燈心草。漢方研究会で発表
太陽堂漢薬局が発表報告した論文。論文、改善例のご案内はこちら
統合失調症
2020年11月。伝統漢方研究会第17回全国大会。日本、伝漢研合同論文発表会
光井京子。福岡県、太陽堂漢薬局
はじめに
心臓神経症や精神疾患に使用される事の多い、半夏厚朴湯合桂枝甘草竜骨牡蛎湯、桂枝甘草竜骨牡蛎湯、分心気飲に燈心草を加え、効果を得た症例が有りました。そこで燈心草について調べ、今後の治療に効果的か考察したく今回のテーマとしました。
半夏厚朴湯合桂枝甘草竜骨牡蛎湯
半夏、茯苓、乾生姜、厚朴、蘇葉、桂皮、甘草、竜骨、牡蠣
- 桂枝甘草。気の上昇に対応。気
- 竜骨牡蛎。ミネラルを動かし水毒に対応。水
- 半夏茯苓。胃内停水を除く。水
- 厚朴。気滞を取る。気
- 蘇葉。気滞を発散し気鬱を除く。気
分心気飲
桂枝、芍薬、木通、半夏、甘草、大棗、乾生姜、燈心草、桑白皮、青皮、陳皮、大腹皮、羗活、茯苓、蘇葉
- 桂枝甘草。気の上昇に対応。気
- 半夏茯苓。胃内停水を除く。水
- 青皮陳皮。気滞を除き行気する。気
- 木通。管のあるツル科は気と水を通す。気、水
- 羗活大腹皮。行気、利水作用。気、水
- 蘇葉。気滞を発散し気鬱を除く。気
燈心草
イグサ科の多年草植物、畳表の原料。日本では主に、熊本県で栽培されている。12月頃に植え6月下旬から7月に収穫。十分に蒸し、乾燥した中の芯を取り出して、灯をともすものに用いるものを熟草と言い、蒸さずに生の物を乾燥し皮を剥いだものを生草と言う。漢方薬には生草を使用する。
李時珍は「燈心は研り難いものだが、粳米紛漿につけておき、晒し乾かして研末にし、水に入れて澄ませると燈心だけが浮き上がる。それを晒して乾かして用いるのだ」と説明している。原色和漢薬図鑑参考。
古代のイグサについて多くの資料はないが、蓆、むしろが縄文時代の遺跡から発見されていて、この時代から藁やイグサを使用していたようだ。
正倉院には、聖武天皇と皇后が使用した畳、龍鬢袷莚が残されていて、古くから日本人には馴染みがある事が分かる。
薬効は、心を清める、火を降ろす、利尿し淋を通す。淋病、水腫、小便不利、心煩の不眠、小児の夜泣き、扁桃腺炎、創傷を治すと記載。中薬大辞典参考。
気は薄く、よって身体に深く入る。微寒。味は甘い。心に属し、君火である。
症例
1981年生男性。
5年前より病院で治療中。病院では、はじめは鬱病と言われたが後に統合失調症と診断されている。
頭痛が常にあり、時に締め付けられる痛みがある。実家で仕事の手伝いをしていたが、働ける状態ではなく相談に来られた。初見では、無表情で気力が無く、質問に対して返事を返すのがやっとであった。病院薬は、オランザピン、リフレックス、フルニトラゼパム。
- 五志の憂。心陽証、0.8合3プラス。半夏厚朴湯合桂枝甘草竜骨牡蛎湯
- 頭痛。膀胱陽証、0.2合5プラス。香芎湯加甘草
実際の投薬は、半夏厚朴湯合桂枝甘草竜骨牡蛎湯加甘草香附子川芎。補助剤に五志源6カプセル。
服用2ヶ月後。頭痛が減ってきた。
服用5ヶ月後。病院薬を減薬、オランザピン休止、リフレックス減薬。
服用11か月後。
- 五志の憂。心陽証、9.4合プラス2。半夏厚朴湯合桂枝甘草竜骨牡蛎湯
- 頭痛。膀胱陽証、9.9合プラス2。香芎湯加甘草
気持ち悪さが少しあるが、頭痛が殆どなくなり、仕事も前の様に一人で行けるようになった。笑顔が見られるようになり、目を見て会話が出来るようになった。
服用13ヶ月後。漢方薬減薬、全体量を5分の4へ
- 五志の憂。心陽証、10合プラスマイナス。半夏厚朴湯合桂枝甘草竜骨牡蛎湯
- 頭痛。膀胱陽証、10合プラスマイナス1。香芎湯加甘草
服用15か月後。病院薬減薬
服用16ヶ月後。全体量を10分の7へ減薬し生酸棗仁、燈心草を追加
服用17ヶ月後。病院薬を減薬
処方変更なしで1年半服用し、非常に良い状態が続いている。更に酸棗仁、燈心草を追加してから、現在は最後の締めくくりの状態にある。
服用18ヶ月後。完全ではないが頭痛は無くなり、病院薬を更に減薬。
考察
茯苓は他の生薬と組み合わせる事で効力を発揮している。例えば白朮と組み合わせると胃内停水を除く、杏仁と合わせると上昇の水を捌く、人参湯と合わせると白朮茯苓の方意が出来、水を呼ぶ人参の潤の作用を弱め、広範囲に人参湯を使えるようになる。
燈心草、茯苓、竹葉巻心なども気が薄く、味が薄く。心に配当され君火です。茯苓と同じように燈心草も何かと組み合わせる事で、より効果的に働くのではないかと思う。
上記にも記載したが、燈心草は古代より日本人が使用していたものであり、日本の文化に欠かせない物である。華道、茶道、柔道と日本の心は、イグサ、燈心草と共に発展している。
私たちは、燈心草の香りを嗅ぐと心が落ち着くと言うDNAが組み込まれているのではないかと思う。また燈心草は気、水で構成されている漢方薬とは、非常に相性が良いと思われる。
今後更に生薬を学び、より効果的な組み合わせを考えていきたい。
参考文献
- 木下順一朗著。古方これだけ覚えれば絶対だ
- 小学館。中薬大辞典
- 春陽堂。本草綱目、第五冊草部
- 難波恒雄著。原色和漢薬図鑑