2022年9月5日。写真は、大分県由布市。亀の井別荘です。
小柴胡湯による間質性肺炎
30年ほど前、漢方薬が化学薬品の副作用防止として使われていた時代がありました。その時、盛んに使われいたのが小柴胡湯です。漢方薬の出荷額の圧倒的トップが小柴胡湯だった時代です。
そして小柴胡湯による間質性肺炎が報告されたのです。柴胡が間質性肺炎の原因だと学会やテレビでも言われていました。その頃は、未成熟で肌色に近い三島柴胡の1年根が出回り、もてはやされてもいましたので柴胡が原因だった可能性もあります。
しかし、同じ柴胡剤である柴胡桂枝湯や四逆散での間質性肺炎の報告は無かったと記憶しています。
間質性肺炎の原因は柴胡だったのか
この時期は、尖黄芩の野生品から安価な栽培品の黄芩が使われだした時期でもあります。その後20年程して糸練功の副作用診をしている時に、未熟な黄芩のアクが広南桂皮で解消することを見つけました。広南桂皮以外にも菊花や赤芍薬でも解消すると思われました。
柴胡桂枝湯には、黄芩2グラムに対し広南桂皮2.5グラムが含まれます。また四逆散には黄芩が含まれていません。この2処方では間質性肺炎は出なかったと記憶しています。通説のように柴胡に問題が有ったのでしょうか。
黄芩
最近、黄芩の質が更に悪化してきているのでしょうか。以前は無かった柴胡桂枝乾姜湯などでも黄芩のアクが問題になっているようです。柴胡桂枝乾姜湯に含まれる黄芩量2グラムに対し、桂皮量は2グラムの等量です。
柴胡桂枝乾姜湯の桂皮は広南桂皮ではなくベトナム桂皮を使用することが多いです。柴胡桂枝乾姜湯でも桂皮量を増量するか、広南桂枝に切り替えると黄芩のアクは解消するかもしれません。
野生の黄芩
野生の黄芩は4年根以上を採取します。栄養豊かな畑の栽培品の黄芩は2年根で太くなり採取されます。創業以来40年間、太陽堂漢薬局では黄芩は野生品の尖黄芩しか使っていません。尖黄芩は黄芩の根の先端部分です。先端以外は毒があり破棄していた生薬です。最近の尖黄芩は野生品でも太い部分が混在しているように感じます。
黄芩のバイカリン
黄芩にはバイカリンという成分があります。畑で栽培した黄芩はバイカリン含量が多く17、18パーセント等ざらに有ります。太陽堂漢薬局では14パーセント未満の尖黄芩しか使用しません。
バイカリン含量の多い黄芩は糸練功の副作用診に引っかかります。バイカリンが肝機能を悪化させたり、黄芩の毒ではありません。ただバイカリン自体に問題はなくても、バイカリン量が多い黄芩に含まれるサポニンに問題があるのではと考えています。
芍薬
3、40年ほど前、「当帰芍薬散を服用するとムカツキがする」と話題になったことが有ります。その原因は当帰芍薬散の中の芍薬のせいだとの見解が出されました。
芍薬は線維が多いため胃腸の負担になるからだと言われていました。しかし同じ芍薬が入った小建中湯や桂枝加芍薬湯では胃腸障害は起こりません。
胃腸障害の原因は芍薬なのか
経験漢方処方分量集によると、当帰芍薬散の芍薬量は4グラム、桂枝加芍薬湯や小建中湯では芍薬量は6グラムです。当帰芍薬散の1.5倍量の芍薬が入っています。もし芍薬の線維が胃腸障害の原因ならば、桂枝加芍薬湯や小建中湯では更に胃腸障害が強く出るはずと思われます。
当帰芍薬散には当帰などの血虚に対する薬味が入っています。血毒の原因は油脂です。血剤には油性成分が含まれ、この血剤の油性成分が血毒の原因の脂を排泄します。
推測ですが、当帰が胆石、胆砂などの流れに影響を与えているのかもしれません。当帰などの血剤と芍薬の消化器や筋肉を緩める働きが胆石、胆砂、胆汁の流れを良くしているのかもしれません。当帰だけでなく、血剤の桃仁などでもムカツキを訴える人が、いらっしゃる現象も納得がいきます。
白人参
漢方を勉強した人では、白人参で血圧が上昇する高血圧の人がいらっしゃるのは周知の事実です。しかし動物実験では、人参は血流を改善するため、血管抵抗を減らし逆に血圧を下げるそうです。
では何故、人間では血圧が上昇する人がいるのでしょうか。長年疑問に思ってきたことでした。
若衆面と白人参
今から20年程前に白人参で血圧上昇する人は、目黒玄龍子の八面体質論の若衆面を呈する人が多い事に気付きました。糸練功で確認すると、若衆面の人は五志の憂と言うストレスや自律神経の異常の反応点に苓桂朮甘湯証が有るのです。
苓桂朮甘湯証の血圧上昇
苓桂朮甘湯証の人の手掌に白人参を載せ、糸練功で副作用診を取ると血圧の異常を取る事が出来ます。
苓桂朮甘湯証は茯苓、白朮の胃内停水が原因により、桂枝、甘草の気の上衝が起きる病態です。「白人参は水を呼ぶ」と言われ潤の働きです。苓桂朮甘湯証の胃内停水が酷くなります。また白人参は補気剤で苓桂朮甘湯証の気の上衝も酷くなると考えられます。
結果、白人参で血圧が上昇するのではと推測されます。
牡蠣
小柴胡湯加牡蠣などの牡蠣を服用すると、便秘になる人がいます。牡蛎の中のカルシウムが腸の平滑筋を収縮させ便秘になる場合があります。また血管の平滑筋も収縮させるため狭心症や心筋梗塞、血圧の上昇などに影響を与える事があります。
桂枝加竜骨牡蠣湯は便に影響しない
しかし、同じ牡蠣なのに桂枝加竜骨牡蠣湯などでは便秘になった人の経験がありません。不思議でした。化石の竜骨、マンモスや哺乳類の化石が入っているからかもと思い始めました。
化石の牡蠣
後日に知ったことですが、中国では日本の様に生の牡蠣殻を牡蠣として使っていないのです。中国では牡蠣殻の化石を牡蠣として使っています。しかも殻の厚さが数センチから10数センチ以上もある古代の大きな牡蠣殻です。
推測で分かりませんが、化石の牡蠣や化石の竜骨には岩塩と同じように土の中の微量ミネラルが含まれているからかもしれません。
甘草
低カリウム血症と言う言葉を聞かれた方も多いかと思います。筋力が低下し疲労感や不整脈、浮腫み、血圧上昇などの症状を呈します。
カリウムは体液に伴い体外へ排出されやすいです。その為、発汗や下痢、嘔吐、尿などでもカリウムは失われていきます。利尿降圧剤を服用していると、低カリウム血症になり易いのも利尿によるカリウム低下です。昔は利尿降圧剤とカリウム剤を必ず併用し投薬されていました。
カリウムはサラダなどの生野菜、豆類、果物など、多くの野菜類に含まれています。
生甘草
漢方薬の甘草による低カリウム血症も時々話題に上ります。漢方の古典に従うと漢方薬は炙甘草を使用し、生甘草は直接触れて効果を期待する甘草湯、桔梗湯のみになっています。
日本では全て生甘草
しかし現在の日本では炙甘草湯を除き、すべての漢方薬が生甘草を使用するのが通例となっています。その分、古典より甘草量を減らして日本では生甘草が処方されています。
日本漢方で使われる甘草量
動物実験では人間に換算し1日量4、5グラムの生甘草を1年以上継続すると低カリウム血症が発症するようです。
通常の漢方薬には1日量1から1.5グラムの甘草が含まれています。低カリウム血症を発症する3分の1から、4分の1量の甘草量ですので普通の方は心配いりません。
人参湯や桂枝甘草竜骨牡蛎湯などは1日量3グラムの甘草量ですので、野菜嫌いの方や利尿降圧剤を服用、副腎やアルドステロンなどに問題のある方は低カリウム血症を起こしやすいので注意が必要です。
食品添加物の甘草
また、甘草のグリチルリチン酸は甘味料として食品添加物としても使われます。砂糖の200倍の甘さがあるため天然の甘味料として様々な食材に大量に使われています。また甘草の黄色で色付けされた漬物のタクアンなどもあります。私達は漢方薬以外にも食品添加物として甘草を摂取しています。野菜嫌いの方や野菜不足の方は特に気を付けなければいけません。
昔は問題にも成らなかった漢方薬による低カリウム血症。生活環境や食の変化により問題になる事も増えてきたように思われます。