日本漢方の原料である漢方生薬と有名な民間薬をご紹介します。初めての方から専門家まで参考になるよう、気味、帰経、効能、適応とする体質と処方例、民間療法をご紹介。
縮砂
別名砂仁とも言います。果皮を除いた種子塊で、大型で堅く充実した仁が豊満で香味の強いものを良品とします。
気味、薬味薬性
味は辛、性は温
帰経。東洋医学の臓腑経絡との関係
脾、胃、腎
効能
弱った臓器に力をつけて活性化させます。気をめぐらし胃腸系を調えます。胃腸の活動を促進し、腹部膨満感、飮食停滞を解消し、消化不良による下痢を治します。婦人科系の活動エネルギーを活性化して、安胎をはかります。また抽出物には、胃酸分泌抑制、胆汁分泌促進、抗アレルギーの薬理作用があるようです。
適応とする体質と処方例
- 辛熱の働きが中心で、辛は怠けている自律神経、中枢神経を鋭敏にさせる。熱性は力の無くなったものに力を与える。
- 胃腸が怠けている状態に人参、益智を併用します。
- 大腸、小腸には赤石脂を併用します。
- 排尿器には黄柏、茯苓を併用します。
- 気管支には白檀、肉荳蔲を併用します。
- 生姜、陳皮、半夏でも止まらない嘔吐は、縮砂を使用します。
- 下痢で長い間、良くなったり悪くなったりを繰り返していれば、縮砂を使用します。苦い薬、寒の薬の黄柏、黄連で良くならずにかえって疲れる場合は縮砂を使用します。
- 胃の低酸症で消化不良や胃のもたれがある場合に、働きを活発にするために縮沙で活力を与えます。処方例。香砂六君子湯
- その他の配合処方例、安中散、胃苓湯
朱砂
各所にありますが、辰州から出るものが上等品とされています。辰砂と言われています。研りつぶし末として水飛びして、石くずや鉄くずを去って精製します。煎じ薬として飲む場合は、飲む前に辰砂末を入れて掻き混ぜて使用します。天然の硫化水銀です。
気味、薬味薬性
味は甘、性は涼、有毒あり
帰経。東洋医学の臓腑経絡との関係
心
効能
比較的体力のある人の心の高ぶりを鎮め、驚きやすいものを鎮めます。
適応とする体質と処方例
自律神経失調、不眠症、神経症あるいは発熱疾患のある方に用います。処方例。朱砂安神丸
乾生姜
乾した生姜を乾姜といい、生の物をセイキョウとも呼ばれています。生姜ほど漢方処方中にたくさん使われている生薬も少くないです。それ程たくさんの病気に効くので、百邪をキョウギョするというところから生姜と呼ばれるようになりました。
生姜は植物の基源としては単一ですが、その調製法によって生姜、乾生姜、乾姜に分けられています。生姜は新鮮な姜根。乾生姜は生姜のコルク皮を剥いで生石灰を撒布し、発熱と脱水作用により化学的に乾燥したものです。乾姜は生姜のコルク皮を剥いで熱湯に浸し、澱粉質を糊化し、乾燥したものです。
生姜は中身が充実していて、淡黄色で、特異芳香性があり、強い辛味のあるものが良質とされています。
気味、薬味薬性
味は辛、性は微温
帰経。東洋医学の臓腑経絡との関係
肺、脾、胃
効能
刺激作用によって胃の働きを活発にし消化を盛んにします。刺激作用によって肺部の痰喘、咳嗽、心臓が悪くない人の胸苦しさを取り去ります。
自律神経の乱れによって働きが乱れた内臓を、自律神経を刺激、あるいは抑制することによって整えます。
刺激性の駆水剤で専ら嘔吐を治し、胃内停水を治します。弱った消化器の機能を促進し、胃腸内の蠕動運動を整えて、消化、吸収、分泌の諸機能を調整します。
適応とする体質と処方例
- 風邪や消化不良による吐き気がある方の嘔吐感を取り去ります。
- 半夏、黄連を配合すれば止嘔効果が強まります。処方例。生姜瀉心湯
- 食欲が無い方の食欲を増進し、消化機能を高めます。生姜、大棗を配合し、補益性を強めます。処方例。炙甘草湯、小建中湯
- 胃粘膜のうっ血から嘔吐のきつい方や、それによって疲労のある方に用います。処方例。生姜半夏湯
民間療法
吐き気に。カラスビシャクの根の半夏15グラムに、ひね生姜の切片3片を加え、2合半の水で半量に煮詰めた液を冷たくし、小さじ2杯ずつ1日数回に分けて飲用すると効果があります。黄土を20グラムほど加えると一層効果がありますし、茯苓5グラムを加えても効果が高まります。
小麦
小麦を水に研ぎ、上に浮いたものを集めて炙って用います。水で研ぎ浮き上がる未熟な小麦を、特に浮小麦と呼んでいます。薬用として使用する場合は、新しい大粒のものが良いです。
気味、薬味薬性
味は甘、性は涼
帰経。東洋医学の臓腑経絡との関係
心
効能
疲れからくる内臓機能の弱りを高めてくれます。
適応とする体質と処方例
激しい精神興奮や、痙攣発作のある精神神経疾患や、痙攣性症状を呈する身体疾患のある婦人や小児の方に用います。処方例。甘麦大棗湯
升麻
升麻は、その葉が麻に似ていて薬の効き方が身体の上部、即ち上に升った場所に効くものであると考えられ、升麻となったと言われています。
升麻には苦味成分がありますが、升麻の原植物のサラシナショウマの葉にも苦味質があって、若葉の食用に不便であるので、春に若葉をゆでて水にさらし、苦味を取って食用にするのでサラシナショウマの名を得たといわれています。
根茎を乾燥したものを升麻と称します。日本産および中国黒江省産のものがあります。しかし中国産の升麻は種類が多く、北升麻、オオミツバショウマ、および西升麻の3種が主で、その他、陝西升麻、雲南升麻などがあります。品質は外面が黒褐色、内面が淡褐色を呈して肥大し、紋理のある、苦味のあるものを良品とします。
気味、薬味薬性
味は甘、辛、性は微寒
帰経。東洋医学の臓腑経絡との関係
肺、脾、大腸、胃
効能
腹部に働きかけながら胸部、頭部の苦情に効きます。体力がなく、下剤によって腹部の苦情を取り去ることのできない方に用います。
解毒力を誘発する力があります。体力が衰えてくると効かなくなってくるため、直接解毒するのでなく解毒力を誘発する力があるようです。
止血剤を手助けする働きがあります。升麻自体に止血力があるのではなく、他の止血剤と配合することによって止血を発揮します。脱肛、子宮下垂、下痢、倦怠など下焦の気が虚した病状に用い、陽気をめぐらせ、これらの病状を治します。
適応とする体質と処方例
- 痔疾で痛みや出血のある方に用います。処方例。乙字湯
- 乙字湯以外の出血や脱肛に用います。処方例。補中益気湯
- 相当のきつい蓄膿症に使用できます。しかし体質の弱い方には利用できません。処方例。辛夷清肺湯