身体の痛みが心の痛みを開放

漢方養生

2020年7月7日;(写真は熊野古道を歩く女性です)

心の痛み

痛みには誰にでも分かる痛みと、誰にも分ってもらえない痛みが有ります。

身体の痛みは、人に分かってもらえ易いですが、心の痛みはなかなか理解してもらえません。
心の痛みで、一人で苦しまれ闘っていらっしゃる方が多いのは、現代社会が複雑だからかもしれません。

身体の痛みは、心の痛みを開放

登山をし頂上に着くと気持ちが良いです。爽快感でスッキリします。長時間の苦しい山登りから解放されたからでしょうか?
肉体に苦痛を与えると、脳内モルヒネと言われるβ(ベーター)エンドルフィンが分泌されます。

脳内モルヒネ

βエンドルフィンは脳内の神経伝達物質です。モルヒネと同じ働きがあります。βエンドルフィンの鎮痛作用はモルヒネの6倍以上です。そのため脳内麻薬とも言われます。

マラソンをしていると、長い苦しさの途中から幸せ感に包まれ高揚した気分になります。これも脳内モルヒネの働きだと言われています。

アセチルコリン

脳内モルヒネと異なりますが、アセチルコリンと言う副交感神経の伝達物質があります。交感神経の伝達物質はアドレナリン(エピネフリン)です。

アドレナリンが分泌されると心臓の機能が活発になり血圧も上昇します。興奮し闘う心と身体になります。アセチルコリンは逆に休息する心と身体を造ります。

発汗は、交感神経の興奮により生じます。しかし何故か発汗の時だけ、交感神経興奮によりアドレナリンではなくアセチルコリンが分泌されます。
発汗すると、アセチルコリンの働きにより「心と身体が休息」の落ち着いた状態になります。

お風呂や散歩などでも発汗しアセチルコリンが分泌されます。お風呂上りは心も身体もスッキリします。
温泉に行くとユックリできるのもアセチルコリンの働きが影響しています。

外に出る養生

家の中に閉じ凝っていては発汗しません。貴方の心の痛みは開放されません。
外に出て散歩し軽い運動をしましょう。

運動や散歩の最初の20分間はウォミングアップです。運動開始の20分以内は逆に心拍数や血圧が上昇し「闘う状態」になります。軽い運動でも20分を過ぎると「解放、休息の状態」になりやすいです。

医食同源

医が3分、食が7分が東洋医学の養生です。「食」は養生の代表、食養生ですが、ここでは養生全般を指しています。
漢方治療が3割、養生7割です。

養生は「食」、「運動」、「休息」の3本柱です。
「運動」をします。家に閉じ籠っていては、貴方の病は治りません。
「休息」は入浴、睡眠(体調が悪い時ほど日の出と共に起床します)などです。

漢方と養生法

漢方の古典「黄帝内経素問(コウテイダイケイソモン)」には丸々1冊に養生法が書かれています。
有名な貝原益軒(カイバラエキケン)の「養生訓(ヨウジョウクン)」も養生法です。
日本で最古の医学書は、「医心方(イシンホウ)」です。平安時代に丹波康頼が中国の古典を纏めました。現在の中国では失われ現存しない内容も多く貴重な医学書です。この医心方にも養生法が書かれています。
養生法の記載が無い漢方の古典はありません。

東洋医学は養生を一番大事にします。漢方薬を飲めば治るのではなく、漢方薬は貴方の養生を強力にバックアップ手助けします。
漢方治療が3割、養生7割です。

心の養生

心が身体を支配しています。

心と免疫

癌(がん)細胞が毎日5,000個、私達の身体で造られています。
でも私達が、癌(がん)に成らないのは、免疫のナチュラルキラー細胞が毎日癌(がん)細胞を食べてくれるからです。

笑いと免疫

東京の病院で癌(がん)患者さんを2グループに分け同じ治療をし、一方には週1回吉本新喜劇の芸人さんをお呼びし、観せる実験をしたそうです。
吉本新喜劇を観たグループは、観なかったグループより改善する人が多かったということです。

また別な実験では、お笑いを観せ、ナチュラルキラー細胞が活性化し、T細胞の免疫力が向上、CD4(ヘルパT細胞)/CD8(キラT細胞)比が変化したとのこと。
どんなお薬でも数日以上掛かるのに、たった5分間笑うだけで、ナチュラルキラー細胞が活性化したそうです。

「楽しく美味しいのが食養生」でご紹介した末期がんから生還した男性も、心残りなく楽しんだからです。

痛みと笑い

慢性関節リウマチは、天気や精神的な落ち込みなどで痛みが激しくなる傾向が有ります。
また楽しい時は、逆に痛みが軽くなる患者さんが多いのもリウマチの特徴です。

慢性関節リウマチ患者さんに落語を観せると、炎症に関連するインタロイキン6が顕著に減少したとの実験結果があります。

肉体を支配する心

東洋医学で言う「胆」の経絡とは。
胆は「膽」の当て字で勇気、度胸、大言の意味です。
火事の時にピアノを1人で持ち出した話、「火事場の馬鹿力」なども胆力です。

胆の病とは、胆力を振り絞れば治せる臓腑の病の意味です。
同様に胆経だけでなく、心経、心包経の病も胆力(五志の憂、精神面を改善すれば)で治せる臓腑の病と東洋医学では考えています。

肉体を支配しているのは心です。
今日は土砂降りでも、明日は太陽が輝くかも。
心の養生は、楽しむこと笑うことです。

楽しみを阻む潜在意識トラウマ

梅干しを見ると口が酸っぱくなります。梅干しを食べ酸っぱい経験をしている人は、潜在意識に「梅干しは酸っぱい」とインプットされています。
梅干しを見ると条件反射で知覚神経の異常により口の中が酸っぱくなります。

不定愁訴

不定愁訴を訴えられる患者さんがいます。
右腕が痛い、足が痺れる、数日すると右腕ではなく左腕が痛い。また数日すると右腕がチクチクすると。
症状が定まらず、訴える場所も移動します。
こういう不定愁訴は「五志の憂(自律神経、精神不安定)」から生じます。

楽しむ事や別な事に目を向ける

楽しむ事が治る早道です。
もし潜在意識やトラウマが、楽しむ事を阻めば、漢方治療は大きく後退します。

梅干しを食べた経験のない人は、梅干しを見ても潜在意識に無いので酸っぱくなりません。
しかし食べた経験のある人で、梅干しを見て酸っぱくならない人は居ません。

潜在意識は誰にでもあります。
梅干しを見続けるのではなく、別な物を見ると口の酸っぱさは解消します。

暗い会話や環境に居ると誰でも暗くなります。楽しい会話の中に居ると楽しくなります。
不平を言う人の中にいると自分も不平を言いだします。優しい人と接すれば優しくなります。

潜在意識を作るのは経験

ご自分の辛い症状を見て、辛い心を語る。
更に辛さを思い出し、更に辛さを再認識していきます。
経験回数が増える程、潜在意識は強くなります。

梅干しの酸っぱさを忘れる事は出来ません。
解消するには、ご自分の辛さに目を向けない事、別な事に目を向ける事です。

聞くのではなく理解してあげる

患者さんの辛さを聞き、治療する側の私達が必要以上に患者さんへの思い、情が入ると、正確な判断ができなくなります。

私は患者さんと接する時、患者さんの心と身体の悩みを聞き過ぎないよう気を付けています。証(漢方治療法、体質)の把握、判断することが大事で、問診データ以上の訴えは必要ないです。
聞いてあげる事が大事ではなく、理解してあげる事が大事です。

楽しさを思い出させる

辛さをお話し続ける患者さんには、「お病気以外の話」や「楽しい話」「病気が治った先々の夢」に話題を変えていきます。
「楽しさ」や「先々の夢」や「笑い」が潜在意識に刷り込まれ、症状が改善していきます。

上記で書いた「楽しさ、笑い」に左右されるインタロイキン6は、リウマチだけでなく炎症性疾患の急激な悪化を抑えます。
アトピー性皮膚炎や蕁麻疹、膠原病、肝炎、膵炎など多くのお病気の炎症に関係する生体内物質です。

同様に「笑い」で活性化するナチュラルキラー細胞、キラT細胞は、癌(がん)や体内のウイルスと闘い撲滅する免疫細胞です。