
日本漢方の古方派を中心とした漢方薬・処方をご紹介します。
一般の方から専門家まで馴染めるよう、治療歴・処方薬味・適応疾患・使用目標・漢方の証・方意をご紹介。
九味檳榔湯(クミビンロウトウ)-浅田家方-
処方薬味
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適応疾患
心臓神経症 、脚気様症状、多発性神経炎
使用目標
脚気様症状を備えた水毒を持つ人に対し、その特有の体質を持った諸種の疾患のある方に用います。脚気の腫満、呼吸促迫を目標とし、心臓肥大による痺れ感、血圧低下、腱反射異常、全身倦怠、下肢倦怠、下肢浮腫などから来る四肢の冷え、四肢関節の硬直感、顔面浮腫などがある方に対して用います。
漢方の証・方意
- 病位・虚実;少陽病から太陰病 虚実中間
- 方意;上焦の気滞;心悸亢進・呼吸困難・繊憂細慮。水毒:顔面浮腫・眼瞼浮腫・筋肉痛・関節痛。
荊防敗毒散(ケイボウハイドクサン)-万病回春-をご紹介
処方薬味
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適応疾患
セツ、面庁、乳腺症
使用目標
諸種の化膿性腫れ物によって発熱、悪寒、頭痛、引き攣れなどが起きて熱病に似た症状を呈する方に用います。
漢方の証・方意
- 病位・虚実;少陽病 虚実中間証
荊芥連翹湯(ケイガイレンギョウトウ)-一貫堂-をご紹介
処方薬味
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適応疾患
青年期腺病体質の改善、急性慢性中耳炎、外耳炎、急性慢性上顎洞化膿症、肥厚性鼻炎、蓄膿症
使用目標
耳が腫れ痛む方に用います。初期のうちで熱がある時は葛根湯を用いますが、それでも効果がない時や、やや長引いている方には荊芥連翹湯を用います。
漢方の証・方意
- 病位・虚実;少陽病 虚実中間
- 十二臓腑配当;肺・胆
- 方意;上焦の熱証による皮膚が渋紙色になった症状・化膿傾向・発疹。上焦の熱証による精神症状としての手掌自汗・筋緊張亢進・精神過敏。
- 備考;幼少期に柴胡清肝湯が有効であった体質のものが、完治せずに長じると、さらに進行して荊芥連翹湯証を呈するようになると言われています。
啓脾湯(ケイヒトウ)-万病回春-をご紹介
治療歴
亜急性胃腸炎 26歳・男性 -漢方処方・応用の実際より引用
以前から胃腸が弱いが、1ヶ月前から下痢が治らない。食事のあとで胃が痛み、夜寝付きが悪く、眠りが浅くて眼がさめやすい。昼間は身体がだるく、肩や背がこり、時々嘔吐する。手足が冷え、たちくらみして乗り物に酔いやすい。しかし空腹にはなり、食べれば食物が美味しいという。
やせ型で脈は沈、腹部は肉付きやや少なく腹壁の緊張は大体よい。腹直筋が攣急し、臍の左下には圧痛があり、臍の左上に腹部大動脈の拍動が中くらいに亢進している。
この腹証と下痢に対する真武湯と胃痛を目標に人参湯を合方して投与した。2週間たっても大便が軟らかく、正常にならず、食後20~30分すると腹部が絞られるように痛むという。
そこで啓脾湯に変えたところ4日頃には下痢をしなくなり1週間後には苦痛は何もなくなった。念のため、さらに1週間分投薬して治療は終えた。
処方薬味
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適応疾患
慢性胃腸炎、小児消化不良症、慢性下痢症、慢性胃腸カタル、腸結核、病後の食欲不振
使用目標
慢性の下痢の方に用います。裏急後重がなく腹痛はないことが多くあっても軽いものが多いです。泡の多い下痢で、ガスとともに排出することが多いです。1日に1~3回くらいの下痢で、適応症は割りに広いようです。
半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)と真武湯(シンブトウ)の中間証程度で、真武湯や半夏瀉心湯で効果がなく、かえって下痢の回数が増加する時に良いかもしれません。
又、啓脾湯(ケイヒトウ)の患者には、神経質になっている方が割りに多いようで、患者の中には精神不安や不定愁訴を訴える方もいます。参苓白朮湯証とよく似ていて、あらかじめ区別することは難しいです。
漢方の証・方意
- 病位・虚実;太陰病、虚証、半夏瀉心湯と真武湯の中間
- 十二臓腑配当;脾・胃
- 方意;脾胃の虚証による軟便・水溶性下痢・食欲不振に対する方剤です。
- 備考;四君子湯(シクンシトウ)を基礎としています。真武湯や胃風湯(イフウトウ)を用いるような下痢でこれらの処方が効かないときに効果を示すこともあります。
桂枝茯苓丸・甲字湯(ケイシブクリョウガン・コウジトウ)-金匱要略-をご紹介
治療歴
34歳・女性 -漢方処方・応用の実際より引用
結婚してから8年になる。4年前に妊娠したが何かの都合で掻爬した。それ以来、右の下腹が始終つっぱるように痛む。また腰痛も起こる。各所の医師にみてもらったが「悪いところはない」と言われて、ある医師には「虫垂炎ではないか」と言われて、虫垂切除の手術をうけた。それでも痛みは以前として治らなかった。
生理不順で最近2ヶ月ほどは月経がない。従ってまだ子供ができない。患者は中背で肥満体の大きな婦人で便通は正常である。脈は沈でやや遅、腹診すると腹部の脂肪が厚く、太鼓のような腹をしているが、右側の腹直筋が臍傍で拘攣し、そこを押すと圧痛があり、また、その近傍の右腸骨の窪みにわずかな抵抗があり、圧迫すると疼痛を訴える。これはオ血塊と思われた。
これをオ血証と考え桂枝茯苓丸を投与した。これで1週間後には腰痛が軽快し、右下腹部の痛みもやや楽になった。2ヶ月目には月経が初来し、4ヶ月目には高温期が生じ、その後、月経がまた無くなったが妊娠3ヶ月と言われた。その時、吐き気が酷くなったので、小半夏加茯苓湯に 橘皮を加えて1週間与えたら吐き気が止まり、やがて無事に丈夫な男の子を出産した。
処方薬味
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適応疾患
殊に子宮およびその付属器の炎症、月経困難症、子宮筋腫 、打撲症、流産・死産などの後治療、子宮内膜炎、卵管炎、痔核
使用目標
体格は中位で虚実中等の体質の人で、古血による諸症状を呈し便秘の傾向がなく症状が緩和な方に用います。
体温が上昇していないのに全身または局所的に熱感を覚え、唇や舌の辺縁が暗紫色を呈し皮膚がくすんで、あざ黒く或いは酷い湿疹や肌荒れが出ているなどの特徴があります。
大便が黒色で臭気が強いのも特徴の一つです。青すじが出ていたり諸種の出血傾向(下血、性器出血、鼻出血、皮下・粘膜出血、血尿)などがあります。
女性では、月経不順、無月経、月経過多、月経寡少などの月経異常、生理痛その他の月経困難、不妊症あるいは流産癖などのほか、下腹痛や帯下などにも効果を示します。
腹証としては、下腹に圧痛を伴う抵抗や腫瘤を認めるが、腫瘍やガス塊と区別が必要となります。脈は沈んでいるものが多いです。
漢方の証・方意
- 病位・虚実;少陽病 実証から虚実中間
- 十二臓腑配当;肺・腎・大腸
- 方意;古血による下腹部の抵抗と圧痛・月経異常。気の上衝・古血による精神症状による逆上せ・頭重
- 備考;桂枝茯苓丸は代表的な駆オ血剤(古血の除去剤)です。桂枝茯苓丸に薏苡仁を加えることにより肌への効き目・肩凝り・腰痛への効果が増します。甲字湯は桂枝茯苓丸に甘草、生姜を加えたものです。その他の駆オ血剤として桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)、温経湯(ウンケイトウ)などがあります。
参考文献・出典
- 漢方診療医典 大塚敬節・矢数道明・清水藤太郎 著
- 漢方処方 応用の実際 山田光胤 著
- 漢方方意ノート 千葉古方漢方研究会 著
- 漢方治療百話第1~3集 矢数道明 著
- 腹證奇覧 稲葉克文礼 和久田寅叔虎 著
- 漢方処方応用のコツ 山田光胤 著
- 薬局製剤 漢方194方の使い方 埴岡博・滝野行亮 共著
- 勿誤薬室方函口訣 長谷川弥人 著
- 漢方診療30年 大塚敬節 著
- 皇漢医学 湯本求真 著
- 黙堂柴田良治処方集 柴田良治 著
- 類聚方広義 吉益東洞 著