糸練功で探る副作用診。漢方研究会で発表
太陽堂漢薬局が発表報告した論文。論文、改善例のご案内はこちら
副作用診
2022年11月。伝統漢方研究会第19回全国大会。日本、福井、ハピリン福福館内
竹内太紀。福岡県福岡市、太陽堂漢薬局
はじめに
漢方薬は西洋薬と比べ、食品に近い性質を持ち、副作用が少ないと一般的には言われる。しかし、食べ物にも多くのアレルギーが存在するように、全ての薬味において、アレルギーが起きる可能性はゼロではない。
糸練功の習得は大事だが、症状の訴えがあった時の為に、原因を想定するための知識や、起こりうる副作用についての知識を付けておく必要があると考える。本論文では、著者が経験した実際の症例を交え、漢方薬の副作用について考察する。
症例1
69歳女性。主訴。肺MAC症。2022年1月に、市の検査で精密検査となり、病院で肺MAC症と診断された。咳は出ないが、寝る時に痰が少し出る。色は透明。倦怠感、食欲減退、無気力感有り。胸や背中にチクチクする感覚がある。寝汗を首と顔に良くかくようになった。
糸練功。発熱、体力低下、大椎の反応。脾陰証、0.7合3プラス。補中益気湯加白人参。痰の症状、天宗。小腸陰証、0.4合3プラス。麦門冬湯加紫苑玄参。左肺MAC菌の反応。大腸陽証、0.3合3プラス。肺MAC熟鶏血藤加防風露蜂房。肺MAC熟鶏血藤。玄参甘草桔梗茯苓露蜂房紅参前胡山薬薏苡仁熟鶏血藤
選薬。補中益気湯加人参麦門冬玄参紫苑。朝夕1日2回湯剤。肺MAC熟鶏血藤加防風露蜂房。昼寝1日2回散剤
経過。2022年3月2日服用開始
3月15日。煎じ薬を飲んだら食欲減退、胃のムカつき、気力低下が起こる。ご飯を無理やり食べている状態が続いている。副作用診にて紫菀が反応、加陳皮とする事でsmに。陳皮を単味で送り、煎じ薬に加えてもらう。
3月24日。一向に改善せず、身体がしんどい。粉薬中の露蜂房に、僅かに粘膜刺激の反応あり。山薬加味でsm。近々来局するとの連絡を受けたため、漢方薬は全て中止して来局まで様子見。
4月19日。ずっと調子が優れなかった為、4月13日に病院を受診、逆流性食道炎と診断。調子が戻ってきたため、漢方薬を再開。煎じ薬は中止し、代用として保険食品の風参、オイスターキングを選定。肺MAC熟鶏血藤の散剤は、山薬を加味し投薬。
4月26日。今回は身体の怠さ等は無かった。同じ内容で継続
5月11日。気力、背中のチクチクともに、漢方薬を飲む前から比べて少し楽に。
7月1日。痰の量が減ってきた。気持ちも落ち着いている。現在も継続中。
症例2
9歳男児、主訴。アトピー性皮膚炎。生後7ヶ月の時に診断、全身の痒み、蕁麻疹がある。写真上では首や膝裏など、汗を掻く部分に発赤あり。小麦や卵など、アレルギーのものが多い。
2021年10月より、四物湯合黄連解毒湯関係を煎じ薬で服用中。痒みや赤みの状態に中々改善が見られず、処方変更を検討
糸練功。アトピー性皮膚炎、曲鬢上。胆陽証、経絡5.2合、臓腑7.4合2プラス。荊防敗毒散加黄連。痒み症状、曲鬢上。心陰証、経絡5.6合。甘麦大棗湯
選薬。荊防敗毒散加黄連橘皮大棗。湯剤、朝夕1日2回
経過。2022年4月11日。上記内容に変更して服用開始
5月14日。変更してから痒みが悪化した他、鼻水などの鼻症状が酷い。4日程服用を止めるとマシになった。副作用診にて橘皮が反応、橘皮を抜いた形で送り直し様子を見てもらう。
5月28日。痒み等の症状は随分引いた。今は膝の裏や頭が痒い。
7月2日。自覚的な痒みは随分引いてきた。発赤やカサツキはまだある。本人的には、今の漢方薬が合っていると感じている。現在も継続中。
症例3
66歳女性、主訴。不安感。母の介護のことで娘と大喧嘩をしてしまい、それ以降その日の記憶が丸々飛んでしまった。不安を覚え病院に行くも特に異常はなし。今はその時の状態にまたなってしまうのではないかという不安感がかなり強く、落ち着くことができない。
糸練功。五志の憂。大腸陽、経絡0.4合、臓腑1.9合4プラス。半夏厚朴湯加香附子松葉合桂枝甘草竜骨牡蛎湯加竜骨
選薬。半夏厚朴湯加香附子松葉合桂枝甘草竜骨牡蛎湯加竜骨。湯剤、朝夕1日2回
経過。2022年5月20日。服用開始
6月20日。状態は良くなったが、漢方薬を服用した直後に異常に眠気が来る。また頭がボーっとして何も考えられない時があり不安。副作用診では特に反応なし。好転反応による眠気と判断。服用量を3分の2量に落として一旦様子を見てもらう。
7月15日。眠気やボーっとする感覚はすっかり無くなったので、自己判断で元の量に戻していた。それでも大丈夫だった。不安感もほとんど無くなった。現在も継続中。
考察
症例1。この方は倦怠感が強く、脾気虚を補う補中益気湯で治療を開始した症例である。咳の症状は無かったが、糸練功上では麦門冬湯加紫苑玄参の証を捉えた。麦門冬、紫苑、玄参が特にsm、補中益気湯に加味するとよりsmとなったため、一緒に入れてお出しした。補中益気湯は脾胃を補うため、本来の作用では食欲が落ちる事は考えにくい。
食欲不振を起こされた際、原因としては、何らかの薬味による副作用しか思い当たるものが無かった。その為副作用診で再度確認すると、紫苑がstとなっていた。紫菀の1回目のsmは、副作用診によって合数が下がっていた部分を取り違えたものと考えられる。
この方の五志は半夏厚朴湯証であった。半夏厚朴湯証の方は粘膜刺激に弱く、また一度不安に思ったり、思い込みによるバイアスがかかったりすると、様々な症状を訴えられることが多い。紫苑を抜いても変化が無く、後は思い込みによる影響しか考えうる原因が無かった。結局煎じ薬の継続を断念せざるを得なかった。もう少し慎重に薬味選定を行うべきであったと、反省させられた一例である。
尚、麦門冬湯の加味として、紫苑桔梗玄参が良く用いられるが、経験的に紫苑は身体に合わないケースが時々見受けられる。選薬の際は、副作用診を丁寧に行う事が重要と考える。
症例2。温清飲関係の漢方薬での改善が頭打ちとなり、荊防敗毒散に切り替えて治療を開始した症例である。荊防敗毒散は、十味敗毒湯から桜皮、生姜を抜き、羌活、薄荷、連翹、金銀花、枳殻、前胡を加えた薬方である。燥湿中間で十敗がstの時に使われることが多い。
掻痒症に甘麦大棗湯の証も捉えていたが、以前この子にグルテンアレルギーの証を捉えていたことから、加大棗として荊防敗毒散に加味した。
橘皮はグルテンアレルギーの毒消しとして、処方を切り替える前から加味し続けていた。皮膚症状が悪化した段階では、季節的な影響で夏場で湿が強い、汗による影響なども考えられたが、副作用診を行うと橘皮がstであった。
自律神経症状や皮膚症状の原因として、グルテンによる遅延型アレルギーが最近問題となっている。グルテンの毒消しとして、蝉退や橘皮など、精油成分が含まれるものを加味することが多い。しかし精油成分は、体内への蓄積によって、逆に副作用となってしまうことが最近見受けられる。また橘皮は、青皮程ではないが発表の働きがある。夏場に強くなる発表の働きが、橘皮によって助長されてしまったため、副作用のような形で出てしまった可能性も考えられる。橘皮を抜くと症状は治り、元々の皮膚症状自体にも改善が見られ始めた。
たった一味の差でも副作用の場合、症状が顕著に現れる事がある。薬方の取り違いと安易に判断せず、薬味一味から疑うことも重要だと感じた一例であった。
症例3。五志の憂に著効が見られた症例で、好転反応と思われる眠気を起こされた。不安感が強い時は、交感神経の興奮状態が持続する。漢方薬が合うと、交感神経が急激に休まる。そのため慣れるまでは眠気等を感じる事が多い。
今回は上記以外の原因は考えにくかった。念の為副作用診を行い、stが無い事を確認。服用を継続して頂いた。学術的な観点から見ても、原因が分かりやすいケースではあったが、患者さんはそのことでも不安に思われる。
好転反応などの場合は、しっかり原因を説明し、継続してもらうための方法を考える事が大事である。もし好転反応による症状が起こったとして、漢方薬の減薬や休薬をしてしまうと、その症状は長引くことが多い。この方は車の運転が多い方で、眠気が起こるのが危険であった。減薬を少しだけしたり、飲むタイミングを変えたりと、継続のための試行錯誤にかなり苦労をした一例でもあった。
考察まとめ。副作用のような症状が起こった際に、想定される事として、
- 薬方の取り違い、方意がずれているために起こる症状
- 瞑眩、好転反応
- 薬味の副作用
- 漢方薬とは関係のない症状。季節的なもの、別の証の出現が挙げられる。
漢方薬のせいではないと否定するのは、1から3の過程を踏んでから出ないと出来ない。また漢方薬をすぐに中止するなど消極的な姿勢を取ってしまったりするのは、2から4の可能性を考慮できていない。症状が起きた原因を想定し、考えられる原因の中で実際に糸練功を取り、答えを導き出す事が大事なのではないかと考える。
副作用診
糸練功では、薬味に対して副作用を起こすかどうか、判別する方法がある。適不適診を行う際、副作用があると糸練功上の合数が下がる。同じ合数ではsmの反応になるため、下の合数に同じ証の反応が無いかを確認する必要がある。この過程を飛ばしてしまうと、証の取り違いを起こしやすい。
しかしながら、一つ一つ下の合数まで確認する工程は、現場では使いにくいのが現状である。ここでは私が実際に使っている、下の合数を確認せずに副作用を捉える方法を紹介する。
- 合数を合わせた所で、テスターの手首をほんの少し外転させる
- 人差し指を擦る際、人差し指を、地面に向けてトントンとノックするように軽く振り落とす。右図の斜線部分に張りを感じられる程度に落とすと良い。
- stの反応が出た場合は副作用。この方法を使うことで、下の合数を確認しないで副作用を捉える事が出来る。
副作用
全ての薬味において、アレルギーなどによる副作用を起こす可能性はある。しかし全ての薬味を想定して一つずつ糸練功を取って行くのは、実際の現場では難しい。その為、副作用を起こすことが多いと思われる薬味を私なりにまとめてみた。今後の参考に少しでもなれば幸いである。
駆瘀血剤。特に牡丹皮、桃仁、蘇木、蝉退、陳旧の駆瘀血剤。油性成分が体内に蓄積することで起きる場合がある。
清熱血熱剤。特に黄芩、山梔子。駆瘀血剤同様、油性成分が体内に蓄積。黄芩は最近、野生品の少なさから質が低下しており、肝機能異常を起こす場合が有る。
生牡蛎、化石牡蠣。特に生牡蛎。浮腫み、皮膚症状が多い。浮腫みは潤の作用が強められた結果とも考えられる。
精油成分が多いもの。特に荊芥、橘皮、蒼朮、桂皮など。生薬ケースにシミが出来るもの香りが軽いものには、精油が多く含まれる傾向がある。
このように見ると、油分が問題になることが多い。体内に残りやすい事が理由と考えられる。
また傾向的に君火より相火の方が、副作用が起こる可能性が高いように感じる。白朮より蒼朮の方が、桃仁より牡丹皮の方が、副作用が見られる事が多い。君火は相火に比べ調和が取れやすく、作用がマイルドなためとも考えられる。
最後に
糸練功にも知識にも、100パーセントの正解はまだまだ私の中には存在しない。いくら理由を考察し、糸練功の習得を頑張ったとしても、良くならないケースがこれから出てくると思う。ただ症状を訴えられたときに、十分に原因を考えて取り組んだのであれば、もし結果に繋がらなかったとしても、その方を治すための糧にはなるはずだと思う。このような姿勢が、患者さんと向き合うという事だと信じ、引き続き修行に励んで行きたい。
今回使用した漢方薬、保険食品
黄耆、白朮、当帰、陳皮、柴胡、升麻、玄参、紅参、鶏血藤、防風、荊芥、連翹、枳殻、金銀花、生牡蠣、高砂薬業株式会社
甘草、桔梗、露蜂房、前胡、羗活、独活、薄荷、川芎、橘皮、広南桂皮、厚朴、蘇葉、白人参、大棗、生姜、茯苓、山薬、薏苡仁、竜骨、半夏。堀江生薬株式会社
風参。澱粉、オタネニンジン、山芋、甘草。
スクアレン。国内製造。ゼラチン、グリセリン。
参考文献
THE古方、木下順一朗著書。改定四版実用漢方処方集。藤平健、山田光胤。監修日本漢方協会編集