認知症と漢方薬

その他の精神神経症

手の震えや幻覚はなくなりました。漢方研究会で発表

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認知症

2019年11月。伝統漢方研究会第16回全国大会。日本、大阪。ホテル京阪ユニバーサルタワー

木下文華。福岡県福岡市、日本

はじめに

日本の平均寿命が伸びて、高齢化社会という時代の中、昨今の漢方相談で認知症の相談が増えてきました。厚生労働省発表によると、日本の認知症患者数は2012年で約462万人、65歳以上の約7人に1人。2025年には700万人前後に達し、65歳以上の約5人に1人を占める見込みだそうです。

本人の自覚はなく、ご家族の方からの相談が圧倒的に多いです。三大認知症と言われる、血管性認知症、レビー小体型認知症、アルツハイマー型認知症。それぞれを東洋医学的な病態で捉え、認知症が回復した症例をここに発表します。

症例1

92歳、女性。医療機関診断名。認知症。

既往歴。盲腸、肝炎、軽度白内障。

現病歴。期記憶が大変悪い。深夜から明け方にトイレに起きるたびに何度も玄関ドアをバタンバタン開け閉めするので、うるさいと注意しても改善しない、ほぼ毎日。深夜から明け方のまだ暗い時間にもう朝になったと思い込み、電気ポットをつけたりする、毎日ではない。昼間は寝てばかりいる、ほぼ毎日。強引に起こせば起きて最小限のことはするが、終わるとまた寝る。ちょっとの物音でいちいち確認しようとする。

初診。認知症、胆陽証、臓腑病0.1合6プラス。甘麦大棗湯合抑肝散加陳皮半夏加生酸棗仁芍薬。「苦いもの」を食べると尿漏れする。五味で「苦」に属する薬味を用いず治療を行いました。

服用開始1ヶ月後。認知症、胆陽証、臓腑病1.3合5プラス。甘麦大棗湯合抑肝散加陳皮半夏加生酸棗仁芍薬。深夜から明け方のドアの開け閉めは、頻度が少し減ってきました。日常生活では、まわりに対する配慮が以前より出来るようになってきました。短気記憶については、ヒントをいくつも出せば断片的に思い出せるようになってきました。

服用開始3ヶ月後。認知症、胆陽証、臓腑病3.8合3プラス。甘麦大棗湯合抑肝散加陳皮半夏加生酸棗仁芍薬。少しずつ落ち着きを取り戻しているご様子。

現在、服用開始から2年経過。認知症は非常に安定している状態。煎じ薬約5分の2量を継続中。

症例2

85歳、女性。医療機関診断名。レビー小体型認知症の前段階。

既往歴。骨粗しょう症、便秘、手根管症候群。

現病歴。実際に無いものが見えている。物忘れが激しい。頭痛、肩こり、めまいがある。顔つきが厳しい時が多い、しかめっ面。食欲はあるが、うつ気味だったり、泣いたり怒ったり感情の起伏が激しくなってきた。認知症かもしれないという自覚があり悩んでいる。

初診。認知症の症状。肝陽証、臓腑病マイナス0.1合6プラス。抑肝散関係

服用開始2ヶ月後。認知症の症状。肝陽証、臓腑病4.1合6プラス。抑肝散関係。感情的なものは大分落ち着いてきたと思います。朝方、身体がきつく機嫌も悪いです。

服用開始6ヶ月後。五志の憂。膀胱陽証、臓腑病3.2合3プラス。竜骨湯関係。物忘れは随分良いのですが、最近、幻視が激しくなってきています。本人は、壁に虫が貼ってたり赤色や火がついてると言ってます。

服用開始11ヶ月後。五志の憂。膀胱陽証、経絡病2.6合、臓腑病4.6合2プラス。抑肝散合竜骨湯関係。幻視は見えなくなりました。

症例3

78歳、女性。医療機関診断名。レビー小体型認知症。

既往歴。圧迫骨折。

現病歴。会話が成立しない時がある。

初診。レビー小体型認知症。肝陽証、臓腑病0.1合6プラス。抑肝散加陳皮半夏関係

服用開始2ヶ月後。レビー小体型認知症。肝陽証、臓腑病2.8合3プラス。抑肝散加陳皮半夏関係。2年前から幻覚が見えていましたが、最近見なくなりました。

服用開始3ヶ月後。レビー小体型認知症。肝陽証、臓腑病4.1合2プラス。抑肝散加陳皮半夏関係。癲癇症状。胆陽証、臓腑病2.1合3プラス。柴胡桂枝湯加芍薬。癲癇の症状も出ると言う事で、癲癇を抑える方位も合わせました。今まで使用の薬味。綿紋大黄、芒硝Na、黄連、芍薬、山梔子、竜歯末。癲癇症状に合わせて追加の薬味。澤瀉、厚朴、小麦、牛黄清心元

服用開始4ヶ月後。レビー小体型認知症。肝陽証、経絡病4.9合、臓腑病5.3合2プラス。抑肝散加陳皮半夏関係。癲癇症状。胆陽証、臓腑病3.8合1プラス。柴胡桂枝湯加芍薬。陰の発作。小腸陰証、臓腑病2.2合4プラス。呉茱萸湯。手の震えから始まり、眠るような発作があるとの事。陰の発作に呉茱萸湯を追加しました。

服用開始6ヶ月後。レビー小体型認知症。肝陽証、経絡病6.2合、臓腑病7.1合1プラス。抑肝散加陳皮半夏関係。癲癇症状。胆陽証、臓腑病5.5合1プラス。柴胡桂枝湯加芍薬。陰の発作。小腸陰証、臓腑病4.7合1プラス。呉茱萸湯。手の震えや幻覚はなくなりました。

考察

認知症、以前は痴呆症の漢方治療において、陰証では帰脾湯証を、陽証では抑肝散証、抑肝散加陳皮半夏証を呈すると思います。実際には、抑肝散証、抑肝散加陳皮半夏証が多いように思います。

血管性認知症に対して、黄連解毒湯証の合方も考えます。また上焦の血流を改善する丹参などの駆瘀血剤、脳細胞を賦活する発表のあった山梔子等の加味も必要だと思います。

レビー小体型認知症は、アルツハイマー病とパーキンソン症状を併せ持つ疾患です。西洋医学的に捉えて考えると、ドパミン分泌や脳内の神経伝達に対する薬方。厚朴、芍薬、竜骨、竜歯末、松葉、生酸棗仁、牡蠣、真珠皮末、芒硝Na等を、幻覚、幻視、幻聴の症状から考えると、竜骨の証を考えます。

アルツハイマー型認知症の症例はまだありませんが、脳の神経細胞が委縮する病態を考えると、レビー小体型認知症と同じ捉え方ではないでしょうか。今後、増える認知症の患者さんを漢方薬で一人でも多く救えると嬉しいです。

今回使用した漢方薬、保険食品

  • 抑肝散。当帰、釣藤鈎、川芎、白朮、茯苓、柴胡、甘草
  • 抑肝散加陳皮半夏。当帰、釣藤鈎、川芎、白朮、茯苓、柴胡、甘草、陳皮、半夏
  • 甘麦大棗湯。甘草、大棗、小麦
  • 竜骨湯。竜骨、桂枝、遠志、麦門冬、牡蠣、茯苓、甘草、生姜
  • 生酸棗仁
  • 芍薬
  • 黄連
  • 綿紋大黄
  • 芒硝Na
  • 山梔子
  • 竜歯末
  • 沢瀉
  • 厚朴
  • 小麦
  • 牛黄清心元
  • 牡蠣肉製剤

参考文献

木下順一朗著。古方これだけ覚えれば絶対だ、伝統漢方研究会、2008