心と生体内時計、東洋医学の心と夢の関係

漢方コラム

2020年7月21日。写真は鍋ヶ滝。小国町です。

心に左右されるプラセボ効果

新薬の開発やお薬の評価をする時にダブルブラインド、二重盲検試験をします。例えば頭痛200人を2グループに分け、一方の100人には本物の鎮痛剤を与えます。もう一方の100人には本物に似せたプラセボ、偽薬を与えます。

二重盲検の結果

ダブルブラインド試験の結果は、例えば本物の鎮痛剤を与えられた100人の内90人は頭痛が取れ、10人には効きません。一方、プラセボを与えられた100人の内50人は頭痛が取れます。

鎮痛剤の効果は、本物の鎮痛剤とプラセボの差です。90人と50人の差40人が、本物の鎮痛剤の効果と解釈できます。プラセボで頭痛が取れた50人がプラセボ効果と言われます。本物の鎮痛剤と思って飲んだ、この薬で頭痛が取れるなどの先入観、潜在意識、思い込みのプラスの効果です。

驚くべき偽薬

本物の鎮痛剤の効果40人よりプラセボ効果50人の方が多いという事実に驚きます。このような例は一般的です。本物のお薬の効果よりプラセボ効果の方が大きい場合が多いです。

この現象は鎮痛剤だけでなく、解熱剤、抗生物質、安定剤などあらゆるお薬品で起こります。抗生物質と思って服用したプラセボで、免疫力が上がり細菌が消えます。熱が下がります。痛みが取れるのです。

負のプラセボ効果

問題も一つあります。本物の鎮痛剤を服用したのに効果の無かった10人です。この薬は効かない、信用していないと疑って、或いは不安で飲んだ結果です。これは負のプラセボ効果です。

漢方薬も新薬も同じです。貴方の心が貴方の身体を支配しています。

光量でリセットされる生体内時計

海外旅行に行った時、時差ボケをすることが有ります。頭痛や吐き気、体調不良などで苦しんだ経験のある方も多いと思います。原因は、時差の異なる地域への急激な移動により、生体内時計が狂ってしまったからです。時差ボケは一時的な自律神経失調症の状態です。

生体内時計のリセット

日常生活に於いて、生体内時計は1日1回リセットされます。それは起床時です。

夜に暗くなると、視覚から入ってくる光量が減少します。その信号は脳内の内分泌器官である松果体に伝えられます。松果体からはメラトニンが分泌され休息状態になり睡眠に入ります。

朝、起床すると光量が増える信号が松果体に届きメラトニンが減少し活動状態の覚醒となります。朝の光量によるメラトニンの減少が生体内時計をリセットします。

リセットの条件

私達の生活の中で起こしやすい注意点を挙げると

  1. 夜に強い光を浴びていると光量が減少しません。人類は、夜に月明りより明るい光量を浴びていません。
  2. 夜に光が強いと、メラトニンが分泌されにくく深い睡眠を保てません。
  3. 起床時に目から光量が入る事によりメラトニンが減少します。最もメラトニンが減少するのは、朝焼けの光だと言われています。

漢方の古典、黄帝内経素問には、「春は早起き、夏も早起き、秋は鶏のごとく早起き。冬は日が昇ってから起床」とあります。冬以外は早起きする養生法が記載されています。

うつ病の日内変動

うつ病の症状の特徴として日内変動があります。朝は起きれず午前中は調子が悪いです。夕方になると調子が良くなり活動できるようになります。うつ病の日内変動も朝の生体内時計のリセットが上手く行ってない一例です。

うつ病を治す環境

以前、東京の病院では、うつ病や自律神経失調症の患者さんを入院させますが投薬をしません。日の出の時間に病室の電気をつけ、夜になると電気を消します。患者さんが昼寝をしない様に、日中は看護師さんが一緒にゲームをしたりテレビを見たり過ごします。生体内時計のリセットです。1週間を過ぎる頃から患者さんの体調に変化が出てくるそうです。

体調の良い時は、睡眠も起床も気にしなくても良いかもしれません。体調が悪い時程、日の出とともに起きて朝焼けをみて活動すると良いと思われる事例です。

夢と脳波

精神科医のフロイトは「人間は意識の部分と動物的本能の無意識部分を持っている。」と言い、「夢は潜在的願望を充足させる。」と言っています。

レム睡眠

寝ている時に眼球が動く時が有ります。Rapid急速にEye眼球がMovement動きます。頭文字のREMをとり、この睡眠状態はレム睡眠と呼ばれています。一般に言う浅い眠りです。

睡眠と脳波の関係は

  1. ベーター派。精神的に緊張している時やストレスが加わった時に出る脳波はベーター派です。
  2. アルファ派。うっかり、ウトウトしている時や、リラックスしている時に出る脳波はアルファ派です。自律神経訓練法や気功効能態の時はアルファ波が多くなると言われています。
  3. シーター派。浅い眠りのレム睡眠は身体を休める睡眠です。筋肉は弛緩しますが、脳は活動状態にあります。眠っていても外敵に応じる眠りです。この時に夢を見ます。脳波はシーター派が多くなります。
  4. デルタ派。深い眠りはノンレム睡眠と言われます。脳を休める睡眠です。交感神経の緊張も緩みます。全身麻酔を打たれた時も同様の状態になります。夢は見ていないか、見ていても覚えてないと言われています。脳波はデルタ派が中心となります。

心と夢と東洋医学

東洋医学では独特の理論に基づき、夢を診断材料の1つとして診ます。

脳波と東洋医学上の夢

身体を休めるシータ波の睡眠で夢をよく見る患者さんの体質。証は半夏厚朴湯証、桂枝加竜骨牡蠣湯証、桃核承気湯証、柴胡加竜骨牡蠣湯証などで右脳タイプの方が多いです。

脳を休めるデルタ波の睡眠で夢をあまり見ない患者さんの体質。証は、四逆散証、抑肝散証、釣藤散証など左脳タイプの方が多くなります。このタイプの患者さんは一度目が覚めるとなかなか寝付けない人、中途覚醒も多いです。コーヒーを飲んでも直ぐに眠れる人が多く、コーヒーで気持ちが落ち着くタイプです。

SEXの夢

またSEXの夢を見る時や夢精は、竜骨の証だと言われます。桂枝加竜骨牡蠣湯証、龍骨湯証、柴胡加竜骨牡蠣湯証などの適応症となります。

東洋医学の古典の夢

私は師から「古典に矛盾はない。しかし自分で確認していない古典理論は使うな」と教えられました。以下の古典内容は確認していません。参考までに記載しました。

漢方の古典の素問、方盛衰論篇第八十に「少気し気が虚して上がると、みだりに夢を見るようになる。肺気が虚衰すると白い物を夢にみたり。腎気が虚衰すると水に溺れる、何かに恐れおののく。肝気が虚衰すると菌香や生草を夢に見、樹木、緑の下に横たわり、起きれない。心気が虚衰すると、陽気の盛んなものを夢に見、燃え盛る火を夢に見る。脾気が虚衰すると食べ物が足らずに腹が空いた夢を見。」と有ります。

古典の霊枢、淫邪発夢篇第四十三には「肝気が盛んな時は夢の中で、よく怒ります。肺気が盛んな時は夢の中で、恐れて泣き。心気が盛んな時は夢の中で、よく笑い。脾気が盛んな時は夢の中で、よく歌い楽しみ。腎気が盛んな時は夢の中で、身体がバラバラに。

上記他、夢に関する多数の記述が古典にはあります。

一日の陰陽

東洋医学である漢方は陰陽説を元に創られています。

黄帝内経素問金匱真言論篇第四に、陰の中にも、また、その中で陰の部があり、陽の中にも、また、その中で陽の部がある。これを一日に例えると

  • 夜明けから正午までは、天は陽中の陽。陽
  • 正午から黄昏までは、天は陽中の陰。陰
  • 日暮から一番鶏が鳴く時刻、丑の刻、午前二時までは、天は陰中の陰。陰
  • 一番鶏が鳴いてから夜明けまでは、天は陰中の陽。陽

陽中の陰、陰中の陽

ここで私達の感覚と異なるのが

  1. 正午から夕方までが陽中の陰であることです。気温が一番高くなる午後二時は陽中の陰で、陰である点です。
  2. 午前二時から夜明けまでは陰中の陽です。気温が一番低くなる日の出前は陰中の陽で、陽である点です。

陽中の陰は、陽の中に陰が出来、陰に向かうの意味です。陰中の陽は、陰の中に陽が出来、陽に向かうの意味です。

東洋医学では気温や現状を見ていません。これからどうなるのか、方向性を見ています。

五行の中の陰陽

木火土金水が五行です。五行にも陰陽があります。

  • 木は陰中の陽、肝、春
  • 火は陽中の陽、心、夏
  • 金は陽中の陰、肺、秋
  • 水は陰中の陰、腎、冬
  • 土は季節の変わり目。立春、立夏、立秋、立冬の前の十八日間で年四回あります。脾、土用

素問、霊枢、難経で異なる五行

東洋医学の古典である黄帝内経は、素問は脾王説で書いてあります。同じ黄帝内経でも霊枢、難経は心王説により書いてあります。書かれた時代が異なるのか、素問が古くて霊枢、難経は後の時代とも言われています。

素問は脾王説のため養生法として使いやすいです。霊枢、難経は治療法として発達しています。

黄帝内経による治療法

東洋医学の古典には治療理論が書いてあります。その中の幾つかをご紹介します。

制すれば即ち生化する

東洋医学の自然治癒力は勝復関係で説明されます。難経七十五難に書いてあります。

  1. 木の肝が病的状態となり実していると
  2. 相剋関係の土の脾が虚します。
  3. 相生関係の土の脾の子、金の肺が親である脾を助けようとします。生体の正常化作用です。
  4. 金の肺が相剋関係の木の肝を抑制します。この勝復関係にて木も土も正常化します。

素問臓気法事論篇第二十二

季節と病の治り方について書いてあります。

  • 病が虚して肝に在るは夏に癒ゆ。肝の病は陰中の陽です。夏は陽が強くなる陽中の陽になります。夏に癒えます。
  • 夏に癒えざれば、秋には甚だしい。秋は肝と相剋関係で真逆です。陽中の陰です。秋には甚だしいです。
  • 秋に死ざれば冬には持ち。冬は肝と相生関係で陰中の陰です。冬には持ち堪えます。
  • 春には起きる。春は肝の季節です。春には治り起きます。

難経四十九難、五十難

病邪の種類と犯された臓腑により、病の治り方と予後について書いてあります。

六淫

病因として六淫は、風邪、暑邪、火邪、湿邪、燥邪、寒邪があります。

  • 風邪は2、3、4月の旧暦の春に起きやすいです。上焦、表、発散の傾向があります。風邪による悪寒、頭痛、めまい、鼻水、喉の痛みなどの症状です。肝を侵します。
  • 暑邪は5、6、7月の旧暦の夏に起きやすいです。裏熱、身熱、高熱、顔が赤く、口渇等の症状です。心を侵します。
  • 火邪は気温が高くなると悪化します。血熱が強く炎症、化膿、腫れ等の傾向があります。吐血、血便、血尿などの症状もあります。心、心包を侵します。
  • 湿邪は湿気の影響で起きます。梅雨時などに悪化しやすいです。疲労感、浮腫、湿の皮膚病のストロフルス、汗疹などの症状です。脾を侵します。
  • 燥邪は8、9、10月の旧暦の秋に起きやすいです。湿度が下がるなど乾燥に影響されます。痰の少ない咳や皮膚の乾燥などの症状です。肺を侵します。
  • 寒邪は11、12、1月の旧暦の冬に起きやすいです。寒く冷たいのが特徴です。足腰が冷える痛む、下痢などの症状です。腎を侵します。
五邪

病として五邪は、虚邪、実邪、賊邪、微邪、正邪が有ります。五行の臓腑には属する邪は、中風、傷暑、飮食労倦、傷寒、中湿があります。

  • 風による中風。木の肝に属します。
  • 暑気による傷暑。火の心に属します。
  • 暴飲暴食、過労による飮食労倦。土の脾に属します。
  • 寒気による傷寒。金の肺に属します。
  • 湿気による中湿です。水の腎に属します。

病に虚邪、実邪、賊邪、微邪、正邪があります。上段緑字は難経五十難、下段黒字は脈経の記載です。

  • 相生関係。母子関係で、母と同属の邪が子を侵す時、虚邪。虚邪は病むといえども治し易し
  • 相生関係。母子関係で、子と同属の邪が母を侵す時、実邪。実邪は病むといえども自ら治す
  • 相剋関係。夫婦関係で、夫と同属の邪が婦を侵す時、賊邪。賊邪は大逆となす。十死治せず
  • 相剋関係。夫婦関係で、婦と同属の邪が夫を侵す時、微邪。微邪は病むといえども即ち差ゆ
  • 邪がそれと同属の臓を侵す時、正邪

相生関係の虚邪は治し易く、相剋関係の賊邪が最も重症です。