日本漢方の古方派を中心とした漢方薬・処方をご紹介します。

一般の方から専門家まで馴染めるよう、症例・処方薬味・適応疾患・使用目標・漢方の証・方意をご紹介。

小建中湯(ショウケンチュウトウ)-傷寒論・金匱要略-

症例

腹痛/女性 -漢方処方・応用の実際より引用

急に腹痛を訴えた患者さん。痛み方は腹を絞るような痛みが腹全体に起こり、しばらくすると波が引くように痛みが去っていく。しかし少し経つとまた同じように痛んでくるというのであった。その朝、わずかに下痢をした後、便通がありそうで出ないという裏急後重のような訴えもあった。体温普通、悪心嘔吐なく、腹部は軟らかくてガス塊を触れ、もくもくと動くのがわかる。脈は沈細遅、体格は小さい方で肉づきは中くらいである。

当日、黄連解毒湯合 四逆散加動物胆からできたT社の試作錠剤を与えたが無効、いつも軽い腹痛はこの薬ですぐ治るのだったが、翌日、腹証から大建中湯を飲ませたが少しも治らなかった。そこで脈から裏寒の虚、腹は大建中湯のように見えるが、もしかすると小建中湯の裏急ではないかと考えてその晩、小建中湯を与えた。すると翌日は大分楽になって食事も摂れるようになり、次の日にはすっかり痛みが去って元気になった。

処方薬味

生薬-膠飴膠飴 中国42-生薬-大棗大棗 生薬-生姜生姜
生薬-芍薬芍薬 生薬-甘草甘草 生薬-桂皮桂皮

適応疾患

虚弱児童の体質改善、夜尿症、夜啼症、胃炎、小児の感冒、麻疹、肺炎などの経過中の急な腹痛、慢性腹膜炎の軽症、肺結核の軽症、カリエス、関節炎、神経症、乳児のヘルニア、小児喘息 、紫斑病、 フリクテン性結膜炎、眼底出血、成人の腸内ガス充満や腸蠕動不安などによる腹痛、虚弱体質の人の便秘

使用目標

腹が急に激しく痛み、脈が渋り、弦の方に用います。この痛みは引きつれるような痛みが多いです。

体力の無い虚弱な人が、熱病にかかった初期、2~3日目頃、心悸亢進(動悸)して身体が苦しい方に用います。

身体が虚弱で疲れやすく、腹壁の筋肉が薄く腹直筋のみが拘攣し、あるいは腹が痛んだり動悸、鼻血、夢精、手足のだるさ、手足の煩熱感、咽喉や口の乾燥、尿の量や回数が増えるなどの症状を訴えられる方に用います。

漢方の証・方意

  • 病位・虚実;太陰病、顕著な虚証
  • 方意;身体全体の虚証:疲労倦怠・顏色不良・四肢倦重・身体疼痛。各臓器の虚証:心悸亢進・腹痛・精力減退。虚証:手足の冷え・咽乾・微熱。血虚:鼻血・貧血。
  • 備考;建中湯はその名のとおり、中(体内)の機能を”うち建てる”お薬です。その他の建中湯類として大建中湯(ダイケンチュウトウ) 、当帰建中湯(トウキケンチュウトウ) 、黄耆建中湯(オウギケンチュウトウ) 、帰耆建中湯(キギケンチュウトウ)などがあります。 小建中湯は桂枝湯(ケイシトウ)に、芍薬を加え桂枝加芍薬湯(ケイシカシャクヤクトウ)更に膠飴を加えたものです。桂枝加芍薬湯は太陽病を誤って下して、腹滿・腹痛を起こしたものに用います。 太陽病の桂枝湯証が、太陰病に変わったときの処方です。腹痛・下痢・腹満、体内(裏)が冷えている時の徴候で、裏が更に虚した時には、桂枝加芍薬湯に膠飴を加えた小建中湯証となります。

小柴胡湯・小柴胡湯加桔梗石膏(ショウサイコトウ・ショウサイコトウカキキョウセッコウ)-傷寒論・金匱要略-をご紹介

生薬-柴胡

症例

原因不明の全身麻痺/女性 -漢方処方・応用の実際より引用

患者は20歳の女子大学生で、話によると1年前の5月、微熱、嘔気、風邪気味症状から1週間後に下肢が脱力して歩行困難となり、傾眠、感情刺激的となって寝たままになったが、2ヶ月後自然に良くなった。

ところが今年の6月初め、またもや同じような麻痺・脱力が起き、全身倦怠を訴えて寝たままになったという。大学病院その他で、その都度診てもらったが、診断ははっきりつかないという事だった。

6月下旬のある日の夕方、所用を済ませた後で患者を訪ねた。患者は平素は割合に丈夫な方だが、時々膝の冷痛を訴えたという。病気になる前は、肩がこって疲れやすくなり、便秘をして、眼の光が弱くなったという。また初めは寝返りもよく打てなかったが、最近ようやく家の中を歩けるようになったという事であった。悪い最中はまた、胃の痛みを訴えたり、イライラしたりしていたともいう。

体格は中背で痩せ型、貧血性で、如何にも弱々しい身体にみえる。しかし脈は細くて弱いが、理学的診断では何らの異常も診られなかった。腹部をみると、腹筋が薄く、一般に軟弱であるが右の季肋下に中等度の抵抗がみられ、また臍の周囲が少し固く張っていた。腰背部の志室の穴にも圧痛がみられ、全般的に虚しているように見えた。

全体から受ける弱々しい様子では、補中益気湯(ホチュウエッキトウ)にでもしようかと思ったが、腹証に明らかな胸脇苦満をみては、もっと徹底した柴胡剤が用いたいように考えられた。結局、意を決して小柴胡湯加茯苓を用いることにした。茯苓を加えたのは自家経験でこうすると味が軟らかくなり、薬方が軟化するように思えるからである。処方はこれで送ったが内心、薬力が強すぎないかと心配でならなかった。

ところが「朝の寝起きが悪かったのがスッと眼が覚め、眩暈等もなく、また便通も規則正しく胃腸の欠陥を訴えず、現在、病人らしい所は無くなりました。第三者が見ても顏色、眼の動き等を全く平常と異なりません。」と連絡があった。1年後、連絡があり、「このところ大変身体の調子がよろしく、昨年までは身体が細くて心配していたが、今年は大分太った」とあった。

処方薬味

生薬-甘草甘草 生薬-柴胡柴胡 生薬-生姜生姜
生薬-黄芩黄芩 生薬-人参人参 生薬-半夏半夏
中国42-生薬-大棗大棗    

適応疾患

諸種の熱性病、感冒、流感、咽喉炎、耳下腺炎、肺炎 、肝炎(黄疸)、肺気腫、胆嚢炎、急性・慢性腎炎

使用目標

熱が出て5、6日経ってから往来寒熱(悪寒と熱感が交互に起こることをいいます。朝のうちは平熱で、午後あるいは夕方になると熱が出て、体温が上がることです。)胸脇苦満が起こり、舌に白苔が生じて、口が苦く、食欲不振、悪心、嘔吐のあるもので、この時、咳が出ることがあり、あるいは口渇、腹痛、心悸亢進、尿利減少、身熱、首やうなじ残りなどが起こり、あるいは便秘、または軟便が出る方に用います。

産褥熱や炎症性疾患にかかって、四肢が煩熱して頭痛が起こる方にも用います。腹が急に痛んで、小建中湯(ショウケンチュウトウ)が効かない方にも用います。

黄疸で、熱が出て寒気がし、胸脇苦満であり、食事が取れず、首やうなじが凝り、小便の出が悪く、脈が浮弱遅の方にも用います。

以上のほか、腹証に胸脇苦満のある虚実中等の人の雑病諸病に用います。圧痛を伴うようなハッキリした胸脇苦満は、急性病の際によく現れるようです。小柴胡湯などで諸症状が治ると、胸脇苦満も消えてしまいます。慢性病の場合は症状が改善しても季肋下の抵抗が変わらないことも多いです。

漢方の証・方意

  • 病位・虚実;少陽病、虚実中間からやや実証
  • 十二臓腑配当;心包・胆
  • 方意;胸脇の熱証による胸脇苦満・心下痞硬・口苦・往来寒熱。脾胃の熱証・脾胃の水毒による食欲不振・悪心・嘔吐。肺の熱証による咳嗽・喀痰・胸痛。胸脇の熱証による多怒。
  • 備考;少陽病の代表的な薬方です。小柴胡湯に桔梗と 石膏が加わることにより、より上焦に効果が出ます。

小青竜湯(ショウセイリュウトウ)-傷寒論・金匱要略-をご紹介

生薬-細辛

症例

喘息性気管支炎/男性 -漢方処方・応用の実際より引用

小学校の男児、なかなかのきかん坊で体格がよく、胸も厚く手足もがっちりした坊やがいる。ところが案外身体が弱く、ちょくちょく熱を出したり、扁桃腺は腫らしたりする。

晩秋の頃、例の通り風邪を引いて来院した。熱は大したことはないが咳が激しく咽喉でヒューヒューという音がしている。母親の訴えによると、この子は喘息性気管支炎を起こしやすく、ちょっと油断すると風邪を引いて、いつもこうなるという。聴診すると、胸部全体に笛声音がさかんに聞こえる。顏色は蒼白で何となく水ぶくれのような肥り方である。

これだけの症状を根拠に小青竜湯の製剤を1週間分投与した。これで咳・喘鳴は3~4日で治ったばかりでなく、その冬はその後1度も風邪をひかなかった。

その後、しばらくして珍しく風邪を引き咳が出ると言い、母親に連れて来られたが、前のような喘鳴が無かった。しかしこのときも小青竜湯製剤を投与した。すると2日後には植物採集に、遠く大宮八幡の方まで歩いて行って来たということである。

処方薬味

生薬-甘草甘草 生薬-麻黄麻黄 生薬-生姜生姜
生薬-細辛細辛 生薬-五味子五味子 生薬-桂皮桂皮
生薬-半夏半夏 生薬-芍薬芍薬  

適応疾患

気管支炎、気管支喘息 、百日咳、肺炎、胸膜炎、アレルギー性鼻炎 、感冒、ネフローゼ腎炎などの初期の浮腫

漢方の証・方意

  • 病位・虚実;太陽病または太陰病、虚実中間から虚証
  • 十二臓腑配当;心包・腎・膀胱

小続命湯(ショウゾクメイトウ)-千金方-をご紹介

生薬-防已

処方薬味

生薬-附子附子 生薬-防風防風 生薬-生姜生姜
生薬-芍薬芍薬 生薬-麻黄麻黄 生薬-桂皮桂皮
生薬-甘草甘草 生薬-人参人参 生薬-防已防已
生薬-杏仁杏仁 生薬-黄芩黄芩 生薬-川芎川芎

適応疾患

脳卒中、脳梗塞、その他の脳血流障害、慢性関節リウマチ

使用目標

続命湯(大続命湯)(ゾクメイトウ・ダイゾクメイトウ)の用い方に準じてより、体力が衰え虚状を呈する方に用います。

小半夏加茯苓湯(ショウハンゲカブクリョウトウ)-金匱要略-をご紹介

中国39-生薬-茯苓

処方薬味

生薬-半夏半夏 中国39-生薬-茯苓茯苓 生薬-生姜生姜

適応疾患

妊娠嘔吐、諸種の嘔吐、急性胃腸炎、乗り物酔い、胃下垂症、胃アトニー、胃炎

使用目標

強い悪心・嘔吐に用います。その嘔とは、胃内停水によるものです。したがって腹診すると心下部に振水音が認められます。しかし心下部振水音がハッキリしないこともあります。また、尿利減少、眩暈 、動悸などを伴うことが多く、喉が渇くこともあります。

漢方の証・方意

  • 病位・虚実;太陰病、虚証
  • 十二臓腑配当;胃
  • 方意;脾胃の水毒による悪心・嘔吐・心下痞・心下痞硬や、しばしば水毒の動揺による眩暈・心悸亢進・咳嗽や時に寒証に用いる方剤です。
  • 備考;小半夏加茯苓湯は胃内停水から来る嘔吐を目的とします。五苓散(ゴレイサン)の水逆性の嘔吐と区別しなければなりません。

参考文献・出典

  1. 漢方診療医典 大塚敬節・矢数道明・清水藤太郎 著
  2. 漢方処方 応用の実際 山田光胤 著
  3. 漢方方意ノート 千葉古方漢方研究会 著
  4. 漢方治療百話第1~3集 矢数道明 著
  5. 腹證奇覧 稲葉克文礼 和久田寅叔虎 著
  6. 漢方処方応用のコツ 山田光胤 著
  7. 薬局製剤 漢方194方の使い方 埴岡博・滝野行亮 共著
  8. 勿誤薬室方函口訣 長谷川弥人 著
  9. 漢方診療30年 大塚敬節 著
  10. 皇漢医学 湯本求真 著
  11. 黙堂柴田良治処方集 柴田良治 著
  12. 類聚方広義 吉益東洞 著

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