2020年12月3日。写真は沖縄県、中城城跡です。
薬味の働きは本草綱目を始めとする東洋医学の薬理学書を参考にしています。
薬味、食材ごとの働き
紫蘇
- 除寒。身体を温め寒さを除きます。胃腸の弱い人の風邪に、漢方では紫蘇を入れた香蘇散や参蘇飲を使用します。
- 定喘。喘鳴などの咳を収めます。紫蘇には抗アレルギー作用が強いです。アレルギーや自律神経を調える目的で紫蘇の葉ジュースが合う方も多いです。喘息や自律神経失調症で使用する半夏厚朴湯には蘇葉、紫蘇の葉が入っています。
味噌
- 除寒。発酵したものは身体を温めます。よって発酵食品である味噌は身体を温めます。しかし塩分、涼の性質が多いと身体を冷やす可能性もあります。
- 行血。血を巡らし血行を良くします。その結果、瘀血を除きます。漢方の食養生では大豆味噌には解毒能力もあると考えています。
味噌は永い間、日本人のタンパク質を補充してきた大事な食品です。
山葵ワサビ
- 進食。消化酵素であるアミラーゼ活性化作用が有ります。
- 温中。東洋医学で言う中は内臓の事です。内臓を温める働きが有ります。冷たい刺身を食べる時に内臓を冷やしません。
- 殺魚毒。1955年、強力な殺菌作用がある事が判明しています。
- 発汗、利尿。辛いワサビは散の働きが強く、発汗や利尿に働きます。
- 清血。東洋医学で言う血毒を清める働きが有ります。食事での血毒の原因は油脂とタンパク質の代謝不良です。ワサビが通常の刺身、タンパク質だけでなく、脂がのったマグロやトロにも合う理由です。またステーキ、脂とタンパク質、温の性質にもワサビの清血と塩の涼の性質は合います。
胡麻
- 生肌。セイキと言い皮膚の修復力を上げます。皮膚の再生力が高まります。皮膚病に使う消風散の構成薬味です。
- 生毛髮。毛髮の再生力を高めます。
- 消腫。シコリや腫瘍を除く働きが有ります。
白胡麻より黒胡麻の方がミネラル分が多く抗酸化作用が強いです。良質な黒胡麻が入手しにくい時は、白胡麻にミネラル豊富な海藻を一緒に摂ると、黒胡麻の代用となるかもしれません。
大根
- 消穀。アミラーゼ、デンプンの分解酵素。プロテアーゼ、タンパク質の分解酵素。リパーゼ、脂質の分解酵素などの消化酵素が多く含まれています。天ぷらの天つゆに大根おろしを入れるのも消化を助けるためです。
- 利大小便、大小便を利する。消化酵素が多いため、整腸作用が有ります。また大根の切断面が酸素に触れるとリグニンという不溶性食物繊維が増加します。リグニンは腸内で善玉菌を増やし、水分を吸着し便を軟らかくします。また胆汁などの脂溶性の成分を吸着し便として排泄します。切り干し大根にも多いリグニンは大腸がんの予防や免疫力を上げるとの報告が有ります。
- 煮た大根。大根を煮ると温性が強くなります。冬の寒い時に食べる、おでんの大根は身体を温めてくれます。
消化酵素は熱に弱いため、大根の消化酵素を使う時は生で食べます。身体を温める時は、煮て食べます。
納豆
- 進食。納豆は発酵食品ですので、胃腸を調える働きが期待されます。
- 除煩。納豆に含まれるレシチンは副交感神経の伝達物質であるアセチルコリンの生成を促します。自律神経の交感神経が優位な状態が緩和されやすくなります。胃腸も副交感神経の支配下ですので、胃腸の働きも良くなり進食の働きも増します。レシチンは卵黄にも大量に含まれています。
- 解毒。漢方では黒豆、黒大豆や大豆には解毒作用があると考えています。附子中毒を起こした時に、漢方では黒豆甘草煎という漢方薬で解毒をします。黒豆甘草煎が煎じ上がるまでの待ち時間、中毒患者さんの口の中に大豆味噌を含ませ解毒を開始させます。
納豆に含まれるナットウキナーゼは、血栓を溶解する働きがあります。納豆に含まれるヴィタミンK2は、逆に血液凝固を促進します。血栓症に使用するワーファリンやアスピリンなどは、ヴィタミンK2の血液凝固作用にて効果が落ちる可能性があります。ヴィタミンKは、納豆の他に緑の野菜や海藻類にも多く含まれています。
クラゲ
- 消食
- 食物の消化促進効果。消化が悪いため、前菜として食すると胃運動が活発化します。胃腸が活発に運動を始めますので食事を摂る準備が出来ます。中華料理の前菜にクラゲが出てくる理由です。生野菜のサラダなどにも繊維質が多く、胃腸を動かし同様の働きが考えられます。
イカ
- 浄血作用が有ります。
- 通経作用もあります。通経とは生理を来させる働きです。妊娠初期には流産する可能性が有ります。体力のない女性や筋力の弱い女性は妊娠初期には烏賊は避けた方が無難です。
- 烏賊は温から平なのに浄血です。ちょうど漢方薬の太陰病なのに駆瘀血剤である温経湯に近い働きがあります。
タコ
- 吸収阻害。蛸を食べると、食事中のカロリーを1、2割減ずると言われます。ダイエットにはもってこいです。良い面ですが、体重を増やしたい方には有害とも言えます。
- また蛸には食養生では解毒作用があると考えられています。脂溶性の解毒ではなく水性物質の解毒だと考えられます。
イカ墨
- イカ墨はフグの毒消しに使われます。
- 今日、獲れたての新鮮な烏賊の墨を使用します。
- イカ墨料理は海洋民族に共通です。イカ墨料理の伝統食がある地域は海洋民族との関係があるかもしれません。
牛乳
- 涼。身体に熱がある人に合います。冷え性の人には合いません。
- 補。体力が虚している人に合い、体力を補います。
- 潤。身体を潤わします。口渇のある人に合います。浮腫みがちな方は浮腫みやすくなります。
- 降。便秘がちな方に合います。逆に下痢気味の方や低血圧の方には合いません。
食性は涼、補、潤、降ですので、熱中症や日射病の時。それらの予防にも適します。牛乳は乳糖の代謝酵素ガラクターゼの欠如、遺伝的に黄色人種は乳児以外、乳糖を代謝できません。また乳タンパク質のカゼインの問題があります。グルテンと同様に遅行性アレルギーの原因となります。当薬局では牛乳は基本的にお勧めしていません。
リンゴとバナナ
- リンゴは、温、補、収の働きが有ります。下痢がちな方に合います。幼少の頃に病気をすると、母がお粥か、片栗粉に砂糖を入れ練ってくれるか、リンゴを摺ってくださっていたのを思い出します。
- バナナは、涼、瀉、散の働きが有ります。食物繊維が多く、便秘がちな方に合います。バナナは皮の表面に黒い点のスイートスポットが出て完熟してから食べると、免疫力が上がり抗がん作用が有るとの報告が有ります。また白血球の働きが活発になるとの報告もあります。
- リンゴとバナナは、正反対の真逆の食性、五気寒熱、補瀉、収散に成ります。どちらもカリウムが多い食品に成ります。
- バナナには消化が早くエネルギーになり易い単糖類から、消化が遅く持続的なエネルギーとなる多糖類の炭水化物まで含まれています。繊維質も多く腹持ちも良く、登山やジョギングなどの長時間運動に適しています。
食と古典
東洋医学の古典である黄帝内経他には様々な食に対する記述があります。
「病気になった作物や、背中の曲がった魚は食べるな」などの記載もあります。遺伝子的に変異している可能性のある物は避けなさいと言う事か。現在の食事では遺伝子組み換えや品種改良が当たり前になっています。
食の基本
長生きしたければ寿命の長い食物。元気でいたければエネルギーの強い物。生きた物は気が有り、保存食は死体になります。
私の小さい頃、「生き物は精がつく」と病人に刺身を食べさせることが多かったと記憶しています。
閉蔵から発陳で新しい命を
1週間、常温で置いて腐れる肉や野菜は副食。直ぐに腐れない穀物、種子やイモ類は、次世代へDNAを繋ぎます。これが主食になります。
素問四気調神大論では冬は閉蔵です。種子やイモ類は、次世代へのエネルギーを閉蔵しています。そして閉蔵したエネルギーを、次の春に発陳します。春に新しい息吹が、新しい命が生まれます。
私達はその閉蔵した気。息吹、命を主食として頂いています。
食と医
孫思邈の千金要方第6巻食治論に「医は病の源を把握し、犯された個所に応じ食にて治せよ。食にて治らざれば、薬を用いよ」とあります。
- 食にて病が治る事。
- 食は病の源。犯され個所によって変える事。
- それで治らない時は薬、漢方薬を使用します。
が記載されています。その人その人の体質や状態によって食は変えないといけません。
主食は穀気
栄西禅師の喫茶養生記には「一切の食は甘を性と為したる也」とあります。食の主食は甘であると記載されています。ここで言う甘は砂糖ではありません。脾の臓は穀気、後天の気を運用します。脾の臓の五味は甘です。甘は具体的には穀物やイモ類を中心とした澱粉質です。
飽食の私達は糖質ダイエットをしないといけません。しかし飢餓の状態で生きて行くにはエネルギー源が必要です。食養生では主食の甘は、食性が穏やかです。だから主食になります。副食は、身体に対し食性、薬性がやや強い場合が多く、そのため主食にはなりえません。
私達の歯は上下片側では、噛み切る前歯が2本、肉食の犬歯が1本、臼歯が4本、親知らず臼歯が1本です。磨り潰す臼歯が8本中5本です。これは私達の先祖が何を食べてきたか現しています。
漢方薬としての卵
排膿散という漢方薬があります。化膿性疾患で患部が固く腫れている時に使用すると膿が排出され急速に改善します。
患部が柔らかい時は排膿湯と言う漢方薬を使用します。日本では排膿散と排膿湯を合方した排膿散及湯が使われることも多いです。
応用として癤おでき、癰など複数のおでき、面疔、にきび、麦粒腫ものもらい、扁桃腺炎、歯槽膿漏、中耳炎、副鼻腔炎など化膿性疾患に幅広く用いられます。
この排膿散は原典である金匱要略には、「服用する時に卵黄1個を混ぜお湯で飲む」ように指示されています。記載通り卵黄を入れると効果が増します。
瘭疽に生卵を
漢方百話、矢数道明著には、瘭疽に生卵の奇効の表題にて、瘭疽、指先の化膿性疾患で激痛がします。酷くなると指を切断しないといけません。これに対し生卵の上部に穴を開け指を入れ、目の高さより上に挙げ40分以上静置すると、痛みと炎症が消失した症例を何例も挙げられています。
刀傷に卵白を
また甲字湯や乙字湯を創った水戸藩の藩医だった原南陽の砦艸には刀傷を酒で洗った後、卵白を使う治療法が書かれています。
生卵は雛がかえるまで温められます。その期間は卵の中は高温なのに無菌状態が保持されます。生卵には殻での防菌以外にも、黄身、白身の部分に殺菌作用や消炎作用があるのかもしれません。
生卵の黄身は胆のうを収縮させ胆汁を流す働きがあります。食べると胆石症の方は痛みが来ることがありますのでお気を付けください。
蛤も漢方薬
阿膠と言うニカワの漢方薬があります。止血薬として有名です。血行を良くする働きや腎臓の糸球体に力を付ける働きもあると言われています。山東省東阿地区にある井戸水で作った膠、阿膠が最上品とされ山東阿膠の名前が付きました。
蛤を用いる玉阿膠
阿膠は薬用には宝石のような透明感が有り、厚手の物が上品です。
加工したものに玉阿膠があります。玉阿膠は小麦や蛤の粉と阿膠を混ぜ火で炙り、ポップコーンのように膨膨させ珠を作ります。蛤粉を使用し作った玉阿膠は止血効果が増強されます。体内のカルシウム平衡を改善するからだと言われています。
玉阿膠を作る時の蛤の殻は漢方薬名を文蛤と言います。炭酸カルシウムやキチンなどが含まれています。五味は鹹で潤し降ろす働きがあり、清熱作用が有ります。
蛤で火傷を
古事記には大国主神の火傷を蛤で治療したと記されています。
漢方の古典、傷寒論太陽病下篇には激しい口渇に文蛤一味の文蛤散。同じく漢方の古典、金匱要略には嘔吐後の口渇に文蛤湯。文蛤5、石膏5、麻黄3,甘草3,乾生姜1、大棗3、杏仁4が書かれています。いづれも文蛤の潤で清熱作用を用いています。
昔の目薬に蛤
戦前までの日本の目薬は、蛤の殻の内側に漢方薬と梅肉で出来た赤いペースト状の目薬を塗り、蛤の上下の殻を閉じ密封し販売されていました。使う時は蛤の殻の中で、目薬を水で溶かし眼にさしていました。
阿膠が動物のニカワで酸性物質。目薬の梅肉も酸性です。蛤の殻はアルカリ性です。酸性とアルカリ性の化学反応により、蛤の殻から抗炎症作用のある清熱成分を目薬として抽出しています。昔の人の経験による知恵は凄いですね。
魚の煮付けに梅干し
煮魚を作る時に梅干しをつんざいて入れます。魚の骨がアルカリ性です。骨のミネラル、アルカリ成分が梅干しの酸性により抽出され流れ出てきます。ミネラルも含んだ栄養豊かな煮魚が出来ます。お魚の南蛮漬けも酢の酸性を使った同じ理論の食文化です。