慢性骨髄性白血病に対する考察

がん

骨髄性白血病とは。漢方研究会で発表

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慢性骨髄性白血病

2018年11月。伝統漢方研究会第15回全国大会。ANAクラウンプラザホテル福岡

木下文華。福岡県福岡市、日本、太陽堂漢薬局

諸言

骨髄性白血病とは、骨髄組織が無制限、び漫性に増殖する疾患で、流血中の白血球数ならびに白血病細胞の増加の著しい場合の白血性と著しくない場合の非白血性とがある。経過により、急性と慢性とが区別される。

骨髄性疾患に対して帰脾湯をベースとした漢方薬で治療を進める。今回、慢性骨髄性白血病、白血球増加型の患者さんの相談を受け、白血球減少型或いは増加型、赤血球、血小板の臨床検査値に合わせて漢方治療を少しずつ組み替える方法があると思われたのでまとめてみた。

症例。43歳、女性

医療機関診断名。慢性骨髄性白血病

既往歴。生ものアレルギー、肉、魚

現病歴。脾臓の腫れ、息切れ、寝汗、白血球上昇。お腹の左側が痛く腫れていると来局。医療機関の受診を勧めて受診したところ、慢性骨髄性白血病と診断を受けた。

血液検査の数値

  • 白血球は著しく増加。白血球22590、基準値は3500から9200。
  • 赤血球は基準値より下回っている。赤血球322、基準値は384から488。
  • 血色素は基準値より下回っている。血色素9.7、基準値は11.3から15.5。
  • ヘマトクリットは基準値より下回っている。ヘマトクリット28.9、基準値は34.4から45.6。
  • 血小板は基準値より下回っている。血小板13.9、基準値は15.5から36.5。
治療経過
初診
  • 骨髄の反応。脾陰証、臓腑病0.1合6プラス。帰脾湯加紫根牡蠣
服用開始15日後
  • 骨髄の反応。脾陰証、臓腑病2.8合3プラス。帰脾湯加山梔子紫根牡蠣。

脾臓はまだ腫れているが、お腹の痛みが楽になって来た。山梔子追加。化石牡蠣を増量し、白血球を下げる働きを強めた。

服用開始2ヶ月後
  • 骨髄の反応。脾陰証、臓腑病4.2合2プラス。加味帰脾湯加紫根牡蠣。

白血球数値17、490。血小板は回復傾向にあった。帰脾湯を加味帰脾湯へ変更。白血球17、490、赤血球306、血色素9.2、ヘマトクリット27.5、血小板14.6。

服用開始3ヶ月後
  • 骨髄の反応。脾陰証、経絡病1.5合、臓腑病5.5合2プラス。加味帰脾湯加紫根牡蠣。
  • 長引く咳。胆陽証、経絡病4.3合3プラス。麦門冬湯加三味合柴胡桂枝湯。

2週間前から帯状疱疹と咳が出始め、肋骨の痛みが強い。病院から処方された咳止めを服用後、体調が悪くなった。咳止めの漢方薬を2週間服用し、この時点で4.3合まで改善。

服用開始4ヶ月後
  • 骨髄の反応。脾陰証、経絡病2.7合、臓腑病6.2合1プラス。黒帰脾湯加紫根反鼻末牡蠣。

白血球数値8500。回復傾向にあった血小板が2週間で16.3から5.1と急激に下がっている。血小板の回復を最優先に血虚改善の働きを強めた。また、体力をつけて自律神経を調節する反鼻末を加味した。白血球8500、赤血球299、血色素8.1、ヘマトクリット27.2、血小板5.1。

服用開始5ヶ月後
  • 骨髄の反応。脾陰証、経絡病4合、臓腑病6.8合1プラス。四物湯加西洋参反鼻末合帰脾湯加甘草紫根。

血小板の減少が止まらない。4.0から2.6へ。黒帰脾湯から更に血虚改善の働きを強める為、四物湯合帰脾湯へ。白血球7930、赤血球273、血色素7.7、ヘマトクリット25.7、血小板2.6。

服用開始5ヶ月半後
  • 骨髄の反応。脾陰証、経絡病4.8合、臓腑病7.2合プラス3。四物湯加西洋参反鼻末合帰脾湯加甘草牡蠣紫根。

血小板の減少が止まり横ばい状態。白血球数値が上昇し始めたので7930から28、120へ、化石牡蠣を再開した。白血球28、120、赤血球163、血色素5.0、ヘマトクリット16.2、血小板3.6。

服用開始6ヶ月半後
  • 骨髄の反応。脾陰証、経絡病2.7合臓腑病7.5合プラス3。帰脾湯加甘草牡蠣紫根合四物湯加西洋参反鼻末。

2週間前より、腹水、胸水が溜まり始めている。布団から起き上がれない。腹水、胸水を抜く目的で附子理中湯合四苓湯を投与。2週間後、お腹が凹み一人で歩けるようになられた。

考察

骨髄の疾患に対して帰脾湯をベースに薬方を組み立てて行く。

まとめとして

  1. 白血球の増加型に化石牡蠣、減少型に人参剤を用いる。
  2. 再生不良性貧血、先天性赤芽球癆、ダイアモンドブラックファン貧血等、西洋医学的に輸血の治療を行う場合、帰脾湯に血虚を補う熟地黄を合わせた黒帰脾湯系統を用いる。帰脾湯に四物湯を合方する方法も選択肢に加える。
  3. 白血球増加型で、西洋医学的に抗癌剤治療を行う場合は、帰脾湯に柴胡、山梔子、牡蠣等、清熱の働きのある瀉剤を加える。加味帰脾湯系統をベースに考える。
  4. 白血球増加型で赤血球、血小板などの減少が著しい場合、造血を優先して治療を考える。黒帰脾湯、四物湯合帰脾湯など。

症例に挙げた患者さんは、漢方治療開始から半年後、医師から余命1週間と宣告を受けた。その際、初めて行った輸血後のCRP上昇から、輸血による感染症の疑いに対してハナビラタケ製剤加撲ソク末をお飲み頂いた。10日後にCRPは正常値に戻った。

余命宣告を受けてから本人の意思により在宅医療を選ばれた。腹水、胸水が見つかった際の漢方治療。附子理中湯合四苓湯。体力低下に対して、いざという時の為に封印している紫荷車の使用。それぞれの状況に応じて全てクリアしながら骨髄の治療を行って来た。

然し、余命宣告を受けてから約2ヶ月後、在宅医療でMSコンチン、オプソ、モルヒネ製剤。デカドロン、副腎皮質ホルモン薬。セレコックス、解熱鎮痛消炎剤。フロセミド、利尿薬。クエン酸第一鉄Na、鉄剤が処方され、その後の連絡が途絶えた。

化学薬品に対して、自然生薬の力が及ばないと痛感した。漢方治療の可能性を期待していただけに、やるせない気持ちでいっぱいになった。この患者さんとの出会いを今後の治療に役立てなければと思った症例である。

今回使用した漢方薬、保険食品

  • 帰脾湯。黄耆、当帰、白人参、白朮、茯苓、酸棗仁、竜眼肉、甘草、乾生姜、木香、遠志、大棗
  • 四物湯。当帰、川芎、芍薬、地黄
  • 麦門冬湯加三味。麦門冬、粳米、半夏、大棗、甘草、人参、桔梗、紫菀、玄参
  • 柴胡桂枝湯。柴胡、半夏、広南桂皮、白芍薬、黄芩、大棗、甘草、竹節人参、乾生姜
  • 附子理中湯。白人参、白朮、甘草、乾姜、附子
  • 四苓湯。澤瀉、猪苓、茯苓、白朮
  • 山梔子2。化石牡蠣3。紫根10。甘草0.6。西洋参末1.4。反鼻末1.2。紫荷車末1。撲ソク末1。ハナビラタケ製剤末1.5。

参考文献

  • 南山堂。医学大辞典。
  • 木下順一朗著。古方これだけ覚えれば絶対だ、伝統漢方研究会、2008