2020年7月4日;写真は、福岡市百道浜。夕焼けのマリゾン
楽しく食べる食養生
食養生で最も大切な事は「楽しく食べる事」です。
今までお伝えした食養生の「気味」、「寒熱」、「一物全体」、「似臓補臓」などより遥かに重要な事は、楽しく食べる事です。
楽しく食べる食物(草)は「(草冠に楽で)薬」に成ります。
「食養生の最後の仕上げは、楽しく食べる事」
私が30代の頃に読んだ医学雑誌の逸話です。
東京の男性が胃の具合が悪く病院に行くと、末期の胃がんで余命3ヶ月と宣告されました。
男性は残された命、3か月は好きな事をしようと会社を退職。海外旅行に出かけました。
海外では好きな物を食べ、好きな物を飲み、好きな事をして過ごしました。
3ヶ月して帰国し、以前の病院に行くと胃がんが消失していたそうです。
表情と血流の関係
様々な情況で血流を調べる実験結果です。
笑っている時は血流が良くなります。
逆に怒っている時は血流が悪くなります。
可笑しくなくても、笑顔を作るだけで血流は良くなります。
逆に怒っていなくても、怒った表情をするだけで血流は低下します。
心ではなく顔の表情で血流は変化します。
人間は洗面器に溜めた水に顔を付けるだけで、心拍数は低下し呼吸数も落ちます。人間が海から進化した名残かもしれません。
身体に善い「心と食事が膳」
「この食材は身体に良い。これは悪い」と思い考えながら食事するのは、貴方の心が貴方の身体に対し罪を造っています。「膳」は「身体に善い」物です。
私には「身体に悪い物は美味しく、身体に良い物は美味しくない」です。
ステーキ大好き、焼肉大好き、もつ鍋大好き、ケーキ大好き、お酒も大好き、野菜は嫌いです。
でも嫌いな野菜も中和毒消しの食材も仕方なく笑って食べます。
最低限の食養生は守っています。美味しく楽しく食べる事が一番の食養生です。
食養生の「気味」における豚肉
東洋医学では「気味」と言われる概念があります。
気味は「五気」と「五味」からなります。今回は、その五気についてご紹介します。
五気には更に2種類の概念が有ります。5種類の「香り」と5種類の「寒熱」です。
今回は5種類の寒熱(身体を温めるか、冷やすかの目安)をご紹介します。
五気の寒熱
寒熱は「熱、温、平、涼、寒」の5種類に分かれます。専門的には微寒、微涼、微温と更に細かく分類していきます。
食材や漢方薬がどれくらい身体を温めるか冷やすかを判断する目安です。
「熱」は新陳代謝を活発にし機能を亢進し体温を上げます。低血圧症や貧血、黄体機能低下の人に合います。
「寒」は清熱作用があります。行き過ぎた機能亢進を抑え体温を下げます。一般的に高血圧症や多血症、瘀血の人、炎症のある方に合います。
肉料理の寒熱
私たちの食卓に上がっってくる肉料理には様々な種類があります。
マトン(微熱)、牛肉(強温)、鶏肉(微温)、豚肉(平~涼)、馬刺し(涼)。
東洋医学の食養生では、これらの肉はそれぞれ働きが異なります。
マトン
五行(臓腑)理論では、マトンは「心経」に属し寒熱は「微熱」になり、牛肉(強温)よりも更に熱性があり身体を温める働きが最も強い肉です。
北海道で焼肉と言えばジンギスカン、マトンです。
レバー
東洋医学の古典「黄帝内経(コウテイダイケイ)霊枢(レイスウ)。本神篇第八。法風」に「肝は血を蔵し、それを調節、、、」と書いてあり、肝経と血の関係が記されています。
東洋医学では「似臓補臓(ニゾウホゾウ。同じ臓器を以て補う)」と言う理論があります。
肝経はレバーで補います。他の肉に比べ鶏のレバーには鉄分が多く貧血の方に合っています。
豚肉
肉は一般的に温~熱になる事が多いですのですが、豚肉と馬肉だけは平~涼でやや身体を冷やします。
豚は10,000年以上前に中国で猪を家畜化し変化しました。ここでは猪と豚を同列に扱います。
漢方薬に紫雲膏という外用の不思議な軟膏があります。靴擦れをして痛い時に一塗すると瞬間的に痛みが取れます。火傷をした時にも直ぐに痛みが消えます。
この紫雲膏の基剤が豚脂です。
猪、豚の脂は他の動物と違いオレイン酸、リノール酸、リノレン酸など、人間と非常に構成比率が似ています。
また豚の皮膚と人間の皮膚は性質が似ています。大火傷の時に一時的に豚の皮膚を移植する事も有ります。
声を使いすぎた時など豚骨ラーメンを食べると、次の日に喉がスッキリします。
漢方では豚肉は「腎経」に属し涼(冷やす、清熱作用)の性質があります。豚脂には炎症を取る働きがあると考えられています。
豚脂には大量のヴィタミンB1が含まれています。ヴィタミンB1は摂取した糖質の代謝を促進しエネルギーへ変換します。他の肉より豚肉は肥りにくい食材です。
人間の歯の構成と食養生
歯の構成は動物ごとに異なります。
祖先が食べてきた何万年、何十万年の食事により、人間の歯の構成が出来上がっています。
人間の歯は正面から奥に向かい左右8本づつ生えています。
最初の2本は、「切歯」で草や肉を噛み切る歯です。
3本目目は、「犬歯」です。動物を捉え、切り裂くための歯です。
戦う歯の為、女性よりも男性の方が大きいです。
また非常に丈夫で根も深いです。そのため年を取っても犬歯が抜ける事は少ないと言われます。
4番、5番は「小臼歯」で硬い物を砕く歯です。骨や木の実等を砕きます。
6番、7番、8番は「大臼歯」で食べ物を磨り潰す歯です。
8番は親知らずで退化し生えてこない人もいます。また横向きに生える事もあります。
食事内容から歯の構成
歯の構成を考えると、私達の祖先は雑食で肉類から草、穀類まで何でも食べてたと思われます。
肉食動物に特徴的な犬歯は、人間は発達していません。
また臼歯も肉食動物のように鋭くなく、草食動物の特徴で磨り潰す構造に成っています。
前歯の2本の切歯が、肉も草も噛み切る肉食、草食共通の歯と考えれば
親知らずを含めた5本は、草食動物の歯です。
完全な肉食の歯は、犬歯1本だけです。
歯の構成から考えると、6分の1の肉、魚と、6分の5の野菜、海藻が、私たちの食養生に合っていると考えられます。
繊維質に対する臼歯
臼歯の構造から考えると、人間の食事の中心は食物繊維になります。
歯と同様に人間の胃腸も繊維質を多く摂るような構造に成っていて、肉食動物より長くなっています。
加工食品は食べやすく便利ですが、繊維質が少なくなります。
私たち人間の祖先は、繊維質を多く食べていたと思われます。
食文化に基づく食養生
東洋医学の食養生には理論が有ります。
「五味」「五気」「気味の厚薄」「五色」「寒熱」「補瀉」「燥湿」を「性」と考えます。
「升降」「収散」を「向」と考えます。
一つ一つの食材を理論に当てはめ、食養生を構築していきます。
食とは「人に良いもの」と書きます。
薬とは「楽になる草」と書きます。
膳とは「身体に善いもの」と書きます。
文明と文化
私の師匠の故入江正先生は、文明と文化の違いを仰っていました。「漢方薬は文明であり、漢方理論は文化である」と。
文明には合理性が有り守られますが、非合理性と思われがちな文化は誰かが守らないといけません。食養生は代々その土地で受け継がれた食文化です。
お寿司を食べに行くと、海老には尻尾が付いてきます。海老の尻尾には海老の食中毒を防ぐ成分が見つかっています。
ステーキを食べに行くと、ニンニクが付いてきます。肉の臭みを消し、タンパク質を固め消化を促進します。ニンニク成分のアリシンには殺菌作用があり食中毒を防ぎます。
天つゆに入っている大根おろしは、油の消化を助けます。大根にはアミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ等の消化酵素が大量に含まれています。
東洋医学の古典「黄帝内経素問」の「臓気法事論篇」には「甘は苦により瀉される」と有ります。日本茶(苦)で和菓子(甘)の毒消しをします。抹茶と和菓子の相性が出来あがります。
同様に「辛は酸により瀉される」と有り、唐辛子の辛みは酢の物で簡単に取れます。
命と主食
命の長い物が主食になります。
放置して腐れる肉類や野菜類は副食になります。放置して腐れない食材が主食になります。イモ類、穀類等です。
古典の「喫茶養生記」には「一切の食は甘を性となしたる也」と記載されています。
米、小麦、トウモロコシの穀類や、様々なイモ類を主食にしている民族が多いのも頷けます。
また穀類やイモ類は来年発芽し新しい命が生まれます。次世代へ遺伝子を残していく大事な命を伝達する役目があります。