四物湯加炙麦芽を使用、大きな変化があった乳癌

がん

粘液癌。漢方研究会で発表

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乳癌

2016年11月、伝統漢方研究会第13回全国大会。日本、長良川温泉、十八楼

満木伸行。福岡県、太陽堂漢薬局

はじめに

乳癌は非浸潤癌と浸潤癌と分けられ、浸潤癌の多くは硬癌と呼ばれるタイプが多く、乳癌の多くを占めている。その中で特殊なタイプとして粘液癌がある。乳癌は一般的に乳腺症が原因とは考えられていないが、太陽堂漢薬局では腫瘍の治療と乳腺症に対しての治療を行っている。

今回は乳腺症に使用する漢方薬を変更した所、腫瘍部分が小さくなり改善した例があったので報告する。

症例

50歳女性。身長160センチ、体重50キログラム

主訴。左胸乳癌

現病歴。以前から左胸にしこりがあり、胸の1時から2時方向のしこりが日増しに大きくなっている為、病院にて検査をされる。主治医からは口頭で粘液癌と診断される。

現症。舌診、燥、微白苔、舌色普通、舌下静脈有り。手足の冷え有り。眼瞼結膜普通。口渇無し、水分摂取は普通、発汗は多い、便秘、飲酒はしない。

経過
2014年3月25日
  • 小腸、陽、0.1、5プラス、気仙証
  • 膀胱、陽、0.1、5プラス、良塊仙証
  • 大腸、陽、0.0、6プラス、薏苡仁証

その他に5ヵ所糸練功にてチェックしている。

2014年6月24日
  • 小腸、陽、3.8、2プラス、気仙証
  • 膀胱、陽、4.0、2プラス、良塊仙証
  • 大腸、陽、4.0、2プラス、薏苡仁証
  • 肺、陽、0.2、5プラス、葛根湯加青皮石膏証

ご本人が「触った感じでは小さくなっている感じはするが、鏡で見る限りは変化が無い。」腫瘍のみの治療から乳腺症の治療も同時に行い治療を続けて頂く。

2014年7月08日
  • 小腸、陽、4.4、2プラス、気仙証
  • 膀胱、陽、4.7、1プラス、良塊仙証
  • 大腸、陽、4.7、1プラス、薏苡仁証
  • 肺、陽、1.0、4プラス、葛根湯加青皮石膏証

「葛根湯を飲みだしてから腫瘍が小さくなっている。触った感じや鏡で見た状態でも小さくなっている。」事を実感されている。「重く感じていた状態が以前より軽く感じる。」との事。糸練功上、解血仙の方が良い反応があり、今回から良塊仙から解血仙へ変方する。

2014年10月15日
  • 膀胱、陽、8.6、プラス2、解血仙証
  • 大腸、陽、8.5、プラス2、薏苡仁証
  • 肺、陽、7.4、プラス2、葛根湯加青皮石膏証

「葛根湯を飲みだしてすぐは、小さくなっていると実感していたが、とても改善が遅く時々良くなっているか分からなくなる。」との事。葛根湯を竹皮大丸へ変更する。

2014年11月13日
  • 膀胱、陽、9.1、プラスマイナス1、解血仙証
  • 大腸、陽、9.0、プラス1、薏苡仁証
  • 肺、陽、8.4、プラス1、竹皮大丸加青皮証

竹皮大丸へ変更してから「見た目の変化は余りないが、しこりが小さくなっている気がする。とても順調な気がします。」との事。

2015年7月08日
  • 膀胱、陽、10、プラスマイナス、解血仙証
  • 大腸、陽、9.9、プラスマイナス、薏苡仁証
  • 肺、陽、10、プラスマイナス、竹皮大丸加青皮証
  • 大腸、陽、2.7、3プラス、蘇木証

この数ヵ月間、調子は安定していたが、少し前から胸の下の方に痛みが出ている。「夜間に痛みで眼が覚めてしまい、その日を境に下の方に何か別の物があるような気がする。」との事。熱感あり。新たに蘇木証を確認し、化膿しているのか露蜂房証も確認する。解血仙へ蘇木、露蜂房を追加する。

2015年9月01日
  • 膀胱、陽、10、プラスマイナス、解血仙証
  • 大腸、陽、10、プラスマイナス、薏苡仁証
  • 肺、陽、10、プラスマイナス、竹皮大丸加青皮証
  • 大腸、陽、3.8、3プラス、蘇木証
  • 腎、陰、0.7、4プラス、四物湯加炙麦芽証

痛みは大分減っていたが、乳頭に痛みが時々あり、痛みが出ている時は強い。乳輪に血豆のような水泡が出来始める。以前から漢方治療開始時の香附子、男性の汗の香り、花の香りのする芳香剤などにより胸の痛みがチクチク出ていた。ホルモンに働く状態になる事で症状が出ていた可能性がある。

以前から痛みが出ている箇所を再確認し、乳腺を完全に止める働きをする四物湯加麦芽証を確認する。THE古方には炒った麦芽と記載してある。今回は炙麦芽が在庫不足により炙麦芽末を煎じ薬に加えて頂く。竹皮大丸を休止する。

2015年9月10日
  • 膀胱、陽、10、プラスマイナス、解血仙証
  • 大腸、陽、10、プラスマイナス、薏苡仁証
  • 大腸、陽、4.7、2プラス、蘇木証
  • 腎、陰、2.1、3プラス、乾地黄の四物湯加炙麦芽証

出血は止まりきっていないが、日に日に良くなってきている。四物湯に変えて、始めから治療している部分は更に小さく、新たに確認している下の部分も小さくなっているのが分かる。

2015年9月15日
  • 膀胱、陽、10、プラスマイナス、解血仙証
  • 大腸、陽、10、プラスマイナス、薏苡仁証
  • 大腸、陽、5.3、2プラス、蘇木証
  • 腎、陰、2.9、2プラス、乾地黄の四物湯加炙麦芽証

9月11日に出血が止まりそうだった所から大量の出血があった。濃い色の血が多くあり、今まで溜まっていた物が一気にスッキリしたような状態になり、見た目がとても小さく変わりました。その後からは出血は殆どなく、動く時に少し出血がある程度。

出血部分が化膿しないように新たに中黄膏と露蜂房は加えたままでお出しする。麦芽の芽部分が黒くなるように炙った麦芽を今回からお出しする。

おわりに

現在も、解血仙関係と四物湯を続けて頂いている。この患者様は手術をしたくない為、病院には受診をしていません。年1回の健康診断で腫瘍マーカーも一緒に調べてもらっている。その腫瘍マーカーも基準値内に収まっている。

出血をした事により腫瘍として捉えていた部分が小さくなった事もあるが、四物湯を服用されてから男性の汗の香りなどの影響が少なくなり、ホルモンと思われる影響も少なくなっている。再発率が高い乳癌の患者様にとって本治とも思える四物湯加炙麦芽を使用した事により、働きを止める事は再発防止にもなると思われる。

葛根湯加青皮石膏証、竹皮大丸加青皮証の他に四物湯加炙麦芽証も乳腺の働きを止め、石膏を加える事で炎症を抑える働きも同時に行える為、選択肢の1つと考えても良いと思われる。

乳癌の患者様が来局された際は、この3処方をFirstChoiceと考え糸練功にて確認するが、他の方も四物湯加炙麦芽証が一番良い反応がある。まだ例数が少ない為、すべての方に良いとは限らないが、同じ例で悩まれている方々にとって選択肢の一つになり、お役に立てる事を願っている。

今回使用した漢方薬、健康食品

解血仙。動植物末、濃縮末加工食品。原材料、ハトムギ、澱粉、焼成カキ殻末、ナツメ、ミカン皮、エビスグサ、甘草、アワビ、甜茶、土鼈甲、生姜。販売者、有限会社M.D.R

良塊仙。動植物末、濃縮末加工食品。原材料、ハトムギ、澱粉、焼成カキ殻末、コクシ、サソリ、エビスグサ。販売者、有限会社MDR

  • 葛根湯。葛根8、麻黄4、生姜1.5、大棗4、広南桂皮3、白芍薬3、甘草
  • 竹皮大丸。竹茹4、石膏6、広南桂皮2、白薇2、甘草6
  • 四物湯。当帰3、白芍薬3、川芎3、乾地黄3

良塊仙、解血仙と同時にお飲み頂いた生薬

  • 甘草末0.1から0.2
  • 牡蠣末1.1から4.3
  • 青皮末0.14から0.32
  • 厚朴末0.63から3.12
  • 訶子末3
  • 木通末0.7
  • 蘇木末0.6
  • ハナビラタケ末0.3

葛根湯、竹皮大丸、四物湯へ加味した生薬

  • 甘草1.5
  • 薏苡仁10
  • 青皮1.3
  • 厚朴3
  • 牡蠣2
  • 木通1.5
  • 石膏10
  • 炙麦芽末15

参考文献

木下順一朗著。THE古方これだけ覚えれば絶対だ