
2020年7月2日;(写真は野生のリンドウ。久住高原長者原で撮影。漢方名は竜胆リュウタン、苦い漢方薬です)
水毒の燥湿
漢方の診断方法の一つに燥湿(ソウシツ)と言うのがあります。
日本漢方では病因(病気の原因)を「気毒、血毒、水毒」に分けます。その中の水毒の状態が燥湿です。
「燥」は身体が乾燥している状態です。
「湿」は水分が身体に貯留している状態です。
湿。水滞
代表的な水滞(水分の停滞)は
1.「心機能が低下」すると血液循環が悪くなり浮腫みます。
2.「腎機能が低下」しても浮腫みます。
3.「貧血状態」になると血液が薄くなります。身体は血液濃度を一定に保つため血液中の水分を減らします。その水分が血液外に出て浮腫みとなります。
4.「アルコール」を飲む人はアルコール解毒に肝臓が使われます。脳下垂体後葉からの抗利尿ホルモンが肝臓で代謝できず尿量が減少し浮腫みます。毎日お酒を飲む人は1ヶ月断酒すると3~5Kg体重、浮腫が減ると言われています。
燥湿と表裏
燥湿に「表裏」の概念が入ると複雑化するのが水毒の特徴です。
表裏とは漢方の診断基準の一つで「表」は体表です。皮膚や筋肉、骨格を含めます。
「裏」は体内で内臓や脳、骨髄機能、血液、ホルモンなどの内分泌を含みます。
表裏は病が何処まで進行しているか、症状は何処に現れているか、病の原因は何処にあるのかなどの判断に使われます。
裏と血中水分量
体表が汗ばむ時、その汗の水分は血液から出ています。体表は湿になり裏(血液)は燥になります。
有名な漢方薬の五苓散(ゴレイサン)証は汗ばみ(表が湿)、口渇、尿減少(脱水の症状で血液、裏は燥)の状態です。
同じく白虎加人参湯(ビャッコカニンジントウ)証は、汗ばみ(表が湿)、脱水(裏が燥)が特徴になります。
三陰三陽と燥湿
日本漢方で「三陰三陽」と言う診断基準が有ります。病の進行の流れを診る方法です。
太陽病、少陽病、陽明病、太陰病、少陰病、厥陰病の流れがあり、その中の陽明病は基本的に「表が湿、裏が燥」の状態になります。
炎症と燥湿
炎症は一部を除き湿になります。発赤や腫脹は湿の典型です。皮膚病で発赤、水疱、浸出液は表の湿です。膝関節が腫れ水が貯まる、これも表の湿です。
胃内停水と燥湿
「胃内停水(イナイテイスイ。舌、胃などの胃腸の浮腫み)」は裏の湿となり、漢方では多種多様な病気(皮膚病、喘息、花粉症などのアレルギー、肝臓病、胃腸病、婦人科、不妊症、免疫疾患他)の原因と考えています。
身体の保水能力と燥湿
裏の燥の代表は脱水状態(血液中の水分が減少)、便秘、瘀血などです。
口から飲む水分量も大事です。
しかし漢方では身体に水分を保有する能力、溜まった水分量が重要と考えます。
溜められる水分量が多い(水分を溜める能力が高い)と、脱水や熱中症になり難くなります。
溜まった水分量が多すぎると、浮腫みや胃内停水の原因となります。
水毒を動かす漢方薬と食養生
東洋医学では、摂取した水分量も大事と考えますが
燥湿は「身体に水分を溜められる能力」と「溜めすぎた水分の処理能力」を大切にします。
身体に水分を溜める能力が高いと熱中症や脱水症状を起こし難いです。
高齢になると、この能力が低下し「燥」の状態になります。
1.皮膚が乾燥すると、老人性掻痒症へ。
2.気管支が乾燥すると、お風呂上りやお布団で温まると、黄色い痰を伴う咳が出る気管支炎。
3.涙液や唾液が減少する膠原病のシェーグレーン症候群等も「燥」の病になります。
2種類の胃内停水
身体に水分を溜めすぎると浮腫みなどを引き起こしますが、特に漢方で言う「胃内停水」が問題となります。
胃内停水には、陰陽2種類あります。陽は「半夏(ハンゲ)証の胃内停水」。陰は「白朮茯苓(ビャクジュツブクリョウ)証の胃内停水」です。
陽の胃内停水
半夏証が引き起こす病態は、上に水が吹き上がる病です。
胃から吹き上がれば嘔吐
例;小半夏加茯苓湯(ショウハンゲカブクリョウトウ)、乾姜人参半夏丸(カンキョウニンジンハンゲガン)など。
鼻へ吹き上がれば鼻水、花粉症
例;小青竜湯(ショウセイリュウトウ)、苓甘姜味辛夏仁湯(リョウカンキョウミシンゲニントウ)など。
気管支から吹き上がれば喘息、気管支炎
例;越婢加半夏湯(エッピカハンゲトウ)などです。
陰の胃内停水
陰の白朮茯苓証の胃内停水は、厄介です。様々な病態を引き起こします。
眩暈、パニック障害、黄体機能低下、不育症、胃腸虚弱、自己免疫疾患など挙げれば切りが無い程です。
漢方をご存知の方は、処方構成に白朮、茯苓が入っている漢方処方を探して見て下さい。非常に多くの処方があります。それら漢方薬の適応の病気が全て陰の胃内停水との関係があります。
食養生で身体から水分を抜く食養生
苦い、アクのある物
「乾燥し固めて降ろす」働きが有り、排尿にて水分を除きます。清熱作用が有ります。
代表的な食物はナス科(ナスビ、トマト、ピーマン、パプリカ等)、レバー、レタス、タケノコ、山菜、ホウレン草、春菊等です。
辛い物
「温め行気、発散」の働きが有り、皮膚から水分を発散します。
紫蘇、唐辛子、メントール、シナモン、ワサビ、胡椒、ネギ、ニラ等。
辛くは有りませんが、葉物野菜にも発散作用があります。
食養生で身体に水分を溜め潤わす食養生
鹹(シオ)からい物は
「潤わし軟らかくし下す」働きが有り、腫を除き渇きを潤します。「涼」と言い、やや身体を冷やします。
海藻、塩、味噌、醤油、ナマコ等
酸っぱい物
「収」の働きがあります。内臓熱を収め身体に潤いを付けます。
酢の物、バラ科(桃、リンゴ、杏、梅、梨、サクランボ等)、柑橘類(ミカン、柚子、レモン、キンカン、橙等)、他果物類
例外としてウリ科のキュウリ、スイカ、カボチャ、メロン、冬瓜等は利尿作用があり身体の水分を除きます。
穀類、種物、根菜類
潤わす働きがあります。
例外として、穀類の中で小豆、ハトムギ、枝豆は乾燥させます。
このコラムが、読者ご自身やご家族様の健康を守る食養生の一助になれば幸いです。
ついでですが、煎じ薬を造る時にミネラル水で煎じると、抽出がし難く成分が薄くなります。軟水に比べミネラルが多く含まれています。浸透圧の関係かもしれません。
中国では、煎じ薬量は日本の約3倍量を使用します。大陸が硬水でミネラルが多いからだと推測されます。