便に血が混じり潰瘍性大腸炎。漢方研究会で発表
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潰瘍性大腸炎
2006年11月伝統漢方研究会第3回全国大会。日本、横浜シンポジア
木下文華。福岡県、太陽堂漢薬局
諸言
わが国の潰瘍性大腸炎の患者数は約8万人と言われ、年々増加の傾向にあるようです。20から40代の虚弱な人が罹りやすく、男女差は少ないようです。
大腸に原因不明の非特異的潰瘍性炎症を発生し、急性または慢性に発病します。頑固な下痢、粘血便、発熱、栄養障害などの症状を呈し、緩解と再発を繰り返しながら長期にわたって経過します。慢性に経過するうちに、貧血が加わり、しだいに衰弱し、場合によっては死亡することもあります。原因は細菌感染説、アレルギー説、膠原病説、内分泌異常説、ビタミン欠乏説、精神神経説など様々な説が唱えられていますが、未だ原因は明確にはなっていません。
また潰瘍性炎症が大腸の粘膜で発生する潰瘍性大腸炎に対し、クローン病は遺伝的な要因を含む免疫系の異常反応と言われている炎症性腸疾患の一つで、大腸に限らず小腸などでも炎症をくり返します。
これらは西洋医学では異なる疾患と捉えますが、治療法はいずれも主にステロイド剤などの免疫抑制剤による薬物治療で腸の炎症を抑えます。手術による外科的治療は大腸の全摘となるようです。今回、潰瘍性大腸炎に対し漢方薬が有効であった例について報告します。
対象並びに方法
全例西洋医学的に潰瘍性大腸炎と診断された例である。投与前に四診を行い、投与前後の自覚症状の改善と他覚的改善を基に効果判定を行いました。
症例1、女性31歳
- 主訴。潰瘍性大腸炎
- 既往症。特記すべきことなし。
- 現病歴。平成15年秋頃に発症。最初は痛みはなく痔のようだった。平成17年、潰瘍は直腸からS状結腸まで拡がった。ひどい時は1日6回くらい下血、腹痛あり。注腸剤を入れるようになってから下血はピタリと止んだ。最近、注腸剤を入れていても、疲れていると紙につく程度の出血がある。平成18年3月に来局相談となった。
- 現症。身長154センチ、体重46キログラム。肌顔色は普通。口乾と口渇は普通。寝汗は無し。舌苔は薄。舌湿は湿。舌色は薄。歯切痕は有。舌下静脈は無。生理痛は強。生理周期は40日。生理期間は6日間。昼間尿は多。尿色はやや黄色。食欲は多。便は水様性または軟便。
- 治療経過。改善の度合いは、太陽堂漢薬局木下順一朗開発による糸練功と自他覚症状にて判断した。
平成18年3月30日
- 潰瘍の証、免疫。臓腑病、大腸、陽証1.5合2プラス。風参の証
- 潰瘍の証、修復。臓腑病、脾、陰証4合2プラス。托裏消毒散証、原典外科正宗
- 下痢の証。臓腑病、胃、陽証3.5合2プラス。半夏瀉心湯加茯苓証
- 下血の証。臓腑病、大腸、陽証1.5合1プラス。田七人参の証
- 胆嚢の反応。臓腑病、大腸、陽証1.5合3プラス。金銭草茯苓の証
田七人参1グラム、半夏瀉心湯2.25グラム加茯苓0.3グラム。金銭草10茯苓4。風参、人参製剤保険食品2包を投与。 托裏消毒散証は風参2包で代用。また風参にて免疫と思われる部分にも対応。金銭草茯苓の目的は胆嚢部分の胆石もしくは胆砂の排泄を促すと考えられる。
平成18年4月20日
- 潰瘍の証免疫。臓腑病、大腸、陽証2.4合2プラス。風参の証
- 潰瘍の証修復。臓腑病、脾、陰証4.4合2プラス。托裏消毒散証
- 下痢の証。臓腑病、胃、陽証4合2プラス。半夏瀉心湯加茯苓証
- 下血の証。臓腑病、大腸、陽証2合1プラス。田七人参の証
- 胆嚢の反応。臓腑病、大腸、陽証2.2合3プラス。金銭草茯苓の証
平成18年6月21日
- 潰瘍の証免疫。臓腑病、大腸、陽証4.8合2プラス。風参の証
- 潰瘍の証修復。臓腑病、脾、陰証5.2合2プラス。托裏消毒散証
- 下痢の証。臓腑病、胃、陽証4.7合2プラス。半夏瀉心湯加茯苓証
- 下血の証。臓腑病、大腸、陽証3.5合1プラス。田七人参の証
- 胆嚢の反応。臓腑病、大腸、陽証3.8合3プラス。金銭草茯苓の証
平成18年5月より、田七人参は炎症性の高い疾患では60頭根より120頭根の方が有効と考えられるため、60頭根から120頭根1グラムへ切り替え。週に一度程、紙につく程度出血するが、便の状態は普通。特に下痢をしたり体が疲れたりということはなくなったとのこと。
平成18年8月23日
- 潰瘍の証免疫。臓腑病、大腸、陽証5.2合1プラス。風参の証
- 潰瘍の証修復。臓腑病、脾、陰証7.3合3プラス。托裏消毒散証
- 下痢の証。臓腑病、胃、陽証5.6合1プラス。半夏瀉心湯加茯苓証
- 下血の証。臓腑病、大腸、陽証0.8合1プラス。田七人参の証
- 胆嚢の反応。臓腑病、大腸、陽証6.8合1プラス。金銭草茯苓の証
便の状態は、1ヶ月半ほど出血もなく普通便だったが、ここ3日ほど夏バテと疲労のせいか、少し出血がある、とのことだったので、出血が治まるまで田七人参を下血を抑える目的で通常1日1回から3回へ増量、1回量1グラム。収まったら1日1回に戻すよう指導。
平成18年9月25日
- 潰瘍の証免疫。臓腑病、大腸、陽証6合1プラス。風参の証
- 潰瘍の証修復。臓腑病、脾、陰証7.6合1プラス。托裏消毒散証
- 下痢の証。臓腑病、胃、陽証6.2合1プラス。半夏瀉心湯加茯苓証
- 下血の証。臓腑病、大腸、陽証1.6合2プラス。田七人参の証
- 胆嚢の反応。臓腑病、大腸、陽証7.2合1プラス。金銭草茯苓の証
一度だけごく少量の出血があったが、とても調子が良いとのこと。その後も漢方薬を継続中。
症例2、女性35歳
- 主訴。潰瘍性大腸炎。既往症、特記すべきことなし。
- 現病歴。平成16年2月、突然、便に血が混じり潰瘍性大腸炎と診断された。ペンタサとリンデロン座薬を4ヶ月続け、症状が治まり自己判断により治療を中断。平成18年2月より下痢と下血がおこり、病院にて薬物治療を再開するようになった。朝起き掛けに下血する。平成18年4月に来局相談となった。
- 現症。身長165センチ、体重53キログラム。肌顔色は普通。眼瞼結膜は普通。口乾と口渇は普通。寝汗は普通。舌苔は厚。舌湿は燥。舌色は薄。舌下静脈は無。生理痛はほとんど無し。生理周期は30日。生理期間は5日間。昼間尿は普通。尿色は薄。食欲は普通。便は水様性または軟便。
- 治療経過。改善の度合いは、糸練功と自他覚症状にて判断した。
平成18年4月22日
- 潰瘍の証免疫。臓腑病、大腸、陽証0.6合5プラス。風参の証
- 潰瘍の証修復。臓腑病、脾、陰証0.2合5プラス。補中益気湯証
- 下痢の証。臓腑病、胃、陽証。1合3プラス。黄芩湯証
- 下血の証。臓腑病、大腸、陽証。0.1合4プラス。田七人参の証
- 胆嚢の反応。臓腑病、大腸、陽証2.3合2プラス。金銭草茯苓の証
優先治療順位は、先表後裏、先急後緩の原則に従い、田七人参120頭根4グラムから金銭草10茯苓4から黄芩湯5グラムから補中益気湯から風参、人参製剤保険食品の順で治療していくことを決定。
田七人参と黄芩湯を先に治療し、それぞれ改善に伴い減量できるようになったら、補中益気湯、風参に治療を切り替えていくこととした。
平成18年5月18日
- 潰瘍の証免疫。臓腑病、大腸、陽証0.6合5プラス。風参の証
- 潰瘍の証修復。臓腑病、脾、陰証0.2合5プラス。補中益気湯証
- 下痢の証。臓腑病、胃、陽証。0.1合3プラス。黄芩湯証
- 下血の証。臓腑病、大腸、陽証0.1合2プラス。田七人参の証
- 胆嚢の反応。臓腑病、大腸、陽証2.5合2プラス。金銭草茯苓の証
平成18年6月21日
- 潰瘍の証免疫。臓腑病、大腸、陽証0.8合5プラス。風参の証
- 潰瘍の証修復。臓腑病、脾、陰証0.2合5プラス。補中益気湯証
- 下痢の証。臓腑病、胃、陽証1.4合3プラス。黄芩湯証
- 下血の証。臓腑病、大腸、陽証1.6合2プラス。田七人参の証
- 胆嚢の反応。臓腑病、大腸、陽証3.3合2プラス。金銭草茯苓の証
リンデロン座薬が3日に1回の使用になった。
平成18年7月19日
- 潰瘍の証免疫。臓腑病、大腸、陽証0.8合5プラス。風参の証
- 潰瘍の証修復。臓腑病、脾、陰証0.2合5プラス。補中益気湯証
- 下痢の証。臓腑病、胃、陽証2.5合3プラス。黄芩湯証
- 下血の証。臓腑病、大腸、陽証3.3合2プラス。田七人参の証
- 胆嚢の反応。臓腑病、大腸、陽証4.5合2プラス。金銭草茯苓の証
リンデロン座薬が5日に1回になった。下痢は殆んど無くなり、下血もかなり減ってきた。
平成18年8月23日
- 潰瘍の証免疫。臓腑病、大腸、陽証1.4合3プラス。風参の証
- 潰瘍の証修復。臓腑病、脾、陰証0.3合3プラス。補中益気湯証
- 下痢の証。臓腑病、胃、陽証3.1合2プラス。黄芩湯証
- 下血の証。臓腑病、大腸、陽証3.7合1プラス。田七人参の証
- 胆嚢の反応。臓腑病、大腸、陽証5.1合2プラス。金銭草茯苓の証
平成18年9月20日
- 潰瘍の証免疫。臓腑病、大腸、陽証1.6合2プラス。風参の証
- 潰瘍の証修復。臓腑病、脾、陰証0.3合3プラス。補中益気湯証
- 下痢の証。臓腑病、胃、陽証4.4合1プラス。黄芩湯証
- 下血の証。臓腑病、大腸、陽証4.8合1プラス。田七人参の証
- 胆嚢の反応。臓腑病、大腸、陽証5.2合1プラス。金銭草茯苓の証
下血が無い日も出てきた。下痢もおさまってきている。以前と比べると随分良い。今回より、田七人参を2.5グラムに減らし風参1包を追加。
漢方治療前は、病状が非常に強くステロイド剤の使用がどんどん増えていた。糸練功による適量診では、それぞれの漢方薬の薬量が多いため同時に全ての治療点を治療することができず、下痢と下血、金銭草茯苓の証から治療を始めた。だんだん下痢、下血が収まってきているようで今後の更なる改善が期待できる。
結果、考察
潰瘍性大腸炎、クローン病は糸練功で確認のとれる5つの治療点を改善することにより、有効な例が増えてきた。
免疫の異常と思われる証に対して風参が配当され、また腸粘膜修復の証には托裏消毒散、原典外科正宗。千金内托散、原典千金要方。補中益気湯などの脾虚改善剤が配当される。
また治療中の突然の下血に注意をはかり、田七人参は適量診の2、3倍。通常2から5グラム投与するほうが良いと思われる。
最後に、改善の鍵をにぎるのは胆汁の流れを改善する金銭草茯苓だと思われる。なるべく服用回数をこまめに分けて飲むよう指導している。