成長と老化

2020年7月9日;

先天の気と老化

東洋医学の「腎の臓」には、西洋医学の腎臓だけでなく、生殖器、足腰の機能も含まれます。
東洋医学の臓腑は西洋医学の内臓とは異なります。
エコノミック症候群で長時間飛行機の座席に座り下半身を動かさないと、下半身の血液が欝滞し血栓症を起こします。
下半身は腎の臓に属し、血栓症(脳梗塞、心筋梗塞)は心の臓に属します。

東洋医学の臓腑で例を挙げると、風邪の最初に使用する葛根湯は「膀胱経」の漢方薬になります。
「膀胱」とは、「月、身体」における「旁光ホウコウ、松明タイマツ」の意味です。
「火(病気の邪気)と火(健康を守る正気)が闘い合う身体」の意味です。

東洋医学の「腎の臓」

「腎」は、臣(直属の部下)が王様を守る最後の砦「月、身体」を意味します。
腎は両親から頂いた生きるエネルギー「先天の気」を蓄えています。

腎機能は28歳位をピークに低下し始めます。
生殖器が老化すると子種が無くなります。
老化が進むと足腰が弱くなります。
腎は老化との関係が深い臓腑です。

加齢と共に悪化する難病の網膜色素変性症というお病気があります。当薬局では先天の気が減少していると考え、腎気を回復させることにより改善させています。

腎と心

東洋医学的にも「腎」と「心」は密接に繋がっています。
「足の少陰腎経」と「手の少陰心経」で共に「少陰における手足関係」です。

「足は第二の心臓」と呼ばれています。実際に足の静脈は、心臓と同じように収縮を繰り返し、下半身に溜まった血液を心臓に押し戻そうとしています。

下半身を使うと心臓を助けます。歩く事です。
また背伸びなどのフクラハギの運動も効果的です。

貧乏ゆすり

交感神経が興奮すると血栓が出来やすくなります。その時に足の「貧乏ゆすり」をします。本能的に下半身を動かし血流を改善し血栓を防いでいます。
「貧乏ゆすり」を治療に取り入れ、血栓症を改善した報告例もあります。

唾液腺ホルモン

人間は老化を防ぐホルモンを持っています。パロチンです。
唾液腺ホルモンと言われ、噛むことにより分泌されます。
早食いの人は、唾液腺ホルモンの分泌が減少し老化が早くなると考えられます。
肌の老化、骨粗しょう症、白内障、老眼、足腰の弱り、心機能の低下他。よく噛む事です。

食養生における三種の神器

食養生で「三種の神器」と言われる食材があります。
ハチミツ、ヨクイニン、黒ゴマです。
蜂蜜と黒胡麻を練り、水分を飛ばしたのが忍者飴(長期の保存、栄養補給に忍者が使っていたと言われる)です。

3種とも目的が異なります。
蜂蜜は「後天の気」の脾の臓を補い、消化器を助け、細菌感染、脱水予防です。
薏苡仁は腫瘍の予防、抗ウイルス作用。
ゴマは老化防止です。「先天の気」の腎を強めます。
食事に胡麻油や、すり胡麻を多用すると良いです。

五行で考える成長と老化

後世派の理論「五行」から見た成長と老化です。
五臓六腑と言う言葉が有ります。
五臓は、肝→心→脾→肺→腎の五つです。

この五臓が巡り成長も老化もしていきます。

成長

成長は陽です。肝、心、脾、肺、腎の順に成長します。

胎児は「肝」の時期

肝は魂、お母さまのお腹のなかで魂は出来るのかもしれません。胎教が必要な時期です。

新生児は「心」の時期

心は赤、文字通り赤ちゃんです。出産の産声(赤い顔)で一瞬で肺呼吸に切り替わります。

幼少時は「脾」の時期

脾の五味は甘いです。幼少時には甘い物を欲しがり消化器を造り上げていきます。幼少時の体質改善には、甘い膠飴を入れた小建中湯を使用する時期です。

小児は「肺」の時期

アレルギーなどの免疫関係が出来あがります。

青年期は「腎」の時期

東洋医学の古典、黄帝内経素問(コウテイダイケイソモン)「上古天真論(ジョウコテンシンロン)」に「女性は14才にして血海が通じ子供ができる身体となる」と有ります。
東洋医学の腎の臓が完成し子供を産める身体になります。

老化

老化は陰です。成長と逆の動きです。腎、肺、脾、心、肝の順で老化します。

「腎」が衰えます

西洋医学的な腎臓は28歳位から機能が低下し始めます。
白内障も前立腺肥大も、足腰の弱りも「腎」の衰えになります。

東洋医学の「腎」は臍から下です。足腰(特に身体で最も大きな筋肉の大腿四頭筋)を鍛えること、歩く事です。
食養生では黒色の海藻類、海産物、食養三種の神器の一つ「黒胡麻、ごま油」を増やしていきます。
早食いは「腎」を弱め老化を早めます。噛む回数を増やし唾液腺ホルモンの分泌を助けます。

次に「肺」が衰えます

肺が衰え免疫力が下がります。B-Cell型のリウマチやその他の膠原病、T-Cell型の癌(がん)などの病気になり易くなります。

免疫力を高めるため、発酵食品(味噌、ぬか漬け、キムチ等の漬物)、酵素、菌糸体(キノコ類)を摂り、腸内細菌叢を整えます。

次に「脾」が衰えてきます

胃腸の機能が低下し始めます。食事量も減りだします。
食養生では食養三種の神器の一つ「蜂蜜」を摂ります。

最後に「心」が衰えます

心不全にて亡くなります。
心の機能を助けるのは、下半身の静脈の血流です。
特に膝から下の脹脛(フクラハギ)を鍛えます。背伸び運動や、出来るだけ歩くことです。

三陰三陽で考える

上記では後世派の理論「五行(ゴギョウ)」で観た成長と老化でした。

三陰三陽の成長と老化

ここでは「三陰三陽(サンインサンヨウ)」理論から見た成長と老化です。

太陽病(タイヨウビョウ)位

胎児は「陰中の陽」太陽病位になります。お母様のお腹の中(陰)で新しい息吹(陽)として成長していきます。

陽明病(ヨウメイビョウ)位

生まれてくると「陽中の陽」陽明病位です。最も陽の強いのが生後から青年期です。本来の陽明病位です。
漢方の古典の傷寒論(ショウカンロン)では「太陽病(陰中の陽)と陽明病(陽中の陽)が混在していれば少陽病(ショウヨウビョウ)位」と規定されています。

少陽病(ショウヨウビョウ)位

胎児の「陰中の陽」と青年期の「陽中の陽」が混在している乳児、幼児などの成長期は少陽病位だとも言えます。

太陰病(タイインビョウ)位

青年期を過ぎ、筋肉や体力が落ちだすと太陰病位に入ります。

日本人女性の閉経は50歳前後です。40歳(太陰病位)を過ぎた女性で瘀血(オケツ)があれば温経湯(ウンケイトウ)証を示す方が増えてきます。
温経湯は太陰の瘀血に使われる独特の薬方です。

男性の前立腺肥大や白内障に使われる八味地黄丸(ハチミジオウガン)も太陰病位の漢方薬です。

少陰病(ショウインビョウ)位

太陰病位では身体の筋肉も弱りだし胃腸も弱ります。少陰病位に入ると心機能も弱ってきます。
息切や下半身の浮腫みなどが現れやすくなります。
代謝を活発にする、身体にエネルギーを付ける食材を摂るようにします。

厥陰病(ケッチンビョウ)位

人生の最後の段階です。

年齢と養生

東洋医学では、年齢と言う大宇宙に対し、小宇宙である人間は大宇宙に合わせます。
20代は20代なりの食事、生活、生き方が大事だと考えます。
40代は40代なりの生き方。
60代は60代なりの生き方をすべきと考えています。
40代が20代と同じ生き方では、年齢と言う大宇宙と辻褄が合わなくなります。

親から頂いた「先天の気」。寿命を全うすることが、一番の親孝行かもしれません。