中高年の難治性耳鳴り。漢方研究会で発表
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難治性耳鳴り
2018年11月、伝統漢方研究会第15回全国大会。日本、福岡全日空ホテル
木下順一朗。福岡県、太陽堂漢薬局
緒言
耳鳴りには、様々な原因があります。しかし現実には原因不明の場合が多く、治療も困難な場合が多いです。西洋医学的にも明確な治療法はなく、東洋医学でも確率された治療法はありません。漢方でも上手く治療が進む場合もあり、また様々な漢方治療に抵抗し改善が見られない場合もあります。
2012年伝統漢方研究会にて発表された第五頚椎からのバレーリュー症候群、後頚部交感神経症候群を治療し難治性の耳鳴りが改善することもあります。
今回、様々なアプローチにて漢方治療を行ったにも関わらず、改善しなかった耳鳴りが六味丸加味方にて改善した例がありましたので、ご報告します。
症例1
- 主訴。左耳に水が溜まり、左耳が聞こえない
- 既往症。副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎で通院中。2014年9月から右内頚動脈狭窄、半年ごと検査
- 現病歴。2015年4月より左耳に水が溜まり、聞こえずらくなった。毎年梅雨時期に水が溜まる感じがする。2015年5月に耳鼻科で切開。切開後、水の溜まり感は無くなり、聞こえも以前より良くなった。
- 現症。48歳、男性、身長165センチメートル、体重60キログラム。最高血圧110最低血圧70。二便正常、口渇なし。冷えのぼせ無し。他に目立った症状は無い。
治療経過
2015年5月
排膿散及湯加黄耆細辛合瑠璃百仙にて治療を開始する。
「漢方薬を飲みだして、以前からあった黒っぽい塊の様なものが1週間でたが、その後は出ていないとのこと。」
2015年8月
風参と瑠璃百仙に切り替える。
「耳の水は溜まった感じはしないが、聞こえが良い時と悪い時あるが聞こえ難い感じが通常です。暴風の前と、気圧とかによって変わる気がします。」
2015年10月
香蘇散増香附子。
「耳に水が溜まる事は無くなった。左耳は余り良く聞こえていない感じがあり、左耳だけ無音の様な状態な時があります。」
2015年11月
香蘇散加露蜂房。
「お薬を確実に飲むようにしたら聞こえの良さが、良くなってきたので継続すると効果があるんだなぁと実感します。」
2016年4月
香蘇散加甘草栝楼根露蜂房。
2016年9月
「以前のように聞こえが悪い感じはありません。左側から話しかけられても問題ありません。」
途中に風邪をひき、副鼻腔炎と中耳炎になり再び左耳に水が溜まるようになった。その後一進一退が続く。
2018年4月
耳鳴丸、六味丸加柴胡慈石加蘇葉人参黄柏
「耳の違和感が消えてきています。左耳の聞こえも良いです。身体も元気になりました。」
2018年6月
耳鳴丸、六味丸加柴胡慈石加蘇葉人参黄柏
「耳の聞こえの方は違和感が無い位に聞き取れます。湿度の高い時に少し悪い位です。調子の悪い時には欠伸で、耳が通ります。」
2018年7月
耳鳴丸、六味丸加柴胡慈石加蘇葉人参黄柏
「耳の聞こえは特に問題ないです。耳が詰まっても、すぐに通せます。」
症例2
- 主訴。耳鳴りと眩暈
- 既往症。2000年12月耳鳴り、眩暈。2009年12月突発性難聴。慢性膀胱炎、外陰部の痒み
- 現病歴。2016年10月、耳鳴りと眩暈を訴えられる。
- 現症。55歳、女性、身長160センチメートル、体重50キログラム。最高血圧100最低血圧70。顏色は貧血色、手足のみ冷え性、二便正常。
治療経過
2016年10月
苓桂朮甘湯加甘草川芎沢瀉にて治療を開始する。
「耳鳴りは少し治ってきました。川の流れるような音は解消してますが、以前からの耳鳴りは継続しています。」
2016年12月
「風邪をひき、その時に耳の調子が悪いので耳鼻科に行って1回目の鍼をしました。そして、木曜日に2回目の鍼をしました。耳鳴りがますます酷くなり、機械音のような汽笛の様な音がしています。両方の耳です。つまり感もあります。これから耳鼻科に再び行きます。もう鍼はしてもらいません。」との事。
香蘇散加白芷青皮合柴胡桂枝乾姜湯加黒芝に変方。
その後、「耳鳴り、耳詰り感はあまり改善していません。」との事。
2017年1月
第五頚椎バレーリュー症候群の治療に切り替える。桂枝加朮附湯加炙甘草を投薬。
「耳鳴りの不快感から解放されません。耳鳴りが、夜うるさくて良く眠れません。耳詰りもあり、耳の奥の方が痛い時があります。」
2017年4月
香蘇散加白芷青皮合柴胡桂枝乾姜湯加黒芝を追加し、第五頚椎の治療と併用する。
「耳鳴りは少し改善してきたようです。まだ耳鳴りは続いていますが、音が小さくなったように思います。耳詰まりは有ったり無かったりです、左後頭部の突っ張りや痛みは消えて来ました。」
2018年2月
「耳鳴りは相変わらずですが、耳詰まりは治まってきました。耳鳴りは、夜と昼間でも静かな場所では気になります。」との事。
2018年4月
耳鳴丸、六味丸加柴胡慈石加蘇葉人参黄柏。補助にデュアル桜精。
「雑音がある場所では、あまり違和感を感じなくなっています。」
2018年7月
「耳鳴り耳詰感もまだ続いていますが、以前よりは全然楽になっています。」
考察並びに結論
証から考えて、中高年の難治性耳鳴りに本方の適応は多いと考えられる。耳鳴丸加蘇葉人参黄柏の処方を組むにあたり、薬匠しらい薬局の白井一矢先生から多大なご指導を頂いたことに感謝いたします。
- 耳鳴丸として六味丸加柴胡3慈石1.1加蘇葉1.2人参2.4黄柏3.1加独活
- 太陽堂漢薬局耳鳴丸末として熟地黄1.46山茱萸0.74山薬0.74澤瀉0.55牡丹皮0.55茯苓0.55柴胡0.2慈石0.014蘇葉0.22人参0.44黄柏0.56加独活
参考文献
木下文華。バレーリュー症候群、伝統漢方研究会第9回全国大会、2012