食養生の五味

漢方食養生

2020年10月13日。写真は和歌山、円月島。

五味の働き

東洋医学では全ての食べ物や漢方薬を5種類の味に分けます。
この五味の分類により、身体の何処、東洋医学の臓腑に働くか、どういう働きが有るか知ることが出来ます。

素問の食養生

東洋医学の古典の素問、臓気法事論篇には、五味の働きが記載してあります。
辛は散じ、酸は収め、甘は緩くし、苦は堅くし、鹹は軟らかくす」と有ります。

辛い物は肺に働き、発散作用があります

発汗やストレスの発散などの働きが有ります。
身体の浮腫みを取ります。

酸っぱい物は肝に働き、収の働きで発散の逆になります

発汗のし過ぎや脱肛、子宮脱、下痢等に対応します。
身体を潤します。

甘い物は脾に働き、心も身体も緩めます

緊張した筋肉の収縮や内臓の痙攣性の痛み、緊張した心も緩めます。
民間療法では、精神的ストレスで緊張が激しい時に熱いお湯に砂糖を入れ、甘い砂糖湯を熱いお茶の様にして飲み、緊張を取る方法があります。
身体をやや潤します。

苦い物は心に働き、身体を固く縮める働きです

夏の暑さで緩んだ身体、筋肉を引き締めます。炎症でタダれた患部を縮、抗炎症し、浮腫みで緩んだ身体を縮、利尿します。
身体の浮腫みを取る力は強力です。

鹹、塩からい物は腎に働き、軟らかくします

硬いイボや腫瘍、筋腫などを柔らかくし降ろす働きがあります。
身体を潤す力は強です。

薬膳として、ご自分の現在の身体状況に合わせて食材を組み合わせます。

五味の多食

素問、五臓生成篇。五味の合する臓器。多食により相克の傷る所には以下の記述があります。
鹹の多食は、血が粘稠となり、脈行渋る
苦の多食は、皮膚がガサガサになり
辛の多食は、筋肉が引き攣れ爪が枯れる
酸の多食は、肉が萎縮し唇が巻き上がる
甘の多食は、骨が痛み、髪の毛が抜けると有ります。

五味を多食すると

上記を現代医学的に出来るだけ分かりやすく解説していきます。東洋医学の臓腑は西洋医学の臓腑とは異なります。

鹹、塩からいの味は、腎の臓に配当されます。
食べすぎると相剋の心の臓を痛めます。
血液が粘稠となり血栓が出来たり、血圧上昇や不整脈狭心症などを引き起こします。

苦い

苦い味は、心の臓に配当されます。
食べすぎると相剋の肺、呼吸器、皮膚表面の臓を痛めます。
皮膚が乾燥しガサガサとなります。

特に、湿度が下がる冬場に酷くなる皮膚病は要注意です。乾燥性の老人性掻痒症なども酷くなります。冬場に炬燵やお布団で温まると酷くなる咳の麦門冬湯証などにも禁物です。体毛が抜けやすくなるとの記述も有ります。

辛い

辛い味は、肺の臓に配当されます。
食べすぎると相剋の肝の臓を痛めます。

筋肉が引きつり、こむら返り等の筋肉の痙攣、平滑筋である内臓筋も収縮しますので腹痛などが起きやすくなります。爪が枯れてくるとの記述も有ります。

酸っぱい味は、肝の臓に配当されます。

食べすぎると相剋の脾の臓を痛めます。
肉が萎縮し筋肉が弱ります。唇や舌の筋肉も弱ってきます。アトニー体質、弛緩性が悪化し内臓筋も弱り、胃下垂、脱肛、子宮脱、内臓ヘルニア、遊走腎などの内臓下垂を起こしやすくなります。

酸っぱい物は収の働きが有りますので、内臓下垂の食養生としては推奨されます。しかし食べすぎると脾の肌肉を弱らせ内臓下垂が酷くなります。やり過ぎは禁物です、ご注意を。

甘い

甘い味は、脾の臓に配当されます。
食べすぎると相剋の腎の臓を痛めます。
骨が弱ります。骨粗しょう症が進行し膝関節症や股関節、脊椎分離症などで腰痛も酷くなります。老化を早め髪の毛が抜けやすくなります。

多食の害は苦みだけ正経。他は相剋関係です。

五味の過食

素問、五臓生成篇には、「肝は酸を欲し、心は苦を欲し、中略、腎は鹹を欲す」と五味の合する臓腑が記載されています。

素問、生気通天論篇には
天に高く太陽が輝き万物に生命力を与え守っているように、人間の陽気も日中は身体の外に在って外邪を防衛している、それが衛気である」と述べられています。

五味の過食

また過食による相克の害が述べられています。
ここでも多食と同様に過食でも心の苦みのみ正経です。

酸の過食は、肝気あふれ、以って脾気すなわち絶す
酸は肝の臓に合し
酸っぱい物の過食は、肝気が充実し過ぎて、相剋の脾気が損なわれ、胃腸機能が弱くなる。

鹹の過食は、大骨の気労し、短肌、心気抑える
鹹は腎の臓に合し
鹹、塩からい物の過食は、腎気が充実し過ぎて、肌が弱り荒れガサつき、相剋の心気が抑えられ血脈の流れが渋り、高血圧や多血症、血栓症を引き起こす。

甘い

甘の過食は、色黒く、腎気、衝せず
甘は脾の臓に合し
甘い物の過食は、脾気が充実し過ぎて、息が荒くなり、相剋の腎気が損なわれ皮膚が黒ずみ、上衝するほどの力もない血虚の地黄が適応する肌黒の四物湯証になる。

苦い

苦の過食は、脾気濡れず、胃気乃厚し
苦クは心の臓に合し
苦い物の過食は、心気が充実し過ぎる事により、相生の脾気も充実し過ぎて、痩せて食欲が増進します。
生薬の刻みや粉末化などの加工職人さん達は、苦みの黄連を加工する日は、お弁当を3つ位持参するそうです。お腹が空いて堪らないとの事。

素問、生気通天論篇では、苦、心の所だけ相生関係に成っています。後は相剋関係です。
同様に五味の毒消しが記述してある素問、臓気法事論篇でも「甘は苦により瀉される」と苦、心のみ相生関係が記載してあります。
和菓子の甘い毒を日本茶で消すのと同じ理屈になります。

辛い

辛の過食は、筋脉沮弛、精神乃ち央す
辛は肺の臓に合し
辛い物の過食は、肺気が充実し過ぎて、相剋の肝気が損なわれ筋力を失い筋力が低下します。筋力が低下する麻痺や運動不全には甘い物の過食は害となります。また精気も神気も低下します。

五味の禁止

素問、宣明五気篇には、お病気ごとに対する禁止する五味について記述されています。

病ごとの五味の禁止

東洋医学の臓腑は西洋医学の臓腑とは異なります。

酸は筋に走る。筋病は酸味の物を多食する無かれ
酸は肝に属し、酸は肝に属する筋に作用します。筋病は酸味の物を多食してはいけない。
筋肉が痙攣したり、収縮する肝の臓の病のパーキンソン病や振戦には酸味の食物の多食を禁じます。

苦い

苦クは骨に走る。骨病は苦味の物を多食する無かれ
苦は心に属し、苦は心と相剋の腎に属する骨に作用します。骨病は苦味の物を多食してはいけない。
苦みは相剋の腎を剋します。そのため骨の弱った骨粗しょう症や変形性膝関節症、脊椎分離症には苦い物の多食を禁じます。

苦みはアクであり、野菜のシュウ酸や玄米のフィチン酸などのアクは、酸アルカリの中和反応で骨中のミネラルであるアルカリ金属のカルシウム、マグネシウムなどを溶かし体外へ排出します。シュウ酸は熱分解しますので、アクのある野菜はボイルや炒めるなどの温野菜がお勧めです。

甘い

甘は肉に走る。肉病は甘味の物を多食する無かれ
甘は脾に属し、甘は脾に属する肉に作用します。肉病は甘味の物を多食してはいけない。

甘い物は筋肉の器質的な疾患、筋肉が衰え萎縮する病や小児麻痺、斜視などには甘い食物の多食を禁じます。

辛い

辛は気に走る。気病は辛味の物を多食する無かれ
辛は肺に属し、辛は肺に属する気に作用します。気病は辛味の物を多食してはいけない。

辛い物は代謝を活発にし、精神的にも高揚、興奮します。精神的な病で興奮、気が昂りすぎている時には発散作用にて余計に興奮します。

鹹は血に走る。血病は鹹味物を多食する無かれ
鹹、塩からいは腎に属し、鹹は腎と相剋の心に属する血に作用します。血病は塩からい物を多食してはいけない。
塩からい物は、浮腫み。血圧を上昇させます。梗塞や血圧の高い人は塩からい食物の多食を禁じます。

ここでは各臓腑が病になり陽証或いは実証の時、更に臓腑を強める五味を戒めています。
上記の酸、甘、辛は同じ臓腑の正経です。苦、鹹は相剋の臓腑です。

肝の筋は、筋肉の機能的な収縮異常と考えます。筋肉の痙攣やこわばりなどです。
脾の肉は、筋肉自体の器質的な衰えと考えると分かりやすいです。

五味の教え

漢方、東洋医学には基礎医学として、解剖学は黄帝内経、霊枢、難行です。
薬理学は本草学。
臨床医学は傷寒金匱などの古典です。

黄帝内経の中で治療学である難行、霊枢は心王説理論で書かれています。
黄帝内経の中で素問だけ脾王説で記述されています。素問は養生学に当たります。

五味の働きは、身体の状態に合わし摂ったら良い食養生を書きました。
五味の多食は、同じ物を多く食べた時の身体への害が書いてあります。
五味の過食は、好きな物だけを更に食べ過ぎた時の身体の状態が書きました。
五味の禁止は、病になった時に食べてはいけない物を書きました。

私達は弱いです。「これは身体に良い、健康に良い」というものには直ぐに飛びつきます。
しかし、好きな物を禁止されると耳を傾けません。

養生編である黄帝内経素問には食べる効能より、多食、過食の害、食の禁止の方が圧倒的に多く書かれています。
欲を出す事も必要です。
しかし戒める事の教え、大事さを黄帝内経素問は伝えています。