檳榔子、茯苓、附子、仏手柑、防已

漢方生薬

日本漢方の原料である漢方生薬と有名な民間薬をご紹介します。初めての方から専門家まで参考になるよう、気味、帰経、効能、適応とする体質と処方例、民間療法をご紹介。

檳榔子

シュロ科のビンロウの種子を乾燥したものです。果皮部分は大腹皮と言います。中国産を大腹檳榔と言って良品となります。オランダ産の物はやや品質が落ちます。

昔、貴いお客さまが来客した時にビンロウの果実をご馳走に出したものですが、賓とか郎は貴客の名称であるので、賓郎から檳榔の名を得ました。

気味、薬味薬性

味は辛、苦、性は温

帰経。東洋医学の臓腑経絡との関係

胃、大腸

効能

ミミズやヒルに対する殺虫効果や、駆虫、消積、理気作用があります。

適応とする体質と処方例

  • 体質的特徴はあまりなく、体力中位かやや強い女子に用いることが多いです。瘀血の徴候もはっきりしないが大抵は月経異常があります。産後、流産の後、人工中絶後などによく起こる精神症状に有効な場合が多いです。
  • ある一定の精神症状を、頑固に固執してあまり変化を見せず、1つか2つの訴えをいつまでも続ける傾向があります。処方例。女神散
  • その他、消化不良、腹痛、寄生虫症、便秘、脚気等に用います。

茯苓

茯苓

松の根の周囲に小児の頭ほどの大きさの菌核の塊ができます。この菌核を乾燥したものが茯苓です。

昔は、菌から出来ること分からず、松の霊気が伏結して生じて伏霊ブクレイと言いました。これが変じて茯苓となりました。

松の根に付着して発生したものが茯苓で、松の根の周りにあるのが茯神です。茯苓は質が堅く重く、白色もしくは淡紅色で粘り気と潤いのある品を上品とします。

気味、薬味薬性

味は甘、性は平

帰経。東洋医学の臓腑経絡との関係

効能

利水、健脾、安神作用があります。一般的に安神作用には茯神を用います。「補にして峻ならず、利にして猛ならず」と言われるように性質は穏やかです。

茯苓は朮と共に漢方利水剤として併用されますが、茯苓は胃内停水の他、心悸亢進、筋肉痙攣、眩暈、煩躁等の薬能を有するに対し、朮は陰虚証の胃内停水および身体疼痛を主治するものとされ、若干の相違が見られます。

適応とする体質と処方例

  • 胸中が詰まり塞がったような苦しみ、呼吸促迫に用います。処方例、茯苓杏仁甘草湯
  • 胃内に停滞している水分を取り去り、胃下垂や慢性胃炎、胃神経症、胆石症、小児消化不良等の改善をします。処方例、茯苓飲

附子

附子

カラトリカブト、オクトリカブト、ヤマトトリカブト、キバナトリカブト等のトリカブトの塊根を薬用にしたものです。

トリカブトの母根、すなわち茎の元に直接ついているものを烏頭と言い、形が鳥の頭のようなので烏頭と言われています。この母根の烏頭に着いた、附した子根を附子と言います。烏頭の子根の中で比較的小さいものを側子、大きいものを附子と言います。

普通は、母根の烏頭から子根が出てきますが、何らかの原因で子根が出来ず、母根のみ発育して長くなっている物を天雄と呼んでいます。子の生じないものは雄に違いないということで天雄となりました。

  • 川烏頭は、質は硬く折断しにくく、断面は灰白色で粉質を呈し、味は辛辣で舌を麻痺します。また、肥大し堅実で、灰褐色を呈し表面が光滑なものが佳品とされます。
  • 炮附子は、表面は褐色でほぼ平坦、切面は黄褐色半透明で、やや突起ように隆起しています。質は硬く折断しにくく、断面は角質で、切片が大きく、均整で黄褐色半透明で堅硬なものが佳品とされます。
  • 塩附子は、表面は灰黒色、粗ぞうで周囲には突起した枝根、またはその痕があり、頂端はややへこんで芽の跡がある。食塩の結晶を付着する。味は鹹くやや舌を麻痺します。

炮附子、塩附子は川烏頭の有毒成分を分解し安全性を高めるように加工調整されたものです。

気味、薬味薬性

味は大辛、性は大熱、有毒あり

帰経。東洋医学の臓腑経絡との関係

心、脾、腎

効能

神経痛やリウマチの特効薬として考えられています。ただし使用を間違えると中毒症状を起こします。以下に中毒症状をあげます。

  1. 採取直後の生の物は、中毒症状を起こしやすくなります。
  2. 附子の量の多い物ほど中毒症状は強いです。
  3. 加熱せず粉末とした物は、中毒しやすくなります。
  4. 煎じる時間が比較的短い物は、中毒しやすくなります。
  5. 体質、病状によって中毒しやすい物があります。
  6. 室内が高温、飲酒後、入浴後は中毒を起こしやすくなっています。

軽度の場合は、そのまま放置しても1、2時間位で治ります。中等度及び重症の場合は、味噌、黒豆甘草煎を用いますが、応用処置として胃腸洗浄、ジカレン、ブスコパン等の注射を行い、塩酸プロカイン、クロルプロマジン等の使用も考慮すべきとあります。

適応とする体質と処方例

少陰病の虚証の薬で、新陳代謝機能が失調し、特に心臓、腎が弱いもので、細胞に非生理水分が残って浮腫みや心悸亢進や目眩がし、手足の沈重疼痛がある方。処方例、真武湯

仏手柑

仏手柑

インド産のミカン科の常緑低木、ブッシュカンの果実を用います。

シトロンの一種で、果実は先が5から10本に指状に別れその特異な形のために仏手柑と呼ばれています。日本にも、江戸時代に中国から沖縄を経て伝えられ、現在でも和歌山県で観賞用として栽培されています。果汁は少なく酸味が少ないため食用にはならないが、特有の強い香りがあります。

気味、薬味薬性

味は辛、苦、酸、性は温

帰経。東洋医学の臓腑経絡との関係

肺、脾、肝

効能

腸管運動の抑制や鎮痙作用があります。胃痛、脇腹痛、嘔吐、咳嗽に用います。

適応とする体質と処方例

伝染性の肝炎の症状の緩和にもちいます。処方例、仏手敗醤湯

防已

防已

防已には、漢防已と木防已の2種類があります。一般的に防已と呼ばれている物は、漢防已で木防已と別にされています。

防已の名は、足の疾病を防いで苦痛を已む、止めるという意味から得たものです。止痛効果があり、最近、漢防已の総アルカロイドを手術時に麻酔の筋弛緩剤として用いられています。

気味、薬味薬性

味は苦、辛、性は寒

帰経。東洋医学の臓腑経絡との関係

膀胱、肺

効能

変形性膝関節症坐骨神経痛、リウマチ等に対して止痛作用があります。

利水作用として、心臓性喘息、心臓性浮腫や呼吸困難、妊娠時の浮腫、肥満症等に用います。胃腸虚弱者や下痢をしているものには用いません。

適応とする体質と処方例

  • 神経痛やリウマチのような疼痛を主訴とし、汗がダラダラと出て、浮腫みを伴っている方。
  • 体表に水毒があり、浮腫んで重く、汗が出やすく、寒気を感じ、小便少なく、動作緩慢な傾向のある者ものに用います。処方例、防已黄耆湯
  • 呼吸困難、喘鳴呼吸、胸内苦悶、胸内充満感、脈も弱くなっている方。処方例、木防已湯
  • 全身的に痛みが走り、日中は軽く、夜間痛みが酷くなる方に用います。処方例、疎経活血湯