蘇葉、蘇子、続断、大黄、大豆黄巻、大棗

漢方生薬

日本漢方の原料である漢方生薬と有名な民間薬をご紹介します。
初めての方から専門家まで参考になるよう、気味、帰経、効能、適応とする体質と処方例、民間療法をご紹介。

蘇葉、蘇子

シソの葉を蘇葉、シソの種子を紫蘇子として薬用に使用します。
シソには良い香りのペリラアルデヒド、その他の精油があり血行を良くし、気分を爽快にするので人を蘇らす働きをなすと言うことから紫蘇の蘇の名を得ました。
また、シソの葉の色をみると、背面青い片面シソ、両面青い青シソ、表裏共に紫色の紫シソとありますが、紫の多い方が効果があり紫の蘇より紫蘇の名を得ました。

気味、薬味薬性

味は辛、性は温

帰経。東洋医学の臓腑経絡との関係

効能

徐々に発汗させながら、アレルギー反応で生じたヒスタミン物質を取り去ります。
胃が悪く逆上せのある方の痰を消し去る力があります。
紫蘇葉の精油は胃を刺激して、怠けている胃を一人前に働かせる力があります。
魚や蟹の中毒に対して解毒、防腐の力があります。

適応とする体質と処方例

  • 胃腸の弱いアレルギー毒の中毒症また、これがもとで神経の乱れるものに使用します。
  • アレルギー中毒症としては、感冒、魚中毒、薬物中毒による心煩、アレルギー性鼻炎蓄膿症と始まって、広義に解釈すると気の乱れによる神経衰弱、ヒステリー、血の道症、下血、閉経、腹痛を含みます。
    処方例。香蘇散

続断

続断

マツムシソウ科のナベナやトウナベナの根を用います。
中国では、主に四川省などで採れるトウナベナ川続断の根が用いられるため、川断とも呼ばれています。
トウナベナは、日本には自生せず日本産の続断と言われるものはナベナではなくキク科のノアザミやノハラアザミの根で和続断と呼ばれています。
また韓国産の続断は、しそ科のオオバキセワタの根が用いられていました。

何故このような混同が起こったかといいますと、続断という名が、骨折や打撲、出血などの外傷の治療に効果があるという意味で、同様の効果を持つものを広く続断と呼び慣らされていたためです。

気味、薬味薬性

味は苦、辛、性は微温

帰経。東洋医学の臓腑経絡との関係

肝、腎

効能

腰や下肢の筋力低下や疼痛に用います。
打撲や捻挫などの腫脹や疼痛に効果があります。

適応とする体質と処方例

月経期間を延長させる場合に用います。
処方例。延経期方

大黄

大黄

大黄の根が黄色なので大黄という名前になりました。
別名、将軍の名があります。国を治める内政には、国老、家老が働き、外政に対しては将軍が担当するもので、国を病気に置き換えて考えます。

病気を治す薬にも国老と将軍があり、体内でのアレルギー反応を抑え、体内からの病気になるものを防ぐ国老に相当する働きの薬と、積極的に病気の因に対して働く戦いをしようとする将軍のような働きがあります。国老の働きは甘草、将軍の働きは大黄が行うため、大黄は別名、将軍とも呼ばれています。

言うまでもなく大黄は中国で開発された世界的な薬物です。既に紀元前からはるばるシルクロードを経てヨーロッパに伝えられ、わが国でも古く奈良時代の文化の遺産である正倉院、西紀756年の薬物の中にも大黄が現存することは周知の通りです。

広い中国では大黄の品質も多種多様のものが出回っています。大黄の原植物はその生産地によって相違します。
西寧大黄、北大黄は、日本で錦紋大黄といわれる最上品に属するものです。外面黄褐色で卵型または卵円形で紐を通した穴があり、コルク穴は剥がれ、質は充実して重く、つむじ紋があります。芳香性が強く、味は苦く渋く、噛むと砂鳴を発します。
四川大黄、香大黄は、錦紋大黄の1種。通例縦に半割され、紐穴があります。外面は黄褐色で質は充実して重く、つむじ紋があります。芳香性で味は苦く渋く、噛むと砂鳴を発します。
雅黄は、外面は黄褐色粗ぞうで、つむじ紋があり、質は軽く味は苦く渋いです。

馬蹄大黄、唐大黄、頭大黄は、雅黄の一種で四川省南川県で生産されます。外面は雅黄に類似しますが、通例馬蹄形に縦割りまたは輪切りされ紐穴はありません。コルク皮を有します。外側は褐色で質はもろく焦臭があります。味は苦く渋く、噛んでも砂鳴を発しません。

その他にも台黄、山西、五台山などがありますが、これらは薬用には適せず、もっぱら染料に使われていると言われています。

気味、薬味薬性

味は苦、性は寒

帰経。東洋医学の臓腑経絡との関係

脾、胃、大腸、心包、肝

効能

下剤を服用しても疲労感がない体力の充実した人の宿便を排泄させます。

大黄は若い物より年を経た大黄の方、つまり古くなって虫のついている位の物の方が良いようです。新しいものは腹痛の副作用がありますが、古くなるとそれが無くなります。又、嘔吐のある人に使用してはいけません。

大黄剤には、昔から臨床上の問題があり、広島における1970年の第21回日本東洋医学会総会の大黄のシンポジウムで、大塚敬節先生は大黄剤の投与について注目すべき発言をされています。それらを要約すると

  1. その病気が傷寒に属する急性熱病であるか、傷寒以外の一般雑病であるかを区別
  2. 傷寒によって代表される急性熱病の治療には、大黄剤の適応とその用量とは特に慎重を期すべき
  3. 単に便秘にしていることだけを目標に大黄を用いてはならない

と、戒められており、大いに吟味すべきところだと思われます。

適応とする体質と処方例

体力があり便秘をするか、下剤を服用しても何の苦情もなく気分の良い体質の方が、逆上せや心臓及び頭の中に充血や炎症があって、その刺激作用として心の動悸、血圧上昇、不安症状を起こすものに使用します。
処方例。三黄瀉心湯

大豆黄巻

大豆、淡豆豉

大豆の種子を発芽させ、1センチ位のもやしになったものを用います。
大豆はアメリカをはじめ、ブラジル、中国、アルゼンチンなど世界各国で栽培され、ダイズもやしは中国、韓国料理でも多く利用されています。
大豆の種皮の色には淡黄、茶、緑、黒色などがあり、一般に黄色い黄大豆が大豆としてよく知られていますが、通常薬用は黒色の黒大豆が用いられます。
大豆黄巻もクロマメのもやしを用います。
薬用にはそのほか納豆を加工した豆鼓も利用します。

気味、薬味薬性

味は甘、性は平

帰経。東洋医学の臓腑経絡との関係

脾、胃

効能

夏の感冒などに用います。
脚気などによる発熱や下痢、胸苦しい、身体が重いなどの症状に用います。
朱砂や鉛などが配合された石薬による薬害の解毒に特効があるとされています

適応とする体質と処方例

  • 昔から血液循環器系用薬として使われてきた薬です。
  • 血圧異常や精神、肉体疲労、脳卒中後遺症予防などに広く使われています。
    処方例。牛黄清心元

大棗

大棗

大棗は、果樹として広く各地の庭に植栽されているナツメの成熟した果実を乾燥したものです。
大棗は光沢があり、なるべく肉の厚いものほど良く、大きなナツメであれば良いので大棗と言われるようになりました。
大棗は大きければ有効成分も多く、新しい物すなわちジクジクとしている物ほど良いようです。
虫が付きやすいので、その用心に水や酒で蒸して虫がわかないようにするのが良いでしょう。
神農本草経の上品に収録され、傷寒論では113方中40方に配合、金匱要略では265方中44方に配合されるなど、漢方ではもっとも繁用される薬味の1つです。

気味、薬味薬性

味は甘、性は温

帰経。東洋医学の臓腑経絡との関係

脾、胃

効能

筋肉の急迫痛や痛みに用います。
よく似た効果で、芍薬は急変しない神経痛や、筋肉のみならず内臓部の筋の痙攣の弛緩に用いたりします。ですが両者にはっきりした区別をつけるのは難しいです。
自律神経の命令を行うホルモンの働きを整え、胃を良くしその結果、駆水します。
百薬の毒を和ませます。烏頭の毒を抑えます。

適応とする体質と処方例

虚弱体質の方が過労により疲れ、昼の間は疲れの度合いが低いため欠伸がでたり眠くなる程度だが、夜になると疲れが強く感じられる。ヒステリーや躁鬱病等のある方など。
処方例。甘麦大棗湯