病が進行する少陰病から厥陰病へ

漢方コラム

2023年3月28日。写真は、青森県、奥入瀬谿谷です。

病が進行する太陰病から少陰病へから続く

少陰病

寒熱と漢方薬

少陰病は陰証で寒の病態です。東洋医学では寒熱の薬性、食性の強さを五気、寒、涼、平、温、熱で判断します。

最も強い熱薬は大熱です。附子や呉茱萸が配当されます。次は熱薬です。山椒、花椒や乾姜、乾燥した生姜などです。山椒は和産、日本産。花椒は中国産です。花椒は辛みが強く、山椒はややマイルドです。次は温薬です。桂皮、黄耆、麻黄、白朮、陳皮、生姜、大棗などです。

この中で熱薬の山椒、花椒、乾姜。温薬の桂皮、陳皮、生姜、大棗などは漢方薬ですが、一般の食材でもあります。食事で薬味を上手に使えば、身体の代謝を上げ冷えを防ぐことが出来ます。

太陰病は下焦から中焦の内臓の冷えです。乾姜や山椒、花椒を使います。少陰病は中、下焦の内臓から心臓まで冷え虚しています。中、下焦に乾姜、心臓に附子を使用します。

  1. 乾姜。中焦の胃腸を温めます。人参湯などです。下焦の苓姜朮甘湯の下半身の冷えは、表に近いため人参湯と同じ乾姜を使用します。太陽病の小青竜湯や少陽病の柴胡桂枝乾姜湯にも乾姜が入ります。病位と関係なく内臓の冷えが強い事が推察されます。
  2. 山椒、花椒。乾姜よりもう少し深い下焦の腸や子宮まで温めます。腸を温める大建中湯や、子宮を温める白朮散などです。
  3. 附子や呉茱萸。心の臓に配当され、心臓や血液を通し身体を温めます。呉茱萸湯、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、真武湯、四逆湯などです。

少陰病の附子

少陰病では附子と乾姜、生姜を使用し身体の代謝を活発にしていきます。附子はトリカブトの根です。母根を烏頭と言います。子根が附子です。

附子には2つの働きが有ります。鎮痛作用と賦活作用です。賦活作用は心臓や内臓を賦活し新陳代謝を活発にします。まさに少陰病の病態に合う生薬です。中毒性が有るため少し長めに煎じます。1時間以上煎じると中毒性が減り賦活作用が上昇すると言われています。しかし1時間以上煎じると鎮痛効果は落ちていきます。

太陽堂漢薬局では賦活作用を期待する時は1時間以上煎じ、鎮痛作用を期待する時は50から60分煎じる様に指導しています。

附子の鎮痛効果

この中毒性を解消したのが加工附子です。加工附子は毒性が少なく痛みを取るアコニンサンの成分が多いと言われ、神経痛やリウマチなどに使用されます。加工附子は毒性が少なく鎮痛効果には優れていますが、賦活作用は弱いと言われます。

鎮痛効果で用いるもう一つの生薬は麻黄です。神経痛や膝関節症、リウマチなどに使用する麻杏薏甘湯や越婢加朮湯などは麻黄剤です。

麻黄は心臓を瀉し、附子は心臓を補います

両薬味を配合すると、心臓に対する負担を打ち消し合いますので比較的安全に使用することが出来ます。

麻黄剤に心臓を補する力が弱い加工附子を使用した場合は、麻黄による心臓負担を抑えられない可能性が出てきます。加工附子を炮附子に変えると、麻黄で瀉された心臓を炮附子で補い症状が消失する人がいます。

心臓が虚していない痛み。太陽病の強い表寒とも考えられます

附子剤の鎮痛効果で、リウマチや神経痛、膝関節症などに桂枝加朮附湯、越婢加朮附湯、葛根湯加朮附湯、桂枝二越婢一湯加朮附湯などを使用します。附子剤と言うだけで、これらの病態は少陰病に配当されています。しかしこれらの病態では心臓は虚していません。心臓の虚があれば少陰病ですが。

同じ表寒、体表の筋肉や骨の痛みの病位は、少陰病の他に太陽病にも有ります。身体痛は、心臓の虚が無いので太陽病の表寒が強くなっただけとも考えられます。

厥陰病

陰病の最後は厥陰病です。この病位の次は死です。死と隣り合わせの病位です。また身体が最後の生きる闘いをする病位でもあります。寒と熱が錯綜し上熱下寒を呈します。また極度の四肢厥冷が厥陰病の熱形だと言われます。

宋版傷寒論の厥陰病篇に除中と言う用語が出てきます。康治本傷寒論にはない用語なので、後期に追加されたのかもしれません。除中とは「ロウソクの火が燃え終わる前に一瞬明るく灯る」のに似ていると言われます。死の数日前に食事も摂れ、治ったかのように元気になる状態だと言われます。藤平健先生は、「除中は最後の虚熱の一つだ」と言われていました。

康治本傷寒論、「厥陰の病たる。中略。汗を発し、若しくはこれを下して後、煩熱し、胸中塞がる者は、梔子鼓湯、これを主る。傷寒、脈は滑にして、厥する者は、裏に熱あり、白虎湯、これを主る」と有ります。最後の厥陰病位では、梔子鼓湯や白虎湯など非常に強い陽明病の漢方薬などが使われています。

厥陰病は太陽病から少陰病までの全ての証が出てきます。それに対応する様々な漢方薬が適応されます。