五色、五行説で考える甘麦大棗湯の働き

漢方理論の記事

五行説。漢方研究会で発表

漢方太陽堂が発表報告した論文。
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五色、五行説

2016年11月、伝統漢方研究会第13回全国大会。日本、長良川温泉、十八楼

木下文華。福岡県、太陽堂漢薬局
福岡県

諸言

東洋医学で言う心の五味は苦。五色は赤。
五味で考えるか、五色で考えるか、どの物差しで考えるかによって治療法、攻め方が異なって来る。
心の正常化を五色の物差しで考え、五行説の相生関係、肝と心の関係に当てはめた時、心に属する大棗の独特の働きが見えて来る。

五行説の肝と心の関係

五行説。肝、心、脾、肺、腎の相生関係、親子関係では、親、肝が貧しいと子、心も貧しくなる。肝が高ぶると心も高ぶり、肝が虚すると心も虚する。
相生の反対が相和になる。相和の関係を考えると、心の高ぶりを抑える事で肝の高ぶりも抑えられるのではないだろうか。

少し脱線するが、相剋関係、夫婦関係では、夫、肝が強いと婦、脾が弱まる。
難経七十五難によると生体の正常化で自然治癒力が働くと、婦、脾の子肺が、夫、肝を抑制し、結果として夫、肝も婦、脾も正常化するのだが、夫、肝があまりにも実になると、婦、脾が剋され過ぎて弱る、相乗。婦、脾があまりにも弱るとその子の肺が肝に勝てず侮られ弱る。この状態に抑肝扶脾散が適応となる。

五味と五色の捉え方

例えば、緑の野菜は清熱、解毒の働きがある。清熱、解毒は肝に属する。肝を五味で考えると、五味は酸。緑の野菜は酸っぱいか、酸っぱいは果物になる。
果物の働きは清熱、解毒だろうか。酸は収の働き。潤し渋り固定する。果物は潤して内臓熱を収め、脱水に用いたり下痢を止めたりする。これは清熱、解毒の働きではない。
五色で考えると、緑の野菜は肝に属する緑の色。五色の物差しで見ると、緑の野菜による清熱、解毒の働きが理解出来る。
心の五味は苦。苦は縮の働き。乾燥させて降ろす。湿熱を取り去る代表的な薬方に黄蓮解毒湯がある。
心の五色は赤。心に属する大棗は赤色、朱色をしている。大棗は緩めて急迫症状を落ち着かせる。
五色で考え、五行説の心の高ぶりを抑える事で肝の高ぶりも抑えられる。に当てはめると、心の赤色をしている大棗が緩めて高ぶりを抑える働きが見えて来る。

五臓 五味 五味の働き 五色 五色の働き
潤。脱水、下痢止 青、現代の緑色 清熱、解毒
縮。乾燥、降ろす 赤、朱 緩める、大棗の場合
心を緩める甘麦大棗湯と肝、心の関係。

甘麦大棗湯は、ヒステリー、夜泣症、激しい興奮、癲癇発作などの急迫的痙攣、アトピー性皮膚炎等の激しい痒み、理由なく悲しみ泣く、笑う等の症状に用いる。また、向精神薬の離脱時に用いると良い。
五行説の相生関係では、肝が高ぶると心も高ぶる。大棗で心を緩めて心の高ぶりを抑えると、肝の高ぶりも抑えられる。経験した例では、必ずしもではないが、肝、胆系の五志に用いる薬方、抑肝散、釣藤散、四逆散他に甘麦大棗湯の方意を組み込むと、肝、胆経の症状、イライラ等の緩和に役立てる事が出来ると思われる。

考察

解剖学的に見て、五志の憂を改善する薬方の殆どは自律神経系の中枢である視床下部に働くと思われる。
神経伝達物質のドパミンに対しては、厚朴、芍薬、竜骨、竜歯末、牡蠣、真珠皮末、芒硝Naが働き、ドパミンが関与しているパーキンソン病、癲癇、統合失調症等に用いる。2013年セルリアンタワーホテル東急インにて発表した統合失調症と竜骨牡蠣の関係参照。

甘麦大棗湯について、

  1. ドパミンに作用する向精神薬の離脱時に用いる事
  2. 癲癇の大発作の発作止めに用いる事

を考えた時、果たして視床下部のみに作用しているのだろうかと言う疑問が沸いて来る。
あくまで推測であるが、心の狂った様に笑う五志を考えても、甘麦大棗湯は情緒や本能的な欲、喜怒哀楽を司る大脳辺緑系にも働いているのではないだろうか。

参考文献

木下順一朗著。古方これだけ覚えれば絶対だ、伝統漢方研究会、2008