日本漢方の原料である漢方生薬と有名な民間薬をご紹介します。
初めての方から専門家まで参考になるよう、気味、帰経、効能、適応とする体質と処方例、民間療法をご紹介。
黄土・伏竜肝(オウド・ブクリュウカン)をご紹介
カマドの下の焼土のことで、カマドに神があってその神を伏竜と言い、それより伏竜肝との名を得ました。
焼き土を使っても効果が上がりますが、瓦を細かく割って、火で焼いて、水中に数回放り込んで、水溶物質を溶かしても焼き土と同じ効果があります。
気味、薬味薬性
味は辛、性は温
帰経(東洋医学の臓腑経絡との関係)
脾、胃
効能
悪阻の鎮吐に効力があります。出血を治します。利尿の効があります。
適応とする体質と処方例
- 下血や吐血、鼻血、女性性器出血などに用います。処方例:黄土湯(オウドトウ)
- 乾姜人参半夏湯(カンキョウニンジンハンゲトウ)を煎じる時に、黄土を水に入れた上澄みの液で煎じると効果が強まります。
民間療法
吐き気:カラスビシャクの根(半夏)15gにひねショウガ(生姜)の切片3片を加え、二合半の水で半量に煮詰めた液を冷たくし、小さじ2杯ずつ1日数回にわけて飲用すると効果があります。黄土を20gほど加えると一層効果がありますし、茯苓5gを加えても効果が高まります。
黄連(オウレン)をご紹介
黄連は葉の形の違いによりキクバオウレン、セリバオウレン、コセリバオウレンなどがあり、これらの植物の根茎を取り出し根茎についているヒゲ(副根)を焦がして取り去ったものを薬用として使用します。
黄連は切面の色調の濃いものほど良質で、その色調の濃度はベルベリンなどアルカロイド含量に正比例します。
気味、薬味薬性
味は苦、性は寒
帰経(東洋医学の臓腑経絡との関係)
心、肝、胆、胃、大腸
効能
心臓の炎症、充血、機能亢進(異常に働きすぎて胸苦しくなる)を抑えます。
胃酸分泌過剰を抑え、荒れた胃壁を治す働きがあります。大腸菌、サルモネラ菌の働きを抑制します。
急性の吐血、喀血、鼻血等の上部の出血の止血の働きがあります。
江戸時代の学者香川修庵は「一本堂薬選」の中で、黄連の薬効について流行性疾患による熱病、熱を伴う下痢、下痢のための食欲不振、流行性結膜炎、ただれ目、中風、小児うつ熱などを挙げています。
黄連は苦味が強く苦味健胃薬に用いるのは、オランダ医学の影響を受けてからになります。
黄連の用量:葛根黄連黄ゴン湯や乾姜黄ゴン黄連人参湯のように、心の陽の手の経絡太陽小腸の下痢の時と、黄連阿膠湯のように精神的症状が主の時には黄連を大量に使い、心胸部の熱症状のきには少量を使っています。
少量の時は処方名に瀉心のつくものが多いです。普通は少量だと補、大量だと瀉の作用をする例が多いですが、黄連はその反対です。
適応とする体質と処方例
- 食中毒、食べ過ぎ、急性胃炎、急性腸炎で腹痛や嘔吐、下痢を起こしている方の炎症を沈め過酸性を抑えます。処方例:黄連湯(オウレントウ)、三黄瀉心湯(サンオウシャシントウ)
- 黄連エキスは黄色ブドウ球菌等に対して抗菌性があり、マウス摘出小腸及び子宮によるマグヌス法の鎮痙試験で小腸に対し鎮痙的、子宮に対し収縮、運動亢進、高濃度で抑制します。
- また三黄瀉心湯の動脈硬化予防について、基礎実験では黄連が動脈硬化を予防しうる可能性を認めます。
民間療法
- 下痢止め、健胃、製腸薬〔内服〕。乾燥した根茎3~5gを1日量として、水200ccで1/2量になるまで煎じて服用。
- 結膜炎、ただれ目に〔外用〕。2gを100ccの水で煎じ、沸騰したら火を止め、やや冷めたら煎じ液をガゼに浸し、随時洗眼する。
遠志(オンジ)をご紹介
遠志この生薬を内服していると元気が出てきて脳の働きが強くなり、意志が遠大になるので遠大な意志を造る「オンジ」と言われてきました。
気味、薬味薬性
味は苦、辛、性は温
帰経(東洋医学の臓腑経絡との関係)
肺、心・腎
効能
遠志で体力をつけホルモンを調節することによって、物忘れを治したり強い精神力を持てるようになります。
適応とする体質と処方例
胃腸の弱い虚弱体質の方が気を使いすぎたりした結果、心臓と胃腸を弱め体力を消耗し、血液凝固力を失って種種の出血、つまり腸出血、痔出血、血尿から貧血し元気衰え、心悸亢進し健忘し疲労困憊で神経症状を伴っている方に用います。処方例:帰脾湯(キヒトウ)、加味帰脾湯(カミキヒトウ)
民間療法
去痰〔内服〕咳に、1日3~5gを用いる。
艾葉(ガイヨウ、ヨモギ)をご紹介
艾葉は別名ヨモギとも呼ばれています。
「ヨモギ」の名は万葉集及び太言海によると、「モ」とはモユルとの言味でよく燃える草、すなわち「ヨモギ」と呼ばれるようになりました。ちなみに燃える草から「モグサ」と呼ばれています。
葉片が厚く柔靭で、表面に濃緑色が残り、背面が灰白色を呈し、絨毛が多く、苦いものを良品とします。
気味、薬味薬性
味は、苦、辛、性は温
帰経(東洋医学の臓腑経絡との関係)
肝、脾、腎
効能
アトニーの臓器を活発にします。
血行を盛んにし、アトニー性の諸出血に間接的に止血として働きます。子宮出血および血便、吐血などに用います。
灸をすることで経絡を刺激し臓器を刺激して自然治癒力を促します。
安胎作用として冷えによる腹痛を治し、また流産を予防する働きがあります。
適応とする体質と処方例
- 腹部痛や性器出血などの流産の前兆がある方に用います。処方例:膠艾四物湯(キョウガイシモツトウ)
- 下血や身体の下部に諸出血およびうっ血があり、出血が長引いて貧血の症候がある方。処方例:芎帰膠艾湯(キュウキキョウガイトウ)
民間療法
- 喘息に〔薬酒〕根300gを1.8Lの清酒につけて、半年以上熟成してこし、ヨモギ酒にします。1回20cc、1日3回内服しますが、酒に弱い人は薄めて内服します。
- 腰痛、腹痛、痔の痛み〔外用〕ヨモギ風呂として、艾葉300gか、生の葉600~1kgを木綿の袋に入れ、水のうちから風呂に入れて沸かします。入浴中、袋で身体を擦ると良いです。疲れにも良いですが、その場合、長風呂は逆効果になります。
- 皮膚掻痒症〔外用〕艾葉100gを布袋に入れ、風呂に入れて入浴。
- 腰痛〔内服〕ヨモギの生の葉を磨り潰し、小麦粉と練り合わせ、団子にし、フライパンにゴマ油をひき、焼いてハチミツをつけて食べます。
- 脳卒中後の手足の痺れ(12g)、風邪(10g)、健胃、貧血(5~8g)〔内服〕艾葉を半量に煎じて内服します。
- 不正出血(15g)、神経痛(10~15g)〔内服〕艾葉、3合の水で半量に煮詰め、毎食前1時間に分服します。
- 下痢止め〔内服〕艾葉1.5gに生姜4gを煎服します。
- 冷え症、ヨモギの葉を綿の代用にした座布団にいつも座るようにします。
- 頭痛〔内服〕艾葉10g、センキュウ3g、甘草1gを合わせて1日量とし、二合半の水で半分に煮詰め、食前服用。
- 胸焼け、胃炎〔内服〕ヨモギの生葉の絞り汁を飲みます。
- 汗をかきすぎる〔内服〕艾葉10g、カワラケツメイの葉(三扁豆)10gを1日量とし、3合の水で10分ほど煮立て、お茶代わりに飲みます。
- 鼻血〔外用〕ヨモギの生葉1枚をよく揉み、固く丸めて、出血する鼻腔へ詰めておき、1日に3回取り替えます。またヨモギの葉を干したもの15gを1日量とし、3合の水で半量に煮詰めた汁を毎食前服用。鼻血がよく出る人に繰り返すとよく効きます。
- 打ち身、捻挫〔外用〕イチヤクソウ、ヨモギ、ツワブキの生葉、アマドコロの根茎などの絞り汁を布に染み込ませて湿布。
- 更年期障害〔内服〕アカネ(茜草)の根5g、ヨモギ10gを1日量とし、2合半の水で半量に煮詰め、毎食前30分に分服用。
何首烏(カシュウ)をご紹介
ツルドクダミの根茎。
江戸時代に八代将軍徳川吉宗が不老長寿の薬として輸入しましたが、その効果はなく捨てられ、今ではどこにでも見られるほど野性化しています。
葉がドクダミに似ていますが、悪臭はありません。
昔、何首烏という人がいましたが、生来性器が弱くその機能を欠いていました。58歳になっても妻子なく、なんとか1人前になりたくて山中で修道していたところ、ふと目の前にある2株の藤が目に入り、三尺も離れているツルが絡みあっては離れ、離れてはまた絡んでいるのを見てヒントを得て1年飲み続けたところ、この男の生殖機能が回復したところから何首烏と名づけられました。
気味、薬味薬性
味は苦、渋、性は温
帰経(東洋医学の臓腑経絡との関係)
肝、腎
効能
強壮、健胃、緩下剤として働きます。
適応とする体質と処方例
体質が虚弱で膝や腰がだるく無力感があり、ふらついたり目がかすんだりなどの血虚の症状があるときに用います。処方例:何首烏丸(カシュウガン)、当帰飲子(トウキインシ)
民間療法
便秘、整腸〔内服〕よく乾燥した何首烏(5~7g)を水で煎じて服用。