日本漢方の原料である漢方生薬と有名な民間薬をご紹介します。
初めての方から専門家まで参考になるよう、気味、帰経、効能、適応とする体質と処方例、民間療法をご紹介。
乾姜(カンキョウ)
干した生姜のことを乾姜といいます。生姜中の揮発しやすい精油を取り除いて、辛味成分のみにしたものです。
乾姜は茶褐色で澱粉が糊化して乾燥された固い塊になっており、口を焼くような精油らしきものがないのが特徴です。
漢方の古典では小生姜を使用します。奈良時代に日本に漢方薬として伝わって来ています。一方、現在の日本の生姜は大生姜で、江戸時代に伝わって来た生姜です。
生姜は植物の基源としては同じでも、その調製法によってに分けられています。
生姜:新鮮な姜根。
乾生姜:生姜のコルク皮を剥いで生石灰を撒布し、発熱と脱水作用により化学的に乾燥したものです。(乾生姜が傷寒論の乾姜に当たります)
乾姜:生姜のコルク皮を剥いで熱湯に浸し、澱粉質を糊化し乾燥したものです。
気味、薬味薬性
味は大辛、性は大熱
帰経(東洋医学の臓腑経絡との関係)
心、肺、脾、胃、腎
効能
胃アトニー、腸の虚弱、仮性便秘、腰冷痛など冷え症や、血行不良からくる新陳代謝の低下を盛んにします。
適応とする体質と処方例
腰か腰から下が冷え重だるい症状があり、胃下垂の状態になっている方に用います。処方例:苓姜朮甘湯(リョウキョウジュツカントウ)
甘草(カンゾウ)をご紹介
甘草が漢方における要薬として繁用されることは、傷寒論の113方中70方に処方されることからも明らかです。
甘草は外皮が薄く、赤みを帯び、内部が充実して鮮黄色を呈し、甘みの強いものが良品です。根が細くて外皮が厚く、中身がしばしば黒変し、苦味のある物は、最も下品といわれています。
甘草は「あまくさ」又は「あまき」とも呼ばれる他、国老とか主人と呼ばれ一家に主人がいて治まるように、処方にもよく甘草が入っていてその効力を発揮します。
帰経(東洋医学の臓腑経絡との関係)
十二経
効能
古く神農本草経の上品に収録されています。
緩和、鎮痛、解毒、矯味薬で、とりわけ筋肉の急激な緊縮によって発する疼痛、いわゆる筋肉の引きつりや急迫症状を緩和し、腹痛や咽頭痛に用います。
息苦しいなどの急性の症状に使用します。
他の薬物の甘草以外のアレルギー反応を抑制します。
消炎作用があります。(咽頭痛に甘草の液でうがいする)
副腎皮質ホルモン様作用があります。
適応とする体質と処方例
- 喉を詰まらせたり、声がかすれたりする人の炎症を取りさり、アレルギーを抑えるのに使用します。処方例:甘草湯(カンゾウトウ)
- 胃の弱い人が、みぞおちを押さえたり動いた時に、みぞおち部でグルグルと音を立てたり、それによって、のぼせ症状をおこし胸苦しい人に使用します。処方例:苓桂朮甘湯(リョウケイジュツカントウ)
栝楼根、瓜呂根(カロコン)をご紹介
中国ではトラカラスウリの種子で、日本ではキカラスウリの種子を用います。近頃は輸入品を中心に使用するようです。
日本ではキカラスウリの果実のうち種子だけを用いますが、中国では果実全体を瓜呂、あるいは全瓜呂果皮を瓜呂皮、種子を瓜呂仁と呼んで区別して用いているようです。
色が白く、きめが細かく、繊維質が少なく肥大し、苦味が少ないものを良品とします。
気味、薬味薬性
味は苦、性は寒
帰経(東洋医学の臓腑経絡との関係)
肺、胃、大腸
効能
化膿症などの膿を排出します。
解熱作用があり、熱性の疾患にみられる便秘などにも用います。
燥を潤し渇を止め、腫れを消し膿を排し、痰を滑らかにします。
虚証の口渇に止渇剤として用います。
催乳の効があります。
適応とする体質と処方例
- 長年の病気で衰弱し、顔面や頭部から自汗盗汗が出やすく口乾や軽い口渇がある方。処方例:柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)
- 咽喉部、頚部、耳部の炎症を治すものに用います。処方例:柴胡清肝湯(サイコセイカントウ)
民間療法
- 根の澱粉は天花粉といい、夏のアセモやタダレに治療として用いられます。ちなみに現在のベビパウダは澱粉に亜鉛華などを加えたものが殆んどです。
- シモヤケ、ヒビ、アカギレに対してカラスウリの赤い実を砕いてその果泥を塗ります。
- 天花粉の作り方:秋から初冬にかけて根を採取し、水洗いして細かく砕き、水を加えてミキサーで攪拌、浮いた繊維質を除く(数回繰り返す)。白く沈殿した澱粉を布でこして日干しにする。
枳殻・枳実(キコク・キジツ)をご紹介
枳實は、ミカン科ダイダイまたはナツミカンの未熟な果実を乾燥した生薬です。
枳實の良品は皮が厚く、膚面は緻密で色が黒く、内部は青みを帯びた茶褐色で、苦味と香気があり、使用に当たっては、なるべくかかる品を撰用するのが良いと思われます。中には枳実と称して、早落ちの蜜柑より製したものもありますから注意が肝心です。
ミカン類の花が咲いた後にできる果実をそのままにしておくと、大きくなりすぎて栄養が全部に回らなくなるため、摘採して数を減らし重点的に発育させていくようにします。そのときに摘採した物や台風で落果したものを集めて割ったり切って乾燥したものが枳実、枳殻です。
7、8月に乾燥させた実は中味が充実しており、これを枳実といいます。9、10月になると殻は固くなり中味は空虚になります。これを乾燥させたものを枳殻といいます。
気味、薬味薬性
味は苦、酸、性は微寒
帰経(東洋医学の臓腑経絡との関係)
脾、胃
効能
自律神経の緊張を緩和し、咳をもとに出てくる痰を散らします。(破気の要薬で、結実を破るとか、気滞を解除する働きがあります)
痛みを主とするときは枳実を用います。
飲食停滞による腹部膨満感、慢性消化不良に用い、胃腸機能の回復をはかり、消化を促進します。
肝臓、胆のう疾患、および胃腸疾患による胸腹部の緊張を緩和し、膨満感を治します。
適応とする体質と処方例
- 上腹部が張り、食欲が減少して便秘の傾向が強い方。処方例:大柴胡湯(ダイサイコトウ)
- 胸部から上に充血して毒気多く、顔面や頭部、頸項部に充血化膿性腫物を起こしたものに用いられます。処方例:清上防風湯(セイジョウボウフウトウ)
- 体表の皮膚部におできがあり、頭痛を伴なっており、肝臓機能の低下した方に用います。処方例:荊芥連翹湯(ケイガイレンギョウトウ)
- 水滞と気滞の症状である心悸亢進、気うつ、驚悸に用いられます。処方例:温胆湯(ウンタントウ)
桔梗(キキョウ)をご紹介
桔梗は秋の七草の一つとして、萩、尾花、葛、女郎花、撫子、藤袴と共に上げられています。秋の七草のうち4つまでが薬として用いられて来ているのも興味深いところだと思います。
桔梗の花は広く鑑賞用として知られていますが、根が去痰剤になることはあまり知られていません。桔梗の根を薬用として使用します。
桔梗の名はその根が硬くギッシリと充実している状態で、その根から出た茎や梗は真っ直ぐにスラッと伸びているので「キキョウ」と呼ばれるようになったと言われています。
喉の刺激を治す力は、生桔梗に多いと言われています。
さらし桔梗、皮付き桔梗とがありますが、皮付き桔梗の場合は、褐色で実質が白く潤いがあって充実し、重いものが良いとされています。
さらし桔梗は、外面がほぼ白色で縦にしわが多く、潤いがあり且つ重くて充実しているものが良いとされております。
桔梗の薬効成分は水溶性であるため、水洗いなど河水で晒したものには有効成分の含有量が少ないとされています。
気味、薬味薬性
味は苦、辛、性は平
帰経(東洋医学の臓腑経絡との関係)
肺
効能
肺、気管支の熱を解熱する力があります。
痰を取り除く作用があります。
薬理学では、マクロファージーを活性化する事が分かっています。
適応とする体質と処方例
- おでき。処方例:十味敗毒湯(ジュウミハイドクトウ)
- 体内に湿邪の原因がある所に気候不順にあったために、頭痛悪寒などの外証と共に腹痛下痢を訴える場合。処方例:藿香正気湯(カッコウショウキサン)
- 肝、胆、三焦経の風熱、即ち咽喉部、頚部、耳部の炎症を治すもの。処方例:柴胡清肝湯(サイコセイカントウ)
- 胸部から上に充血して毒気が多く、顔面や頭部、頸項部に充血化膿性腫物を起こしたもの。処方例:清上防風湯(セイジョウボウフウトウ)
- 皮膚や粘膜部の化膿炎症や、解毒作用不良による悪液質化が見られるような疾患(例えば、蓄膿症、慢性鼻炎、慢性扁桃炎など)。処方例:荊芥連翹湯(ケイガイレンギョウトウ)
民間療法
- 痛む化膿性の腫れ物に〔内服〕桔梗根1g、芍薬、枳實3gを粉末として混ぜ、1回量2~3gをとり、これに卵の黄身1個分を加えて混ぜ、白湯で飲む。1日1~2回。
- 扁桃炎などで喉が腫れて痛む、痰を伴う咳〔内服〕桔梗根2g、甘草3gを1日量として煎じ、1日2回、うがいをしながら飲む。