜂房末
体力低下脾虚、発熱中枢大椎裏の反応。脾陰証、4.8合2プラス。当帰六黄湯
微熱の出る時間が遅くなってきました。
更に1ヶ月後、微熱が少し下がるようになりました。
以前、病院から気管支拡張症と診断された事があったと伺い、気管支拡張症に用いる桔梗湯を合方しました。

治療開始7ヶ月後
非結核性抗酸菌症、右肺。小腸陰証、7.2合プラス2。風参加露蜂房末
体力低下脾虚、発熱中枢大椎裏の反応。胆陰証、経絡病4.8合、臓腑病6.4合プラス3。柴胡桂枝湯、白人参使用
右胸がすごく苦しくなり病院を受診したところ、胸膜炎の疑いあり。レントゲンでは異常なし。抗生剤を服用している間、咳が治まっていたそうです。
脾虚の証も体力がついてきたためか、柴胡桂枝湯証へ移っていました。選薬した柴胡桂枝湯の人参に体質改善力のある白人参を用いました。

治療開始9ヶ月後
非結核性抗酸菌症、右肺。小腸陰証、8.5合プラス1。風参加露蜂房末
体力低下脾虚、発熱中枢大椎裏の反応。胆陰証、経絡病6.5合、臓腑病7.6合プラス2。柴胡桂枝湯、白人参使用
夕方の微熱は落ち着いてきました。痰の量も随分減っています。

治療開始17ヶ月後
非結核性抗酸菌症、右肺。小腸陰証、9.9合プラスマイナス1。風参加露蜂房末
その後、微熱は出る事なく、咳、痰も落ち着いていらっしゃいました。
体力低下脾虚の漢方薬を休薬し、非結核性抗酸菌症、肺Mac症に対して抗菌の働きと、非結核性抗酸菌症による咳、痰症状を抑える働きに絞って漢方薬を組みました。

治療開始19ヶ月後
非結核性抗酸菌症、右肺。小腸陰証、経絡病5.3合、臓腑病9.9合プラスマイナス1。風参加露蜂房末
咳、痰。大腸陽証、2.1合3プラス。麦門冬湯合桔梗湯
咳、痰が沢山出て来ました。痰の色は黄色です。
気管支拡張症があると、菌が入りやすく、肺炎や風邪を引いた時の咳が出やすくなります。
体力低下脾虚の柴胡桂枝湯を再開し、風邪引き体質改善と気管支拡張症への桔梗湯。抗菌の露蜂房末などを組み合わせました。

治療開始24ヶ月後
非結核性抗酸菌症、右肺。小腸陰証、経絡病9.1合、臓腑病10合プラスマイナス。風参加露蜂房末
咳、痰。大腸陽証、7.2合プラス2。麦門冬湯合桔梗湯
咳、痰は落ち着きました。痰にも色はついていません。

今後、菌の消失を目指して治療を進めていきます。

考察

体力をつける漢方薬は、補中益気湯、清暑益気湯、当帰六黄湯、人参養栄湯などの太陰病の虚熱改善の薬方と、小児の体質改善に用いる漢方薬、風邪引き体質の改善にもなります。大柴胡湯、小柴胡湯、柴胡桂枝湯、柴胡桂枝乾姜湯、小建中湯など少陽病から太陰病に用いる漢方薬があります。

問診の段階で、患者さんの虚実を考え病位を想定し、糸練功にて証を絞り込みます。
症例に挙げた患者さんは、初診の際、微熱の状態が長く続いていらっしゃいました。

人参養栄湯証の治療から始まり、体力がついてくるにつれて、当帰六黄湯証から柴胡桂枝湯証と病位が上がり証が移り変わったのではないでしょうか。

また非結核性抗酸菌症、肺Mac症の患者さんは、気管支拡張症の方が多く、上気道から菌やウィルスに感染しやすいと思われます。

頻繁に風邪を引く方、肺炎を繰り返す方は、体力をつける事を考えることが大切だと感じた症例です。

今回使用した漢方薬、保険食品

桔梗湯。桔梗、甘草
竹葉石膏湯。麦門冬、粳米、半夏、甘草、白人参、竹葉、石膏
麦門冬湯。麦門冬、粳米、半夏、大棗、甘草、白人参
人参養栄湯。熟地黄、当帰、白朮、茯苓、ベトナム桂皮、芍薬、遠志、黄耆、人参、甘草、五味子
当帰六黄湯。当帰、乾地黄、熟地黄、黄柏、黄連、黄芩、黄耆
柴胡桂枝湯。柴胡、半夏、広南桂皮、白芍薬、黄芩、大棗、甘草、白人参、生姜
露蜂房末
香附子
薏苡仁
桔梗
前胡
烏薬
紫苑
山薬
風参。植物末、濃縮末加工食品、原材料は澱粉、オタネニンジン、山芋、甘草。販売者、株式会社サンライズ

参考文献

木下順一朗著。古方これだけ覚えれば絶対だ。伝統漢方研究会、2008