八綱分類
東洋医学の理論の中に五気と言う概念があります。五気は食材や漢方薬が身体を温めるか冷やすかの目安です。熱、温、平、涼、寒の五段階に分けます。
八綱分類と言う体質や病態を見分ける理論が有ります。
- 五気である寒熱。
- 水分の状態である燥湿。
- 身体を守り免疫力を上げる治癒力の正気の虚と、病の勢いである病邪の実の概念である虚実。
この3つの指標を組み合わし八綱分類が出来あがります。燥湿ではなく表裏の概念を組み合す八綱分類も有ります。
寒熱、燥湿、虚実を組合せ。燥、寒、虚証。燥、熱、実証など8種類の体質、病態に分けられます。
寒熱、燥湿、虚実は、病性と言われ病の性質を表します。収散、升降の概念は、病向と言われ病の向きを表します。
病向
病向の例を挙げると、高血圧は升の病向ですので、降の食養生、漢方薬が合います。便秘は升、収の病向ですので、逆の降、散の食養生、漢方薬が合います。下痢は降、散ですので、升、収の食養生、治療が適します。
病性の例を挙げると、高血圧や肝炎などに使用される大柴胡湯証は燥、熱、実ですので、反対の湿、寒、瀉の食養生、漢方薬が合います。婦人科や不妊症に使用される当帰芍薬散証は湿、寒、虚ですので、反対の燥、熱、補の食養生、漢方薬が合います。
寒熱と燥湿
病向の中で最も大事なのは、寒熱の五気と燥湿です。
熱温、燥の食材は辛い物、発酵した物が多いです。ニンニク、味噌、生姜、ニラ、羊肉、カラシ、カレー。寒い北国のモンゴルや北海道ではマトンの食文化があります。
寒涼、潤の食材は苦みやアクのある穀物、果物、海産物などが多いです。玄米、小麦、柿、ハチミツ、牛乳、バナナ、梨、アスパラ、もやし、海藻、ハトムギ。ただ小麦は精白したウドン、食パンでは五気は平になり常食できます。
病性の例で考えれば、大柴胡湯証は、熱、燥、実ですので、寒涼、潤の食養生。実証に対する瀉法を考慮すると、玄米、精白していない小麦、柿、アスパラ、海藻、ハトムギなどが合います。
当帰芍薬散証は、寒、湿、虚ですので、熱、燥の食養生。虚証に対する補法を考慮すると、ニンニク、味噌、生姜、ニラ、羊肉、カラシ、辛過ぎないカレーなどが合います。ただカレーなどで辛すぎると瀉法になる場合もあります。
五志の憂
東洋医学での五志の憂とは精神神経の状態を現しています。自律神経失調症、躁うつ病、パニック障害、過呼吸、統合失調症、発達障害、痴ほう症など多くの病態が該当します。五志とは怒、喜、憂、悲、恐の5つの感情です。
感情が昂っている時
この感情が昂っている時は、升の状態になりますので散や降の食材が適応します。
- 蒸散作用のある葉類。紫蘇、苦味のセリ、苦味のホウレン草、苦味の日本茶など
- 降下の働きがある種子類。胡麻、栗、玄米、豆腐、ハトムギ、小麦など
- 降下の働きがある実物。苦味のナス、ナス科のトマト、梅干し、梨、柿、大棗など。大棗は赤色で心の臓に配当され上記の種子類の小麦と共に、急迫症状を緩和する甘麦大棗湯の主薬となります。
- 発散作用がある芳香のある花。香りが強く散、また苦く降の働きもある菊花
- その他。人参、ハチミツ、昆布
落ち込んでいる時
逆に落ち込んでいる時は、降の状態になりますので升の食材が適応します。
- 上昇の気がある根菜類。ヤマイモ、辛みのニンニク、ニラ、ネギ、大根、生姜、玉ねぎなど
- 発泄作用のある新芽類。アスパラカス
- その他。胡桃、牛肉、ウナギ、辛みのカレー
糖尿病
糖尿病は初期に口渇が激しく、東洋医学的には実証を呈します。白虎加人参湯や乾地黄が適応することが多い疾患です。白虎加人参湯の薬味の石膏や乾地黄は、血糖値の升に対し降の働きです。
初期を過ぎると口渇が減少し、疲れやすく糖質代謝の不完全な虚状を呈するようになります。この状態には補の食養生が適応します。血糖値が上がりやすい病態は升の病向になり降の食養生が適応します。
糖尿病でヘモグロビンエーワンシーが上昇すると、併発する余病として血栓症が問題となります。これは収の病向になり散の食養生が適応します。
糖尿病の食養生
糖尿病では一般的に、補、降、散の食養生が適すると考えられます。養生食としては、胡麻、玄米、人参、ハチミツ、ユリ根、枸杞、タラ根、ホップ、プアール茶、クマザサ等になります。
薬味として初期には緑豆、緑茶。中期には山薬、薏苡仁。末期には黄耆、枸杞。また糖尿病に欠かせない生薬として朝鮮人参があります。
朝鮮人参には
- インシュリンの節約。
- インターフェロン誘起。抗がん剤の副作用減。
- ヘルパーT細胞、リンパ球増加。
などが報告されています。
高血圧
高血圧は血圧が上昇しますので、病性は升の状態になります。日常食では升の食材を減らし、降の食材を増やします。
高血圧の種類や年齢、東洋医学の証の違いなどで合う合わないが有ります。一般的な升、降の食材、民間薬を記します。参考にしていただければ幸いです。
高血圧に良い降の日常食は
酢、豆乳、エンドウ豆、胡麻、玄米、小麦、紫蘇、スイカ、ハトムギ、セリ、茄子、トマト、蕎麦、海藻、緑茶、梨、ホウレン草、緑茶、柿など
民間薬では、枸杞葉、杜仲葉、柿葉、麦茶などです。
高血圧に合わない升の日常食は
ニンニク、コーヒー、ニラ、ネギ、牛肉、ウナギ、羊肉、大根、生姜、玉ねぎ、ヤマイモ、胡桃、パイナップル、蒲陶、塩など
民間薬では、地黄、高麗人参、シナモン桂皮、冬虫夏草などです。
便通の食養生
便通は悩む方が多い疾患です。便秘と下痢は真逆の病態として捉えます。胆汁の流れが悪くて起きる脂溶性便、細菌性の下痢は体質的な下痢とは異なります。
便秘は実証となり、瀉法にて便を出します。便秘は升の状態になり、降にて腸の蠕動運動を促進し、便を降ろします。便秘は収の状態ですので、散により固い便を軟らかくします。
逆に、下痢は虚証となり、補法により失われた体力を補います。便が降りる下痢は降であり、升により下方向に降り易い便を上方に留めます。下痢は散の状態ですので、収により柔らかい便を固めます。
便通は東洋医学の補瀉、収散、升降の概念が分かりやすい病態です。
便通の食材
便秘に良い食材は、瀉、降、散です。
紫蘇、胡椒、昆布、スイカ、せり、茄子、ホウレン草、梨、薄い緑茶、バナナは涼、瀉ですなど。
下痢に良い食材は、補、升、収です。
ヤマイモ、リンゴ、栗、胡桃、ウナギ、蒲陶など。
二日酔い
お酒を飲み過ぎた時の二日酔い、辛いですね。二日酔いにも色々なタイプが有ります。吐き気がする人、浮腫みやすくなる人、様々です。お酒の二日酔いの予防をする食養生です。
お酒に強く、飲んでも顔が赤くならない人、翌日にお酒が残る人
- 顔が赤くならないのは涼、寒の状態。それに対し温の食養生をします。温によりアルコールの代謝を促進をします。
- 翌日までアルコールが残る状態は収。それに対し散の食養生をします。散によりアルコール、アルデヒドの代謝排泄を早めます。
- 温、散の食材。辛い、或いは香りがする食材が多いです。ニンニク、紫蘇、ミカン、胡椒、生姜、ニラ、ネギ、玉ねぎ、パイナップルなど。
お酒に弱く、飲んだら顏が赤くなる人、顏が火照り、のぼせる人
- 顔が赤くなるので温、熱の状態。涼の食材にて冷やします。
- 火照りやのぼせは升の状態。降の食材にて下げます。
- 涼、降の食材。海藻、菊花、スイカ、ハトムギ、セリ、トマト、ホウレン草、ハチミツ、牛乳、メロン、梨、緑茶など
二日酔いでなくても、普段から顔が火照ったり、のぼせやすい人は涼、降の食材を多めに摂ると良いでしょう。
二日酔い予防
お酒で浮腫みやすい人、ムカツキ吐き気がある人の予防食養生です。
浮腫みやすい人
- 浮腫むのは湿の状態。燥の食材にて身体から水分を抜きます。
- 燥の食材は、ニンニク、紫蘇、胡椒、生姜、ニラなど
ムカツキ、吐き気がある人
- 吐き気やムカツキは温の状態。涼の食材にて冷やします。
- 吐き気やムカツキは収の状態。散の食材にて発散します。
- 涼、散の食材は、大根、海藻、菊花、スイカ、メロン、セリ、ハトムギ、茄子、ホウレン草、アスパラガス、蟹、バナナ、梨、緑茶など。
ちなみに大根葉は温、生大根は涼から平、大根を煮れば温になります。お酒の二日酔いでなくても、普段から浮腫みやすい人は、燥の食材を摂るように心掛けます。
食養生に厳密は不要
東洋医学の食養生の五気の寒熱、燥湿、収散、升降の使い方が少しづつイメージ出来てきたと思います。大事な事は厳密にしない事です。
日頃から食材を見た時に、寒熱は、燥湿は、収散は、升降はと考えます。考える癖を付けるとイメージが創られてきます。燥の食材でも強弱が有ります。大事な事は厳密にしない事です。
低血圧の食養生は高血圧の食養生の逆です。冷え症の人は、温の食材と身体から水分を抜く燥の食材が合います。「水は寒なり」です。
肥満と食養生
痩せたい。食べても肥らない人、羨ましいです。当たり前ですが、食べたカロリーが多く、それより消費したカロリーが少ないと肥ります。食事のカロリーを減らすのは
- 糖質、炭水化物を制限する。糖をエネルギーに変換するインシュリンは朝方が多く、夜は少なくなります。朝食で糖質、炭水化物を摂り、夜は炭水化物を控えます。夕食です、夜食ではありません。特に夜8時以降は出来るだけ控えます。
- 糖質、炭水化物と油脂を同時に摂らない。
- ビタミン、野菜、ミネラル、海藻、頭ごと食べられる小魚などの海産物を摂りながら、低脂肪、高タンパクにします。
消費カロリーを増やすのは
- 基礎代謝を上げるために、筋肉を付ける。3ヶ月以上の期間を要します。
- 基礎代謝を上げるために、水泳などの20分以上の運動や半身浴も有効です。当日から代謝が上がります。
- 便秘を防ぎ、排便を促す。
肥満の食養生は温、燥、散
東洋医学の食養生では
- 身体の基礎代謝を上げる温の食材
- 浮腫みを取る燥の食材
- 温と燥の働きを高める散の食材
を摂ります。
例えば、牛肉は散ではなく収の働きが強いです。鶏肉は平、散でも収でもないです。鶏肉より牛肉の方が肥りやすい食材です。牛肉を食べる時は散の香辛料を使い、出来るだけ肥りにくくするのが大事です。
アレルギー
アレルギー疾患で悩まれる方は多いです。花粉症、喘息、アトピー性皮膚炎、湿疹、結膜炎などです。
アレルギーには散
漢方ではアレルギーの場合、散、発散の治療や食養生をします。海産物による食中毒、蕁麻疹では香蘇散が有名です。構成薬味を見ると香附子、蘇葉、紫蘇の葉、陳皮、ミカンの皮を干した生薬と発散の漢方薬味が多いです。
橘皮大黄芒硝湯という漢方薬も有ります。魚介類や肉類、豆類、野菜等でも食中毒や慢性の蕁麻疹に使用します。これも橘皮、ミカン科の皮を干した生薬が主剤となります。このように漢方ではアレルギーに散の働きがある生薬を多用します。
食養生でアレルギーに対し散の働きがある食材は、発散作用のある紫蘇。利尿作用のあるウリ科のキュウリ、スイカ。消炎作用のある苦み、アクのある菊花、セリ、茄子、緑茶。消化酵素の多い大根、パイナップル。滋潤作用の梨。ミネラルの多い昆布、ワカメなどです。
他に高麗人参には異種タンパクに対するアナフィラキシー、皮膚反応を抑える働きがあります。また霊芝はヒスタミン、アセチルコリンに拮抗します。アーユルヴェーダ医学で使用する鬱金なども有効です。他に葉緑素、食物繊維、乳酸菌などの発酵食品、カルシウムなどもアレルギー体質の改善に有効です。