証に合わす食養生

漢方理論

東洋医学の病理概念。漢方研究会で発表

漢方太陽堂が発表報告した論文。
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食養生

2021年11月。伝統漢方研究会第18回全国大会。日本、伝漢研合同論文発表会

木下順一朗。福岡県、太陽堂漢薬局
福岡県福岡市、日本

諸言

東洋医学の病理概念は、「七情の内傷なければ、六淫の外邪犯さず」です。内因である七情は喜怒思憂悲恐驚、外因である六淫は風寒暑湿燥火です。

東洋医学を建物に例えれば、土台である心の養生に自ら治そうとする心があります。
土台の上に3本の養生の柱。運動休息。睡眠、入浴。食養生が建ちます。
その土台である心の養生と3本柱の養生があって東洋医学という建物が形成されます。

屋根や外見が漢方治療や鍼灸であり、土台や柱は養生です。養生の無いところに東洋医学は存在できません。医が3分、食は7分と言われる由縁です。

風邪でさえ誰にでも合う漢方薬はありません。証に合わせて漢方薬は変わります。
同様に誰にでも合う食養生など有りません。証に合わせて食養生は変わります。

薬味の気味と言われる五味が作用点である臓腑を示し、五気が寒熱です。
食養生では病性と言われる寒熱、燥湿、また病向と言われる収散、升降の判断が必須です。
食材の寒熱、燥湿、収散、升降を理解し、一人一人の患者さんの証に合わせるのが食養生になります。

証と舌診

急性病は一般的には脈診が重要であり、脈診や糸練功による経絡病の判断が必要となります。
慢性病では臓腑病の判断が重要となり、体質的で緩和な動きの舌診の重要性が増します。

舌の乾燥は陽病、湿潤は陰病の場合が多いと考えられます。
また舌苔を内臓熱の反映と捉えると、白苔は内臓熱が弱く、黄苔は内臓熱が強く、褐色から黒苔は更に内臓熱が強いと考えられます。

陰陽と食材

陽証は舌が乾燥し裏熱証を呈し舌苔は白苔から黄苔、褐色です。一般的に苦み、アクのある清熱作用や直射日光の下で育った緑色野菜、生野菜が合っています。

陰証は舌が湿潤し裏寒証を呈し白苔は無苔から微白苔です。一般的に根菜類やイモ類、黄色野菜、温野菜が合っています。

少陽病と陽明病位の燥湿

少陽病位は柴胡剤の柴胡、黄芩剤や瀉心湯の黄連、黄芩剤が中心と成ります。便秘には大黄が使用されます。

柴胡、黄芩、黄連、大黄の五味は全て苦です。苦は縮めて乾燥し降ろす働きです。少陽病位は裏熱がまだそこまで強くないため、やや湿の病位です。そのため苦の薬味で乾燥させ病因である気血水を降ろします。

一方、陽明病位になると裏熱が非常に強くなります。裏熱が強くなり燥の状態が進みます。そのため陽明病の特徴は脱水です。
潤の石膏剤や油性の桃仁、牡丹皮。便秘では潤の働きの芒硝が加わります。

病位に特徴的な薬味を考えると、少陽病は裏熱湿、陽明病は裏熱燥だと考えられます。少陽病は燥性の食材を。陽明病には潤性の食材が適していることが解ります。

陽病の食材

陽病は、少陽病の中間証、少陽病の実証から陽明病へと陽が強くなり同時に湿から燥へと変化していきます。

一般的に陽明病位にて便秘がなければ去大黄芒硝にします。大黄は少陽病位の苦、燥です。しかし芒硝は陽明病位で大黄とは相剋の鹹、潤です。陽明病には潤の芒硝が必要です。

食材では

  1. 苦み、アクの涼、燥の食材
    燥が強く実証ほど苦みアクの強いゴーヤ、ウリ科で苦やナス、ナス科で苦、ゴボウのアクなどが合います。
    中間証で燥がやや弱いホウレン草、トマト、ナス科で弱苦、ピーマン、ナス科で弱苦などです。
  2. 涼の食材
    蟹、玄米、蕎麦、他
  3. 燥の食材
    葉野菜、蒸散作用
    昆布など海藻類、海の葉野菜
    利水作用のあるウリ科のゴーヤ、キュウリ、スイカ、他
    更に陽が強く実証の燥性になると
    便秘が腸、下焦の熱を生みますので解消しないといけません。腸を潤すため火を通した線維物を多くします。食材でも潤の食材を多くします。
  4. 潤の食材
    アスパラ、もやし、玄米、ハチミツ、梅干し、マンゴ、バナナ、梨、日本茶、他
    陽明の燥病である白虎湯証に潤で降の粳米、玄米が構成薬味である理由が分かります。

日本茶は利尿作用と言われます。しかし単なる利尿作用ではなく五苓散と同じ利水作用です。消化管の水滞を血液中に運び血管内が潤うため脱水を防ぎます。そして血液中の水分量が増える事で尿量が増えます、降の働き。

日本茶には少し苦みがあり五苓散の薬味の澤瀉同様に清熱作用があります。日本茶は民間療法の五苓散に該当します。日本茶中のカフェインはアミノ酸と結合しているため吸収率は低いです。

潤の玄米食の時に燥の小豆を合わすのも合理的な毒消し調和と考えられます。

陰病の食材

陰病は、少陽病の虚証から太陰病へと陰が強くなり同時に燥から湿へと変化していきます。

  1. 補の食材
    肉類、穀類、イモ類、バラ科のリンゴ、サクランボ、桃。ナツメ、蒲陶、枸杞子など、ハチミツ、ヤマイモ、他。
  2. 温の食材
    背骨のある魚類、海老、牡蠣、貝柱、ニンニクは大蒜で香気があります、香気のニラ、ネギは葱白で香気があります、香気のある玉ねぎ、大根、ラッキョウ、酸のパイナップル、発酵食品の味噌、ヨーグルト、紅茶、他。

涼、燥のホウレン草などは酢味噌などで毒消し調和します。発酵食品の酢も味噌も温、潤です。

個別証ごとの食材例

桂枝加竜骨蛎湯証には3種の証が混在しています。どの証が強いか判断することで食養生が異なります。

  1. 桂枝甘草証。心の君火、上気
    蒸散作用の葉野菜、香気の白胡椒など。黒胡椒は味が厚くやや深く体内に入ります。
  2. 竜骨の証。脾に配当されます。
    アミノ酸の大豆、牡蠣肉、海老、魚、シジミ以外の貝類、肉では豚肉以外の鶏肉、卵、牛肉、チーズ。
  3. 牡蠣殻の証。腎膀胱に配当されます。
    頭ごと食べられる一物全体の魚介類、海産物、海藻類、ミネラル、他。
    昔の漢方家では好んでイワシを頭ごと食べられる方が多かったと思います。

苓桂朮甘湯証も2種の証が混在しています。

  1. 散が合う証
    コーヒーを飲むと調子が悪い、眠れないタイプは、胡椒、カレー、ニンニク、ニラ、玉ねぎなど香気を伴う散の食材
  2. 降が合う証
    四逆散証と同じくコーヒーを飲んでも眠れる、逆に精神的に落ち着くタイプは、芎黄散、応鐘散、川芎大黄が合うタイプです。苦みの菊花、ナス科の茄子、トマトなど

胃内停水、歯切り痕は虚実と燥湿で判断します。

  1. 虚証、舌湿
    燥の葉野菜や海藻類、小豆
    燥の香気がある辛子や胡椒、ワサビ、ニンニク
    ウリ科のキュウリ、メロン、スイカなど
  2. 実証、舌燥
    上記の燥の食材やウリ科に加え、燥性が強い苦みやアクのある食材

追記。烏賊やアスパラは浄血作用が強く温経湯証などにお勧めすると良いかもしれません。

結語

食とは、人に良い物。
薬とは、楽になる草。
膳とは、体、月偏に善い物。
薬膳とは、楽になる草で、体に善い物です。