2023年4月18日。写真は福岡市大濠公園の日本庭園です。
動悸、不整脈の漢方の診たて
漢方では動悸や不整脈を幾つかの病態に分けて治療していきます。
心悸亢進の証
主な動悸、不整脈の証。症状、体質の主な漢方の証を取り上げます。
桂枝甘草の証
漢方で奔豚病という病があります。「発作的に臍付近から豚が走り回って胸に突き上がってくる」ほど激しい動悸です。ヒステリー性心悸亢進です。
奔豚病の漢方薬
この奔豚病には奔豚湯や苓桂甘棗湯などを使用します。奔豚湯は原典により金匱要略。葛根、李根白皮、生姜、半夏、甘草、当帰、川芎、黄芩、芍薬の処方があります。
また肘後備急方。呉茱萸、桂枝、半夏、生姜、人参、甘草の処方が有ります。肘後備急方の奔豚湯が桂枝甘草剤です。動悸や不整脈には他に苓桂朮甘湯、炙甘草湯などの桂枝甘草剤も使用します。
食養生では、桂枝甘草証の動悸、不整脈には気の上衝ですので葉野菜、蒸散、清熱作用や胡椒の辛みで発散などを多めに食すと良いでしょう。
龍骨牡蛎の証
腹証で龍骨には臍下悸。臍下の動悸があり、牡蠣には臍上悸。臍上の動悸があります。龍骨牡蛎は動悸に使われることが多い薬味です。処方例では柴胡加竜骨牡蛎湯や柴胡桂枝乾姜湯、柴胡桂枝乾姜湯加呉茱萸茯苓、桂枝甘草竜骨牡蛎湯などです。
難治性の不整脈を治療
太陽堂漢薬局では、以前に「大学病院で長年不整脈の治療をしていたが改善せず、大学に東京から心臓で日本でも有名な先生が来られるから、その先生に治療をしていただいた。それでも治らなかった」と言われる女性の相談を受けました。その患者さんの不整脈が上記の桂枝甘草竜骨牡蛎湯で1ヶ月で治った治療例があります。桂枝甘草竜骨牡蛎湯は、桂枝加竜骨牡蠣湯と名前は似ていますが違う処方です。
龍骨は恐竜やマンモスの化石です。牡蛎は牡蠣殻です。どちらもミネラルです。食養生では海産物、頭ごと食べられる小魚類、海藻を多くします。また竜骨は東洋医学の脾の臓に属します。牡蠣肉や鶏肉、また豚肉、牛肉の赤味を多くすると良いです。
その他、五志の憂
その他、動悸、不整脈などの心悸亢進には半夏厚朴湯を始め五志の憂の漢方薬などが多数もちいられます。漢方で使用するこれらの動悸、不整脈の漢方処方は、甲状腺機能亢進症にも多用されて有効な事が多いです。
咳の漢方の診立て
気管支炎と喘息では喘鳴があるかどうかで一般的に判断されることがあります。東洋医学では喘息と気管支炎、肺炎などを区別せず東洋医学の独特の診たてで判断し治療の証、体質を含めた治療方を診立てます。
診立ての要素
咳に対する漢方の証で非常に重要な要素は
- 痰の燥湿の状態
- 咳が酷くなる時間帯
です。
痰の燥湿の状態
燥は乾咳
痰が濃い、痰量が少ない、痰の色が黄色で濃い、痰が切れにくい、温まると酷くなる特徴があります。滋潤剤の熟地黄や麦門冬などの薬味が適用します。滋陰降下湯や麦門冬湯、清肺湯などを使用します。民間療法では梨の絞り汁を温めて飲むと咳が軽くなると言われます。
湿は湿咳
痰が薄い、痰量が多い、痰の色が透明で薄い、痰が切れやすい、喘鳴があるなど特徴があります。利水剤の麻黄や杏仁などの薬味が適用します。小青竜湯、麻杏甘石湯、桂麻各半湯、半夏厚朴湯などが合います。
民間療法では白ネギを鼻に入れたり、刻んでお湯で溶いて飲んだりします。五虎湯の原典である万病回春には五虎湯に葱白、白ネギと生姜、細茶、日本茶を入れるように記載されています。葱白は3根と記載されていますので多量に使われていたようです。
五虎湯証や桔梗湯証は痰が黄色で濃く、乾咳と勘違いされやすいですが、痰量が多く湿咳になります。
咳が酷くなる時間帯
- 夜間激しく咳き込むのは、滋陰降下湯証に多いです。
- 朝、起床時に激しくなる咳には、栝楼枳実湯証が多いです。
- 夜、お布団で温まると酷くなる咳には、麦門冬湯証などです。
眩暈の3タイプ
眩暈は、患者さん本人にとっては非常に辛い疾患です。西洋医学的には三半規管の狂い、或いは血流や耳石、自律神経の調節などが原因とされています。
東洋医学の得意分野でもある眩暈。漢方で治療すると再発をし難いのも特徴です。東洋医学では眩暈を大きく3種に分けて証、症状、体質などを判断し治療を行っていきます。
眩暈の3つの証
眩暈めまいは漢方の鑑別では3タイプに分けます。
回転性の眩暈
立っていることが出来ない程の回転性めまいがすることが有ります。寝ていても天井がグルグル回ったりします。漢方では回転性眩暈に頓服で使用する澤瀉湯と言う処方があります。沢瀉と白朮だけの2味での構成処方です。
漢方薬は薬味の数が少ない程、即効性があります。しかし薬味の数が少ないと即効性はありますが、体質改善能力は弱くなります。澤瀉湯は回転性眩暈の人が飲み続けると回転性眩暈がしなくなります。その時に体質改善を狙い次に出てくる苓桂朮甘湯を併用することが多いです。
クラッとする眩暈
立ち眩みと似ていてクラッとする眩暈です。頭や首を動かすとクラッとすることがあります。一時的な脳貧血に近い状態の眩暈です。自律神経の機能障害でも生じます。漢方の証は苓桂朮甘湯証が多いです。
東洋医学では水毒になります。水分代謝に問題があると考えます。食養生では水分代謝を良くする葉野菜や香辛料を増やします。気を付けなければいけないのは、脳梗塞や軽い脳血栓でも血流低下により同様の眩暈がすることがあります。
フワフワする眩暈
歩いている時や座っている時など地震のようにフラフラする眩暈です。或いは歩いていると雲の上を歩いているようなフワフワする眩暈です。この眩暈は東洋医学では陰証の眩暈になります。真武湯証や半夏白朮天麻湯証などが多いです。
陰証の眩暈で、嘔吐を伴ったり頭痛、特にコメカミから始まる頭痛を伴う時は呉茱萸湯証に成ります。呉茱萸湯証は上半身、気管支、胃などの冷えで誘因されます。夏にかき氷を一気に食べると頭が痛くなるのと同じ原理です。胃が冷えると、冷えた胃を温めるため胃の周辺の血管が拡張します。その時に脳の血管も拡張され頭痛が生じます。胃だけでなく真冬に冷たい空気を長く吸って気管支が冷えても呉茱萸湯証の頭痛がすることがあります。
陰証の呉茱萸湯証と、頭痛と吐き気を伴う眩暈で鑑別が必要なのは陽証の五苓散加川芎証です。糸練功が出来ると寒熱の判断で簡単に鑑別できます。
食養生としては苦い物、アクの有る物は身体を冷やします。ビルなども苦く冷やしますので厳禁です。味噌料理や生姜料理、発酵食品を多く摂ります。