誰でも出来る糸練功

漢方コラム

2021年1月7日。写真は北海道留寿都。イゾラ山頂から観た洞爺湖です。

医療気功の糸練功

今から30年程前、膝関節が腫脹している患者さんの漢方治療している時です。腫脹している膝に手掌を近づけると、触れていないのに熱を感じました。手背では感じません。何故手掌で熱を感じるのか疑問でした。

故入江正先生との出会い

その頃、毎月読んでいた東亜医学会の漢方の臨床に、故入江正先生の論文が有りました。その中に「手掌で熱を感じ、手背で寒を感じ」の一文を見つけました。それが入江正先生との出会いです。入江先生にFTフィンガーテストを習い臨床に応用し始めました。

入江先生に漢方とFTに関し質問した事があります。「漢方では、君が研究し発表しなさい」とお手紙を頂き、FTに漢方で十分に使える技術を加え糸練功と名づけました。

そして入江先生との出会いの機会を与えて頂いた漢方の臨床に、入江FTと糸練功の論文を発表したのが2010年12月です。入江先生に指示を受けてから20年も掛かってしまいました。

生体物理学の入江FT、糸練功

筋肉は電気的な刺激により動いています。心臓も筋肉ですので電気刺激で動いています。信じられないでしょうが、ロボットと一緒です。脳内で電圧が高くなり過ぎ、一気に放電すると癲癇の発作になります。東洋医学で言う経絡は、電気が流れやすい回路と考えられます。

身体の異常部分は、正常部分と異なる電磁場がある事が分かっています。その異常部分に刺激を与えると、中枢神経を通し骨格筋のアルファーモータニュロンに刺激が伝わり、筋力が低下します。それを使ったのが筋力テストで、オーリングテスト、FT、糸練功です。原理は生体物理学です。

糸練功の完成

FTに合数である病態を細かく分ける技術の概念と、様々な病気の反応穴、適量診等の技術を加え現在の糸練功が出来ています。糸練功は基本的に筋力テストです。フィンガーテストやオーリングテスト、爪楊枝テスト、腕筋力テストなどと同じです。

患部や経絡を通る電気的な流れによる筋力低下を利用します。目には見えないので、昔の人はこの現象を気功と言ったのかもしれません。ミスを減らす目的で、糸練功には上海気功研究所の気功の調身という技術を取り入れています。

糸練功の技術

糸練功を使うと、漢方薬や治療法が合っているかの判断だけでなく、黄帝内経難経十三難、脈診で五色を診る皮膚の尺膚を使い適量まで出す事ができます。

糸練功は高度な筋力テストです。今までお教えした医療関係者は1000人を超えています。お教えすると誰でも糸練功は出来ます。

私は、師の入江先生がされていた訓練を毎朝30分間、10年間続けました。冷蔵庫で冷やした缶ジュースにタオルを4枚掛け、その上に20センチほど本を積み上げます。本の上から20センチ下の冷たい缶ジュースを糸練功で認知する訓練です。毎日、訓練すると糸練功の腕が上がります。より正確な判断が出来るようになります。でも残念ですが、訓練を続けられている先生方はごく僅かです。

訓練しないと腕は落ちる

訓練しないと腕は落ちていきます。包丁は砥がないと錆びます。そして糸練功は出来るという自信だけ残り、自分の腕が錆びたことに気付いていらっしゃらない先生方が殆どです。

現在、糸練功の訓練は冷たい缶ジュースの認知訓練より十二経筋を伸ばす方法が効率的だと気付きました。十二経筋を手の経筋から足の経筋へ、陽の腑の経筋から陰の臓の経筋へ伸ばすと経絡、臓腑が補われます。そして糸練功がシャープに反応するようになります。

通常8ガウスと言われる経絡の電気的流れが良くなるのか、理由は分かりません。私たち太陽堂漢薬局では毎朝、十二経筋、経絡を伸ばす訓練をしてから患者さんに接するようにしています。

糸練功の合数、改善度合いと症状

患者さんの病態を把握する四診の一つとして脈診の変わりにも使われる糸練功。糸練功では病態の改善を診る目安として合数と言う概念が有ります。

合数の概念

登山の時に頂上が10合。同様に合数は、病を克服するのも登山と同じだと考え付けた概念です。症状と合数には相関関係があります。0合が病態としては悪く、10合は症状が落ち着いています。

一般的な慢性病では3合以下は症状が激しいです。4合を超すと良い時と悪い時の波が現れ一進一退の状態となります。改善が進み7合を超すと一皮一皮むける様に波が引く様に症状が改善していきます。

しかし症状が非常に激しい患者さんは3合位の改善でも症状が和らぎます。また罹患期間の長い患者さんや、病が体質的に起因している場合などは10合前後で初めて症状が改善します。癲癇などでは10合になり数ヶ月が過ぎてから発作が減少し始めます。

急性病の場合は、最も早く3、4合を過ぎると症状が改善し6合以上で要治療の反応が消え治療が終了します。

糸練功の合数は病状改善の一つの目安とすることが出来ます。

音素診

東洋医学には様々な診断方法があります。人間の身体には不思議な反応があります。自然の不思議なのかもしれません。ここでは不思議な生体の反応を使った東洋医学の診断方法をご紹介します。

黄帝内経素問の金匱真言論、陰陽応象大論に五音と言う理論があります。五臓に反応する音階により診断、治療をしていく理論です。クラッシックや音楽によってワクワクしたり落ち着いたりするのと同じかもしれません。

五音は音階

五臓は肝、心、脾、肺、腎です。それに該当する五音は角、徴、宮、商、羽です。音階ではミ、ソ、ド、レ、ラになります。

肝は五音は角、音階ではミ。心は五音は徴、音階ではソになります。黄帝内経難経の六十一難に「聞いてこれを知るとは、其の五音を聞いて以って其の病を別るなり」とあります。診断にも使われていたと思われます。

五音と似ていますが、気功では六字訣と言う功法があります。発音により臓腑を反応させ健康になる気功法です。

骨へ反応する音素診

末原征朗先生が開発された脊椎診です。後頭骨1音、頚椎7音、胸椎12音、腰椎5音、仙骨1音、尾骨1音、腸骨1音で28の音で反応します。

音素診による診断

異常のある脊椎部分は音に反応します。例えばゴの音で反応すれば頚椎2番に異常があります。ゾで反応すれば腰椎4番に異常があると判断できます。坐骨神経痛でゾで反応すれば、腰椎4番の漢方治療を行うことにより坐骨神経痛は解消します。脊椎だけでなく、顎関節はゲの音で反応します。

経筋の病

寒により経筋が痛められると経筋の病になります。凝りや痛みが生じます。治療は焼針の適応となります。焼針は身体の末端から体幹に向かって行わないと誤治を起こしますので注意が必要です。

経筋に異常があるとボゥの音で反応します。ボに続いてゥを入れます。

音素診での注意点

注意しないといけないのは脊椎診は母音を使いません。音を伸ばさない事です。胸椎1番の音素診はユです。ユゥと母音を入れません。ユです。逆に顎関節診のゲは、ゲェと母音を入れないと反応しません。ゲェです。

六部定位脈診と腹診、舌診の関係

東洋医学には独特の世界観があります。大宇宙の中に小宇宙、小宇宙の中に更に小宇宙と言う概念があります。

六部定位脈診

六部定位脈診は手首の内側、体幹側で全身を診ます。昔の人は、大宇宙の身体を小宇宙の脈診部で診ると考えたのだと思います。

左右の脈診部

右の寸は肺大腸、関は脾胃、尺は心包三焦の反応が出ます。左の寸は心小腸、関は肝胆、尺は腎膀胱の反応が出ます。寸は上焦、関は中焦、尺は下焦です。

五積の腹診

腹診には様々な腹診法が有ります。日本で発達した古方の切診、圧迫診。病因を示した甲把流他があります。古方の腹診は薬方の証に直接に結びつきます。甲把流は病因の気血水が簡単に分かります。

もう1つ、私が使う腹診があります。黄帝内経難経の八十一難に五積の腹診があります。

  • 肺積は右脇下。六部定位脈診では右上焦、右寸の脈
  • 脾積は臍上。六部定位脈診では右中焦、右関の脈
  • 心積は鳩尾下。六部定位脈診では左上焦、左寸の脈
  • 肝積は左脇下。六部定位脈診では左中焦、左関の脈
  • 腎積は下腹。六部定位脈診では左下焦、左尺の脈

腹診部と脈診部は左右、上中下焦に於いて驚くほどの類似点があります。昔の人は腹診にも小宇宙に基づいていると考えたのでしょう。

舌診

更に舌診も同じ小宇宙になっています。

  • 上焦の舌先が心肺
  • 中焦の舌中央が脾胃
  • 下焦の舌奥が腎
  • 中焦の舌中央両側に肝が配当されます。

東洋医学では、脈診も腹診も舌診も共通の左右と上中下焦があります。身体全体を大宇宙とすると、すべて診断点は小宇宙になります。