皮膚病の判断から水疱、アトピー性皮膚炎へ

東洋医学理論

2022年7月26日。写真は、博多日航ホテルのチャペルです。

皮膚病の東洋医学の判断

私を含めた日本の古方派の漢方家は、何でも三陰三陽で証の判断をします。
皮膚病の場合も、蕁麻疹、化膿症、掻痒症、水疱、進行性指掌角皮症など、三陰三陽で診ると確かに証の判断がしやすいです。

しかし、アトピー性皮膚炎を始めとして皮膚炎に関しては燥湿で証の判断をした方が分かりやすいと常々感じています。

温清飲や柴胡清肝湯、荊芥連翹湯、当帰飲子などは燥の皮膚炎へ用います。
十味敗毒湯などは、やや湿であるが、燥湿中間タイプへ
桂枝加黄耆湯、消風散、越婢加朮湯などは湿タイプです。

湿の皮膚病

湿のアトピー性皮膚炎は虚実により
実証の越婢加朮湯証、中間証の消風散証、虚証の桂枝加黄耆湯証の順番です。

湿度の影響も実証ほど受けやすい傾向があります。
湿度が上がりだす3月頃から、越婢加朮湯証は悪化が始まります。
梅雨前になると、消風散証が悪化し始めます。
梅雨が明け夏になると、桂枝加黄耆湯証が発汗により悪化し始めます。

また乳幼児は湿タイプ、年配者は燥タイプが多くなる傾向があります。
湿タイプは夏季に悪化する傾向があり、燥タイプは冬季に悪化する傾向があります。

皮膚病の燥湿と虚実の組合せ

皮膚病の燥湿を横軸とし、虚実を縦軸にすると、アトピー性皮膚炎などの皮膚炎の漢方治療が分かりやすく見えてきます。
今回は皮膚病の虚実についてです。

4つの虚実鑑別ポイントがあります。

  1. 発赤
    実証は、赤味が強い
    虚証は、白っぽく充血が少ない
  2. 分泌物
    実証は、多い、濃い、臭い
    虚証は、少ない、薄い、無臭
  3. 痂皮
    実証は、大きくて厚い
    虚証は、小さい、或いは少ない
  4. 発疹の高さ
    実証は、隆起している
    虚証は、扁平で盛り上がりが少ない

東洋医学はファージーな世界です。
虚実も燥湿も白黒の二者択一ではありません。
やや虚証、やや実証、虚実中間証など程度が異なります。
湿で分泌物が多く痂皮があれば実証で、越婢加朮湯証などへ結びついていきます。湿が強い眼瞼炎などに越婢加朮湯が多用されたりもします。

瘀血の混在する皮膚病

また分泌物が濃い場合や臭いがする場合などは、瘀血が混在している事もあります。
大芎黄湯や通導散、桃核承気湯、桂枝茯苓丸なども検討していきます。
或いはこれらの薬方を同時服用する場合も多いです。

瘀血では無いですが、血熱の臓毒証体質の防風通聖散なども検討に入れます。

ヘルペスなどの水疱

ヘルペスやストロフルス、帯状疱疹などの水疱に漢方薬は効果が早い事が多いです。
漢方薬が水疱に効くの。
意外ですが水疱に漢方薬は即効性の場合が多いのです。

帯状疱疹のヘルペスなどは、適した漢方治療をすると1週間程で枯れる場合が殆どです。新薬の治療では枯れるのに1ヶ月ほど掛かります。
治療が即効性であればあるほど、その後の帯状疱疹後神経痛を発症する確率も減ります。

痛みを伴う水疱には、越婢加朮湯、麻杏薏甘湯などの麻黄剤を選薬します。
一般的には五苓散を使うことが多いです。
虚証には桂枝加黄耆湯。
また免疫反応が未熟なために起きる小児ストロフルスや、滲出性中耳炎にも桂枝加黄耆湯が適する場合が多いです。これらの疾患も東洋医学では表の水毒になります。
他に水疱には、藿香正気湯加薏苡仁、消風散なども用いられます。

東洋医学では水疱を水毒と捉えます。そのため表の水毒に用いる処方が多いです。
但し五苓散証の方意は裏の脱水ですが、表は発汗し湿になりますので水疱に用います。

麻黄は体表の血流を改善することで表の体温を上げ、免疫力が上昇しウイルスに対応します。
薏苡仁には抗ウイルス作用があると言われています。

難治のアトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎の治療をしていて非常に難しい場面に出会うことがあります。

トラウマによる痒みに大棗

1つは掻くことがトラウマの様になっている場合です。激しく掻かれる患者さんも多いです。掻く刺激が更に炎症反応を強め、痒みや症状は更に酷くなります。

アトピー性皮膚炎は全身性のアレルギー疾患です。背中の上部分は手が届きにくいため、その部分は掻かれていません。手の届きやすい所ほど症状が酷い場合が多いです。

掻く事がトラウマになっている場合は甘麦大棗湯を投薬します。特に寝る前に服用すると就眠中の掻く行動が減少します。
小麦のグルテンアレルギーがある場合は大棗だけでも効果があります。

真菌感染を伴うアトピー性皮膚炎

もう1つの問題はアトピー性皮膚炎の部分に真菌が感染している場合です。
ステロイド剤と抗真菌剤を混ぜて外用する方法もあります。
またスクアレンには抗真菌作用が報告されていますので外用にも使えます。ただ経験的に内服では思うような効果はありません。

肌に湿度のある梅雨時から秋まで、酷くなる傾向があります。真菌とアトピー性皮膚炎の同時罹患は時間が掛かる場合が多いです。