食養生は食文化

漢方コラム

2020年11月2日。写真は福岡市、シーサイド百道の夕陽です。

西洋の食文化

今回は西洋に残されている食養生、食文化の記録を幾つかご紹介します。

  1. 旧約聖書のダビデの詩篇51。「ヒソップで吾の罪を清めよ。吾が身が雪より白くなる様に洗え」。ヒソップはシソ科のヤマギハッカです。浄血剤で、血毒を浄める働きです。皮膚病には外用として洗顔や浴用剤としても使用します。他の効能としては利尿、緩下、去痰、整腸作用がある生薬です。
  2. 旧約聖書のアダムとイブの禁断の果実。エデンの園で過ごしたアダムとイブは、裸の身体をイチジクの葉で隠して過ごしました。神から禁じられていた禁断の木の実のリンゴ、イチジクを食べてしまい、エデンの園から失楽園。追放されます。イチジクには便秘に対し緩下作用、消化促進の働きが有ります。イチジクは緩下作用にてイチジク浣腸の名前が付きました。
  3. 新約聖書のテモテヘへの第一の手紙5章の23。「水ばかり飲まないで、胃のためにまた、度々起きる痛み病気のために、少量のぶどう酒を飲みなさい」。医学の父と呼ばれるBC5世紀の古代ギリシャのヒポクラテスの言。「病は血の汚れから生じる

日本の食文化

明治36年から報知新聞に連載された村井弦斎の食道楽をご紹介します。

食べ物の原則は、気を補うこと

  1. なるべく新鮮な物
  2. なるべく生の物
  3. なるべく天然に近い物
  4. なるべく寿命の長い物
  5. なるべく組織の緻密な物
  6. なるべく若い物
  7. なるべく住んでる場所に近い物
  8. なるべく刺激の少ない物

上記1と2は、旬な物がお勧めです。冷凍品や輸入品を減らします。上記3は、化学肥料、食品添加物の少ない物です。東洋医学では「食より気を摂り、気を血に蔵す」と考えます。血を汚す化学肥料、添加物は問題が有ります。

料理の原則

  1. 天然の味を失わぬこと
  2. 天然の配合に近くすること
  3. 消化と排泄の調和を図ること
  4. 五美の味、香り、色、形、器を備えること

食事法の原則

  1. 飢えを持って食すべきこと
  2. よく咀嚼すること
  3. 腹八分目に食すこと
  4. 天然を標準とすること

食養生は伝統食

黄帝内経には「薬は病を斥けるもの。食は病を従え治すもの」と有ります。降圧作用のある生薬、食物を料理に入れても、血圧の高い人向けの薬膳料理、食養生にはなりません。食物中の特殊成分の生理活性作用を期待するのではなく、食物全体、料理全体から醸し出される効用を期待しないといけません。

食療である治療薬膳は、例えば咳を止める事を期待して食します。漢方治療と同じです。食養生である養生薬膳は、咳の出ない体質造りを目指します。千金要方第26巻食治論には。「医は病の源をよく把握すべきであり、犯された個所に応じ、食で治療しなさい。食にて治らなければ薬を用いなさい」と記載されています。

食文化は何千年もの間に、人類に臨床実験され自然淘汰されてきた文化です。食養生は、食文化であり、民族食、伝統食が基本となります。

食養生の組み立て

この食材は血圧を下げるから、この薬膳は血圧に良いではなく、食材の組合せが大事です。高血圧の人に、この食材は血圧が上がるから駄目ではなく、工夫して食すのが食養生です。

身体を温めるために、スープやお粥を作ります。茄子やキュウリの漬物を添えます。スープ、お粥が身体を温めますが、茄子、キュウリの漬物は身体を冷やします。これでは身体を温める事は出来ません。これに温の生姜の千切りを加えると、身体を温める働きを強くすることができます。

ワカメ、キュウリの酢の物

例えば、冷のワカメと冷のキュウリで作る温の酢の物は全体として身体を冷やします。暑い季節の夏場向きです。お酒を飲んだ時にも合います。例えば、冷のワカメ、冷のキュウリ、温の酢に

  1. 温、燥の生姜の千切りを加えると、全体として温となり、冷え性の人や冬でも食べられます。
  2. 生姜。温、燥の青紫蘇。温、燥のニラ。温、燥のネギ。温の味噌などを加えると、温、燥となり、浮腫みやすく寒がりの人に合います。
  3. 平、潤の山芋。平、潤の胡麻。生姜。温、潤の海老。温、潤のパイナップルなどを加えると、温、潤となり、代謝が落ちた寒証の年配者の代謝を上げ潤いを付けます。
  4. 涼、燥の蟹。涼、燥の菊花。涼、燥のトマト。涼、燥の海苔などを加えると、涼、燥となり、浮腫みやすい熱証の若い人や暑がりの人に合います。
  5. 温、潤の梅干し。涼、潤のアスパラなどを加えると、涼、潤となります。

食材が駄目なのではなく、工夫をすることが大事です。食養生を知ると色々な食材を美味しく食べる事が出来ます。

祖先が食べた物で私達のDNAは出来ている

三白の害と言われて久しいです。白砂糖、白米、塩です。玄米を精米したのが白米です。

玄米食

2000年以上前から玄米は漢方薬として使用されてきました。激しい口渇を訴える糖尿病に使用する白虎加人参湯には、構成薬味として粳米があり玄米を入れます。玄米の働きは寒、潤、降、散です。潤の働きで口渇を抑え、降の働きで血糖値を下げます。

玄米を使うことにより、様々なお病気が良く成ります。玄米食は、高血圧や肥満症、多血症、瘀血証、糖尿病などに効果が有ります。

玄米は下薬

玄米は漢方薬の上薬、中薬の正常化作用ではなく、化学薬品と同じ一方的な働きの下薬と同じ動きをします。上薬、中薬、下薬に関しては不思議な東洋医学をご覧ください。

もし低血圧や痩せ型、貧血症の方が玄米食を続けると、どうなるでしょうか。妊娠中の場合だと、玄米の降の働きで流産しやすくなります。玄米は食品であると同時に薬効のある下薬に該当します。

玄米のフィチン酸

玄米にはフィチン酸と言うアクが有ります。フィチン酸は体内の重金属やミネラルを体外へ排泄します。体調が改善したら、玄米食を止めます。1から3ヵ月が目安です。強実証、体力的、体質的に非常に充実した人でも6ヵ月が限度になります。

玄米食を続けると、身体に必要なミネラルまで排泄し続けます。虫歯が出来る方も多いです。骨はミネラルの塊です。骨粗しょう症も進みます。

玄米食を止めた日本人

日本人は食養生として元禄時代までに玄米食を止めています。玄米は素晴らしい食、漢方薬です。しかし食べた方が良い人も居れば、食べてはいけない人も居ます。誰でも、いつでも良いわけではありません。

玄米には玄米の薬効がある

玄米は玄米の働く場や目的が有るのに。漢方の素晴らしいい薬味である玄米の薬効を無視し、玄米を誰にでも推奨するのは玄米に失礼です。

毎日食べるお米は7分付、5分付がお勧めです。また大麦の押し麦を1、2割ほど入れた麦ご飯をお勧めしています。

腐った物、発酵食品、雑菌

現在の私達の食生活は、新鮮な物を食べる事が当たり前になっています。

私達の祖先は山で狩猟をし木の実を採り生活していました。獲物が獲れる日もあれば、獲れない日も有ったでしょう。収穫があり、獲れたての新鮮な獲物や果物など、生き物を食べれる日。獲れない日は命を繋ぐため、数日前に獲った獲物、死んだ物や腐りかけの物でも食べていたと思われます。

私達のDNAの中には、何千年、何万年の食生活の歴史が刻まれています。異物や腐りかけ、細菌、ウイルス、それらに接する事により私達は免疫力を付けていきます。

冷蔵庫が出来て数十年。冷蔵保存すると死んだ物でも腐らず新鮮に見えます。腐ったものを食べる事をお勧めしているわけではありません。

発酵食品

発酵は人間が上手に腐らせたものです。ヨーグルト、アンチョビ、漬物の糠付け、タクアン、千枚漬け、キムチ、納豆、味噌、醤油他。私達のDNAに刻まれた歴史に従い、生き物を食べ、腐った物、酵素、発酵食品も食事の中に上手に取り入れていきます。

雑菌も食の一つ

お母様の身体の中に居る時、胎児は無菌状態です。腸内細菌叢も存在しません。出産し生まれてくると、様々な細菌に触れ、感染する事により免疫能力を獲得していきます。

無菌室で育てられた動物は非常に免疫力が弱いです。免疫グロブリン量なども低く、免疫機能が活性化していません。強くなるはずの赤ちゃんを無菌状態で育てたいですか。

常在菌と共存

私達は常在菌という菌類と何万年、何十万年と共存してきています。私達の祖先は自然の中で生きてきました。野生動物と一緒です。細菌に感染し共存し、細菌に守ってもらい生きて来ました。私達の身体は細菌が感染しないと生きて行けない身体に成っています。

皮膚にも常在菌

皮膚には、ブドウ球菌が共存しています。ブドウ球菌が皮脂を脂肪酸とグリセリンに分解してくれます。その脂肪酸が他の病原菌を防いでくれています。また常在菌自体が他の感染を防いでくれています。

新型コロナウイルスも有ります。殺菌も手洗いも必要です。しかし神経質に皮膚を殺菌し過ぎないことです。貴方を守ってくれている常在菌も洗い流し殺してしまいます。口腔内、鼻の中、性器にも常在菌がいて共存しています。

腸内細菌叢

その中で最も重要で大量の細菌が居るのが腸内です。乳児の時から、食材に付着している菌や、手指を舐めたり、落ちている物を食べたりして、細菌も一緒に食べて一人一人の腸内細菌叢が出来あがります。

腸内細菌叢は私達の身体に必要なビタミン類のビオチン、リボフラビン、ニコチン酸、パントテン酸、ピリドキシン他などを製造してくれます。そして様々な免疫も支えてくれています。

ミトコンドリアは大腸菌の一種

20億年前、我々の祖先の細胞に大腸菌の一種が感染しました。この細菌はエネルギーを造ることが出来ます。我々の祖先は、このエネルギーを使い進化し多細胞の生命体になり、現在も生きて行くことが出来ます。それがミトコンドリアです。ミトコンドリアは私達の細胞に感染、侵入している大腸菌類似の細菌です。

病気をしない程度の清潔さ

洗う事、消毒する事は大事です。しかし細菌に生かされ共存している我々は、神経質になりすぎない事です。

虫も食わない清潔な野菜か。虫がいて虫が食べられる安全な野菜か。貴方はどちらを選びますか。雑菌も栄養の内です。

発酵食品

発酵食品や酵素などは食材に多種あります。

発酵したものは、やや温になる

大豆は身体を温めも冷やしもしない平です。大豆を発酵した味噌は身体を温める温です。しかし塩分が多いと少し身体を冷やします。また同じ大豆の発酵食品である納豆は身体を少し冷やす涼になります。

緑茶は涼です。緑茶を半発酵したウーロン茶は平に成ります。全発酵した紅茶やプアール茶は温に成ります。

干した物もやや温

干した物や乾燥させると食性が変わります。カツオが鰹節になるようにアミノ酸が変化し味も変わります。イカは平から微温ですが、日に干したスルメは温に変化します。スルメに成ると味も変わります。柿も涼ですが、干し柿は微涼と変化し冷やす力が弱まります。

発酵は酸味

発酵すると酸味が生まれます。

  1. 酸味は収の働きで脱肛、下痢等に効果があります。
  2. 酸味を多食すると筋肉や内臓筋が弱り、逆に脱肛や内臓下垂を引き起こします。東洋医学で言う脾虚が相剋で生じます。
  3. 酸味を過食すると胃腸機能が弱くなり、更に脾虚が酷くなります。

摂り過ぎは禁物

身体に良い物でも多くの量を、或いは毎日の様に摂り過ぎると逆に身体に害になります。多くの種類の食材を摂ります。毎日、食べて良い物は主食だけです。

五味では

  1. 酸っぱい。酢の物、発酵食品、酸味の果物他
  2. 苦い、アクの有る食材。ゴボウ、ナス、ホウレン草、ゴーヤ他
  3. 甘い。穀類、イモ類他
  4. 辛い。ネギ、ニンニク、ニラ、玉ねぎ、大根、香辛料他
  5. 塩辛い。海産物他

の五種類を摂ります。

五色では

  1. 青い。濃緑色野菜他
  2. 赤い。肉類、赤い果実や紫ブドウ他
  3. 黄色い。黄色野菜、淡色野菜、穀物他
  4. 白い。山芋、大根、白ネギ、玉ねぎ他
  5. 黒い。黒胡麻、海藻類他

の五種類です。

摂り過ぎの害、不足の害があります。食養生は適当に、いい加減なのが一番です。