網膜色素変性症_論文発表

網膜色素変性症 研究会にて発表論文

太陽堂漢薬局が、東洋医学関係の学会・伝統漢方研究会全国大会にて発表報告した論文です。ご覧下さい。
東洋医学の臓腑理論を用い、網膜色素変性症の治療法を考案した症例です。
遺伝性の難病であるが、年齢を重ねると悪化する病能です。
年齢にて進行することを考えれば、病態は代謝が衰える事による東洋医学の「脾のエネルギー不足」が考えられる。
同時に老化として、東洋医学の「腎の衰え」と捉える事も出来る。
治療は、東洋医学上の「脾」と「腎」の改善の治療が必須と考えられた。
この発表が、この遺伝性の難病の改善に役立つ事を願っています。

網膜色素変性症の漢方治療

2017年11月 伝統漢方研究会第14回全国大会 (日本・静岡 大仙家)

木下順一朗
太陽堂漢薬局
福岡県 福岡市・日本

【緒言】
網膜色素変性症は、遺伝性の進行性の網膜のお病気です。網膜には視細胞があり、視細胞は目に入ってきた光を神経の刺激(電気信号)に変える働きをしています。
視細胞には、杆体細胞と錐体細胞があります。杆体細胞は、網膜の中心部以外に分布し、暗い場所での見え方や視野の広さに関係する細胞です。また錐体細胞は網膜の中心部の黄斑に分布し、視力や色覚に関係する細胞です。
杆体細胞が主に障害を受けるため、暗いところで物が見えにくくなったり(夜盲)、視野が狭くなったりします。
主な症状は、夜盲、視野狭窄、羞明(まぶしい)、視力低下等ですが、初期の段階から白内障を併発することも多いです。進行すると骨小体様色素沈着が周辺部に現れ、更に進行すると黄斑部周辺にも色素沈着が広がります。
対処療法として、遮光眼鏡使用やヘレニエン製剤(βカロテンの一種)内服、ビタミンA内服、循環改善薬の治療が行われますが、決め手となる治療は見つかっていないのが現状です。

今回、漢方治療にて網膜色素変性症の改善が確認されたので報告します。

【症例】
主訴:網膜色素変性症
既往症:子宮内膜症、脂漏性湿疹
現症:39歳、女性、身長162cm、体重52Kg。血圧110/70。舌診は湿、薄い白苔、舌色普通、舌下静脈あるが怒張なし。眼瞼結膜は淡泊。冷え性、口渇あり水分摂取は多い。食欲普通で小便多く、便秘がち、生理は順調。

治療経過:当初は脂漏性湿疹のご相談で漢方治療を始められた。数か月経過し脂漏性湿疹が改善した頃に網膜色素変性症の相談を受けた。
2011年6月 肝の陰証;帰耆建中湯証の治療を開始する。
2011年8月 肝の陰証;茯苓飲に変方
2012年4月 「少し視野が明るくなっています。町を歩くときも恐怖感がなくなっています。」との事。
2012年6月 眼科の検査では、自覚症状とは逆に「昨年の検査に比べ、視野狭窄で目の視界が少し欠けている」との診断。
2013年11月 「調子が良いです。地下街を歩いても、怖くなく歩けます。」との事。
2015年1月 病院の検査で、半年前と比べ視野は少し欠けているが、しかし視力は少し回復しているとの事。
2015年6月 腎の陰証;川芎、黄芩、当帰、甘草、紅参、桜精へ変方
2015年8月 腎の陰証;黄芩・甘草を抜く。川芎、当帰、紅参、桜精へ変方
2015年10月 腎の陰証;白芍薬追加。川芎、白芍薬、当帰、紅参、桜精
2015年12月 腎の陰証;熟地黄追加。川芎、熟地黄、白芍薬、当帰、紅参、桜精へ変方
2016年5月 大学病院の検査では、1年前の状態と比較し進行していないとの検査結果がでる。
2016年6月 腎の陰証;甘草、柴胡を追加。川芎、熟地黄、白芍薬、当帰、紅参、桜精、甘草、柴胡
2016年11月 「進行はしていませんが、視力も回復していません。視野は足元が特にかけています。暗いところは見えないです。」との事
2017年6月 「コンタクト視力は上がっています。」との報告。

2017年7月 「先月、網膜色素変性症の検査を大学でしたら、改善していました。色素沈着の黒い部分が薄いグレー色になっていました。また網膜も薄くなって悪化するはずが、逆に網膜が厚くなっていました。視野狭窄も改善し少し広がっています。白内障も改善していました。昨年は進行が止まり、今年は改善していました。不思議です。嬉しいです。ありがとうございます。大学の先生も、どんな漢方薬を飲んでいるのか聞いてこられました。」との報告がありました。
2017年8月 「大学の検査とは別に2年に1回検査している病院で、視力が0.3から0.67に改善していました」

【考察】
先天性・進行性の網膜色素変性症が改善した症例を報告しました。東洋医学では「脾は後天の気」であり、「腎は先天の気」と位置付けられています。言い換えると「脾は生後に獲得してきた生きるエネルギー」であり、「腎は持って生まれた生きるためのエネルギー」です。

今回の治療は、脾を中心に治療し、最後に腎の治療を行っています。網膜色素変性症が年齢とともに進行することを考えれば、東洋医学的には「腎の先天の気」の低下がこの病気を悪化させていると考えられます。川芎・熟地黄・芍薬・当帰は、腎の中心的な処方である四物湯の方意です。また紅参・桜精(馬心臓エキス、ミトコンドリアのエネルギー活性を上げると言われている。生薬では蓮肉・枸杞子・紅参でも同様の働きの可能性あり)は「脾の後天の気」を高めるために使用し、甘草・柴胡は体質改善を進める古方派の基本薬味構成です。
この治療で全ての患者さんが改善するとは当然言えません。
しかし東洋医学的な理論にて考えれば、改善しても不思議ではない治療法だと考えられます。

【結語】
東洋医学の理論から考えると、網膜色素変性症に限らず、年齢の進行と共に悪化する多くのお病気が改善する可能性も示唆されます。
今後、多くの症例にて検討し、またご報告ができればと考えています。
今回使用した漢方薬
川芎2.7熟地黄3.5白芍薬2.9当帰3.5紅参4(末1.4)桜精4T加甘草1.5柴胡3
川芎(株式会社 ウチダ和漢薬)
熟地黄(高砂薬業株式会社)
白芍薬(堀江生薬株式会社)
当帰(高砂薬業株式会社)
紅参(高砂薬業株式会社)
桜精(株式会社 ラピー)
東北甘草(株式会社 ウチダ和漢薬)
柴胡(高砂薬業株式会社)

太陽堂漢薬局 福岡県福岡市博多区中呉服町1-26-6F 092-263-3590

網膜色素変性症への取り組み

遺伝性の難病である網膜色素変性症の改善例を発表しました。
この発表にこぎつけるまには、数年に及ぶ患者さんとの強い信頼がありました。視野が欠損し、眩しさとの闘い、盲目になる恐怖。私も患者さんもお互いに諦め切れなかったです。
必ず治すと言う強い心をお持ちだった患者さんに支えられた症例でもあります。

今後の網膜色素変性症の漢方治療法へ

多くの網膜色素変性症の患者さんが将来への不安と戦っていらっしゃいます。東洋医学が少しでも希望となることを願っています。
現在、他の患者さんの追試をしています。漢方治療を受けていらっしゃる患者さん皆さん、調子は良いと思います。
今後も症例を増やし、より改善例を増やしたいと考えています。