
血海の反応。漢方学会・研究会へ論文
漢方太陽堂が発表報告した論文。
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不妊症治療。
2015年11月伝統漢方研究会第12回全国大会(日本・京都東急ホテル)
木下文華(福岡県。太陽堂漢薬局)
福岡県
緒言。
不妊症を含め婦人科の治療を行う際、FSH、PRL、LH・・等の臨床検査数値が薬方決定の決め手になることがある。それぞれの数値によって用いる方剤や薬味が絞り込めるからである。
FSHに繁用する桂枝加竜骨牡蠣湯を関連付けて、バセドウ病や無月経に対して薬方を組んでみた。数名の手ごたえある例を得たのでここに報告する。
例1。No.6101
39歳。女性。5年前、原発性不妊と診断された。2年間不妊症治療を行うも妊娠に至らず。(タイミング法2回、人工授精7回)
生理周期40~55日程度の生理不順。HMG+HCG療法で卵巣過剰症候群発症。プロバジル服用にて肝機能悪化。フーナーテストは異常無し。バセドウ病治療でメールカゾル服用中。
糸練功にて甲状腺と血海の反応は一致しなかったが、妊娠した際のメルカゾールによる奇形のリスクを抑える為、不妊治療と併せて甲状腺の治療も行えないか考えてみた。
糸練功結果。
不妊の証・・・肝、陰証、人参当芍散加減
乳腺の反応・・大腸、陽証、甲字湯合芍薬甘草湯加青皮
甲状腺の反応・・膀胱、陽証、桂枝加竜骨牡蠣湯
甲字湯合芍薬甘草湯加青皮を標治、人参当芍散を本治で漢方治療を行っていた。
治療途中、人参当芍散に桂枝加竜骨牡蠣湯を合方。メルカゾールが減薬となりバセドウ病の数値は安定した状態が続いている。
例2。No.6753
35歳。女性。結婚して10年。ホルモン剤を飲まないと生理が来ない。生理予定日の少し前からホルモン剤を服用し生理を起こしている。FSHが高め。
糸練功結果。
血海・・・肝、陰証、当帰芍薬散
血海・・・大腸、陰証、温経湯
血海・・・胆、陰証、当帰散
プロラクチン・・大腸、陽証、甲字湯合芍薬甘草湯加青皮
血海の反応は3箇所とも全て当帰芍薬散加枸杞子にて対応。プロラクチンの漢方薬と当帰芍薬散加枸杞子を続けて3ヶ月経過の後、当帰芍薬散に桂枝加竜骨牡蠣湯を合方してみた。
この薬方でFSHに直接働く為、プロラクチンにも効果があると思われる。桂枝加竜骨牡蠣湯合当帰芍薬散加鹿茸枸杞子のみお飲み頂き1ヶ月後には今まで高温期の全く無かった基礎体温が二層に分かれて来た。
例3。No.5455
41歳。女性。卵巣機能低下により高校生になっても生理が来なかった。18歳から結婚するまで10年以上の間、ホルモン剤を服用して生理を起こしていた。漢方治療を始めてからはホルモン剤の服用を中止している。
糸練功結果。
生体内環境・・・膀胱、陽証、柴苓湯
瘀血・・・・・・甲字湯加紅花
卵巣の反応・・・芎帰調血飲第一加減
乳腺の反応・・・桂枝茯苓丸合芍薬甘草湯加青皮
初回、芎帰調血飲第一加減と柴苓湯を選薬し、その後は瘀血を取る薬方を順番に試した。最終的に抵當丸まで行き着き、基礎体温は綺麗な二層に分かれてきた。
帯脈にて人参当芍散証を確認。瘀血と相反する血虚の出現にどちらの治療をすべきか悩んだ結果、人参当芍散をお飲み頂く事にした。基礎体温表は高温期の安定した綺麗な二層にも関わらず未だ生理は来ない。
温期には頭痛や下腹部痛が起こる様になって来た。桂枝加竜骨牡蠣湯を合方し、卵胞刺激ホルモンと黄体ホルモンそれぞれに直接働きかけるアプローチへと切り替えた。
考察。
脳下垂体前葉ホルモンの卵胞刺激ホルモン(FSH)が過剰になると、卵巣機能は低下する。卵胞刺激ホルモン(FSH)に対しては桂枝加竜骨牡蠣湯を、卵巣機能低下(又は不全)に対しては当帰芍薬散、人参当芍散を繁用する。これらを合方すると関連付けた治療が出来ないだろうか?
上記の例は、全例ともまだ薬方を組んだばかりであるが、新たな治療法の試みだと考えられる。今後の結果に期待が高まる。
今回使用した漢方薬・保険食品。
桂枝加竜骨牡蠣湯(広南桂皮4、白芍薬4、大棗4、乾生姜1、甘草2、竜骨3、牡蠣3)
人参当芍散(当帰3、川芎1.5、白芍薬4、茯苓4、白朮4、澤瀉4、白人参3、ベトナム桂皮1.5、甘草1)
甲字湯(広南桂皮4、茯苓4、牡丹皮4、桃仁4、赤芍薬4、甘草1.5、乾生姜1)
芍薬甘草湯(白芍薬5、甘草5)
当帰芍薬散(当帰3、川芎3、白芍薬4、茯苓4、白朮4、澤瀉4)
キュウ帰調血飲第一加減(当帰2、熟地黄2、茯苓2、烏薬2、牡丹皮2、大棗1.5、乾生姜1、川芎2、白朮2、陳皮2、香附子2、益母草1.5、甘草1、桃仁1.5、紅花1.5、枳実1.5、ベトナム桂皮1.5、牛膝1.5、木香1.5、延胡索1.5、白芍薬1.5)
柴苓湯(柴胡5、半夏4、乾生姜1、黄芩3、大棗2.5、竹節人参2.5、甘草2、澤瀉5、猪苓3、茯苓3、白朮3、ベトナム桂皮2.5)
抵當丸(水蛭1、虻虫1、桃仁1)
青皮(1~2)
枸杞子(7~10)
鹿茸末(0.2~0.3)
参考文献。
木下順一朗著;古方これだけ覚えれば絶対だ、伝統漢方研究会、2008