医学の中の糸練功

漢方理論

糸練功は生体物理学。漢方研究会で発表

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糸練功

2006年11月、伝統漢方研究会第3回全国大会。日本、横浜シンポジア

木下順一朗、太陽堂漢薬局。福岡県福岡市、日本

諸言

糸練功を知らない人は、術者が糸練功をしている姿を見ると奇異に感じる。おまじない、まがい物、気功として見るのか、人それぞれだと思う。知らない人にとって理解できないのは当然のことである。私達も最初そうであった。だが糸練功が誰もが証明できる医療技術であることは疑いのないことである。詳しくは漢方の臨床に発表された入江正先生の論文。入江FTについて。漢方の臨床、第37巻06号及び07号、1990を参照されたし。

糸練功は大村恵昭先生発案のOTオーリングテストを起源として故入江正先生が開発された入江式FTフィンガーテストより進化発展してきた技術である。糸練功の発展の経緯を知ることにより今後の糸練功の展望や方向性、可能性を知ることが出来る。

OTオーリングテストによる生体の反応とFT

木下が初めて漢方の臨床に発表された入江式FTを見た時、半信半疑であった。最初は誰もが信じられないと思う。木下はこの14年間で数百人にのぼる人々に糸練功を教えてきた。今では誰でも糸練功は出来ると確信している。固定観念に捕われている人や、自分には出来ないと思っている人には最初は難しい面もある。

当初木下は入江先生の論文に書いてあるとおりにFTを実行するが何回しても何も感じなかった。その当事、太陽堂漢薬局を訪問していたメーカー担当者にやり方を教えると直ぐに出来たのである。他の知人にもやらせた、これまた直ぐに出来たのである。

それから木下の練習が本格的に始まった。同時に入江先生が紹介されていた大村先生のOリングの実習を熟読し、生体物理学としての反応OTを理解し、またOTとFTは生体の同じ反応を感知していることを学んだ。

その反応は、「生体の異常な部分は、正常な部分と異なる電磁場を持っているということ。その部分に軽微な刺激を与えると知覚神経が刺激され脊髄を上昇し中枢神経へ刺激が伝わるということ。脳からは骨格筋のαモーターニューロンに刺激が伝わり全身の筋力が変化するということ。」であった。その反応によりOTやFTの筋力テストが可能となるわけである。物理学としてFTを頭で理解したとたん、FTが出来るようになった。自分の潜在意識の中に在った疑いが晴れたのだと思う。

OTは、生体物理学の面から人間が本来持っている能力、筋力の変化のみで測定するという点で大発見だった。故入江正先生の師匠である間中善雄先生は、銀杏と心臓の関係をOTで証明された経験よりOTを絶賛し日本で広められた。機器による測定と数値が支配する時代の流れに対し、OTは四診である望診、問診、聞診、切診による診断を行う東洋医学にとって一つの福音でもあった。

同時にOTを東洋医学の臨床の場で使用すると、幾つかの弱点もあることが分ってきた。一つは膵臓に炎症がある人は筋力が続かず、数回のOTを連続すると正確な判断が出来なくなる点。また経絡や五臓診断、薬方判断、更に薬量を決定するには数十回から数百回のOTが必要となり、東洋医学の臨床の場では使い難いという点である。

入江FT

生体物理学による筋力テストであるOTの弱点を克服したのが入江式FTである。研究熱心な入江正先生は、間中先生譲りのOTを臨床で使用し、更に東洋医学の臨床で効率的に使える技術を研究開発していったのだと推察できる。幸運にも入江先生が東洋医学に従事し、入江先生の真摯な性格と努力研究によりFTの結果が経絡、経気理論と合うことも証明された。

入江先生の開発されたFTは、華陀、扁鵲、そして日本の曲直瀬道三が出来たと言われる伝説の糸脈診と同技術だと思われる。

FTの結果と東洋医学の気。経絡、臓腑との関係

東洋医学の病因である気、血、水の血と水には多くの対応薬方が存在し、また多くの理論が存在する。しかし最も重要と言われる気に関してはその理論は希薄であり概念としての範疇を出ていない。

気功法を行うことにより生体の気は動くと考えられている。また鍼灸を受けると即座に経気は連動し動き出す。同じく漢方薬を服用しても経気は動き出し、しかも長時間その動きは続くと考えられている。

共通の気の概念が薄いがために、気功法も鍼灸も漢方も同じ気を語りながら、技術面に走り別理論と成りつつある。特に湯液家は現代薬理学の分析成分で漢方薬を語る傾向への動きが止まらない。そこには東洋医学の病理論の基礎である気は存在しない。それが東洋医学と言えるのかどうか疑問である。

そういう状況下で生まれた入江FTは、臓腑や経絡の気の動きを捉え東洋医学的診断、治療法を決定する技術として賞賛に値するものである。

合数の発見による糸練功の誕生

木下が故入江正先生にFTをお教え頂き、漢方の臨床の場でFTを使用する時に先ず困ったことがあった。一人の患者さんの中に複数の証が存在する。当時、入江先生はFTでstの部分を針で治療していき、残ったst異常部分を漢方で治療していたかに思う。円筒磁石で治療順番と治療臓腑を探し、針でst異常部分を皮を剥く様に次から次に剥し、次の治療点を探って治療していく。

私の湯液を中心とする漢方治療では、針のように結果は瞬時に出ない。そこに針を中心とする入江先生の治療法と漢方治療の私とでは、タイムラグが出てしまい思うように治療がはかどらなかった。その点を入江先生に質問すると「木下君が研究し発表しなさい」とのお返事を手紙で頂いたのが今から15年前である。

その後1年ほどして、陰脈、陽脈の気の流れと症状の強さの間に関連があるということ発見した。身体に強く影響が出ている状態を0合或いはマイナス1合と考え、身体に限りなく影響が出ていない状態を10合とし、改善の度合いを0から10合の間で判断し深浅診を完成した。深浅診を用いると、一人の患者さんの中に混在する複数の病態、証を明確に分類することが出来る。標治部と本治部を捉えることが可能となり、明確な治療方を組み立てられる。

また古方の治療原則である先表後裏、先急後緩においても、何が先表なのか、何が先急なのか、容易に判断ができるようになった。

気功技術とFTの融合による糸練功

FTを取得した者はOTよりFTの方が正確性がより高いことに誰もが気づく。しかし、そのFTでさえ術者によって結果が異なることがよく起こってくる。糸練功を取得すると、更に正確性が高くなってくる。そのため、術者によって結果が異なる原因を探し改めることが可能となる。術者全員が同じ結果、証の判定や同じ治療法を得る可能性が高くなってくるのである。

糸練功上のミスの原因を取り除くヒントとなったのが気功法である。気功の能力と糸練功の能力は直接関係ないが、糸練功をやる上において立式気功と座式気功の調身は参考となる。気功法の中で糸練功へ応用できる技術としては、任脉、督脉の気を流すための調身が最重要となる。また立式においては重心を湧泉に持っていき、センサー側の足先を内側に向ける。身体全体の力を抜き、両手両足の交差を避ける。患者さんと術者の位置においては対面を避け、術者の陰陽面と患者の陰陽面が交差するようにする。また出来るだけ足先を患者さんに向けない等、注意が必要となる。

このようなスタイルをとり下焦の気が廻ると術者の中丹田は糸練功でsm、オーリングテストではCloseとなり、上焦の気が廻ると下丹田はsm、オーリングテストでもCloseとなる。

センサーは指先だけでなく、目もセンサーとなっていることを自覚しないといけない。またセンサーを太極式気功の手の調身と同様に使うことにより患者さんの別の情報を読み取ることが出来る。

或いはセンサーを振戦させることで糸練功の情報を読み取る深さがが変化していくなど。センサーに気功の手の動き、手の調身技術を加えることにより情報が変わるということを認識し糸練功を行わなければならない。

現在のOTやFTで術者一人一人の結果が変わる大きな理由が、この中丹田、下丹田の調身とセンサーとなる手の使い方が一人一人異なり、合数も一定していないためだと思われる。

糸練功の結果と西洋医学

生体に異常があるとその部分から何らかの信号を生体自身が発していると思われる。東洋医学ではそれを気と捉え、その気が正常になれば異常部分が改善すると考えてたのではないかと思われる。それゆえ病因論としてまず気の異常を持ってきて、その後、血と水の異常を捉えようとしたのではないかと推察できる。また治療方においも針灸では直接経気を動かし、漢方薬では全ての薬方に気剤が入っているといっても過言ではない治療法が完成されている。

生体物理学者大村先生はこの気の異常を生体内の微粒電流の変化とし筋力が低下することを発見、OTを開発された。

糸練功を実践していると、この技術を西洋医学の面で使えないのかという疑問が湧いてくる。糸練功で調べると病んでいる臓器が判明する。病んでいる臓器が、どの化学薬品で改善するかは糸練功で割合簡単に判断できる。例えば感染症に対し数種の抗生剤、抗菌剤を用意する、患者さんに投薬する前にその中のどれが患者さんに最も効果的なのか直ぐに判断することができる。また副作用診を行うことにより身体のどの部分に副作用が出現するか推測することも出来る。糸練功は技術であり、糸練功で得られた結果を東洋医学理論に基づいて解析するのか、西洋医学理論に基づいて解析するのかの違いである。

木下は10数年の歳月をかけ糸練功を東洋医学の技術として開発進化させてきた。開発者がこういう評価をするのは変だが、糸練功はやはり単なる技術である。糸練功で得られたデータを解析する理論が有って初めて糸練功の結果は生かされるのだと思う。解析する理論は漢方理論であっても、中医学理論であっても、西洋医学であっても構わないと思う。

注意を要するのは、糸練功で診ると虫刺されでも経絡や東洋医学の臓腑に異常な気の反応が出現する。それらを患者さんの訴えと間違わないことである。それは糸練功の深浅診と愁訴診、反応穴を使用することにより解決される。

生薬鑑別と糸練功

糸練功にて生薬の質を鑑別するとする。例えば産地の異なる同量の当帰を用意し鑑別を行う。まず糸練功で厚みを観る。厚みが強い方が生体へ影響力が強い当帰と判断される。しかし、それは効果ではなく副作用として生体への影響力が強い場合もありうる。

当帰は補剤であるが精油成分も入っている。精油成分は発散作用を有するため瀉剤として反応する。まず補剤としての強い厚みと、瀉剤としての適度の厚みを有する当帰を選択する。次にどの臓腑に影響力が強いかを判断する。当帰は肝に配当されるので、肝に強く反応する当帰を選択していく。

別の例を挙げると、胆汁の流れを促進する金銭草は、産地により大腸に配当される物と胃に配当される物がある。期待する効果を有する金銭草は大腸に配当されるため、大腸に配当され、しかも大腸の腑の反応で厚みが強い金銭草を選択していく。

同様な方法を用いると化学薬品でも期待する効果ごとに鑑別することが可能となる。

糸練功と古典

糸練功を使用すると、故入江正先生が手がけられ研究されたように霊枢、難経に記載の経気や臓腑の動きを解明可能となる。「古典に記載されているから」、「誰先生が言われたから」ではなく、霊枢難経を糸練功という技術を通し経験することが可能となる。

糸練功の役割

糸練功を用いて風邪で発熱の患者さんにどの解熱剤が合うか、smになる解熱剤を選択する。しかしsmでも解熱剤が対処療法である限り風邪の本治部の風毒、ウイルスに直接働くことはない。本治部の改善は、患者さんの体力、免疫力次第ということになる。このことはsm、オーリングテストではCloseに成る治療法、薬物が単純に治るというわけではないことを示唆している。

更に漢方治療の体質改善を例に挙げれば、本当に体質が変わるかどうかの疑問は別として、現実に喘息やアトピーなど体質に起因する慢性病やメニエール病などが適切な漢方治療にて症状が消失し、しかも再発もしない例は非常に多い。こういう事例は、漢方に携わっている人間にとってはごく日常的なことである。漢方では薬方の構成薬味数が少ないと体質改善力は弱く、薬味数が多い薬方ほど体質改善力は強いと言われている。

ある病において糸練功でsm、オーリングテストではCloseになる薬方が選択できたとする。現時点での薬方、治療法が適切ならsmの反応が当然でてくる。しかしsmになった治療法であっても、予後の再発の有無を語ることは出来ない。もしその薬方の構成薬味数が少ない場合、体質改善力は弱いと考えるのが一般的である。結局、予後を判断するのは糸練功の技術ではなく、術者や治療する側の経験や知識に依存することとなる。

結語

糸練功は東洋医学の歴史の中で生まれた技術として突出したものだと自負している。糸練功を生かすのは術者の医学理論である。糸練功がいかに熟達していようが自分の知らない薬方や治療法を治療薬方、治療手段として選択することはできない。

また単味或いは薬味数の少ない方剤は、漢方では頓服としてしか用いないのが通常である。昨今、薬系では慢性病に対する単味での治療が横行している。自然薬を化学薬品の使い方、同じ考え方で使っているとしか思えない。針灸の世界でも同様なことが起こっているのかもしれない。糸練功でsmに成った治療法が適切であるかどうかは、治療する側の習得した医学理論でしか判断できない。

医学は観念の世界とは異なる、誰もが追試できることが大事である。糸練功で得られた情報を術者の思い上がりや思い込みで捻じ曲げないようにしないといけない。初心者は出来るだけイメージ診を避けるべきである。熟練者は長い経験で得た理論に固執せず柔軟に対応していかなければならない。

故入江正先生はよく解析という言葉を使われていたと記憶する。糸練功という技術によって得られた情報を解析する理論と能力により患者さんの身体が発している情報もまた生かされる。