無月経からの自然妊娠

不妊症

無月経という状態。漢方研究会で発表

漢方太陽堂が発表報告した論文。
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自然妊娠

2009年11月、伝統漢方研究会第6回全国大会。日本、東京ベイホテル東急

木下文華。福岡県、太陽堂漢薬局
福岡県福岡市、日本

諸言

健康な成人女性にとって、無月経という状態は極めて深刻な問題である。

無月経は、原発性無月経と続発性無月経に分けられる。続発性無月経は、過度のストレスや急激なダイエット、ピルの長期服用、ホルモン療法による卵巣への影響など原因は様々である。

今回、多嚢胞性卵巣症候群が原因の続発性無月経の例と、更に漢方治療にて続発性無月経から自然妊娠に至った例を経験したので報告する。

2例とも西洋医学的治療を受けたが、改善しなかった例である。

症例1。28歳女性、体重48キログラム、身長152センチメートル

主訴。多嚢胞性卵巣症候群
既往症。特になし
現病歴。もともと生理周期は2ヶ月に1度ほどだった。病院で多嚢胞性卵巣症候群と診断を受ける。治療法は特にないとのことで、症状の悪化を防ぐ目的でピルを5年間服用するも生理の量は少ない。

治療経過。

  1. 2008年1月
    瘀血の反応。臓腑病、胆、陽証、0.2合、3プラス、甲字湯加黄芩紅花
    ホルモンバランス。臓腑病、肝、陰証、0.9合、2プラス、当帰芍薬散加芍薬
    窮仙穴の反応。臓腑病、肺、陽証、0.1合、4プラス、茯苓飲合半夏厚朴湯
    病院で再度検査したところ、子宮に問題なし。多嚢胞性卵巣の状態も変わっていない。
    ピルを止めて、漢方薬で体質を整えて行きたいと強く希望されていた。
    瘀血改善を優先し、甲字湯加黄芩紅花と茯苓飲合半夏厚朴湯の代用としてナチュラルスクアレン、スクアレン含有加工食品、1個あたり350ミリグラムのスクアレンを含有、販売者有限会社MDR。3カプセルをお飲み頂くこととした
  2. 2008年3月
    瘀血の反応。臓腑病、胆、陽証、2.8合、2プラス、甲字湯加黄芩紅花
    ホルモンバランス。臓腑病、肝、陰証、1.8合、2プラス、当帰芍薬散加芍薬
    窮仙穴の反応。臓腑病、肺、陽証、2.0合、2プラス、茯苓飲合半夏厚朴湯
    ピルを止めてから2ヶ月経った。生理は来ない。
  3. 2008年5月
    瘀血の反応。臓腑病、胆、陽証、4.8合、2プラス、甲字湯加黄芩紅花
    ホルモンバランス。臓腑病、肝、陰証、4.1合、2プラス、当帰芍薬散加芍薬
    窮仙穴の反応。臓腑病、肺、陽証、3.7合、2プラス、茯苓飲合半夏厚朴湯
    瘀血の反応。臓腑病、胆、陽証、0.3合、5プラス、填南仙
    早く瘀血が改善するよう、瘀血改善剤、填南仙2錠を追加。その3日後にピルを止めてから始めての生理が4日間続いた。生理痛もなく、出血もピル服用時より綺麗だったとのこと。
  4. 2008年8月
    瘀血の反応。臓腑病、胆、陽証、6.2合、1プラス、甲字湯加黄芩枳殻紅花
    ホルモンバランス。臓腑病、肝、陰証7.1合、1プラス、当帰芍薬散加芍薬
    窮仙穴の反応。臓腑病、肺、陽証、5.0合、1プラス、茯苓飲合半夏厚朴湯加香附子
    瘀血の反応。臓腑病、胆、陽証、2.1合、2プラス、填南仙
    5月以降、生理は来ない。先月よりスクアレンを茯苓飲合半夏厚朴湯加香附子の正式処方へ切り替えている。填南仙を休止、甲字湯エキス3.8グラム加黄芩末0.23グラム紅花末0.12グラムに枳殻末0.2グラムを追加。
  5. 2008年10月
    窮仙穴の反応Z1。臓腑病、胆、陽証、9.3合、プラス1、甲字湯加黄芩紅花枳実
    窮仙穴の反応Z2。臓腑病、肺、陽証、9.0合、プラス1、茯苓飲合半夏厚朴湯加甘草香附子
    窮仙穴の反応Z3。臓腑病、肺、陽証、1.9合、3プラス、折衝飲加当帰木通
    瘀血の反応。臓腑病、胆、陽証、3.3合、1プラス、填南仙
    病院にて採血したところ、FSH、血清LH、血清Eが基準値より低い。排卵障害とストレスも見受けられる。主治医よりホルモン療法を勧められたが、本人の希望で服用しないとのこと。
    今回糸練功にて最も深い体質と思われる折衝飲証を確認。折衝飲。桃仁、当帰各5、牡丹皮、川芎、白芍薬、桂枝各3、延胡索、牛膝各2、紅花1加当帰0.5木通1.1の煎じ薬と瘀血改善を促す填南仙2錠へ切り替えた。
  6. 2008年11月
    窮仙穴の反応Z1。臓腑病、胆、陽証、9.5合、プラス1、甲字湯加黄芩紅花枳実木香
    窮仙穴の反応Z2。臓腑病、肺、陽証、9.3合、プラス1、茯苓飲合半夏厚朴湯加甘草香附子
    窮仙穴の反応Z3。臓腑病、肺、陽証、3.0合、1プラス、折衝飲加当帰木通
    瘀血の反応。臓腑病、胆、陽証、4.1合、1プラス、填南仙
    ご相談時に生理が自然に来た。
    煎じ薬の当帰を抜き、甘草0.4グラムを追加した。
  7. 2009年1月
    窮仙穴の反応Z1。臓腑病、胆、陽証、9.8合、プラスマイナス1、甲字湯加黄芩紅花枳実木香
    窮仙穴の反応Z2。臓腑病、肺、陽証、9.7合、プラス1、茯苓飲合半夏厚朴湯加甘草香附子
    窮仙穴の反応Z3。臓腑病、肺、陽証、5.7合、プラス3、折衝飲加甘草良姜木通呉茱萸香附子茯苓
    瘀血の反応。臓腑病、胆、陽証、6.9合、プラス2、填南仙
    昨年の11月以来、ホルモン療法なしで2回目の生理が起きた。とても喜んでおられた。煎じ薬に更に香附子1.5、良姜0.5を追加した。
  8. 2009年6月
    窮仙穴の反応Z1。臓腑病、胆、陽証、10合、プラスマイナス1、甲字湯加黄芩紅花枳実木香
    窮仙穴の反応Z2。臓腑病、肺、陽証、9.7合、プラス1、茯苓飲合半夏厚朴湯加甘草香附子
    窮仙穴の反応Z3。臓腑病、肺、陽証、5.0合、1プラス、折衝飲加蝉退甘草蘇葉厚朴香附子ヨクイニン
    瘀血の反応。臓腑病、胆、陽証、9.1合、プラス1、填南仙
    糸練功にて4月の時点で更に深い折衝飲証を確認。4月は0.2合の状態だったが、2ヶ月で5合まで改善。

その後、42から45日周期で生理が起きて、低温期高温期も随分安定してきた。現在も漢方治療を続けているが、生理周期がより短く、基礎体温も綺麗な二層になりつつある。
毎日基礎体温表を付けられているが、目に見えての変化にご本人も大変喜ばれている。

症例2。27歳女性、体重48キログラム、身長157センチメートル

主訴。妊娠希望。
既往症。特になし。
現病歴。2006年8月に妊娠5週目で流産。それから生理が来ない。流産後の無月経が気になる。
治療経過。

  1. 2007年2月
    妊娠しやすい体質作り。臓腑病、大腸、陽証、0合、4プラス、甲字湯加黄芩
    妊娠しやすい体質作り。臓腑病、胆、陰証、0.1合、3プラス、人参当芍散
    婦人科での不妊症治療はお休みして、しばらく漢方薬で体質を整えて行きたいとのこと。
    この時点での不妊の原因と思われる証を2箇所確認。甲字湯エキス4グラム加黄芩末0.35グラム、人参当芍散エキス4.2グラム。それぞれの漢方薬を飲み始めて1週間後に手足の冷え症が改善されてきた。今はアンカが無くても眠れるようになったと喜ばれていた。
  2. 2007年5月
    妊娠しやすい体質作り。臓腑病、大腸、陽証、4.6合、1プラス、甲字湯加黄芩
    妊娠しやすい体質作り。臓腑病、胆、陰証、5.2合、1プラス、人参当芍散
    生理の状態。経絡病、肝、陰証、0.1合、3プラス、当帰芍薬散加黄芩
    生理の状態。臓腑病、肺、陽証、0.3合、3プラス、甲字湯加紅花
    婦人科の検査では卵管、ホルモン数値とも大きな問題はない。本人は流産の後処理が気になる。また生理がなくイライラしているご様子。人参当芍散を当帰芍薬散エキス5グラム加黄芩末0.44グラムへ切り替える。
    また甲字湯加黄芩を甲字湯4グラム加紅花0.28グラムへ切り替えた。
  3. 2007年7月
    妊娠しやすい体質作り。臓腑病、大腸、陽証、5.1合、1プラス、甲字湯加黄芩
    妊娠しやすい体質作り。臓腑病、胆、陰証、5.9合、1プラス、人参当芍散
    生理の状態。経絡病、肝、陰証、2.3合、1プラス、当帰芍薬散加黄芩
    生理の状態。臓腑病、肺、陽証、2.5合、1プラス、甲字湯加紅花
    血虚の改善を強めるため、甲字湯加紅花を休止し人参当芍散4グラムと当帰芍薬散4加黄芩0.22へ変更する。生理はまだ来ずイライラするが、病院の不妊治療を再開するかどうか迷っていらっしゃった。
  4. 2007年12月
    妊娠しやすい体質作り。臓腑病、大腸、陽証、4.8合、プラス3、甲字湯加黄芩
    妊娠しやすい体質作り。臓腑病、胆、陰証、7.6合、プラス2、人参当芍散
    生理の状態。経絡病、肝、陰証、7.3合、プラス3、当帰芍薬散加黄芩
    生理の状態。臓腑病、肺、陽証、4.9合、プラス3、甲字湯加紅花
    窮仙穴の反応。臓腑病、胆、陰証、0合、4プラス、当帰芍薬散加黄芩
    身体が温かくなり、イライラしなくなってきた。生体内環境に当帰芍薬散加黄芩証あり。
    生体内環境、窮仙穴の反応に分量を合わせると、全ての証に対応出来る様。今まで人参当芍散を4グラム、当帰芍薬散4グラム加黄芩0.22グラムずつ飲まれていたが、人参当芍散を変更して当帰芍薬散6.2グラム加黄芩0.5グラムに増量してお飲み頂いた。
  5. 2008年4月
    妊娠しやすい体質作り。臓腑病、大腸、陽証、8.1合、プラス1、甲字湯加黄芩
    妊娠しやすい体質作り。臓腑病、胆、陰証、8.5合、プラス2、人参当芍散
    生理の状態。経絡病、肝、陰証、9.2合、プラス1、当帰芍薬散加黄芩
    生理の状態。臓腑病、肺、陽証、7.3合、プラス2、甲字湯加紅花
    窮仙穴の反応。臓腑病、胆、陰証、3.7合、2プラス、当帰芍薬散加党参黄芩
    妊娠しやすい体質作り。経絡病、胆、陽証、1.2合、2プラス、甲字湯加紅花
    体調は良いが疲れが溜まりやすい。季節の変わり目は熱が出やすく体調を崩しやすくなるとのこと。甲字湯加紅花証の経絡を確認。生体内環境の当帰芍薬散に党参末0.17グラムを追加。甲字湯1.7加紅花0.12も一緒にお出しした。
    1ヶ月後、病院にてホルモン値の検査をしたところ、漢方薬治療前より明らかにホルモン数値が改善されている。
    5月初旬からの卵胞ホルモン剤と黄体ホルモン剤の使用により、生理が来た。
    2ヶ月間、ホルモン剤にて生理を起こしたが、排卵はしていないとのこと。主治医から排卵誘発剤を使用しないと排卵が起こらないと言われた。しかし体外受精をする時が来るまでは出来るだけ使用したくないとおっしゃっていた。
  6. 2008年10月
    妊娠しやすい体質作り。経絡病、胆陽証、7.8合、プラス2、甲字湯加紅花
    生理の状態。経絡病、肝、陰証、10合、プラスマイナス、当帰芍薬散加黄芩
    生理の状態。臓腑病、肺、陽証、9.5合、プラス1、甲字湯加紅花
    窮仙穴の反応。臓腑病、胆、陰証、8.5合、プラス2、当帰芍薬散加党参黄芩
    9月25日から10月2日まで、ホルモン剤を飲まなくても生理があった。普通に生理があり、大変喜ばれていた。体外受精を延ばして、しばらくタイミング法を取って行くとのこと。毎年、この時期は体調を崩しやすかったのが、今年は元気に過ごせている。
  7. 2009年5月
    安胎薬。臓腑病、心、陰証、3.1合、3プラス、白朮散加党参

しばらくタイミング法を続けていたところ、予定日になっても生理が来ない。検査薬にて陽性反応あり。その後婦人科へ行くと、妊娠4週目だったと報告を受けた。

考察

漢方太陽堂では、無月経の病因として血虚、瘀血の影響など念頭に入れ治療を進めていく。現象としては黄体ホルモンや卵胞ホルモンの分泌不足であっても、それが東洋医学的には、瘀血が原因の場合、反対に血虚の場合、また脾虚の場合など複数の病因が考えられる。

血虚の場合は、卵巣の機能低下や不全が推測できるが、瘀血の場合は卵巣が弱っているのではなく、逆にオーバーヒートしている状態だと考えると理解しやすい。
また患者さんは、ストレスも大きく、ストレスによる影響も考慮して取り組んでいる。

今回の例では先表後裏の原則に基づいて標治部から本治部へ治療を行った。本治部分は、改善に伴い、より深い体質的な証が現れることが多くあると思われる。そして最も深い体質を中心に治療を進めて行くと、今までより治癒率が上がっていると肌で感じる。

今回使用した漢方薬

甲字湯、桂枝茯苓丸、人参当芍散、半夏厚朴エキス剤。販売者、長倉製薬
当帰芍薬散。販売者、ウチダ和漢薬
茯苓飲。販売者、小太郎漢方製薬
黄芩末。販売者、漢方太陽堂薬局製剤
紅花末。販売者、漢方太陽堂薬局製剤
枳殻末。販売者、漢方太陽堂薬局製剤
党参末。販売者、漢方太陽堂薬局製剤

折衝飲
桃仁、販売者、ウチダ和漢薬
当帰、販売者、ウチダ和漢薬
牡丹皮、販売者、ウチダ和漢薬
川芎、販売者、ウチダ和漢薬
白芍薬、販売者、高砂薬業
広南桂皮、販売者、ウチダ和漢薬
延胡索、販売者、ウチダ和漢薬
牛膝、販売者、ウチダ和漢薬
紅花、販売者、ウチダ和漢薬
甘草、販売者、高砂薬業
木通、販売者、ウチダ和漢薬
填南仙、動植物エキス加工食品、原材料アスタキサンチン、イチョウ葉、サンシチニンジン、サンザシ、タンジン葉、トウサンカ、ウコン、ケイケットウ、ベニバナ、オタネニンジン、オリゴ糖、精製シェラック、ショ糖脂肪酸エステル、販売者有限会社MDR
ナチュラルスクアレン、スクアレン含有加工食品、1個あたり350ミリグラムのスクアレンを含有。販売者有限会社MDR