正常眼圧緑内障による視野欠損に抑肝散加味方

正常眼圧緑内障による視野欠損に抑肝散加味方

病院での視野検査で視野欠損なし。漢方研究会で発表

太陽堂漢薬局が発表報告した論文。論文、改善例のご案内はこちら

正常眼圧緑内障

2019年11月。伝統漢方研究会第16回全国大会。日本、大坂、ホテル京阪ユニバーサルタワー

光井京子。福岡県、太陽堂漢薬局

諸言

正常眼圧緑内障とは、眼圧が正常範囲内にも関わらず、視神経に何らかの理由で障害が発生する事で視神経の萎縮が進行し、緑内障と同様の視野狭窄、視野欠損が出現する疾患である。症状の進行は非常にゆっくりだが、西洋医学では一度狭窄した視野は回復しないと考えられており、治療法がなく進行を食い止める為の、点眼による薬物療法が一般的である。今回抑肝散加味方にて改善を示した例を紹介したい。

症例。1973年生、46歳男性

  • 主訴。右目正常眼圧緑内障。
  • 既往症。不安症で抗不安剤、抗うつ剤等、数種類の西洋薬と、嗅覚異常で当帰芍薬散を9か月服用中。病院処方
  • 現症。2018年6月。眼科にて正常眼圧緑内障と診断される。視野欠損があり、ご自身では欠けている事に気が付いていない。眼圧は右目17だったが、点眼薬で14へ。
  • 舌診。燥、白苔。
  • 舌色。瘀血色。
  • 舌下静脈。なし。
  • 飲酒。5年禁酒中
  • 便通。軟便が多い。
  • 睡眠。普通。
  • 睡眠薬、向精神薬。時々服用
  • 備考。常に風邪を引いている状態で、頭痛と倦怠感もある。

正常眼圧緑内障は西洋医学では、改善出来ないと病院で言われ、漢方薬に期待して来局された。

治療経過
2018年6月。初糸練功

肝陽証、0.4合6プラス。抑肝散加黄連1.3瑠璃百仙8生酸棗仁2釣藤鈎1.5芍薬3.6生牡蠣3大棗6。

嗅覚異常で服用中の当帰芍薬散を中止して頂いた。「肝は目に開窮する」と言われるように、例外はあるが目の病は肝を治療すると改善すると思い抑肝散を使用。追加の薬味は糸錬功にて確認。

2018年8月。3回目

肝陽証、2.8合5プラス。抑肝散加黄連1.3瑠璃百仙8生酸棗仁4釣藤鈎1.5芍薬3.6生牡蠣3大棗6。

当帰芍薬散を止めてから倦怠感と頭痛が治まった。また漢方薬のおかげで気分の落ち込みは減っていると報告。

2018年9月。4回目

肝陽証、3.9合3プラス。抑肝散加黄連1.3瑠璃百仙8菊花1.7生酸棗仁4釣藤鈎1.5芍薬3.6生牡蠣3大棗6。

菊花1.7追加。

2018年11月。6回目

肝陽証、5.8合2プラス。抑肝散加黄連1.3瑠璃百仙8山梔子2菊花1.7生酸棗仁4釣藤鈎1.5芍薬3.6生牡蠣3大棗6。

山梔子2追加。

2019年1月。8回目

肝陽証、7.8合2プラス。抑肝散加黄連1.3瑠璃百仙8山梔子2菊花1.7生酸棗仁4釣藤鈎1.5芍薬3.6生牡蠣3大棗6。

病院での視野検査で視野欠損なし。正常範囲内なので、通院不要と言われた。

2019年4月。11回目

肝陽証、9.2合プラス2。抑肝散加黄連1.3瑠璃百仙8山梔子2菊花1.7生酸棗仁4釣藤鈎1.5芍薬3.6生牡蠣3大棗6。

減薬3分の1量へ。

生薬の菊花について

神農本草経を訳した文献には、菊花には血や気の巡りを利くして、身の動きが軽くなり、老齢にも耐えられ年齢を延ばせるようになるとあり。中薬大辞典によると、菊花の抽出物をマウス腹腔に注射した結果、毛細血管の抵抗力を増強、抗病原体作用がある事が分かっている。

菊花は「良く熱を除き風邪を去り、頭痛、眩暈、眼赤、収涙に功がある」と矢数道明著の漢方治療百話には記載がある。また他の眼病等に使用する、洗肝明目湯、零羊角散、釣藤散等に使用されている事から、菊花に注目した。

結語

  1. 正常眼圧緑内障の病能は肝気が不足、消耗していていると捉え、肝を治療。
  2. 追加薬味は、血流改善作用、安神、鎮静作用等があるものを使用、表2参照。
  3. 抑肝散は、陽証で使用するが使用生薬である当帰、釣藤鈎、川芎、白朮、茯苓、柴胡、甘草から考えると陰証、血虚にも対応していると考えられる、表1参照。

肝の高ぶりを抑えると知られている抑肝散だが、実は血虚を補うことでバランスをとっているのかもしれない。

表1

 補剤 瀉剤
 当帰川芎芍薬白朮茯苓柴胡甘草沢瀉生姜薄荷釣藤
抑肝散加芍薬   
逍遙散   
当帰芍薬散     
 血虚胃内停水体質改善利水、水毒発散、気毒鎮静、血毒

上記3薬方について。瀉剤の部分に注目すると夫々の処方の方意がわかる

  1. 抑肝散は血毒で鎮静
  2. 逍遙散は発散
  3. 当帰芍薬散は水毒で利水

柴胡、甘草について、表3参照。柴胡剤として使用する時は、柴胡の分量が多い。しかし上記3薬方は半量以下。したがって体質改善として使用していると思われる。

表2。今回使用した生薬

抑肝散当帰陰の瘀血
川芎陰の瘀血
釣藤鈎鎮静作用
白朮、茯苓胃内停水
柴胡、甘草体質改善
今回追加薬味大棗脾、心を補う
芍薬陰を補う
黄連清熱、鎮静
牡蠣降の働き鎮静
酸棗仁安眠、鎮静

表3。柴胡甘草の生薬量

  柴胡甘草
柴胡剤小柴胡湯72
大柴胡湯6 
柴胡加竜骨牡蠣湯5 
柴胡桂枝湯51.5
柴胡桂枝乾姜湯62
体質改善抑肝散21.5
逍遙散31.5
柴胡清肝湯21.5
荊芥連翹湯21.5

今後への期待

西洋医学では不可能だと思われている病態が、東洋医学では改善出来る事がある。諦めずに、過去の文献や先輩の教えを学び、一人でも多くの患者さんを助けられるように今後も切磋琢磨していきたい。

参考文献

  • THE古方これだけ覚えれば絶対だ。木下順一朗著
  • 意釈神農本草経。浜田善利、小曽戸丈夫共著
  • 漢方治療百話。矢数道明著
  • 漢方処方応用の実際。山田光胤原著
  • 実用漢方処方集。藤平健著、山田光胤著
  • 中薬大辞典

私がこの記事を書きました

太陽堂漢薬局

薬剤師。長崎大学薬学部卒業、日本薬剤師会会員、日本東洋医学会会員、東亜医学会会員、伝統漢方研究会会員。20代前半に、現代薬理学から漢方医学に入り40年以上が過ぎました。色々な流派の先生に師事し、最後は故入江正先生に師事し臨床医学を継承しています。

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