各病位別、気剤の働き

漢方理論

漢方方剤に気剤が含まれている。漢方研究会で発表

漢方太陽堂が発表報告した論文。
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気剤。

2011年11月、伝統漢方研究会第8回全国大会講演。日本、兵庫県淡路夢舞台国際会議場

木下文華。福岡県、太陽堂漢薬局
福岡県福岡市、日本

諸言

東洋医学では、人体の生理活動の基本物質は気、血、水からなっている。
気は、推動、温煦、防御、気化、固摂の作用を行う。
血は、血液をさすが、血液のもつ濡養、滋潤、栄養作用と考える。
水は、体内のすべての正常な水分と体液をさす。
その他、生殖、成長発育の基本となる精、精気があり、血、水、精を陰液と統称する。また、気のことを陽気ともいい、陰液と陽気を包括して正気という。
東洋医学では、病因が条件となり、人体の生理活動は正気の失調、低下によって、邪気が侵入し疾病が発生する。
疾病の治療に、薬物を単味、或いは数種類組み合わせた漢方方剤を用いる。
薬物は、気剤、利水剤、補血剤、駆瘀血剤に分類される。
その中の気剤の働きについて焦点をあて、三陰三陽別に考察した。

気剤とは

気剤は、気の上衝、気滞、気の衰え気虚を改善する。
気の上衝に対して発表剤を、気滞に対して行気剤を、気虚に対して補気剤を用いる。

太陽病位

太陽病は表寒の証である。治方、温から発表。
気剤は、気の上衝に対する発表剤のみ。
代表的な発表剤は、広南桂皮、生姜、青皮、陳皮、橘皮、辛夷、白芷、薄荷、蘇葉、カッ香。
発表剤の五味は辛。気が厚く味は薄い薬味を用いる。
代用として、竜仙MDR製、牛黄清心丸などがある。

少陽病位

少陽病は裏熱の証である。治方は、清熱、中和。
気剤は、気の上衝に対する発表剤、気滞に対する行気剤、気虚に対する補気剤を用いる。
代表的な発表剤は、陳皮、橘皮。その他、太陽病の発表剤も用いる。
代表的な行気剤は、枳実、枳殻、厚朴、羌活、木香、香附子、縮砂。
代表的な補気剤は、人参、地骨皮。
発表剤の五味は辛。行気剤の五味は辛。補気剤の五味は甘。発表剤による表熱の発散。気を巡らして行気、裏熱を取る。補気剤は、虚熱を改善する。気は厚く味も厚いものを用いる。
代用として、感応丸、牛黄清心元、済仁、竜仙、爽快仙MDR製、風参MDR製などがある。

陽明病位

陽明病は下焦の裏熱実証である。治方は、瀉下、清熱。
気剤は、気滞に対する行気剤、脱水状態に対する補気剤を用いる。
代表的な行気剤は、烏薬、丁香、厚朴、枳実、枳殻。
代表的な補気剤は、人參、粳米、竜骨、牡蠣、鹿茸。
発表剤の五味は辛。行気剤の五味は辛。補気剤の五味は甘。
行気によって裏熱を取り、裏熱実による脱水に対して気を補う、補気。気はやや薄く、味は厚い薬味を用いる。
代用として、感応丸、牛黄清心元、風参などがある。

太陰病位

太陰病は裏寒虚証である、桂枝加芍薬大黄湯証のみ実証。治方は、温、発散。
気剤は、僅かな虚熱に対する発表剤、正気を補う補気剤を用いる。
代表的な発表剤は、ベトナム桂皮、山椒、生姜。
代表的な補気剤は、五味子、黄耆、人參、竜眼肉、大棗、山薬、紫荷車。
発表剤の五味は辛。補気剤の五味は甘。裏を温めるには味が厚くて気が薄い薬味を用いる。
代用として、風参、桜精ラピー製などがある。

少陰病位

少陰病は表裏寒虚証である。治方は、温、発散。
気剤は、正気を補う補気剤のみ。太陰病位より温める力の強いものを用いる。
代表的な補気剤は、乾姜、附子、烏頭、天雄。五味は辛。味は厚く、気が無い薬味を用いる。
代用として、暖々MDR製などがある。

考察

古方に基づく漢方治療において、ほぼ全ての漢方方剤に気剤が含まれている。
気剤は前述したように、気の上衝、気滞、気虚を改善するのだが、血滞や水滞を取る方剤には、血剤や利水剤と併せて気剤が処方に組み込まれている。邪気を払う為に発表剤を、正気を補う為に補気剤を用いることを考えると、気剤が様々な薬方に含まれているのは当然である。
三焦の上焦、中焦、下焦の何処に、表、裏、半表半裏の何処に作用するのかを考え、気剤の応用を拡げれば、漢方治療における治癒率もより高まるのではないだろうか。
三陰三陽別の気剤の使い方を初めて整理してみた。今後更に様々な病能を鑑み、理論的に纏めてみたいと考える。

参考文献

中山医学院編。漢薬の臨床応用、神戸中医学研究会、1979
木下順一朗著。古方これだけ覚えれば絶対だ、伝統漢方研究会、2008