2023年11月14日。写真は福岡市大濠公園。黒田長政が造った舞鶴城の外堀です。
睡眠と東洋医学
私達が患者さんに漢方の問診を行う時に、睡眠の状態を必ずお聞きします。
私達は睡眠の時に心と身体を回復させています。体調が悪いお病気の方にとって、よく眠れるかどうかは治すため、非常に大切な養生の1つです。
心の病をお持ちの方、不眠症や自律神経失調の症状のある方には起床時間と就寝時間を患者さんにお聞きします。
メラトニンと睡眠
起床時、最初に視覚から入る光量で松果体からのメラトニン分泌が減少します。メラトニンが減少することで覚醒状態となり生体内時計が1日1回調整されます。海外旅行に行った時、時差ボケで眠かったり食欲が減少したり倦怠感を味わうのはこの生体内時計が狂ったためです。
朝方の起床が望ましいです。しかし夜勤などで生活パターンが異なる方もいらっしゃいます。その場合、出来るだけ起床時間をある程度の時間範囲内で決めると生体内時計を一定に調整することが出来ます。
生体内時計
生体内時計が狂った状態では不眠症や神経症の改善は望めません。1日1回の朝方のメラトニン減少が重要です。不眠症の方はどんなに遅く寝ても、夜明け頃に起きる習慣をつけるだけで生体内時計はリセットされていきます。寝る時間ではなく起きる時間が大切です。
また夜は暗くすることにより光量が減少しメラトニン分泌が高まり睡眠状態に入りやすくなります。私達の祖先から受け継いだ夜の明るさは、月明りが基準です。明るい部屋の証明は避け、iPhonの光量も避けます。
心と身体の蓄積疲労
蓄積疲労と言う言葉は、ご存知のように知らず知らずのうちに疲労が溜まることです。
仕事や激しい労働などの後は誰でも疲れていることを認識します。そして休息します。しかし少しづつの慢性的な疲労の場合、疲れを認識できない場合があります。その疲労がいつの間にか溜まり溜まり身体に異常を生じる事があります。
心の蓄積疲労
私達が漢方相談を受けると長年のストレスが原因なのではと思われる患者さんが居らっしゃいます。肉体だけではなく心の蓄積疲労が病の原因となることがあります。
- 夜に寝つきが悪くなったり。睡眠のレベルまで脳波が下がりにくい。
- 早朝覚醒をするようになったり。交感神経は早朝の3時位より活動を始めます。
- 夢を見やすくなったり。
- 手掌に発汗したり、汗疱ができたり。多汗症、手掌多汗症をご参考に。
- イライラしたり、気持ちのコントロールができにくくなったり。
その他、色々な信号がでます。心の蓄積疲労は解消しないといけません。毎日が同じ日常ならストレスは解消できません。
非日常にて開放
仕事ばかりしていたり、毎日の生活がワンパターンの日常なら、趣味に没頭したり、運動で汗を流したり、旅行に行ったり、散歩したり、ショッピングを楽しんだり、大好きな人と過ごしたり。毎日の生活と異なる趣味や運動など非日常的な事に一生懸命没頭し刺激を受けます。日常のストレスは非日常で取れるです。
エンドルフィン
また身体の痛みは、心の痛みを解消すると言われます。マラソンや登山など身体に激しい負担、身体の痛みを掛けるとエンドルフィンと言われる脳内モルヒネが分泌されます。登山で頂上に着くとスッキリするのも脳内モルヒネの働きだと言われています。
自律神経訓練法
自律神経訓練法と言うのを聞かれたこと有るでしょう。自律神経は緊張とリラックスをコントロールする自動機能です。自律神経には、緊張と興奮をもたらす交感神経とリラックスさせる副交感神経があります。
自律神経訓練法は、ドイツの精神科医シュルツ博士が確立された方法です。他の自律神経訓練法より簡単で覚えやすく短時間で出来ます。気功や自己催眠にて軽いトランス状態を作るのにも似ています。ストレスによるイライラや不安、不眠、緊張などからリラックス出来るようになります。
自律神経訓練法は基本の6段階、約6分間で行います。詳しくは、シュルツの自律神経訓練法で検索してください。
イメージトレーニング
更に自律神経訓練法とイメージトレーニングを組み合わせます。より積極的なメンタルリハーサルになります。例えば人込みの中でいつも緊張する人は、そのイメージと自律神経訓練法とを組み合わせます。何度もメンタルリハーサルを繰り返し緊張しなくなったら、実際の人込みの中に出てご自分の変化を確認します。
東洋医学の病理概念
東洋医学には独特の病理概念があります。
七情の内傷なければ、六淫の外邪犯さずと言われます。
七情とは、喜ぶ、怒る、憂う、思ぶ、悲しむ、恐れる、驚くです。喜びすぎる、怒りすぎる、憂いすぎる、思びすぎる、悲しみすぎる、恐れすぎる、驚きすぎるの感情の行き過ぎが内的要因、内傷になると考えられています。
六淫とは、風、寒、暑、湿、燥、火です。外的要因、外邪としての熱さや寒さ、ウイルスや細菌、湿気や乾燥、アレルゲンなどが原因で病となる状態です。
内因の病は君火であり、外邪の病は相火になります。七情の内傷なければ、六淫の外邪犯さずです。
東洋医学の心の養生は、囚われない事です
考えて解決できる事は、悩みになりません。考えても解決しないから、悩みになります。解決しないのなら、考える必要はありません。過去を振り返らず。
素敵な貴方の明日が過去に束縛されませぬように。
心の痛み
痛みには誰にでも分かる痛みと、誰にも分ってもらえない痛みが有ります。
身体の痛みは、人に分かってもらえ易いです。しかし、心の痛みはなかなか理解してもらえません。心の痛みで一人で苦しまれ闘っていらっしゃる方が多いのは、現代社会が複雑だからかもしれません。
身体の痛みは、心の痛みを開放
登山をし頂上に着くと気持ちが良いです。爽快感でスッキリします。長時間の苦しい山登りから解放されたからでしょうか。肉体に苦痛を与えると、脳内モルヒネと言われるベーターエンドルフィンが分泌されます。
脳内モルヒネ
βエンドルフィンは脳内の神経伝達物質です。モルヒネと同じ働きがあります。βエンドルフィンの鎮痛作用はモルヒネの6倍以上です。そのため脳内麻薬とも言われます。マラソンをしていると、長い苦しさの途中から幸せ感に包まれ高揚した気分になります。これも脳内モルヒネの働きだと言われています。
アセチルコリン
脳内モルヒネと異なりますが、アセチルコリンと言う副交感神経の伝達物質があります。交感神経の伝達物質はアドレナリン、エピネフリンです。アドレナリンが分泌されると心臓の機能が活発になり血圧も上昇します。興奮し闘う心と身体になります。アセチルコリンは逆に休息する心と身体を造ります。
発汗と自律神経
発汗は、交感神経の興奮により生じます。しかし何故か発汗の時だけ、交感神経興奮によりアドレナリンではなくアセチルコリンが分泌されます。発汗すると、アセチルコリンの働きにより心と身体が休息の落ち着いた状態になります。
お風呂や散歩などでも発汗しアセチルコリンが分泌されます。お風呂上りは心も身体もスッキリします。温泉に行くとユックリできるのもアセチルコリンの働きが影響しています。
外に出る養生
家の中に閉じ凝っていては発汗しません。貴方の心の痛みは開放されません。外に出て散歩し軽い運動をしましょう。
運動や散歩の最初の20分間はウォミングアップです。運動開始の20分以内は逆に心拍数や血圧が上昇し闘う状態になります。軽い運動でも20分を過ぎると解放、休息の状態になりやすいです。
医食同源の意味
医が3分、食が7分が東洋医学の養生です。食は養生の代表、食養生ですが、ここでは養生全般を指しています。漢方治療が3割、養生が7割です。
養生は食、運動、休息の3本柱です。運動をします。家に閉じ籠っていては、貴方の病は治りません。休息は入浴、睡眠、体調が悪い時ほど日の出と共に起床するなどです。
漢方と養生法
漢方の古典、黄帝内経素問には丸々1冊に養生法が書かれています。有名な貝原益軒の養生訓も養生法です。日本で最古の医学書は、医心方です。平安時代に丹波康頼が中国の古典を纏めました。現在の中国では失われ現存しない内容も多く貴重な医学書です。この医心方にも養生法が書かれています。養生法の記載が無い漢方の古典はありません。
東洋医学は養生を一番大事にします。漢方薬を飲めば治るのではなく、漢方薬は貴方の養生を強力にバックアップ手助けします。漢方治療が3割、養生7割です。
心の養生
心が身体を支配しています。
心と免疫
癌がん細胞が毎日5000個、私達の身体で造られていると言われます。でも私達が、がんに成らないのは、免疫のナチュラルキラー細胞が毎日癌細胞を食べてくれるからです。
笑いと免疫
東京の病院で癌患者さんを2グループに分け同じ治療をし、一方には週1回吉本新喜劇の芸人さんをお呼びし、観せる実験をしたそうです。吉本新喜劇を観たグループは、観なかったグループより改善する人が多かったということです。
また別な実験では、お笑いを観せ、ナチュラルキラー細胞が活性化し、T細胞の免疫力が向上、CD4ヘルパーT細胞対CD8キラーT細胞比が変化したとのこと。どんなお薬でも数日以上掛かるのに、たった5分間笑うだけで、ナチュラルキラー細胞が活性化したそうです。
楽しく美味しいのが食養生でご紹介した末期がんから生還した男性も、心残りなく楽しんだからです。
痛みと笑い
慢性関節リウマチは、天気や精神的な落ち込みなどで痛みが激しくなる傾向が有ります。また楽しい時は、逆に痛みが軽くなる患者さんが多いのもリウマチの特徴です。慢性関節リウマチ患者さんに落語を観せると、炎症に関連するインタロイキン6が顕著に減少したとの実験結果があります。
肉体を支配する心
東洋医学で言う胆の経絡とは。胆は膽の当て字で勇気、度胸、大言の意味です。火事の時にピアノを1人で持ち出した話、火事場の馬鹿力なども胆力と呼ばれます。
胆の病とは、胆力を振り絞れば治せる臓腑の病の意味です。同様に胆経だけでなく、心経、心包経の病も胆力で、五志の憂、精神面を改善すれば治せる臓腑の病と東洋医学では考えています。
肉体を支配しているのは心です。今日は土砂降りでも、明日は太陽が輝くかも。心の養生は、楽しむこと笑うことです。
楽しみを阻む潜在意識トラウマ
梅干しを見ると口が酸っぱくなります。梅干しを食べ酸っぱい経験をしている人は、潜在意識に梅干しは酸っぱいとインプットされています。梅干しを見ると条件反射で知覚神経の異常により口の中が酸っぱくなります。
不定愁訴
不定愁訴を訴えられる患者さんがいます。右腕が痛い、足が痺れる、数日すると右腕ではなく左腕が痛い。また数日すると右腕がチクチクすると。症状が定まらず、訴える場所も移動します。こういう不定愁訴は五志の憂、自律神経、精神不安定から生じます。
楽しむ事や別な事に目を向ける
楽しむ事が治る早道です。もし潜在意識やトラウマが楽しむ事を阻めば、漢方治療は大きく後退します。
梅干しを食べた経験のない人は、梅干しを見ても潜在意識に無いので酸っぱくなりません。しかし食べた経験のある人で、梅干しを見て酸っぱくならない人は居ません。潜在意識は誰にでもあります。梅干しを見続けるのではなく、別な物を見ると口の酸っぱさは解消します。
暗い会話や環境に居ると誰でも暗くなります。楽しい会話の中に居ると楽しくなります。不平を言う人の中にいると自分も不平を言いだします。優しい人と接すれば優しくなります。
潜在意識を作るのは経験
ご自分の辛い症状を見て、辛い心を語る。更に辛さを思い出し、更に辛さを再認識していきます。経験回数が増える程、潜在意識は強くなります。
梅干しの酸っぱさを忘れる事は出来ません。解消するには、ご自分の辛さに目を向けない事、別な事に目を向ける事です。
聞くのではなく理解してあげる
患者さんの辛さを聞き、治療する側の私達が必要以上に患者さんへの思い、情が入ると、正確な判断ができなくなります。私は患者さんと接する時、患者さんの心と身体の悩みを聞き過ぎないよう気を付けています。証、漢方治療法、体質の把握、判断することが大事で、問診データー以上の訴えは必要ないです。
聞いてあげる事が大事ではなく、理解してあげる事が大事です。
楽しさを思い出させる
辛さをお話し続ける患者さんには、お病気以外の話や楽しい話、病気が治った先々の夢に話題を変えていきます。楽しさや先々の夢や笑いが潜在意識に刷り込まれ、症状が改善していきます。
上記で書いた楽しさ、笑いに左右されるインタロイキン6は、リウマチだけでなく炎症性疾患の急激な悪化を抑えます。アトピー性皮膚炎や蕁麻疹、膠原病、肝炎、膵炎など多くのお病気の炎症に関係する生体内物質です。同様に笑いで活性化するナチュラルキラー細胞、キラーT細胞は、癌や体内のウイルスと闘い撲滅する免疫細胞です。